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軽く血や欠損の表現があります。ご注意ください。
****
「古の魔法具が発動します!!!」
そう叫んだと同時にナイフを中心に暴風が巻き起こる。
触れた先から肌を抉るそれは、まるでかつての魔法使いが使ったとされる風魔法のようだ。
「全員伏せろ!」
咄嗟に上げた声も暴風に呑まれてしまう。
離れていたナテュール様達も暴風に呑まれ、窓ガラスは割れ、城壁には鋭い痕が刻まれていく。
(ダメだ……!ナテュール様だけじゃない!ルーカス様やオリバー達は肌が柔い!直ぐに失血死してしまう!)
目の前にいる女を蹴り飛ばし、ナイフを強引に引き抜く。
本来ならば失血死を防ぐため刺さった刃物はそのままにしておくべきだが、これは古の魔法具。僕の血があるかぎり永遠に発動し続ける。
「ナテュール様っ!!」
暗器で風の刃を叩き切ろうと、風は風。また直ぐに鋭い刃となって巻き上げた全てを襲っていた。
宙に浮いているナテュール様の手を掴もうとも、伸ばされた手は触れることなく風の濁流に呑まれ引き離される。
(くそっ……!これじゃ南大陸に発生するというハリケーンだ!!)
「あははははぁー!みぃんな壊れてしまえ!!」
狂ったように高らかに笑うエドワーズ公爵夫人。
思いっきり蹴り飛ばしたが風で威力が落ちたのか。想像以上にしっかりと地面に立っている。
夫人は、風の刃が飛び交うハリケーンの中心にいるにも関わらず、目立った切り傷はなかった。
巻き上がり汚れた髪も、土に汚れたドレスも貴族なら発狂ものだろうに、彼女は気にした様子もなくただ声を上げて笑っていた。
「第2夫人もその子どもも気に入らなかったのよ!公爵諸共刻まれてしまえ!!指定した対象を刻み終わるまでこの風の刃が消えることはないわ!貴族社会なんか壊れてしまえ!」
そう張り上げられた声が風の刃の隙間を通り聞こえてくる。
(……指定した対象……?)
ばっと風に飛ばされ舞うルーカス様を目に留めれば、細かい傷はあるものの、それは舞い上げられた枝や瓦礫によるもの。風の刃自体の影響は受けていないようだった。
(……狙いは自分だけを犯人とするために暴れ回って第2夫人達を被害者として解放することか……!!)
まずはナテュール様だ。吹き飛ばされながら姿勢を変え、城壁の溝に暗器を突き立て、その場になんとか留まる。ナテュール様が飛ばされてきたタイミングで城壁を蹴り、ナテュール様を抱き留める。
「ロイっ!」
「ナテュール様!申し訳ありません!私の不手際でございます!」
「いや、まず魔法具隠し持っていることがおかしいだろ!監視の騎士は何をしていたんだ! 」
ナテュール様のお顔や体に無数の切り傷が出来ている。
こんな!尊い!御身に!!傷が!!!
内心大号泣しながらも、ポーチから取り出した暗殺者として活動する時のローブをナテュール様に被せる。
「魔物素材からできたローブです!多少の斬撃なら刃は通らないかと!」
暴風が耳元で轟音を鳴らす中、声を張り上げれば、「お前の分はあるのか!?」とナテュール様が同じように声を張り上げる。
御身だけではなく、従者である僕のことまで気にかけて下さるなんてなんて素晴らしいお方なのか……!
もうほんとナテュール様に全て捧げたい。人生どころが僕の生殺与奪の権利すら捧げたぁい。
「ナテュール様の尊さに浸ってないで俺らも助けてくれないか!!?」
「あ、すみませんオリバー!忘れておりました!!!」
忘れるなぁぁあ!!という叫び声が遠ざかっていく。
よく見ればオリバーは近くにいたルーカス様としっかり腕を組んで離れ飛ばされないようにしていた。対象外者がすぐ近くにいるおかげが比較的被害が少ない。
しかし問題なのは、次第に規模を増していくハリケーンがどんどん他の人間を巻き上げ被害を拡大していっていることだ。
「ロイくん!!こっちだ!!」
「ニコラ教官!!」
割れた窓から飛ばされずに建物内に残っているニコラ教官が腕を伸ばす。
本音を言えば他者にナテュール様を任せるのは本意ではないが、ここは任せるしかない。
「ナテュール様!少し手荒になりますが、お叱りは後でお受けいたします!」
「は!?」
事態は一刻を要する。
ナテュール様をローブで包み、そのまま、流れる気流から脱するため、腕力の全てを使ってナテュール様をニコラ教官側に勢いよく投げた。
もう一度言う。投げた。
S級の冒険者の全力投球である。
「せめて投げることくらい言えぇぇぇええええ!!!!」
「勢い強すぎないいいいいい!!!?」
流石ニコラ教官。元騎士であり冒険者なだけあって叫びながらもしっかりナテュール様を受け止めてくれた。
続いてルーカス様とオリバーのいるところへ向かおうと壁を蹴ろうとしたその時、
(っ……!!)
鋭い痛みが右足に走り、わずかに動きが止まる。
しかし、いくら痛みに呻こうと、このまま止まる訳には行かない。
警鐘を鳴らす脳を無視して、そのまま壁を蹴った。
「オリバー!!そのままルーカス様の手を離すなよ!離したら即ミンチと思え!!」
「怖いこと言うなよ!!!」
そう叫びながらヒシリッとルーカス様に縋る体をよりくっつけるオリバー。友人がミンチになるかもと聞いてルーカス様も顔を青くしてオリバーを掴む手に更に力を込めた。
そんな2人をまとめて抱き抱え、壁に着地しようと風を読み斬撃を避ける。
どうやら2人を……というより対象外のルーカス様を覆うように抱えているせいか先ほどよりも風の刃が飛んでくる。
なんとかそれを交わしながら壁に着地した際、右足の感覚がほぼ無くなりつつある事に気がついたが、それを2人に悟られないように「もう少し耐えてください。」と言葉をかけた。
(……まずいな、先程の風の刃が相当深く入ってる……)
それでもまだ言うことは聞くので腱は切れていないはず。とはいえ感覚も曖昧になってきている上痛みだけが体に響いている。
(早期解決しなければ……!)
もう一度壁を蹴り風の流れも利用しながらナテュール様とニコラ教官たちのいる一室へ退避しようとして
「ぐっ……!!」
「ロイ!?」
「どうしたの!?」
上から斬撃が飛んできた。
(まずい!勢いが削がれた!右足も飛んだ!)
激痛と共に重心がズレたことがわかる。確実に右膝下は斬り落とされた。
このままだと部屋にたどり着く前に落ちてこの暴風荒れ狂う気流に流される。
(……2人だけでも……!)
「ニコラ教官!!」
咄嗟に声を張り上げた。
恐らく右足が飛んだのが見えたのだろう。ニコラ教官の顔から血色が引いていた。
僕が続けようとした言葉に気がついたのだろうか。「だめだ!そのままこちらに!」と壁から身を乗り出しそうなニコラ教官に向けて、
「2人を、頼みます。」
僕はルーカス様達を思いっきり放り投げた。
****
ファンタジー大賞最高順位118位でした!
投票して頂き、本当にありがとうございます!
あまり多くは更新できなかったのですが、昨年よりも大幅な順位アップに私自身とても驚きました。ひとえに読者の皆様のおかげです。本当にありがとうございました。
2024年9月30日
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初期の頃から良いなぁと思っていただけて嬉しいです!もう少しで完結になるのでそれまで見守って頂けると幸いです✨