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(……それにしても、エドワーズ公爵家が後ろ盾についていたとは。)
しかし、エドワーズ家の現当主は反神殿派貴族のはず。
次期公爵としての継承権を持つルーカス様はついこの間まで平民として暮らしていたため、神殿にいい感情を抱いてるとは思えない。
(……そうなると、公爵夫人の独断かな?エドワーズ公爵の名を勝手に使ったのならそれだけでも法廷に引き摺りだせるな。)
そう思考を回しながら古いダクトの中を移動していく。
先程、神官長がバカ丸出しで全て暴露してくれたおかげでだいぶ手間は省けたものの、気になる事が幾つかある。
(『召喚される聖女』と言っていたな……)
聖女、という言葉は神官見習いをしていた頃、少し耳にしたことがある。
(確か、まだ魔法使いが多くいた古代。神殿で『聖女』と呼ばれる神の娘をどこかから呼び寄せる儀式をしていた……だったっけ?)
ナテュール様に関係ない古い記憶のため少し曖昧だが、前提として魔法使いが存在していた頃の時代の話、というのは確かだ。
(魔法使いの生き残りを密かに見つけ出した……?いや、そもそも魔法使いは現在確認されているのは2人だけ。S級の冒険者よりも少ないし、どれも国外だ。それなら……最近この国に生まれた?)
いや、だとしても生まれたばかりなら魔法を制御することすら不可能なはずだ。突然聖女召喚の儀式なんてできるはずがない。
(そもそもその儀式のやり方がどのようなものなのか、それを確認しなければ事に備えようがないか……)
先程神官長達は日が暮れ次第『地下の聖堂』に人を集めるように言っていた。
儀式の準備は終わっているかのような口ぶりだったし、今から確かめに行くしかない。
(場合によっては他に拉致されている人間もいると考えて動いた方が良さそうだな。)
流石に他国で手厚い保護を受けている魔法使いを攫ってきたとは思えないが、神殿のやることだ。生贄に何人か誘拐していてもおかしくは無い。
(ともかく、日が暮れるまでには情報を集めねば。)
地下の聖堂自体は昔からあるので存在を知っているが、恐らく入口は変えられている。
人のいない廊下でダクトから降り、周りに人が居ないことを確認してから床に耳をつけ、コンコンと、軽く曲げた指でその床を叩いた。
(……音の反響具合からして、この下に通路があるな。入口も近いはず。)
床から耳を離し、廊下を足音をたてないようにして進んでいく。
(恐らく、通路を長々と伸ばすことはしないはず。)
なぜなら歩くのは神官たちだからだ。
秘密にする必要はあるが、過度なセキュリティは求めない。
基本神官はでっぷりと肥えたバカが多い。教えに忠実で、質素に暮らし、民に寄り添おうとする神官は大抵地方に飛ばされるからだ。そもそも、そんな善性を持つ神官見習いを喰いものにしてきたのが歴代の神官達だし。そういう善性を持った奴は大体神官になる前に潰れる。
そして、そんなでっぷり肥えたバカが、秘密保持のためとはいえ、長い道を歩きたがるかといえば答えは否だ。
「……あった、ここだ。」
廊下を少し進んだ先。壁にわずかだが模様がズレている場所があった。
(……確かここは元々用具入れの物置だったはず。そこをそのまま再利用して、表面だけ壁に偽装したのか……またなんとも適当だな……)
長らく誰かに貶められることがなかったからか、隠し方も下手くそで一周まわって笑えてくる。
壁の一部を押せば、カコンッと軽い音がして凹み、小さな鍵穴が現れる。そこに、地下牢と同じように髪に仕込んだピンを使ってピッキングをすれば、あっさりと隠し扉が開いた。
扉の先は用具入れの名残の残る狭い部屋で床には地下へと続く階段が特に隠されることも無く、そこに在る。
多分、隠し扉が見破られることは無い前提で作った通路なのだろう。そもそも、この辺りの改築は外部の業者に依頼となるが、その辺の職人達への口止めとか済んでいるんだろうか。
「……いや、僕が心配するような事じゃないだろ。」
あまりのガバガバセキュリティについつい余計な心配をしてしまった。
気を取り直して地下へ続く階段を降りていく。
地下のひんやりとした空気が頬を撫で、僅かに埃臭い匂いが鼻をかすめた。
階段を降りた先は細長い通路になっており、少し進めば、すぐに開けた場所へと出る。
(……やはり何人か神官がいるな。あの馬車にいた神官もいる。)
