悪役従者

奏穏朔良

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46(ナテュール視点)

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「……なんか、びっくりする位あっさり自供したんですけど……」

しょんもりとした面持ちで俺たちのいる部屋に戻ってきたロイ。
そんなロイに、今回の作戦を提案したルーカスは「だろうねぇ。」と苦笑を漏らした。

作戦と言っても、至ってシンプルなものでルーカスが提案したのは「ロイさんだけで、母さんに聞きに行くのはどうかな?」というものだ。

『その、母さんも、古の魔法具を隠し持っていたからこそ、素直には話さないと思う。公爵夫人に取られても誰にも言わなかったってことは、安易に人には言えないような代物だったのかもしれないし……』

僕にも言ってくれなかったし、とその時のルーカスはどこか寂しさをにじませた瞳を伏せていた。
しかし、それは一瞬でパッと顔を上げたと思うと、その目を細めて「でも、」と言葉を続ける。

『ロイさんの顔面で聞かれたら並の人なら話しちゃうと思うんだ。』

『あー……』

そのセリフに誰の口からも同じ音が飛び出し空気に溶けた。

『え、待ってください。『あー』ってなんですか、『あー』って。』

1人、当の本人であるロイだけは納得がいかない、という雰囲気を纏っていたが、ロイは立てば容疑者、座れば魔王。歩く姿は胡散臭い、という超悪役面。

並の女性じゃまず隠し事は無理だろう、と満場一致でロイが話を聞きに行くことになったのだ。


「……ルーカス様。」

そんなロイが椅子に座すルーカスの前で片足を付いた。下から覗くように、まるで小さい子供にさとすように、

「私が今からお伝えすることはおそらくルーカス様にとって、お辛いことと思います。」

と、ルーカスを真っ直ぐ見つめ告げるロイ。それにルーカスは僅かに息を飲んだのがわかった。

「今なら何も聞かない、知らないと耳を塞ぐことが出来ます。どうされますか?」

(それはつまり……)

ルーカスの母は、ただの被害者では無い、ということか。
おそらく、ロイは本気でルーカスのことを心配して、こうして選択肢を提示したのだろう。

ルーカスはそれに、僅かに眉を下げて、意を決したように首を振った。

「……ボクも聞くよ。母さんのことだから。」

真っ直ぐとロイを見つめ返すルーカスに、ロイは「わかりました。」と立ち上がる。

「……まず、前提として公爵夫人とルーカスの母君である第2夫人は共犯者です。」
「なっ……!?」

思ってもみなかった前提に思わず驚きの声をあげるも、ラファエル・リシャール理事長や、アダン・ニコラ教官は表情を変えることなくそこに立っているのを見ると、大人たちはある程度予想していたのだろう。

ロイもそれがわかっているのか、大人たちの方はちらりとも視線を向けることなく「ルーカス様への冷遇などは周囲へのパフォーマンスでしょう。」と、再度口を開いた。

「社交界への顔出しが遅くなったのも公爵夫人の妨害故、と言われておりますが、それならばマナーや教養を教え込む必要はありません。早々にパーティーに放り込んで恥をかかせて『跡取りに相応しくない!』と糾弾する方が手っ取り早いですからね。」

「つまり、公爵夫人はルーカスを次の公爵にするつもりがあったと……?」

「むしろそれが狙いとも言えます。」

その言葉に、ルーカスは驚きのあまり目を見開いたまま、口をはくりと動かすも、言葉が音にならずただ空気が抜けるだけだった。

「ルーカス様と召喚した聖女の結婚。これが夫人たちの最初の狙いです。」

「聖女と?確か、神殿側は王家を転覆させるためにそれを企んでいたな……同じ目的だったということか?」

俺の言葉にロイは「正確には少し違います。」と緩く首を振る。

「神殿側は王家を滅ぼし、祀り上げた聖女と結婚したルーカス様を王家と認め自身の権力を復活させること。これは最終目標です。」

そんなロイの説明にオリバーが困惑気に「それ、何が違うんだ?」と眉尻を下げた。

「夫人たちはこれがスタート地点……つまりは『第1段階』ということです。」

そういって自身の人差し指をピンッと立てたロイ。

「第1段階……?」

「はい。そして第1段階、ルーカス様と聖女の結婚が達成された後、コイツ・・・の出番、という訳です。」

そして立てた指とは反対側の手に置かれた木箱が差し出される。

少し前までみんなで囲い資料を引っ張り出しては覗き込んだその木箱の中身など、最早聞く必要も無かった。

「この古の魔法具を発動させること。それが夫人たちの計画の第2段階です。」

エドワーズ公爵家にあったあのイヤリングが収められた木箱の中で怪しく煌めいた。


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