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ナテュール様がいらっしゃったとの事で、神官たちが居なくなったタイミングで地下の聖堂からナテュール様の元へと向かえば、何故か僕の血筋が判明していた。
え、こわ……今更感凄いし、正直血筋とかどうでもいい……というのが、僕の率直な感想なのだが、国王が賓客として迎えると声明を出し、それを勅命の書として神殿に突きつけた。
ならば、それをとことん利用して神殿を潰してやろうと、方針を変えることにした。
元々はナテュール様にご迷惑のかからないように神殿を潰すつもりだったが、この際なのでナテュール様とご友人のルーカス様の手柄として神殿を潰そう。
潰すことに関しては確定事項である。(参照33話)
なので、
「後ろ盾となった貴族と神殿の今回の反逆罪に関する証拠全てです。」
と、ナテュール様に内部を漁って手に入れた証拠や音声を収録してある魔法具を渡せば、何故か遠い目をされた。
****
「……お、お、俺まじで場違いじゃない??帰っていい?帰りたい、まじで帰りたい俺……え、帰るぅ俺帰るぅ……」
と、人の腕にしがみついて震えるオリバーを「大袈裟では?」と無慈悲に引き剥がす。しかし引き剥がしても直ぐにまた引っ付いてくるので諦めてひとつため息をついた。
オリバーが何故こんなにも震えているか。
それは今いる場所が王宮だからだ。
しかも式典や他国の使者を迎える際に使われる1番格式高く豪勢な謁見の間だ。
平民出身のオリバーとしては最早未知の世界だろう。
「だ、大丈夫?」
と、ルーカス様がオリバーの背中をさすって落ち着かせようと試みる。ルーカス様も元々平民暮らしが長かったためか少し顔が青いが、豪奢な造りは公爵邸にもあるおかげかオリバー程混乱してはいないようだ。
謁見の間に通されたのは、ナテュール様と僕、ロイ・プリーストをはじめ、ルーカス様、オリバー、リシャール理事長、ニコラ教官。そしてあのイザック・ベルナールとその父親だ。
(そもそも何故イザック・ベルナールとその父親が?)
確かに当事者ではあるだろうが、彼らは被害者側だ。仮にも加害者側として捕縛された僕とひとまとめで集められるのは少し配慮がない気もする。
エスポワールが来ていない以上、ジョルジュ・ベルナールはギルドの代表としての出席なのかもしれないが。
「国王陛下の御成ー!!」
そう思案していれば、独特の読み上げで王の入室が高らかに告げられた。
それにオリバーは飛び上がって背筋を伸ばし、他の面々にも緊張の糸が張る。
一際豪奢な扉が開かれ、ヅカヅカ足音を鳴らして、王が玉座へと歩いていく。
それに即座に皆が膝をつこうとすると、それより先に王が手で制した。
「ああ、いい。堅苦しくするな。楽にしておくれ。」
と言って自身も礼儀を知らぬと言わんばかりにどっかり玉座へと座った王に、初めてまともに自分の父親を見たであろうナテュール様はぽかんとその様を見ている。
ナテュール様がお会いする時は公式な場が多く、王は王らしく、気品を持ちつつ圧倒的な存在感を持つよう、『らしく』振舞っている。
そのため、素に近いこの粗暴な態度に酷く驚いていらっしゃる様だ。
ちなみにルーカス様とオリバーはそれどころでは無いようで目を回しそうな勢いで口を結び、拳を握り、ただひたすらその場に身を固くして立っている。
「まず、神殿の不正を暴き、その権威を失墜させたこと、褒めてつかわそう。」
そんな仰々しいその褒め言葉に「あ、有り難きお言葉でございます。」とナテュール様が軽く頭を下げる略式の礼をとる。
それに王はひとつ頷いて、その視線を僕へと向けた。
「それから、久しいな、ロイ。」
「ええ、お久しゅうございます。国王陛下。」
と、僕もその場で略式の礼をとれば、王はクククと喉を鳴らすような笑いを漏らした。
「確か、お前が『10歳児の全力の駄々こねを披露しましょうか?』とほんとに私の前でひっくり返って見せた時以来だな。」
「いやお前何してんの!?」