通路から様子を伺いつつ、全員の視線が入口から逸れた所で全身のバネを使い、壁を駆け上がり、自分の身長よりも遥かに大きく豪奢な装飾の裏に身を隠した。
(……よし、誰も気がついていないな。)
無駄に装飾が施されているおかげで足場に困らず助かった。
そこそこの高さから聖堂全体を見渡せるのもこちらとしては状況が把握しやすくて助かる。
(……あれは、魔法具?……いや、魔法具は魔法具でも古の魔法具のひとつだ。)
聖堂の中心から、円を描くように描かれた謎の陣。そしてその真ん中にはランプのような古の魔法具が鎮座している。
聖堂にいる神官たちは椅子に座ってふんぞり返る神官の持つ古文書を度々確認しながら謎の陣の文字を確認しているようだ。
使われている文字は魔法使いがいた頃の古い文字。そのため誤字や脱字がないかを念入りにチェックしているのだろう。
軽く見渡した限り、ここに神官以外の人間がいる様子は無い。ここに誰か攫われ監禁されている可能性は限りなく低いと考えていいだろう。
(第三者の救助を考えなくていいのならこちらも動きやすい。)
てっとり早くこの儀式を失敗させるなら神官共が見てない時にこの陣の文字を一部消してしまえばいい。
(……そうなると、1度全員の目を陣から逸らす必要があるな……)
幾つか頭の中で案を練っていれば、1人の神官が、おずおずと神官に口を開いた。
「……あの、ガスパール神官様。魔法陣の文字は全て問題ありません。」
「そうか!なら我々が再び権威を得ることがほぼ確定だな!ハッハッハー!見てろよ、裏切り者のロイめ!お前の力で召喚される『聖女』が、お前の目論見を阻止するのだからなぁ!!」
ハッハー!とまたもやチープな悪役のような高笑いをしつつ、どこぞの神官長のように情報を口に出している神官。
いや、僕からすればとてもやりやすくて助かるけども。
いくら権威に溺れていた期間が長かったにしろ、バカしかいないじゃないか。
いや、バカ以外はさっさと他所に行っているからかもしれないけれど。
それにしたってバカしかいない。
(……しかし、そうなると神殿側も『古の魔法具』を起動させたいのか。……他に発動者がいないとなると、魔法使いがいる可能性はほぼないと考えていいはず……)
古の魔法具を起動させたいエドワーズ公爵夫人と、神殿が利害の一致により結託し、僕をはめたのが今回の全容だと分かった。
恐らく、近代において古の魔法具を動かせたのが僕しかいなかった故に、僕を嵌めたのだろうが、問題は何故そこまでして古の魔法具を発動させたいのか、だ。
神殿側は聖女を召喚するため。
ならばエドワーズ公爵夫人の目的は?
(……流石に公爵夫人の持つ古の魔法具までは情報がないからな……恐らくは王家とルーカス様を蹴落とすためだとは思うが……)
正直奴らの計画は僕がいる前提で成り立つものなので、僕が脱走してしまえばすぐに破綻するものだ。
しかし、それで諦めるようなやつらではないし、どっちに転ぼうとも、ナテュール様に害なすことに違いは無い。
(……さて、どうするか。)
優先事項はナテュール様に変わりは無い。
ナテュール様にいかに害が及ばぬように対処すべきか。
顎に手を当て、考え始めたその時だった。
ドタドタと階段を駆け下りる重い足音が聖堂に響き渡った。
「た、大変です!ガスパール神官様!」
「なんだ、騒々しい!」
ゼェゼェと息を荒らげる神官に、神官が眉を寄せる。思えばお前ガスパールなんて名前だったな。
「し、神殿に、第7王子が……!」
(えっ!!!?)
まさかのナテュール様の登場に声を上げそうになり、慌てて口を両手で抑える。
危うく叫ぶ所だった。
「はぁ?あんな第7王子に何が出来る。追い返せばいいだろ。」
(はーん??お前ごときがナテュール様に『あんな』とか言う資格ねぇからぁ????)
ぶん殴りたい衝動を必死に抑える。意味もなく、音もなく、とりあえずそこで屈伸運動をして怒りをやり過ごす。
「し、しかし、第7王子が、『勅命の書』を持って、冒険者どもが神殿を取り囲んでいるのです……!!」
「はぁ!!?」
(な、ナテュール様ぁーー!!?)
神官が勢いよく立ち上がったせいで座っていた椅子が勢いよく倒れ、聖堂に音が反響した。
そのため、僕が動揺のあまり僅かに起こした足音がかき消される。
危ない危ない。あまりの動揺に、思わず屈伸するはずがそのまま飛び跳ねてしまった。
(……それにしても、何故『勅命の書』を……?)
