悪役従者

奏穏朔良

文字の大きさ
上 下
40 / 50

40

しおりを挟む
神官長のこの有様にナテュール様だけではなく、ルーカス様やリシャール理事長達も何とも言えない表情に顔を歪める。

気持ちは分かる。

「……って、え、まって、エドワーズ家ってボクのところじゃん!?」
「恐らく夫人の方かと。公爵自身は反神殿派ですし。」

ハッとし、顔を青く染め上げたルーカス様にそう声をかければ、

「そう見せ掛けて裏切っている可能性は?」

と王が重々しい声で問うた。
その声の低さにルーカス様の体が小刻みに震える。その肩を安心させるように手を置き、僕は口を開いた。

「低いかと。公爵にはそうした所で大したメリットがありません。それに、エドワーズ公爵家に古の魔法具があるという情報は聞いておりませんが、調べたところ、神殿の後ろ盾となったエドワーズ家の人間も、私の血を使って古の魔法具を発動させたいようでした。」

その答えに、王は顎に手を当て少し考え込む仕草を見せる。

「……確か、エドワーズ公爵夫人の生家であるルフェーブル公爵家は前当主が骨董好きで中には古の魔法具もある、との話だな。」
「はい。あくまで憶測にすぎませんが、可能性は高いかと。」

僕が首肯すれば、王はひとつため息をついて頭が痛いと言わんばかりにこめかみをぐりぐりと揉みほぐす。

「聖女の召喚については?」
「まだ魔法使いの多くいた古代。聖女と呼ばれる神の娘を呼び寄せる召喚の義が存在していた記録があります。恐らくはその儀式を再現しようとしたのかと。」

そこまで言ったところでナテュール様が魔法具を操作し、1枚の映像を空に映した。

『そうか!なら我々が再び権威を得ることがほぼ確定だな!ハッハッハー!見てろよ、裏切り者のロイめ!お前の力で召喚される『聖女』が、お前の目論見を阻止するのだからなぁ!!』

バカの登場リターンズ。
召喚に関してはがっつりここで自供が取れているが、何故こいつらは揃いも揃って全部言ってしまうのか。

とうとう王すら顔を手で覆い始めた。

「……バカが権力を持つとろくな事にならん……!」

王の切実な言葉に、ナテュール様達も思わずと言った具合に頷き同意を示す。

「……こんな馬鹿共に俺たちはずっと苦しめられてきたのか……」
「父さん!しっかり!」

恐らく1番神殿からの被害を受けていたであろうジョルジュ・ベルナールの疲れたようなぼやきが聞こえる。
そしてその肩を息子のイザックが「王の御前で白目はまずいって!!」と揺らした。

「なまじ宗教として長いこと存在していましたからね、腐敗した期間が長すぎてバカしか育っていないのでしょう。」

そう僕が告れば、ニコラ教官が「言うねぇ。」と含んだ笑いが投げられる。

「……まあ、いい。神官共はすでに捕縛済み。それだけの証拠が揃っていればエドワーズ家に招集をかける事も可能だろう。公爵家とはいえ、王家への反逆は到底看過することはできないからな。」

そう顔を上げた王は真っ直ぐルーカス様を見やる。

「君も捕縛に参加した側だが真偽が明らかになるまではその身を拘束させれもらう。なに、君の扱いに関しては王家が保証しよう。」

その言葉にルーカス様は震える声で「承知いたしました。」とその頭を垂れる。

未遂とはいえ反逆罪は重い。下手したら一族諸共処刑、なんて場合もあるが公爵という身分と、捕縛側にいたことからそんな最悪は起こらないだろう。

しかしナテュール様は不安なのかチラチラと視線をルーカス様に投げられていた。

その後、ベルナール親子への労いと感謝。そして息子のイザックの生存発表に関して、リシャール理事長と少し話した王は、コホンとひとつ咳払いをして佇まいを直した。

「さて、ナテュール。お前に褒美をやらねばな。」
「えっ……」

王の言葉にパッと顔を正面に向けたナテュール様。

「当たり前だろう。今回この国家反逆を防ぎ、神殿の腐敗を暴き、王の賓客を救い出した。」
「そ、それは私だけの力ではございません……!それに、神殿の腐敗を暴き真相を解明したのは私ではなくロイです!」
「ロイはお前の従者だ。それに、神殿の証拠の提示はお前が行った。その時点で真相の解明、その立役者はナテュール、お前だ。」

その王の言葉に勢いよくナテュール様のご尊顔が僕に向けられる。
その目には「お前こうなると分かってて俺に渡したな!?」とありあり書かれている。

ナテュール様のその視線に僕はにっこりと笑ってひとつハンカチを取り出し、目元に当てた。

「ご立派になられて……!」
「胡散臭い微笑みで誤魔化さそうとするな!」

おかしいな、泣き真似だったんだけどな。

つい喜びが口に出てしまったらしい。

「従者の手柄は主であるナテュール様のものですよ。」
「だが、1番頑張ったのはお前だろ……」

ナテュール様はどこか悲痛なお顔をされるが、

「私は貴方様にお仕えできるだけで、幸せですから。」

そう、僕からすればナテュール様のそばにいられればそれで構わないので王からの褒美とか割とどうでもいい。

「……あー……ロイ、こんなことを言うのは大変心苦しいが……」

コホンコホン、なんてわざとらしい咳払いに、ナテュール様も僕も怪訝な顔を王へと向けた。

「お主は今回、王の賓客となったため、ナテュールの従者からは外されるぞ。」

「…………は???」

流石に王族に王族を付ける訳にはいかないからな、と言う王の言葉に、僕は即座に床に座り込んだ。

「15歳児全力の駄々こねをします!!!!」
「やめなさい!!!」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~【加筆修正版】

永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。 転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。 こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり 授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。 ◇ ◇ ◇ 本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。 序盤は1話あたりの文字数が少なめですが 全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?

歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。 それから数十年が経ち、気づけば38歳。 のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。 しかしーー 「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」 突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。 これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。 ※書籍化のため更新をストップします。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

家ごと異世界ライフ

ねむたん
ファンタジー
突然、自宅ごと異世界の森へと転移してしまった高校生・紬。電気や水道が使える不思議な家を拠点に、自給自足の生活を始める彼女は、個性豊かな住人たちや妖精たちと出会い、少しずつ村を発展させていく。温泉の発見や宿屋の建築、そして寡黙なドワーフとのほのかな絆――未知の世界で織りなす、笑いと癒しのスローライフファンタジー!

オタクおばさん転生する

ゆるりこ
ファンタジー
マンガとゲームと小説を、ゆるーく愛するおばさんがいぬの散歩中に異世界召喚に巻き込まれて転生した。 天使(見習い)さんにいろいろいただいて犬と共に森の中でのんびり暮そうと思っていたけど、いただいたものが思ったより強大な力だったためいろいろ予定が狂ってしまい、勇者さん達を回収しつつ奔走するお話になりそうです。 投稿ものんびりです。(なろうでも投稿しています)

【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします

  *  
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!? しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが吃驚して憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です! めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので! 本編完結しました! 時々おまけを更新しています。

処理中です...