悪役従者

奏穏朔良

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「でも、最終目標が世界の滅亡なら、なんで魔法具で最初から滅亡を願わないんだ??その方が早いよな?」

と、首を傾げたオリバーの疑問に、ほかの面々も確かに、と頷き同意を示す。

それに、僕は答えを紡ごうと口を開くも、どう説明したものか、と再び閉口してしまった。

何せ、身内であるルーカス様がいるのだ。どんな言葉で飾ろうともそこにある真実は変わらない。
しかし、ナテュール様の友であるルーカス様を悪戯に傷つけたい訳でもない。

どうしたものか、と言葉を選んでいると「いいよ。」と不意にルーカス様が言葉を紡いだ。

「ボクが自分で知りたいと願ったんだ。どんな真実でも、ボクはちゃんと知りたい。」

だから、ロイさんの率直な言葉で説明を続けて、と真っ直ぐこちらへと目を向けるルーカス様。

「……わかりました。」

と、1度ルーカス様へ頭を垂れ、そして「最終的に世界が滅亡する、というだけで、真の目的はそれまでの過程にあるのです。」と再び真実を伝えるため口を開いた。

「この世界の男を死亡させる……つまり皇族も例外ではありません。」

そう言葉を告げるとハッとしたように、ナテュール様は
「なるほど、王の代わりに聖女を据える、というのは神殿側と同じ考えだったのか。」と顎に手を添え考察を述べた。

「はい。そして、国の要職は全て男が就いています。多少『取りこぼし』があったとしてもほぼほぼ死ぬでしょう。そうなれば国は機能しなくなります。」

「それなら聖女を王の座につけても意味が無いんじゃないか?」

「いいえ、一概にそうとも言えません。死んだ男の代わりに後釜を添えればいいのです。」

僕の言葉に「後釜?」と小首を傾げるナテュール様。
それに「はい。世界に生き残っている『女性』を要職につけるのです。」と言葉を続けた。

「そうすれば女性だけで構成された、女王の治める、女性のための国が出来上がるのです。」

そう言葉にすれば、ナテュール様だけではなく、ニコラ教官達大人も、予想外の話に目を見開いた。

「そ、それはなんというか……無茶苦茶じゃないか……?確かに他国では女性の政界進出もあると話には聞くが、我が国では女性が政治に関しての教育を受ける機会がない。国としてまともに機能しないだろ。」

と、ナテュール様が眉尻を下げ少し戸惑ったように言葉を告げる。
そんなナテュール様の言葉にニコラ教官も同意するように頷いた。

「それに、女性しかいないとなれば跡継ぎがいないということ。産むことも出来なくなる以上、まるで破滅への緩やかな時間稼ぎみたいだねぇ。」

と顎をさするニコラ教官が告げると、オリバーが

「そもそも、いきなり旦那や息子の存在を殺した公爵夫人達に賛同するか否かって話もありますけどね。」

と教官たちに肩を竦めて見せる。

そんな中、一切言葉を発しないルーカス様へちらりと視線を向ければ、その顔色は紙のように白く今にも倒れそうだ。

「……母さんは、」

と、ルーカス様が口からこぼす様に言葉を落とした。

「母さんは、『男』を恨んでいるんだね。」

どこか確信めいたその言葉に、僕は静かに頷きを返す。

「……はい。この世界に存在する男を消してしまいたいくらいには。」

僕の返答に「そっかぁ……」とルーカス様は力無く俯いた。

「……なるほどねぇ。だからロイ君は『男たちへの復讐』が目的と推察した訳か。」

と、ニコラ教官が顎をさすれば、ラファエル理事長は頭が痛いと言わんばかりにこめかみを押さえる。

「確かに、我が国ではまだ貴族女性は勉学などするべきではないなんて風潮が根強い……その根底にあるのは女性は男性の所有物であるというねじ曲がった価値観だ。」

教育者としては痛い話だがね、とラファエル理事長は眉頭に更に皺を寄せた。
それに僕も「そうですね。」と同意を示す。

「一見貴族として華やかな立場にあると見えても、見方を変えれば政略の駒扱い。片や平民から貴族に見染められたシンデレラストーリーに見えて、貴族に搾取された女性の末路……なんて、恨む理由など本人たちにしか分かりえないのでしょうけれど。」

あくまで憶測でしかない。
第2夫人も明確に公爵にされたことを口にした訳では無い。ただ彼女には息子を案ずる素振りはあっても公爵を案ずる素振りは欠片もなかった。

「男性が女性を蔑ろにし続けた結果、男は滅び最後は女性が国を率いて女性によって文明が終わる……これが彼女たちの描いた計画『世界滅亡計画』の全てでしょう。」

最後は男のいない世界で、なんて彼女たちの夢見た世界は終焉までの時間稼ぎだとしても、とても美しい世界に思えたのだろう。

「……しかし、そうなると公爵夫人の自供も必要になるな……」

ナテュール様の言葉に僕も「第2夫人の証言と発動したことの無い古の魔法具だけでは、公爵家の者を捕縛するには少し弱いですからね。」と首肯を返した。

「また私が聞きに行きましょうか?」
「……それが1番早い気もするな。」

提案したのは確かに僕だがナテュール様だけではなくほかの面々にも頷かれると少し微妙な気持ちになる。
そんなに尋問向きなのだろうかこの顔は……

なんとも言えない気持ちを誤魔化すように窓の方へと向いた、その時だった。

不自然な影がチラついたのは。

「まさかっ……!?」
「ロイっ!?」

慌てて窓を蹴り割るようにして飛び出したのと、その影が落下してくるのはほぼ同じタイミングだった。

「ぐっ……!」

掴んだその存在を慌てて胸に抱き抱えるようにして、自分が下になるように空中で位置を入れ替えればすぐに地面との衝突で肺の空気が歪な音で吐き出される。

「……公爵夫人……何のおつもりですか……!?」

そう、今まさに身を投げたのは話題の渦中にあった公爵夫人その人だった。

真犯人である以上死なせる訳には行かない。
無事を確認しようと上半身を起こそうとしたその時だった。

「……ええ、貴方ならそうすると思っていたわ。」
「いっ……!?」

公爵夫人の体を抱えていた右手に鋭い痛みが走ったかと思えば、底には禍々しい紫の刀身を持つナイフが突き刺さっていた。

刀身自体は果物ナイフほどのサイズで刺さっている位置も太い神経から外れている。

しかし問題は、

「ロイ!?大丈夫か!?」

「来てはなりませんナテュール様!!」

その刀身に刻まれた魔法陣だ。

「古の魔法具が発動します!!!」

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