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神官長のこの有様にナテュール様だけではなく、ルーカス様やリシャール理事長達も何とも言えない表情に顔を歪める。
気持ちは分かる。
「……って、え、まって、エドワーズ家ってボクのところじゃん!?」
「恐らく夫人の方かと。公爵自身は反神殿派ですし。」
ハッとし、顔を青く染め上げたルーカス様にそう声をかければ、
「そう見せ掛けて裏切っている可能性は?」
と王が重々しい声で問うた。
その声の低さにルーカス様の体が小刻みに震える。その肩を安心させるように手を置き、僕は口を開いた。
「低いかと。公爵にはそうした所で大したメリットがありません。それに、エドワーズ公爵家に古の魔法具があるという情報は聞いておりませんが、調べたところ、神殿の後ろ盾となったエドワーズ家の人間も、私の血を使って古の魔法具を発動させたいようでした。」
その答えに、王は顎に手を当て少し考え込む仕草を見せる。
「……確か、エドワーズ公爵夫人の生家であるルフェーブル公爵家は前当主が骨董好きで中には古の魔法具もある、との話だな。」
「はい。あくまで憶測にすぎませんが、可能性は高いかと。」
僕が首肯すれば、王はひとつため息をついて頭が痛いと言わんばかりにこめかみをぐりぐりと揉みほぐす。
「聖女の召喚については?」
「まだ魔法使いの多くいた古代。聖女と呼ばれる神の娘を呼び寄せる召喚の義が存在していた記録があります。恐らくはその儀式を再現しようとしたのかと。」
そこまで言ったところでナテュール様が魔法具を操作し、1枚の映像を空に映した。
『そうか!なら我々が再び権威を得ることがほぼ確定だな!ハッハッハー!見てろよ、裏切り者のロイめ!お前の力で召喚される『聖女』が、お前の目論見を阻止するのだからなぁ!!』
バカの登場リターンズ。
召喚に関してはがっつりここで自供が取れているが、何故こいつらは揃いも揃って全部言ってしまうのか。
とうとう王すら顔を手で覆い始めた。
「……バカが権力を持つとろくな事にならん……!」
王の切実な言葉に、ナテュール様達も思わずと言った具合に頷き同意を示す。
「……こんな馬鹿共に俺たちはずっと苦しめられてきたのか……」
「父さん!しっかり!」
恐らく1番神殿からの被害を受けていたであろうジョルジュ・ベルナールの疲れたようなぼやきが聞こえる。
そしてその肩を息子のイザックが「王の御前で白目はまずいって!!」と揺らした。
「なまじ宗教として長いこと存在していましたからね、腐敗した期間が長すぎてバカしか育っていないのでしょう。」
そう僕が告れば、ニコラ教官が「言うねぇ。」と含んだ笑いが投げられる。
「……まあ、いい。神官共はすでに捕縛済み。それだけの証拠が揃っていればエドワーズ家に招集をかける事も可能だろう。公爵家とはいえ、王家への反逆は到底看過することはできないからな。」
そう顔を上げた王は真っ直ぐルーカス様を見やる。
「君も捕縛に参加した側だが真偽が明らかになるまではその身を拘束させれもらう。なに、君の扱いに関しては王家が保証しよう。」
その言葉にルーカス様は震える声で「承知いたしました。」とその頭を垂れる。
未遂とはいえ反逆罪は重い。下手したら一族諸共処刑、なんて場合もあるが公爵という身分と、捕縛側にいたことからそんな最悪は起こらないだろう。
しかしナテュール様は不安なのかチラチラと視線をルーカス様に投げられていた。
その後、ベルナール親子への労いと感謝。そして息子のイザックの生存発表に関して、リシャール理事長と少し話した王は、コホンとひとつ咳払いをして佇まいを直した。
「さて、ナテュール。お前に褒美をやらねばな。」
「えっ……」
王の言葉にパッと顔を正面に向けたナテュール様。
「当たり前だろう。今回この国家反逆を防ぎ、神殿の腐敗を暴き、王の賓客を救い出した。」
「そ、それは私だけの力ではございません……!それに、神殿の腐敗を暴き真相を解明したのは私ではなくロイです!」
「ロイはお前の従者だ。それに、神殿の証拠の提示はお前が行った。その時点で真相の解明、その立役者はナテュール、お前だ。」
その王の言葉に勢いよくナテュール様のご尊顔が僕に向けられる。
その目には「お前こうなると分かってて俺に渡したな!?」とありあり書かれている。
ナテュール様のその視線に僕はにっこりと笑ってひとつハンカチを取り出し、目元に当てた。
「ご立派になられて……!」
「胡散臭い微笑みで誤魔化さそうとするな!」
おかしいな、泣き真似だったんだけどな。
つい喜びが口に出てしまったらしい。
「従者の手柄は主であるナテュール様のものですよ。」
「だが、1番頑張ったのはお前だろ……」
ナテュール様はどこか悲痛なお顔をされるが、
「私は貴方様にお仕えできるだけで、幸せですから。」
そう、僕からすればナテュール様のそばにいられればそれで構わないので王からの褒美とか割とどうでもいい。
「……あー……ロイ、こんなことを言うのは大変心苦しいが……」
コホンコホン、なんてわざとらしい咳払いに、ナテュール様も僕も怪訝な顔を王へと向けた。
「お主は今回、王の賓客となったため、ナテュールの従者からは外されるぞ。」
「…………は???」
流石に王族に王族を付ける訳にはいかないからな、と言う王の言葉に、僕は即座に床に座り込んだ。
