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思えば所々に違和感はあった。
最初に起きたオリバー襲撃未遂も、ルーカス様の交流を妨害し、勢力の拡大を防ぐような素振りを見せながら、あの1件以降特に交友関係への干渉は見受けられない。
警備体制を考えて別の方面から妨害してくるかとも考えていたが、今日に至るまでそれもなかった。
さらに言えば、跡継ぎとして認めないような素振りをしながら、ルーカス様に直接の危害を加えようとしている様子はない。
そしてあの古の魔法具とルーカス様の実母が住まう環境のいい離れ。
公爵が独断で建てたと考えればそれで済んでしまうが、工事が入った時点で夫人が異議申し立てをしなかったというのは不自然だ。
いくらエドワーズ公爵が頭首と言えど、夫人の生家が同じ公爵家だと考えれば夫人の異議を無理やり跳ね除けたというのは考えにくい。
そうなれば、夫人は最初からそれに文句を言わなかったということになる。
(つまり、ルーカス様への待遇はあくまで周りへのパフォーマンスだったということ……)
古の魔法具を公爵夫人に渡したということは大切なものを預けるだけの信頼関係がある可能性が強い。
(……だが、なおのこと目的がわからない……神殿側の目的は召喚した聖女とエドワーズ公爵家が王家に成り代わること。それに関係した効能があるのだろうか……?)
結局古の魔法具の効能がわからない以上、憶測を重ねるしかできない。
「……ん、……ィ君……ロイ君?」
「……あっ。」
目の前でひらりと振られた手に思考の沼から意識が浮上する。目の前で揺れる手のひらはニコラ教官の物で、「大丈夫?イザック君のことがあってからずっと動きっぱなしだし、少し休む?」とその眉尻を下げていた。
「……いえ、少し考え事を。大丈夫です。」
「そうかい?」
未だ心配そうな表情を浮かべるニコラ教官に、「とりあえず戻りましょう。」とルーカス様の待機されている部屋へと足を進める。
何か言いたげだったものの、手を下ろしたニコラ教官は僕の後に続いて同じようにルーカス様の部屋へと足を進めた。
「というわけで起動させてみましょう。」
「ちょっと待っっって。」
部屋に入って早々告げた言葉に、ニコラ教官が後ろから肩を掴んだ。
「あとね、何がどう言うわけで『というわけで』になったのかな??あと『起動』って言葉の時点で嫌な予感しかしないんだけど。」
口の端を引き攣らせたニコラ教官の言葉にナテュール様が小さく息を吐いて「説明。」と言葉を投げる。
「魔法具の効能がなにか分からない以上目的も狙いも憶測の域を出ないので、いっそ使ってみようかと。」
「何その急がば走れみたいな精神は???」
思わずと言った具合で突っ込んだオリバー。王宮に来た当初はガッチガチに緊張していた癖に。
「ご安心ください。何かあれば必ずお守りします。ナテュール様だけ。」
「俺たちのことも守って!!?」
ぎゃーぎゃー喚いて縋り付くオリバーを引き剥がしながらナテュール様の方へと足を進めれば、まるで僕から離すかのように木箱を後ろへと押しやった。
その行為に思わず小首を傾げれば、
「……何らかの大掛かりなテロを企てており、魔法具の最後の引き金がこれだった場合、起動させれば全てが手遅れになる。ナテュールとして命じる。その提案は却下だ。」
と、ナテュール様に命令まで下されてしまった。そうなればナテュール様の従者で一番の家臣である僕がそれを拒絶するなど万が一にも、いや億や兆分の一にもありえない!
まあ、命令じゃなくてもナテュール様のお言葉を拒絶するなんて事ありえないけどな!!
