悪役従者

奏穏朔良

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36(ナテュール視点)

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「ま、待ってくれ、確か漆黒の暗殺者アサシンは剣豪エスポワールの子供だろう!?剣豪本人がそう言ってたんだけど!?」

そうアダン・ニコラ教官が声を上げるが、その内容に俺だけではなくルーカス達も首を傾げる。

「え、逆にそれ知らないんですけど……」
「ボクがロイさんに漆黒の暗殺者アサシンの正体について『剣豪エスポワールの息子説が有力だと思ってた』って言ったら本気で驚いてたし……」
「多分それ、剣豪が勝手に『俺の息子みたいなもんだ!』って言ってるやつじゃ……」

オリバーの推測にあのエスポワールならやりかねないな、と何度か頷けば

「ま、紛らわしい……!!」

アダン・ニコラ教官ががくりと膝を着いて呻いた。
いやほんと、俺の家庭教師と従者が申し訳ない。

「……え、ロイってあの漆黒の暗殺者アサシンなのか……!?」

フリーズしていたかと思えばようやく意味を解したのか口に手を当てて驚くイザック・ベルナール。ラファエル・リシャール理事長は未だに固まっているし。

「あぁ、もう話が進まない!とにかく、簡単にまとめるとロイは俺が大好き過ぎてS級冒険者になったんだが!」

と、無理やり話を先に進めようとすれば「いやそこもう少し掘り下げよう!?」というアダン・ニコラ教官の声が聞こえたが、聞こえなかったフリをする。

「そんなロイは神殿の一番の秘密と言える回復ポーションのレシピを知っている!」

俺のその言葉に、イザック・ベルナールが目玉をこぼしそうな程に見開き、半開きだった口を閉じた。
恐らく自分が何故瀕死から回復できたのか、察したのだろう。

「神殿の権威が薄れる今、回復ポーションが神殿でなくても、そして神官でなくとも作れることが冒険者たちに知られれば、神殿は真っ先に怒りの矛先を向けられる立場だ。確かにロイは身元が分からないように冒険者をしていだが……」

そこまで言ったところで、俺はハッと言葉を止める。

ナテュールくん?と後ろからルーカスの困惑気な声が聞こえるが、それに応えることなく顎に指を添えて思考を巡らせる。

そう、ロイは身元をバレないように活動していた。
最初の登録のためギルドを訪れた時は神殿を出た直後だったから、それは神殿側にバレていてもおかしくは無い。

だが、その後『漆黒の暗殺者アサシン』として活動していたロイの動きを果たして神殿側は知っているのだろうか?

いや、恐らくは知らないはずだ。
ルーカスやオリバーの話では冒険者たちの間にも正体は露見していない。もし、ロイが『漆黒の暗殺者アサシン』だと知っていたなら、神殿はもっと早くに回復ポーションを盾にしてでもギルドからロイを追い出そうとしたはず。ギルドにレシピが渡る方が困るからだ。

「……そうなると、恐らく目的はロイ自身……?」

ロイの影響力や人脈を知らないのであればこんな無理を通してまで排除しようと警戒する必要は無いはず。

「ロイ君自身に、何かあるということだね?」
「その『何か』が分からないのが問題ですが……恐らくは。」

ラファエル・リシャール理事長の言葉に真っ直ぐ目を見てそう答えれば、理事長も少しばかり考え込む仕草を見せ、そして「やはり、王へ謁見を申し込もう。」と、僅かに眉を寄せ言葉を吐いた。

「だが、聞くのは神殿のことではなく、『ロイ・プリースト』という少年について。恐らく国王であれば、我々が知らないことも知っているだろう。」

その言葉に「ならそれに俺も……」と同行を申し出ようとすれば言葉は最後まで伝える前に、ラファエル・リシャール理事長の手で制される。

「いいや、君はここに残りなさい。ロイ君自身が神殿の目的ならば、君も狙われる可能性がある。それに、君が王へと会ったことで後ろ盾についた誰かが、勘づかれたと思って証拠を消すかもしれない。」

それは紛うことなき正論だ。
それでも結局何も出来ないのかと悔しさが滲み「……くそっ。」と小さく悪態をつく。

「あ、あの!」

シュバッと空を切る音がして手を挙げたのはイザック・ベルナールだった。どこか既視感あるなと思いながら、顔をそちらにむければ、

「神殿側の狙いが何であれ、ロイ・プリーストを神殿から連れ出すだけなら、できるかもしれない!……です!」

と、取ってつけたような敬語でそう言葉を投げた。全員の視線が向いているからか、その指先は少し震えている。

「……具体的には?」

そう、俺が口を開けば、イザック・ベルナールは俯きかけていた顔をパッと上げた。

「ロイ・プリーストがあの『漆黒の暗殺者アサシン』なら、冒険者たちを動かせるはずです!俺の父はギルドマスターをしている……ますし、S級も集まれば、神殿は無視できないはず。……です。」

イザック・ベルナールがそこまで言ったところで、アダン・ニコラ教官が口を開いた。

「つまり、不当に捕まったのは学生のロイ・プリーストではなく、S級冒険者『漆黒の暗殺者アサシン』である、という風にして冒険者とギルド自体から抗議をさせるということだね?」
「はい。」

顎をさするアダン・ニコラ教官の言葉に、イザック・ベルナールはしっかりと頷く。

「恐らく神殿側は焦るはず、です。冒険者はポーションの大事な顧客。神殿の権威が落ちている今、平民の憧れの存在に不当を強いたとなれば、不満は一気に爆発する。」

思ったよりイザック・ベルナールがしっかりと考えていたことに驚きながらも、次の言葉を待つ。
少し間を開けてから、イザック・ベルナールは口を開いた。

「……それに、ロイが俺を助けるのに作った回復ポーション……さっきナテュール様が言っていた通り、神殿以外でも作れるものだって知られれば、民衆の怒りは一気に神殿に向かうと思う……ます!」
「たしかに……それに、ポーションのレシピは私がロイ君から直接教えて貰った。広めるなら学園の名で広めることも出来るだろう。」

イザック・ベルナールの提案に、ラファエル・リシャール理事長も頷き肯定的だ。

「なら、同時に事を進めましょう。ラファエル理事長は王へ謁見を申し出、事の詳細と作戦の伝達を。俺たちはイザック・ベルナールの父親を経由し、ギルドとの連携を。まず、俺からエスポワールに連絡をし、イザック・ベルナールの父親へ『これ』を届けてもらいます。」

そう告げ、俺は持っていた音声伝達魔法具を差し出した。


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