「15歳児全力の駄々こねをします!!!!」
「やめなさい!!!」
気持ちは分かる。
「……って、え、まって、エドワーズ家ってボクのところじゃん!?」
「恐らく夫人の方かと。公爵自身は反神殿派ですし。」
ハッとし、顔を青く染め上げたルーカス様にそう声をかければ、
「そう見せ掛けて裏切っている可能性は?」
と王が重々しい声で問うた。
その声の低さにルーカス様の体が小刻みに震える。その肩を安心させるように手を置き、僕は口を開いた。
「低いかと。公爵にはそうした所で大したメリットがありません。それに、エドワーズ公爵家に古の魔法具があるという情報は聞いておりませんが、調べたところ、神殿の後ろ盾となったエドワーズ家の人間も、私の血を使って古の魔法具を発動させたいようでした。」
その答えに、王は顎に手を当て少し考え込む仕草を見せる。
「……確か、エドワーズ公爵夫人の生家であるルフェーブル公爵家は前当主が骨董好きで中には古の魔法具もある、との話だな。」
「はい。あくまで憶測にすぎませんが、可能性は高いかと。」
僕が首肯すれば、王はひとつため息をついて頭が痛いと言わんばかりにこめかみをぐりぐりと揉みほぐす。
「聖女の召喚については?」
「まだ魔法使いの多くいた古代。聖女と呼ばれる神の娘を呼び寄せる召喚の義が存在していた記録があります。恐らくはその儀式を再現しようとしたのかと。」
そこまで言ったところでナテュール様が魔法具を操作し、1枚の映像を空に映した。
『そうか!なら我々が再び権威を得ることがほぼ確定だな!ハッハッハー!見てろよ、裏切り者のロイめ!お前の力で召喚される『聖女』が、お前の目論見を阻止するのだからなぁ!!』
バカの登場リターンズ。
召喚に関してはがっつりここで自供が取れているが、何故こいつらは揃いも揃って全部言ってしまうのか。
とうとう王すら顔を手で覆い始めた。
「……バカが権力を持つとろくな事にならん……!」
王の切実な言葉に、ナテュール様達も思わずと言った具合に頷き同意を示す。
「……こんな馬鹿共に俺たちはずっと苦しめられてきたのか……」
「父さん!しっかり!」
恐らく1番神殿からの被害を受けていたであろうジョルジュ・ベルナールの疲れたようなぼやきが聞こえる。
そしてその肩を息子のイザックが「王の御前で白目はまずいって!!」と揺らした。
「なまじ宗教として長いこと存在していましたからね、腐敗した期間が長すぎてバカしか育っていないのでしょう。」
そう僕が告れば、ニコラ教官が「言うねぇ。」と含んだ笑いが投げられる。
「……まあ、いい。神官共はすでに捕縛済み。それだけの証拠が揃っていればエドワーズ家に招集をかける事も可能だろう。公爵家とはいえ、王家への反逆は到底看過することはできないからな。」
そう顔を上げた王は真っ直ぐルーカス様を見やる。
「君も捕縛に参加した側だが真偽が明らかになるまではその身を拘束させれもらう。なに、君の扱いに関しては王家が保証しよう。」
その言葉にルーカス様は震える声で「承知いたしました。」とその頭を垂れる。
未遂とはいえ反逆罪は重い。下手したら一族諸共処刑、なんて場合もあるが公爵という身分と、捕縛側にいたことからそんな最悪は起こらないだろう。
しかしナテュール様は不安なのかチラチラと視線をルーカス様に投げられていた。
その後、ベルナール親子への労いと感謝。そして息子のイザックの生存発表に関して、リシャール理事長と少し話した王は、コホンとひとつ咳払いをして佇まいを直した。
「さて、ナテュール。お前に褒美をやらねばな。」
「えっ……」
王の言葉にパッと顔を正面に向けたナテュール様。
「当たり前だろう。今回この国家反逆を防ぎ、神殿の腐敗を暴き、王の賓客を救い出した。」
「そ、それは私だけの力ではございません……!それに、神殿の腐敗を暴き真相を解明したのは私ではなくロイです!」
「ロイはお前の従者だ。それに、神殿の証拠の提示はお前が行った。その時点で真相の解明、その立役者はナテュール、お前だ。」
その王の言葉に勢いよくナテュール様のご尊顔が僕に向けられる。
その目には「お前こうなると分かってて俺に渡したな!?」とありあり書かれている。
ナテュール様のその視線に僕はにっこりと笑ってひとつハンカチを取り出し、目元に当てた。
「ご立派になられて……!」
「胡散臭い微笑みで誤魔化さそうとするな!」
おかしいな、泣き真似だったんだけどな。
つい喜びが口に出てしまったらしい。
「従者の手柄は主であるナテュール様のものですよ。」
「だが、1番頑張ったのはお前だろ……」
ナテュール様はどこか悲痛なお顔をされるが、
「私は貴方様にお仕えできるだけで、幸せですから。」
そう、僕からすればナテュール様のそばにいられればそれで構わないので王からの褒美とか割とどうでもいい。
「……あー……ロイ、こんなことを言うのは大変心苦しいが……」
コホンコホン、なんてわざとらしい咳払いに、ナテュール様も僕も怪訝な顔を王へと向けた。
「お主は今回、王の賓客となったため、ナテュールの従者からは外されるぞ。」
「…………は???」
流石に王族に王族を付ける訳にはいかないからな、と言う王の言葉に、僕は即座に床に座り込んだ。
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