「承知致しました。」
そう恭しく胸に手を当て礼をとれば、どこか力の入っていたナテュール様の肩が下がる。
「だけど、そうなると結局は振り出しだな。」
顎に手を当て唸るようにそう言ったオリバーに「そうなんだよねぇ。」とニコラ教官もため息混じりに声を零した。
「あの……」
ふいに、恐る恐るといった具合でルーカス様がその手を挙げる。
「1つ、提案があるんだけれど……」
と、その口から発せられた『提案』に、思わず僕らは目を見開いた。
最初に起きたオリバー襲撃未遂も、ルーカス様の交流を妨害し、勢力の拡大を防ぐような素振りを見せながら、あの1件以降特に交友関係への干渉は見受けられない。
警備体制を考えて別の方面から妨害してくるかとも考えていたが、今日に至るまでそれもなかった。
さらに言えば、跡継ぎとして認めないような素振りをしながら、ルーカス様に直接の危害を加えようとしている様子はない。
そしてあの古の魔法具とルーカス様の実母が住まう環境のいい離れ。
公爵が独断で建てたと考えればそれで済んでしまうが、工事が入った時点で夫人が異議申し立てをしなかったというのは不自然だ。
いくらエドワーズ公爵が頭首と言えど、夫人の生家が同じ公爵家だと考えれば夫人の異議を無理やり跳ね除けたというのは考えにくい。
そうなれば、夫人は最初からそれに文句を言わなかったということになる。
(つまり、ルーカス様への待遇はあくまで周りへのパフォーマンスだったということ……)
古の魔法具を公爵夫人に渡したということは大切なものを預けるだけの信頼関係がある可能性が強い。
(……だが、なおのこと目的がわからない……神殿側の目的は召喚した聖女とエドワーズ公爵家が王家に成り代わること。それに関係した効能があるのだろうか……?)
結局古の魔法具の効能がわからない以上、憶測を重ねるしかできない。
「……ん、……ィ君……ロイ君?」
「……あっ。」
目の前でひらりと振られた手に思考の沼から意識が浮上する。目の前で揺れる手のひらはニコラ教官の物で、「大丈夫?イザック君のことがあってからずっと動きっぱなしだし、少し休む?」とその眉尻を下げていた。
「……いえ、少し考え事を。大丈夫です。」
「そうかい?」
未だ心配そうな表情を浮かべるニコラ教官に、「とりあえず戻りましょう。」とルーカス様の待機されている部屋へと足を進める。
何か言いたげだったものの、手を下ろしたニコラ教官は僕の後に続いて同じようにルーカス様の部屋へと足を進めた。
「というわけで起動させてみましょう。」
「ちょっと待っっって。」
部屋に入って早々告げた言葉に、ニコラ教官が後ろから肩を掴んだ。
「あとね、何がどう言うわけで『というわけで』になったのかな??あと『起動』って言葉の時点で嫌な予感しかしないんだけど。」
口の端を引き攣らせたニコラ教官の言葉にナテュール様が小さく息を吐いて「説明。」と言葉を投げる。
「魔法具の効能がなにか分からない以上目的も狙いも憶測の域を出ないので、いっそ使ってみようかと。」
「何その急がば走れみたいな精神は???」
思わずと言った具合で突っ込んだオリバー。王宮に来た当初はガッチガチに緊張していた癖に。
「ご安心ください。何かあれば必ずお守りします。ナテュール様だけ。」
「俺たちのことも守って!!?」
ぎゃーぎゃー喚いて縋り付くオリバーを引き剥がしながらナテュール様の方へと足を進めれば、まるで僕から離すかのように木箱を後ろへと押しやった。
その行為に思わず小首を傾げれば、
「……何らかの大掛かりなテロを企てており、魔法具の最後の引き金がこれだった場合、起動させれば全てが手遅れになる。ナテュールとして命じる。その提案は却下だ。」
と、ナテュール様に命令まで下されてしまった。そうなればナテュール様の従者で一番の家臣である僕がそれを拒絶するなど万が一にも、いや億や兆分の一にもありえない!
まあ、命令じゃなくてもナテュール様のお言葉を拒絶するなんて事ありえないけどな!!
「承知致しました。」
そう恭しく胸に手を当て礼をとれば、どこか力の入っていたナテュール様の肩が下がる。
「だけど、そうなると結局は振り出しだな。」
顎に手を当て唸るようにそう言ったオリバーに「そうなんだよねぇ。」とニコラ教官もため息混じりに声を零した。
「あの……」
ふいに、恐る恐るといった具合でルーカス様がその手を挙げる。
「1つ、提案があるんだけれど……」
と、その口から発せられた『提案』に、思わず僕らは目を見開いた。
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