36 / 50
36(ナテュール視点)
しおりを挟む
「ま、待ってくれ、確か漆黒の暗殺者は剣豪エスポワールの子供だろう!?剣豪本人がそう言ってたんだけど!?」
そうアダン・ニコラ教官が声を上げるが、その内容に俺だけではなくルーカス達も首を傾げる。
「え、逆にそれ知らないんですけど……」
「ボクがロイさんに漆黒の暗殺者の正体について『剣豪エスポワールの息子説が有力だと思ってた』って言ったら本気で驚いてたし……」
「多分それ、剣豪が勝手に『俺の息子みたいなもんだ!』って言ってるやつじゃ……」
オリバーの推測にあのエスポワールならやりかねないな、と何度か頷けば
「ま、紛らわしい……!!」
アダン・ニコラ教官ががくりと膝を着いて呻いた。
いやほんと、俺の家庭教師と従者が申し訳ない。
「……え、ロイってあの漆黒の暗殺者なのか……!?」
フリーズしていたかと思えばようやく意味を解したのか口に手を当てて驚くイザック・ベルナール。ラファエル・リシャール理事長は未だに固まっているし。
「あぁ、もう話が進まない!とにかく、簡単にまとめるとロイは俺が大好き過ぎてS級冒険者になったんだが!」
と、無理やり話を先に進めようとすれば「いやそこもう少し掘り下げよう!?」というアダン・ニコラ教官の声が聞こえたが、聞こえなかったフリをする。
「そんなロイは神殿の一番の秘密と言える回復ポーションのレシピを知っている!」
俺のその言葉に、イザック・ベルナールが目玉をこぼしそうな程に見開き、半開きだった口を閉じた。
恐らく自分が何故瀕死から回復できたのか、察したのだろう。
「神殿の権威が薄れる今、回復ポーションが神殿でなくても、そして神官でなくとも作れることが冒険者たちに知られれば、神殿は真っ先に怒りの矛先を向けられる立場だ。確かにロイは身元が分からないように冒険者をしていだが……」
そこまで言ったところで、俺はハッと言葉を止める。
ナテュールくん?と後ろからルーカスの困惑気な声が聞こえるが、それに応えることなく顎に指を添えて思考を巡らせる。
そう、ロイは身元をバレないように活動していた。
最初の登録のためギルドを訪れた時は神殿を出た直後だったから、それは神殿側にバレていてもおかしくは無い。
だが、その後『漆黒の暗殺者』として活動していたロイの動きを果たして神殿側は知っているのだろうか?
いや、恐らくは知らないはずだ。
ルーカスやオリバーの話では冒険者たちの間にも正体は露見していない。もし、ロイが『漆黒の暗殺者』だと知っていたなら、神殿はもっと早くに回復ポーションを盾にしてでもギルドからロイを追い出そうとしたはず。ギルドにレシピが渡る方が困るからだ。
「……そうなると、恐らく目的はロイ自身……?」
ロイの影響力や人脈を知らないのであればこんな無理を通してまで排除しようと警戒する必要は無いはず。
「ロイ君自身に、何かあるということだね?」
「その『何か』が分からないのが問題ですが……恐らくは。」
ラファエル・リシャール理事長の言葉に真っ直ぐ目を見てそう答えれば、理事長も少しばかり考え込む仕草を見せ、そして「やはり、王へ謁見を申し込もう。」と、僅かに眉を寄せ言葉を吐いた。
「だが、聞くのは神殿のことではなく、『ロイ・プリースト』という少年について。恐らく国王であれば、我々が知らないことも知っているだろう。」
その言葉に「ならそれに俺も……」と同行を申し出ようとすれば言葉は最後まで伝える前に、ラファエル・リシャール理事長の手で制される。
「いいや、君はここに残りなさい。ロイ君自身が神殿の目的ならば、君も狙われる可能性がある。それに、君が王へと会ったことで後ろ盾についた誰かが、勘づかれたと思って証拠を消すかもしれない。」
それは紛うことなき正論だ。
それでも結局何も出来ないのかと悔しさが滲み「……くそっ。」と小さく悪態をつく。
「あ、あの!」
シュバッと空を切る音がして手を挙げたのはイザック・ベルナールだった。どこか既視感あるなと思いながら、顔をそちらにむければ、
「神殿側の狙いが何であれ、ロイ・プリーストを神殿から連れ出すだけなら、できるかもしれない!……です!」
