悪役従者

奏穏朔良

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そのまま床にひっくり返って駄々をこねようとしたらナテュール様だけではなく、リシャール理事長やニコラ教官にまで羽交い締めにされて阻止された。解せぬ。

王の言い分はわかる。
ナテュール様の立場は特殊だ。第7王子故継承権は遠く、母君は敗戦国の人質として嫁いだ身。

そんなナテュール様に、元最大同盟国のアンスィヤン帝国の王族が従者に付くとなれば、周りが黙っていない。
王の賓客として迎えた元王族が従者となれば、それは王から目をかけてもらっていると言っているようなものだ。
ナテュール様が一気に継承権争いへと身を投じることになる。本人が望む望まない関係なしに、だ。

状況は理解している。理解しているんだが。

「嫌ですぅぅぅぅぅぅう!!!!ナテュール様の従者だけが僕の生きがいなのにぃぃぃいいい!!!!」

「落ち着こう!?ね!?ロイ君落ち着こうね!?」

羽交い締めにしてくるリシャール理事長とニコラ教官からの拘束を振りほどこうと暴れれば「くっ……!この状況下でもナテュール君には害が及ばぬように暴れてる……!無駄に器用!」とニコラ教官が顔を歪める。当たり前だろうナテュール様に怪我をさせるなんて万が一にもあれば従者失格だからな!!

「ロイ、命令だ。座れ。」
「御意。」

ナテュール様の言葉に、つい反射で姿勢を正して座れば、

「……最初からそうしてもらえば良かったなぁ……」

とリシャール理事長がなんとも言えない顔で言葉をこぼした。

「……ひとつ、よろしいでしょうか?」
「なんだ?ナテュール。」

ふと、ナテュール様が王へと発言を求めた。
そんなナテュール様は、1度キュッと口を強く結ぶと、覚悟を決めたような顔で、しっかりと王へと向き直る。

「もし仮に、エドワーズ公爵夫人の目的を白日の下に晒せたのならば、今回の神殿の件での褒賞以外にもう1つ、要求することは可能でしょうか?」

「もう1つ?」

ナテュール様の言葉に、狙いが分からないからか、王は髭を撫でながら少し考える仕草を見せる。
僕が従者として存続するしないの話のはずが、いきなり方向が代わり、王も困惑されているのだろう。

(だが、ナテュール様が言い出したのなら何か意味があるはず……)

「世間に公表するのは公爵夫人の目的を暴き、罪状を確定させてからですよね?」

そう、僕が口を開けば王はゆっくりと首肯する。
それに「ならば、」と僕は言葉を続けた。

「せめてそれまではナテュール様を補佐することをお許し下さい。」
「ロイ……」

そう頭を垂れる僕に、王は1つため息をついて「仕方あるまい。但し、必ず真相をつきとめよ。」と許しを下した。

「はっ、必ずや。」

ナテュール様の真意はわかないが、今は少しでもナテュール様のお役に立てるように、頑張ろう。


****


「とは言ってたものの、どうする気なのさ、2人とも。」

謁見の間から退出後、苦笑気味のニコラ教官からそう問われる。

「とりあえず公爵夫人の自室等の屋敷を調べますか?忍び込むのは簡単だと思いますが。」

そうナテュール様の方を見やれば、顎に指を添えたまま「そうだな……」と口を開かれた。

「エドワーズ公爵の者は召集され、屋敷は1部の使用人しか残らない。流石にこの短時間では証拠を隠滅する事も難しいだろうし何かしら出てくるだろう。」

ナテュール様のお言葉に1つ頷き、「ではルーカス様。屋敷内の間取りを教えて頂いてもよろしいですか?」と今度はルーカス様へと視線を向ける。
ルーカス様はしっかりと頷いて

「もちろん。とは言っても、ボクが知ってるのは一部分だけなんだけどね……」

と、今度は苦笑気味に頬をかいた。

「構いません。公爵夫人の部屋がどの辺りなのか、それだけでもわかればずっと仕事がしやすくなります。」

そう僕が微笑めば、ルーカス様もホッと眦を緩めて「それなら少しは役に立てそうでよかった。」と言葉を零した。

「……なんだろう、その笑みで『仕事がしやすくなります』って言われると『仕事暗殺』って感じがすごい……」
「失礼すぎません???」

オリバーの言葉にぐりんっと顔をそちらにむければ「動きも怖ぇーよ!!!」と声を荒げられた。失礼な。

「まあ、ロイだからな……」
「ナテュール様まで!?」

泣いてしまいそうです、なんて言って泣き真似をすれば、酷く顔を歪めたイザック・ベルナールが「う、胡散臭せぇ……!」とほざきやがったのでそのケツに問答無用で蹴りを叩き込んだ。貴様は許さん。

「なんで俺だけ!?」
「さてルーカス様、こちらへ。」
「無視すんなよ!?」

すっかり元の調子が戻ってきたイザック・ベルナールに「そうやって吠えてる方がらしい・・・ですよ。」と言葉を落とせば、イザック・ベルナールは鳩が豆鉄砲くらったかのような顔をする。

そして、グッとその口元を引き締めたかと思えば、

「やっぱお前気に入らねぇ!でも『プリースト』だからって突っかかってごめん!!」

なんて素直なんだかよくわからない謝罪を叫ばれて、思わず僕は吹き出してしまった。
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