悪役従者

奏穏朔良

文字の大きさ
上 下
44 / 50

44

しおりを挟む
思えば所々に違和感はあった。

最初に起きたオリバー襲撃未遂も、ルーカス様の交流を妨害し、勢力の拡大を防ぐような素振そぶりを見せながら、あの1件以降特に交友関係への干渉は見受けられない。
警備体制を考えて別の方面から妨害してくるかとも考えていたが、今日に至るまでそれもなかった。

さらに言えば、跡継ぎとして認めないような素振りをしながら、ルーカス様に直接の危害を加えようとしている様子はない。

そしてあの古の魔法具とルーカス様の実母が住まう環境のいい離れ。

公爵が独断で建てたと考えればそれで済んでしまうが、工事が入った時点で夫人が異議申し立てをしなかったというのは不自然だ。

いくらエドワーズ公爵が頭首と言えど、夫人の生家が同じ公爵家だと考えれば夫人の異議を無理やり跳ね除けたというのは考えにくい。
そうなれば、夫人は最初からそれに文句を言わなかったということになる。

(つまり、ルーカス様への待遇はあくまで周りへのパフォーマンスだったということ……)

古の魔法具を公爵夫人に渡したということは大切なものを預けるだけの信頼関係がある可能性が強い。

(……だが、なおのこと目的がわからない……神殿側の目的は召喚した聖女とエドワーズ公爵家が王家に成り代わること。それに関係した効能があるのだろうか……?)

結局古の魔法具の効能がわからない以上、憶測を重ねるしかできない。

「……ん、……ィ君……ロイ君?」
「……あっ。」

目の前でひらりと振られた手に思考の沼から意識が浮上する。目の前で揺れる手のひらはニコラ教官の物で、「大丈夫?イザック君のことがあってからずっと動きっぱなしだし、少し休む?」とその眉尻を下げていた。

「……いえ、少し考え事を。大丈夫です。」
「そうかい?」

未だ心配そうな表情を浮かべるニコラ教官に、「とりあえず戻りましょう。」とルーカス様の待機されている部屋へと足を進める。
何か言いたげだったものの、手を下ろしたニコラ教官は僕の後に続いて同じようにルーカス様の部屋へと足を進めた。

「というわけで起動させてみましょう。」
「ちょっと待っっって。」

部屋に入って早々告げた言葉に、ニコラ教官が後ろから肩を掴んだ。

「あとね、何がどう言うわけで『というわけで』になったのかな??あと『起動』って言葉の時点で嫌な予感しかしないんだけど。」

口の端を引き攣らせたニコラ教官の言葉にナテュール様が小さく息を吐いて「説明。」と言葉を投げる。

「魔法具の効能がなにか分からない以上目的も狙いも憶測の域を出ないので、いっそ使ってみようかと。」

「何その急がば走れみたいな精神は???」

思わずと言った具合で突っ込んだオリバー。王宮に来た当初はガッチガチに緊張していた癖に。

「ご安心ください。何かあれば必ずお守りします。ナテュール様だけ。」
「俺たちのことも守って!!?」

ぎゃーぎゃー喚いて縋り付くオリバーを引き剥がしながらナテュール様の方へと足を進めれば、まるで僕から離すかのように木箱を後ろへと押しやった。

その行為に思わず小首を傾げれば、

「……何らかの大掛かりなテロを企てており、魔法具それの最後の引き金トリガーがこれだった場合、起動させれば全てが手遅れになる。ナテュールとして命じる。その提案は却下だ。」

と、ナテュール様に命令まで下されてしまった。そうなればナテュール様の従者で一番の家臣である僕がそれを拒絶するなど万が一にも、いや億や兆分の一にもありえない!
まあ、命令じゃなくてもナテュール様のお言葉を拒絶するなんて事ありえないけどな!!

「承知致しました。」

そう恭しく胸に手を当て礼をとれば、どこか力の入っていたナテュール様の肩が下がる。

「だけど、そうなると結局は振り出しだな。」

顎に手を当て唸るようにそう言ったオリバーに「そうなんだよねぇ。」とニコラ教官もため息混じりに声を零した。

「あの……」

ふいに、恐る恐るといった具合でルーカス様がその手を挙げる。

「1つ、提案があるんだけれど……」

と、その口から発せられた『提案』に、思わず僕らは目を見開いた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?

歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。 それから数十年が経ち、気づけば38歳。 のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。 しかしーー 「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」 突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。 これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。 ※書籍化のため更新をストップします。

召喚魔法使いの旅

ゴロヒロ
ファンタジー
転生する事になった俺は転生の時の役目である瘴気溢れる大陸にある大神殿を目指して頼れる仲間の召喚獣たちと共に旅をする カクヨムでも投稿してます

普通の勇者とハーレム勇者

リョウタ
ファンタジー
【ファンタジー小説大賞】に投稿しました。 超イケメン勇者は幼馴染や妹達と一緒に異世界に召喚された、驚くべき程に頭の痛い男である。 だが、この物語の主人公は彼では無く、それに巻き込まれた普通の高校生。 国王や第一王女がイケメン勇者に期待する中、優秀である第二王女、第一王子はだんだん普通の勇者に興味を持っていく。 そんな普通の勇者の周りには、とんでもない奴らが集まって来て彼は過保護過ぎる扱いを受けてしまう… 最終的にイケメン勇者は酷い目にあいますが、基本ほのぼのした物語にしていくつもりです。

元34才独身営業マンの転生日記 〜もらい物のチートスキルと鍛え抜いた処世術が大いに役立ちそうです〜

ちゃぶ台
ファンタジー
彼女いない歴=年齢=34年の近藤涼介は、プライベートでは超奥手だが、ビジネスの世界では無類の強さを発揮するスーパーセールスマンだった。 社内の人間からも取引先の人間からも一目置かれる彼だったが、不運な事故に巻き込まれあっけなく死亡してしまう。 せめて「男」になって死にたかった…… そんなあまりに不憫な近藤に神様らしき男が手を差し伸べ、近藤は異世界にて人生をやり直すことになった! もらい物のチートスキルと持ち前のビジネスセンスで仲間を増やし、今度こそ彼女を作って幸せな人生を送ることを目指した一人の男の挑戦の日々を綴ったお話です!

チートな親から生まれたのは「規格外」でした

真那月 凜
ファンタジー
転生者でチートな母と、王族として生まれた過去を神によって抹消された父を持つシア。幼い頃よりこの世界では聞かない力を操り、わずか数年とはいえ前世の記憶にも助けられながら、周りのいう「規格外」の道を突き進む。そんなシアが双子の弟妹ルークとシャノンと共に冒険の旅に出て… これは【ある日突然『異世界を発展させて』と頼まれました】の主人公の子供達が少し大きくなってからのお話ですが、前作を読んでいなくても楽しめる作品にしているつもりです… +-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-  2024/7/26 95.静かな場所へ、97.寿命 を少し修正してます  時々さかのぼって部分修正することがあります  誤字脱字の報告大歓迎です(かなり多いかと…)  感想としての掲載が不要の場合はその旨記載いただけると助かります

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

異世界でリサイクルショップ!俺の高価買取り!

理太郎
ファンタジー
坂木 新はリサイクルショップの店員だ。 ある日、買い取りで査定に不満を持った客に恨みを持たれてしまう。 仕事帰りに襲われて、気が付くと見知らぬ世界のベッドの上だった。

名の無い魔術師の報復戦線 ~魔法の天才が剣の名家で産まれましたが、剣の才能がなくて追放されたので、名前を捨てて報復します~

トンボ
ファンタジー
 アレフ・ブレイブは優秀な剣聖の家系に生まれたものの、剣の才能が全くなかった。  けれど、ひょんな事から魔法に興味を持ち、自室である物置小屋で独学で魔法をマスターしていくも、ある日父親ジャコブ・ブレイブに魔法の入門書が見つかってしまう。 「剣技も録に会得できないくせに、魔法なんぞにかまけていたのか! 剣も振れないお前など、ブレイブ家の恥さらしだ! もう出て行け!」 「そ、そんな……!」  アレフは剣の稽古をサボっていたわけでもなく、魔法の研究は空いた小さな時間でやっていたのに、ジャコブに家から追放されてしまう。  さらには、ジャコブにより『アレフ・ブレイブ』は病死したことにされてしまい、アレフは名前すら失ってしまった。 「うっ……」  今までずっと住んできた屋敷から追い出され、それによりアレフ――否、名無しの少年が得たものは不安だけだった。  大粒の涙をこぼして、追い出された屋敷の近くの森の中で静かに泣いた。外はもう暗くなっていて、そこら中から獣のうめき声が聞こえる。  とてつもない悲しみに少年は打ちひしがれていた。けれど、彼は立ち上がる。 「……行かなきゃ」  ぽつぽつと一人、少年は歩み始めた。――生まれ育った屋敷に背を向けて。 「アレフ・ブレイブは……死んじゃったんだ……僕はもう、アレフじゃないんだ……」  名前を失った少年はただ暗い森の中を歩く。  その先に明日があるのかも分からないけれど、とにかく歩いた。  少年はぼそっと呟く。 「……そうだ。まずは僕が誰なのか、名前をつけないと……僕が僕であるために……」 「名前……そういえば、男の魔法使いはウィザードって呼ばれることがあるんだっけ……。なら僕は……」 「――ウィズ。そう名乗ろう」    足を止めていたウィズはまた歩き出した。その先には何があるのか分からないけど、後ろには戻れない。 「……さようなら、アレフ・ブレイブ」  ウィズは今までの自分に別れを告げると、暗闇の中に消えていったのだった。  ――物語が動き出すのは、『ウィズ』と名乗る青年が雑貨店を営み始め、数年後のことになる――。

処理中です...