と、取ってつけたような敬語でそう言葉を投げた。全員の視線が向いているからか、その指先は少し震えている。
「……具体的には?」
そう、俺が口を開けば、イザック・ベルナールは俯きかけていた顔をパッと上げた。
「ロイ・プリーストがあの『漆黒の暗殺者』なら、冒険者たちを動かせるはずです!俺の父はギルドマスターをしている……ますし、S級も集まれば、神殿は無視できないはず。……です。」
イザック・ベルナールがそこまで言ったところで、アダン・ニコラ教官が口を開いた。
「つまり、不当に捕まったのは学生のロイ・プリーストではなく、S級冒険者『漆黒の暗殺者』である、という風にして冒険者とギルド自体から抗議をさせるということだね?」
「はい。」
顎をさするアダン・ニコラ教官の言葉に、イザック・ベルナールはしっかりと頷く。
「恐らく神殿側は焦るはず、です。冒険者はポーションの大事な顧客。神殿の権威が落ちている今、平民の憧れの存在に不当を強いたとなれば、不満は一気に爆発する。」
思ったよりイザック・ベルナールがしっかりと考えていたことに驚きながらも、次の言葉を待つ。
少し間を開けてから、イザック・ベルナールは口を開いた。
「……それに、ロイが俺を助けるのに作った回復ポーション……さっきナテュール様が言っていた通り、神殿以外でも作れるものだって知られれば、民衆の怒りは一気に神殿に向かうと思う……ます!」
「たしかに……それに、ポーションのレシピは私がロイ君から直接教えて貰った。広めるなら学園の名で広めることも出来るだろう。」
イザック・ベルナールの提案に、ラファエル・リシャール理事長も頷き肯定的だ。
「なら、同時に事を進めましょう。ラファエル理事長は王へ謁見を申し出、事の詳細と作戦の伝達を。俺たちはイザック・ベルナールの父親を経由し、ギルドとの連携を。まず、俺からエスポワールに連絡をし、イザック・ベルナールの父親へ『これ』を届けてもらいます。」
そう告げ、俺は持っていた音声伝達魔法具を差し出した。
そうアダン・ニコラ教官が声を上げるが、その内容に俺だけではなくルーカス達も首を傾げる。
「え、逆にそれ知らないんですけど……」
「ボクがロイさんに漆黒の暗殺者の正体について『剣豪エスポワールの息子説が有力だと思ってた』って言ったら本気で驚いてたし……」
「多分それ、剣豪が勝手に『俺の息子みたいなもんだ!』って言ってるやつじゃ……」
オリバーの推測にあのエスポワールならやりかねないな、と何度か頷けば
「ま、紛らわしい……!!」
アダン・ニコラ教官ががくりと膝を着いて呻いた。
いやほんと、俺の家庭教師と従者が申し訳ない。
「……え、ロイってあの漆黒の暗殺者なのか……!?」
フリーズしていたかと思えばようやく意味を解したのか口に手を当てて驚くイザック・ベルナール。ラファエル・リシャール理事長は未だに固まっているし。
「あぁ、もう話が進まない!とにかく、簡単にまとめるとロイは俺が大好き過ぎてS級冒険者になったんだが!」
と、無理やり話を先に進めようとすれば「いやそこもう少し掘り下げよう!?」というアダン・ニコラ教官の声が聞こえたが、聞こえなかったフリをする。
「そんなロイは神殿の一番の秘密と言える回復ポーションのレシピを知っている!」
俺のその言葉に、イザック・ベルナールが目玉をこぼしそうな程に見開き、半開きだった口を閉じた。
恐らく自分が何故瀕死から回復できたのか、察したのだろう。
「神殿の権威が薄れる今、回復ポーションが神殿でなくても、そして神官でなくとも作れることが冒険者たちに知られれば、神殿は真っ先に怒りの矛先を向けられる立場だ。確かにロイは身元が分からないように冒険者をしていだが……」
そこまで言ったところで、俺はハッと言葉を止める。
ナテュールくん?と後ろからルーカスの困惑気な声が聞こえるが、それに応えることなく顎に指を添えて思考を巡らせる。
そう、ロイは身元をバレないように活動していた。
最初の登録のためギルドを訪れた時は神殿を出た直後だったから、それは神殿側にバレていてもおかしくは無い。
だが、その後『漆黒の暗殺者』として活動していたロイの動きを果たして神殿側は知っているのだろうか?