しかし、エドワーズ家の現当主は反神殿派貴族のはず。
次期公爵としての継承権を持つルーカス様はついこの間まで平民として暮らしていたため、神殿にいい感情を抱いてるとは思えない。
(……そうなると、公爵夫人の独断かな?エドワーズ公爵の名を勝手に使ったのならそれだけでも法廷に引き摺りだせるな。)
そう思考を回しながら古いダクトの中を移動していく。
先程、神官長がバカ丸出しで全て暴露してくれたおかげでだいぶ手間は省けたものの、気になる事が幾つかある。
(『召喚される聖女』と言っていたな……)
聖女、という言葉は神官見習いをしていた頃、少し耳にしたことがある。
(確か、まだ魔法使いが多くいた古代。神殿で『聖女』と呼ばれる神の娘をどこかから呼び寄せる儀式をしていた……だったっけ?)
ナテュール様に関係ない古い記憶のため少し曖昧だが、前提として魔法使いが存在していた頃の時代の話、というのは確かだ。
(魔法使いの生き残りを密かに見つけ出した……?いや、そもそも魔法使いは現在確認されているのは2人だけ。S級の冒険者よりも少ないし、どれも国外だ。それなら……最近この国に生まれた?)
いや、だとしても生まれたばかりなら魔法を制御することすら不可能なはずだ。突然聖女召喚の儀式なんてできるはずがない。
(そもそもその儀式のやり方がどのようなものなのか、それを確認しなければ事に備えようがないか……)
先程神官長達は日が暮れ次第『地下の聖堂』に人を集めるように言っていた。
儀式の準備は終わっているかのような口ぶりだったし、今から確かめに行くしかない。
(場合によっては他に拉致されている人間もいると考えて動いた方が良さそうだな。)
流石に他国で手厚い保護を受けている魔法使いを攫ってきたとは思えないが、神殿のやることだ。生贄に何人か誘拐していてもおかしくは無い。
(ともかく、日が暮れるまでには情報を集めねば。)
地下の聖堂自体は昔からあるので存在を知っているが、恐らく入口は変えられている。
人のいない廊下でダクトから降り、周りに人が居ないことを確認してから床に耳をつけ、コンコンと、軽く曲げた指でその床を叩いた。
(……音の反響具合からして、この下に通路があるな。入口も近いはず。)
床から耳を離し、廊下を足音をたてないようにして進んでいく。
(恐らく、通路を長々と伸ばすことはしないはず。)
なぜなら歩くのは神官たちだからだ。
秘密にする必要はあるが、過度なセキュリティは求めない。
基本神官はでっぷりと肥えたバカが多い。教えに忠実で、質素に暮らし、民に寄り添おうとする神官は大抵地方に飛ばされるからだ。そもそも、そんな善性を持つ神官見習いを喰いものにしてきたのが歴代の神官達だし。そういう善性を持った奴は大体神官になる前に潰れる。
そして、そんなでっぷり肥えたバカが、秘密保持のためとはいえ、長い道を歩きたがるかといえば答えは否だ。
「……あった、ここだ。」
廊下を少し進んだ先。壁にわずかだが模様がズレている場所があった。
(……確かここは元々用具入れの物置だったはず。そこをそのまま再利用して、表面だけ壁に偽装したのか……またなんとも適当だな……)
長らく誰かに貶められることがなかったからか、隠し方も下手くそで一周まわって笑えてくる。
壁の一部を押せば、カコンッと軽い音がして凹み、小さな鍵穴が現れる。そこに、地下牢と同じように髪に仕込んだピンを使ってピッキングをすれば、あっさりと隠し扉が開いた。
扉の先は用具入れの名残の残る狭い部屋で床には地下へと続く階段が特に隠されることも無く、そこに在る。
多分、隠し扉が見破られることは無い前提で作った通路なのだろう。そもそも、この辺りの改築は外部の業者に依頼となるが、その辺の職人達への口止めとか済んでいるんだろうか。
「……いや、僕が心配するような事じゃないだろ。」
あまりのガバガバセキュリティについつい余計な心配をしてしまった。
気を取り直して地下へ続く階段を降りていく。
地下のひんやりとした空気が頬を撫で、僅かに埃臭い匂いが鼻をかすめた。
階段を降りた先は細長い通路になっており、少し進めば、すぐに開けた場所へと出る。
(……やはり何人か神官がいるな。あの馬車にいた神官もいる。)
通路から様子を伺いつつ、全員の視線が入口から逸れた所で全身のバネを使い、壁を駆け上がり、自分の身長よりも遥かに大きく豪奢な装飾の裏に身を隠した。
