悪役従者

奏穏朔良

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47(ナテュール視点)

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「これの発動が、第2段階……」

ロイの告げた真実に、思わず眉間に皺が寄る。

「はい。第2夫人曰く、古代の魔法使いが先祖に預けたものだとか。そして、強大すぎるこの古の魔法具を守り続けることを約束した民の生き残りが、自分たちなのだと言っておりました。」

初めてその事実を耳にしたルーカスは、「強大すぎるっていうのは……」と、両の手を握りしめるようにして言葉を零す。それにロイは僅かに目を伏せ、

「使い方次第で、世界を滅ぼせるそうです。」

と、残酷な真実を口にした。

「世界を……!?まさか、世界を滅ぼすことが第2段階だなんて言わないだろうな!?」

思わずそう声を荒げれば、「正確には、世界を『半分』壊すことが、第2段階です。」とロイは静かに告げる。

「世界を半分壊すって……」

ルーカスの震えた声が場に落ちる。握りしめるその手の先は、力が入りすぎて赤を通り越し、白くなっていた。

「この魔法具は、定めた1つの『条件』に1つの『状況』を与えることが出来るものだそうです。」

そして、そんなルーカスに申し訳なさそうにしながらも、続けられたロイの言葉に、今まで無言のままでいた大人たちも目を見開いた。

「条件に、状況……?」
「おいおい、それってつまり条件を『世界』と定めて、状況を『滅亡』とでも定めれば、世界は滅亡するってことじゃないか。」

腕を組んだまま、もたれていた壁から身を離したアダン・ニコラ教官に、「はい。」とロイは淡々と肯定を述べる。

「だからこそ、使い方次第では世界を滅ぼすことが出来るのです。もちろん、条件が大きければ大きいほど、発動者には代償が伴います。」

この計画の場合、発動者はロイにあたる。むしろ発動できる人間は現状ロイしかいない。
代償が大きいということは、恐らく発動すればロイは惨たらしい死を迎えるのだろう。

「……だが、夫人たちからすればロイがどうなろうとも目的には関係がない、と。」
「ええ。発動さえさせてしまえばもう用はありませんからね。」

軽い口調で肩を竦めて見せるロイだが、ルーカスはそれに更に眉尻を下げ、唇を噛んだ。
自身にとって優しい母が、目的のために友人を生け贄にしようとしていたなど、信じたくない真実のはず。
しかし、ルーカスは目に涙を溜めながらも、真っ直ぐロイを見つめた。

「……その、魔法具で、母さんたちは、一体なにを……」

しようとしていたの、と空気に溶けてしまいそうな程小さな問いに、ロイは1つ呼吸を置いてから、

「『この世界の男』という条件で『死ぬ』という状況を。」

「……え。」

そう淡々と言葉を落とした。

「ルーカス様を異界から召喚した聖女と結婚させるのはこれに対しての対策でもあったようです。」

「異界の聖女と深い繋がりがあれば、『この世界の男』という条件から外れると?」

ロイの言葉にラファエル・リシャール理事長がそう問えば、「第2夫人はそう信じています。」とロイは頷いた。

「少なくとも、条件の規模が大きい分、そういった『取りこぼし』があるようです。」

例えば、体は男でも自分は女だと思う人。幼すぎて自分の性別にあまり意識の無い者など。
条件の規模が大きければ、それが適応される『基準』というものも曖昧になる。
「自分は男である」という確たる意識が基準になるとするならば、当然指定した『状況』の適応からは弾かれる。

とはいえ、あくまでこれも憶測に過ぎないらしいが。

「『世界を半分壊す』……ね。なるほど、確かに男が居なくなれば半分って言えるは言えるねぇ。」

なんて軽い声色でアダン・ニコラ教官が顎を摩る。それにロイは「まあ、神殿側には最初の段階までしか伝えず、この第2段階以降の計画は伏せていたようですよ。」と少し笑った。
多分こいつ「神殿いいように使われててザマァ!」って内心思ってる。

「まあ、神殿は基本男しかいないからねぇ。そんな計画知ってたら真っ先に死ぬのは自分たちだし協力なんてしなかったでしょ。」

と、アダン・ニコラ教官は肩を竦めた。しかし、次の瞬間には僅かに上げた口角すら下げ、真剣な顔で「さて、」と言葉を続けた。

「第2夫人と公爵夫人の狙いがこの世界の男を滅ぼしたい、として。その先にある目的は何だい?これが最終目標ってわけじゃないんだろう?」

そうニコラ教官はロイへと視線を向ける。「流石ニコラ教官ですね。」と薄く笑ったロイは魔法具の収められた木箱をゆっくりとテーブルに置き、「私も明確な答えを聞いた訳ではありませんが。」と1つ前置きを告げた。

「彼女たちの目的……そうですね、強いて言うなら『男たちへの復讐』、でしょうか。」

そう目を細めたロイに、ルーカスは僅かに目を見張り「復讐……?」と細い声で繰り返した。

「あ、ちなみに最終目標は世界の滅亡ですね。」
「それサラッと言うことじゃないよな???」

ロイがあまりにも笑顔でサラッと言うので思わずと言った具合にオリバーが突っ込む。

それにしても、ロイはあくまで夫人たちの計画を説明しているだけなのに、セリフと表情がある意味マッチしすぎて、世界滅亡計画を立てた本人みたいに見えてしまう。
おかしいな???

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