王の言葉にぐりんっとナテュール様の顔がこちらにむく。
ナテュール様には完璧なお姿だけを見て欲しく、出来れば知られたくなかった僕の行動を暴露され、恨めしげに王を睨めば、更に面白そうに声を上げて笑われた。
「いやぁ、あれは中々面白かったぞ。」
なんて白髪混じりの顎髭を摩る王。
「あれだけ神殿の内部情報を持ってきておいて、ナテュールの従者にしてくれだなんてな。挙句に従者になれないなら『駄々をこねます。10歳児の全力の駄々こねを披露しましょうか?』と床にひっくり返って『ナテュール様の従者になりたいいいいいい』と転がり回る様は本当に面白かった。」
「いやまじでお前何してんの???」
ナテュール様だけではなく、ルーカス様やオリバー、果てはほかの大人からも非難めいた視線を向けられ、それから逃げるように顔を背けた。
「まあ、昔話はこのくらいにして本題に入ろうか。」
そう王が告げた瞬間、糸が張るようにピンッと空気を緊張感が支配する。
流石は一国の主というべきか。
「ナテュール、報告を。」
「はい。」
ナテュール様は1歩前に出て、「まずはこちらを。」と1つの魔法具を取り出した。それは、神殿で僕がナテュール様にお渡ししたあの魔法具だ。
「それは?」
「音声録音魔法具と映像保存魔法具が一体化したものです。」
「ほぅ……」
興味深そうに顎髭をさすった王に「起動させます。」とナテュール様がスイッチを押す。
すると魔法具から光が飛び出し、空にとある映像を映し出した。
「……これは、神官長だな。」
王の言葉にナテュール様が頷く。
そう、これは僕が神殿内部を探り回った際に隠し持っていた魔法具の記録なのだ。
つまり、
『残念ながら君の悪巧みは失敗する。君はあの出来損ないの第7王子を踏み台にゆくゆくは王家すら操るつもりかもしれないが、今の王家は神に見放され滅ぶのさ!次代の王座はエドワーズ家と召喚される聖女に継承される!お前の悪巧みなど私にはお見通しだったのさ!アーハハハッ!!』
と、チープな高笑いつきの台詞ももちろん入っているわけで。
「……神官長って、バカなのか?」
「はい、バカですよ。」
ナテュール様の困惑げな問いかけに笑顔で肯定すれば何とも言えない顔をされた。
え、こわ……今更感凄いし、正直血筋とかどうでもいい……というのが、僕の率直な感想なのだが、国王が賓客として迎えると声明を出し、それを勅命の書として神殿に突きつけた。
ならば、それをとことん利用して神殿を潰してやろうと、方針を変えることにした。
元々はナテュール様にご迷惑のかからないように神殿を潰すつもりだったが、この際なのでナテュール様とご友人のルーカス様の手柄として神殿を潰そう。
潰すことに関しては確定事項である。(参照33話)
なので、
「後ろ盾となった貴族と神殿の今回の反逆罪に関する証拠全てです。」
と、ナテュール様に内部を漁って手に入れた証拠や音声を収録してある魔法具を渡せば、何故か遠い目をされた。
****
「……お、お、俺まじで場違いじゃない??帰っていい?帰りたい、まじで帰りたい俺……え、帰るぅ俺帰るぅ……」
と、人の腕にしがみついて震えるオリバーを「大袈裟では?」と無慈悲に引き剥がす。しかし引き剥がしても直ぐにまた引っ付いてくるので諦めてひとつため息をついた。
オリバーが何故こんなにも震えているか。
それは今いる場所が王宮だからだ。
しかも式典や他国の使者を迎える際に使われる1番格式高く豪勢な謁見の間だ。
平民出身のオリバーとしては最早未知の世界だろう。
「だ、大丈夫?」
と、ルーカス様がオリバーの背中をさすって落ち着かせようと試みる。ルーカス様も元々平民暮らしが長かったためか少し顔が青いが、豪奢な造りは公爵邸にもあるおかげかオリバー程混乱してはいないようだ。
謁見の間に通されたのは、ナテュール様と僕、ロイ・プリーストをはじめ、ルーカス様、オリバー、リシャール理事長、ニコラ教官。そしてあのイザック・ベルナールとその父親だ。
(そもそも何故イザック・ベルナールとその父親が?)
確かに当事者ではあるだろうが、彼らは被害者側だ。仮にも加害者側として捕縛された僕とひとまとめで集められるのは少し配慮がない気もする。
エスポワールが来ていない以上、ジョルジュ・ベルナールはギルドの代表としての出席なのかもしれないが。
「国王陛下の御成ー!!」
そう思案していれば、独特の読み上げで王の入室が高らかに告げられた。
それにオリバーは飛び上がって背筋を伸ばし、他の面々にも緊張の糸が張る。
一際豪奢な扉が開かれ、ヅカヅカ足音を鳴らして、王が玉座へと歩いていく。
それに即座に皆が膝をつこうとすると、それより先に王が手で制した。
「ああ、いい。堅苦しくするな。楽にしておくれ。」
と言って自身も礼儀を知らぬと言わんばかりにどっかり玉座へと座った王に、初めてまともに自分の父親を見たであろうナテュール様はぽかんとその様を見ている。
ナテュール様がお会いする時は公式な場が多く、王は王らしく、気品を持ちつつ圧倒的な存在感を持つよう、『らしく』振舞っている。
そのため、素に近いこの粗暴な態度に酷く驚いていらっしゃる様だ。
ちなみにルーカス様とオリバーはそれどころでは無いようで目を回しそうな勢いで口を結び、拳を握り、ただひたすらその場に身を固くして立っている。
「まず、神殿の不正を暴き、その権威を失墜させたこと、褒めてつかわそう。」
そんな仰々しいその褒め言葉に「あ、有り難きお言葉でございます。」とナテュール様が軽く頭を下げる略式の礼をとる。
それに王はひとつ頷いて、その視線を僕へと向けた。
「それから、久しいな、ロイ。」
「ええ、お久しゅうございます。国王陛下。」
と、僕もその場で略式の礼をとれば、王はクククと喉を鳴らすような笑いを漏らした。
「確か、お前が『10歳児の全力の駄々こねを披露しましょうか?』とほんとに私の前でひっくり返って見せた時以来だな。」
「いやお前何してんの!?」
王の言葉にぐりんっとナテュール様の顔がこちらにむく。
ナテュール様には完璧なお姿だけを見て欲しく、出来れば知られたくなかった僕の行動を暴露され、恨めしげに王を睨めば、更に面白そうに声を上げて笑われた。
「いやぁ、あれは中々面白かったぞ。」
なんて白髪混じりの顎髭を摩る王。
「あれだけ神殿の内部情報を持ってきておいて、ナテュールの従者にしてくれだなんてな。挙句に従者になれないなら『駄々をこねます。10歳児の全力の駄々こねを披露しましょうか?』と床にひっくり返って『ナテュール様の従者になりたいいいいいい』と転がり回る様は本当に面白かった。」
「いやまじでお前何してんの???」
ナテュール様だけではなく、ルーカス様やオリバー、果てはほかの大人からも非難めいた視線を向けられ、それから逃げるように顔を背けた。
「まあ、昔話はこのくらいにして本題に入ろうか。」
そう王が告げた瞬間、糸が張るようにピンッと空気を緊張感が支配する。
流石は一国の主というべきか。
「ナテュール、報告を。」
「はい。」
ナテュール様は1歩前に出て、「まずはこちらを。」と1つの魔法具を取り出した。それは、神殿で僕がナテュール様にお渡ししたあの魔法具だ。
「それは?」
「音声録音魔法具と映像保存魔法具が一体化したものです。」
「ほぅ……」
興味深そうに顎髭をさすった王に「起動させます。」とナテュール様がスイッチを押す。
すると魔法具から光が飛び出し、空にとある映像を映し出した。
「……これは、神官長だな。」
王の言葉にナテュール様が頷く。
そう、これは僕が神殿内部を探り回った際に隠し持っていた魔法具の記録なのだ。
つまり、
『残念ながら君の悪巧みは失敗する。君はあの出来損ないの第7王子を踏み台にゆくゆくは王家すら操るつもりかもしれないが、今の王家は神に見放され滅ぶのさ!次代の王座はエドワーズ家と召喚される聖女に継承される!お前の悪巧みなど私にはお見通しだったのさ!アーハハハッ!!』
と、チープな高笑いつきの台詞ももちろん入っているわけで。
「……神官長って、バカなのか?」
「はい、バカですよ。」
ナテュール様の困惑げな問いかけに笑顔で肯定すれば何とも言えない顔をされた。
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