いや、恐らくは知らないはずだ。
ルーカスやオリバーの話では冒険者たちの間にも正体は露見していない。もし、ロイが『漆黒の暗殺者』だと知っていたなら、神殿はもっと早くに回復ポーションを盾にしてでもギルドからロイを追い出そうとしたはず。ギルドにレシピが渡る方が困るからだ。
「……そうなると、恐らく目的はロイ自身……?」
ロイの影響力や人脈を知らないのであればこんな無理を通してまで排除しようと警戒する必要は無いはず。
「ロイ君自身に、何かあるということだね?」
「その『何か』が分からないのが問題ですが……恐らくは。」
ラファエル・リシャール理事長の言葉に真っ直ぐ目を見てそう答えれば、理事長も少しばかり考え込む仕草を見せ、そして「やはり、王へ謁見を申し込もう。」と、僅かに眉を寄せ言葉を吐いた。
「だが、聞くのは神殿のことではなく、『ロイ・プリースト』という少年について。恐らく国王であれば、我々が知らないことも知っているだろう。」
その言葉に「ならそれに俺も……」と同行を申し出ようとすれば言葉は最後まで伝える前に、ラファエル・リシャール理事長の手で制される。
「いいや、君はここに残りなさい。ロイ君自身が神殿の目的ならば、君も狙われる可能性がある。それに、君が王へと会ったことで後ろ盾についた誰かが、勘づかれたと思って証拠を消すかもしれない。」
それは紛うことなき正論だ。
それでも結局何も出来ないのかと悔しさが滲み「……くそっ。」と小さく悪態をつく。
「あ、あの!」
シュバッと空を切る音がして手を挙げたのはイザック・ベルナールだった。どこか既視感あるなと思いながら、顔をそちらにむければ、
「神殿側の狙いが何であれ、ロイ・プリーストを神殿から連れ出すだけなら、できるかもしれない!……です!」
と、取ってつけたような敬語でそう言葉を投げた。全員の視線が向いているからか、その指先は少し震えている。
「……具体的には?」
そう、俺が口を開けば、イザック・ベルナールは俯きかけていた顔をパッと上げた。
「ロイ・プリーストがあの『漆黒の暗殺者』なら、冒険者たちを動かせるはずです!俺の父はギルドマスターをしている……ますし、S級も集まれば、神殿は無視できないはず。……です。」
イザック・ベルナールがそこまで言ったところで、アダン・ニコラ教官が口を開いた。
「つまり、不当に捕まったのは学生のロイ・プリーストではなく、S級冒険者『漆黒の暗殺者』である、という風にして冒険者とギルド自体から抗議をさせるということだね?」
「はい。」
顎をさするアダン・ニコラ教官の言葉に、イザック・ベルナールはしっかりと頷く。
「恐らく神殿側は焦るはず、です。冒険者はポーションの大事な顧客。神殿の権威が落ちている今、平民の憧れの存在に不当を強いたとなれば、不満は一気に爆発する。」
思ったよりイザック・ベルナールがしっかりと考えていたことに驚きながらも、次の言葉を待つ。
少し間を開けてから、イザック・ベルナールは口を開いた。
「……それに、ロイが俺を助けるのに作った回復ポーション……さっきナテュール様が言っていた通り、神殿以外でも作れるものだって知られれば、民衆の怒りは一気に神殿に向かうと思う……ます!」
「たしかに……それに、ポーションのレシピは私がロイ君から直接教えて貰った。広めるなら学園の名で広めることも出来るだろう。」
イザック・ベルナールの提案に、ラファエル・リシャール理事長も頷き肯定的だ。
「なら、同時に事を進めましょう。ラファエル理事長は王へ謁見を申し出、事の詳細と作戦の伝達を。俺たちはイザック・ベルナールの父親を経由し、ギルドとの連携を。まず、俺からエスポワールに連絡をし、イザック・ベルナールの父親へ『これ』を届けてもらいます。」
そう告げ、俺は持っていた音声伝達魔法具を差し出した。
20
お気に入りに追加
65
あなたにおすすめの小説
S級冒険者の子どもが進む道
干支猫
ファンタジー
【12/26完結】
とある小さな村、元冒険者の両親の下に生まれた子、ヨハン。