(……よし、誰も気がついていないな。)
無駄に装飾が施されているおかげで足場に困らず助かった。
そこそこの高さから聖堂全体を見渡せるのもこちらとしては状況が把握しやすくて助かる。
(……あれは、魔法具?……いや、魔法具は魔法具でも古の魔法具のひとつだ。)
聖堂の中心から、円を描くように描かれた謎の陣。そしてその真ん中にはランプのような古の魔法具が鎮座している。
聖堂にいる神官たちは椅子に座ってふんぞり返る神官の持つ古文書を度々確認しながら謎の陣の文字を確認しているようだ。
使われている文字は魔法使いがいた頃の古い文字。そのため誤字や脱字がないかを念入りにチェックしているのだろう。
軽く見渡した限り、ここに神官以外の人間がいる様子は無い。ここに誰か攫われ監禁されている可能性は限りなく低いと考えていいだろう。
(第三者の救助を考えなくていいのならこちらも動きやすい。)
てっとり早くこの儀式を失敗させるなら神官共が見てない時にこの陣の文字を一部消してしまえばいい。
(……そうなると、1度全員の目を陣から逸らす必要があるな……)
幾つか頭の中で案を練っていれば、1人の神官が、おずおずと神官に口を開いた。
「……あの、ガスパール神官様。魔法陣の文字は全て問題ありません。」
「そうか!なら我々が再び権威を得ることがほぼ確定だな!ハッハッハー!見てろよ、裏切り者のロイめ!お前の力で召喚される『聖女』が、お前の目論見を阻止するのだからなぁ!!」
ハッハー!とまたもやチープな悪役のような高笑いをしつつ、どこぞの神官長のように情報を口に出している神官。
いや、僕からすればとてもやりやすくて助かるけども。
いくら権威に溺れていた期間が長かったにしろ、バカしかいないじゃないか。
いや、バカ以外はさっさと他所に行っているからかもしれないけれど。
それにしたってバカしかいない。
(……しかし、そうなると神殿側も『古の魔法具』を起動させたいのか。……他に発動者がいないとなると、魔法使いがいる可能性はほぼないと考えていいはず……)
古の魔法具を起動させたいエドワーズ公爵夫人と、神殿が利害の一致により結託し、僕をはめたのが今回の全容だと分かった。
恐らく、近代において古の魔法具を動かせたのが僕しかいなかった故に、僕を嵌めたのだろうが、問題は何故そこまでして古の魔法具を発動させたいのか、だ。
神殿側は聖女を召喚するため。
ならばエドワーズ公爵夫人の目的は?
(……流石に公爵夫人の持つ古の魔法具までは情報がないからな……恐らくは王家とルーカス様を蹴落とすためだとは思うが……)
正直奴らの計画は僕がいる前提で成り立つものなので、僕が脱走してしまえばすぐに破綻するものだ。
しかし、それで諦めるようなやつらではないし、どっちに転ぼうとも、ナテュール様に害なすことに違いは無い。
(……さて、どうするか。)
優先事項はナテュール様に変わりは無い。
ナテュール様にいかに害が及ばぬように対処すべきか。
顎に手を当て、考え始めたその時だった。
ドタドタと階段を駆け下りる重い足音が聖堂に響き渡った。
「た、大変です!ガスパール神官様!」
「なんだ、騒々しい!」
ゼェゼェと息を荒らげる神官に、神官が眉を寄せる。思えばお前ガスパールなんて名前だったな。
「し、神殿に、第7王子が……!」
(えっ!!!?)
まさかのナテュール様の登場に声を上げそうになり、慌てて口を両手で抑える。
危うく叫ぶ所だった。
「はぁ?あんな第7王子に何が出来る。追い返せばいいだろ。」
(はーん??お前ごときがナテュール様に『あんな』とか言う資格ねぇからぁ????)
ぶん殴りたい衝動を必死に抑える。意味もなく、音もなく、とりあえずそこで屈伸運動をして怒りをやり過ごす。
「し、しかし、第7王子が、『勅命の書』を持って、冒険者どもが神殿を取り囲んでいるのです……!!」
「はぁ!!?」
(な、ナテュール様ぁーー!!?)
神官が勢いよく立ち上がったせいで座っていた椅子が勢いよく倒れ、聖堂に音が反響した。
そのため、僕が動揺のあまり僅かに起こした足音がかき消される。
危ない危ない。あまりの動揺に、思わず屈伸するはずがそのまま飛び跳ねてしまった。
(……それにしても、何故『勅命の書』を……?)
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