父親譲りの剣の才能に母親譲りの魔法の才能は両親の想定の遥か上をいく。
そうして王都の冒険者学校に入学を決め、出会った仲間と様々な学生生活を送っていった。
その中で魔族の存在にエルフの歴史を知る。そして魔王の復活を聞いた。
魔王とはいったい?
※感想に盛大なネタバレがあるので閲覧の際はご注意ください。
【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?
歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。
それから数十年が経ち、気づけば38歳。
のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。
しかしーー
「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」
突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。
これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。
※書籍化のため更新をストップします。
はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~
緋色優希
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。
チートな親から生まれたのは「規格外」でした
真那月 凜
ファンタジー
転生者でチートな母と、王族として生まれた過去を神によって抹消された父を持つシア。幼い頃よりこの世界では聞かない力を操り、わずか数年とはいえ前世の記憶にも助けられながら、周りのいう「規格外」の道を突き進む。そんなシアが双子の弟妹ルークとシャノンと共に冒険の旅に出て…
これは【ある日突然『異世界を発展させて』と頼まれました】の主人公の子供達が少し大きくなってからのお話ですが、前作を読んでいなくても楽しめる作品にしているつもりです…
+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-
2024/7/26 95.静かな場所へ、97.寿命 を少し修正してます
時々さかのぼって部分修正することがあります
誤字脱字の報告大歓迎です(かなり多いかと…)
感想としての掲載が不要の場合はその旨記載いただけると助かります
元34才独身営業マンの転生日記 〜もらい物のチートスキルと鍛え抜いた処世術が大いに役立ちそうです〜
ちゃぶ台
ファンタジー
彼女いない歴=年齢=34年の近藤涼介は、プライベートでは超奥手だが、ビジネスの世界では無類の強さを発揮するスーパーセールスマンだった。
社内の人間からも取引先の人間からも一目置かれる彼だったが、不運な事故に巻き込まれあっけなく死亡してしまう。
せめて「男」になって死にたかった……
そんなあまりに不憫な近藤に神様らしき男が手を差し伸べ、近藤は異世界にて人生をやり直すことになった!
もらい物のチートスキルと持ち前のビジネスセンスで仲間を増やし、今度こそ彼女を作って幸せな人生を送ることを目指した一人の男の挑戦の日々を綴ったお話です!
のほほん異世界暮らし
みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。
それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。
ボッチの少女は、精霊の加護をもらいました
星名 七緒
ファンタジー
身寄りのない少女が、異世界に飛ばされてしまいます。異世界でいろいろな人と出会い、料理を通して交流していくお話です。異世界で幸せを探して、がんばって生きていきます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる