悪役従者

奏穏朔良

文字の大きさ
上 下
33 / 50

33

しおりを挟む
ナテュール達が水面下でロイ奪還作戦を進めているなんて欠片も知らないロイは、意気揚々と神殿の内部を漁りに漁っていた。

手始めに、神官のトップである神官長の部屋を勝手に開けて引き出しを漁り、本棚裏の隠し部屋を見つけつつ、ついでに神官長のお宝春画の隠し場所と性癖もチェックしておいた。

(それにしても本棚裏の隠し部屋は裏金と財宝置き場になっているだけで、これといった証拠がない。とはいえこれだけの金額、そして財宝を集めるなんてやはり裏に貴族がいるとしか思えないな……)

現在神殿は権威を失いつつある。それに伴い貴族からの寄付金や奉納金を収めない豪商なども出てきている。
もちろん回復ポーションに頼る機会の多い冒険者や騎士などは未だに奉納金を収めてはいるが、神殿に対して反骨的だ。

だからこそ、神殿がこれほど金を貯められるわけが無い。
神官長含めあるだけ贅に使うのが神官達だ。
つまり使っても余るだけの金が神殿に集まっているということになる。

(……となると帳簿なんかは付けていなさそうだ。)

経営とは違い、あくまで寄付金は善意での寄付。
売上等とは異なり帳簿を記す必要も無い。
いや、本来なら金銭管理のために必要だが、ここの神官たちが付けているとは到底思えない。

(そうなると貴族の印の入った寄贈品を探す方が無難かな。)

恐らく友好の印として紋章入りの贈り物があるはず。
流石にそれを売ってしまう程神官達も馬鹿では無いはずだ。多分。

(次に探すなら金庫部屋かな。以前と場所は変わっているはずだからそれなりに目星をつけて……)

僕がここで過ごしていたのは9歳まで。
改築や増設部分もあるため、神殿内部の間取りは若干変わっている。
神殿は僕のことを警戒していたはずだし、かつて僕が金庫から古代遺物である『古の魔法具』を見つけ出したことを考えればいくら馬鹿でも同じ部屋にしておくはずが無い。

警備をある程度固めつつ、参拝者等の部外者が出入りする場所からは遠い位置。
神官長の性格からして自分の部屋から遠すぎると不安になるはずだ。

(神官長の部屋からもそこそこ近いところで奥ばった部屋となれば場所は限られる……)

幸いにも改築工事の際の地図が出てきたので、その地図を見ながらいくつか候補を見つけておく。

(恐らくこの辺の部屋だな。)

およその範囲を絞れればあとは警備が厳重な場所を当たりと思えばいい。

もう用はないと、部屋を出ようとした時だった。

「……ば、この……」
「……かし、それは……」

(まずい、もう戻ってきたのか……)

扉の先から僅かに聞こえる話し声に、扉に伸ばしかけた手を引っ込める。

神官長の部屋は廊下の突き当たりだ。1本道の廊下では出たらすぐに姿が見えてしまう。

(隠し部屋に……いや、隠し部屋に入ってしまえば棚が動いたままになってしまう。侵入がバレて証拠を隠滅でもされたら困る。)

思案しながらも動きは止めずまずピッキングで開けた鍵を内鍵から施錠する。
そして、頭の中で先程見た地図を広げながら、逃走経路を何パターンか計算しつつ、天井をぐるりと見渡した。

(……あった、換気口。)

棚や壁に足をかけ、するすると天井に登り、換気口をこじ開け、ダクトへと体を滑り込ませる。
換気口と言えどこれは昔の名残で、構造上残っているだけのただの穴だ。教会創設時の通気口として作られたもの故、ココ最近でてきた魔法具で動かすファンの付いた換気口でなかった事が幸いした。

(魔法具のファンが付いていた場合、外すのはそれなりに時間がいるからな……)

古いダクトに体を滑り込ませてすぐに、神官長と、僕を連行したあの神官が部屋に入ってきた。
ギリギリだったな、とダクトの中で静かに息を吐く。

「ですが、神官長!」
「話は終わりです。計画を忘れた訳では無いでしょう。」
「ええ、忘れてはいません!しかし、血なんて殺した後だって採れるではありませんか!やつのあの舐め腐った態度……!あれ・・をやらせたら早急に殺すべきです!! 」
「いい加減にしなさい。向こう・・・の要求は古の魔法具を使用した者を生きたまま引き渡すこと。」

(……『あれ』?『向こう』?)

思わぬ会話に、離脱しようと思ったが、そのままダクトで耳をそばだてる。

それに、あの神官が馬車で言っていた「やってもらうこと」と地下牢での「用が済めば」と言うのが『あれ』だとして、僕の血なんて何に必要なのか。
神官長の口ぶりからすると、後ろ盾にとなった貴族は、どうやら僕の身柄を欲しがっているようだ。

(……いや、僕というより古の魔法具を発動できた者が欲しいのか。)

何か発動させたい古の魔法具があるのだろうか?

現代に流通している魔法具は魔石を核にしそれをエネルギーとして道具を起動させるが、古の魔法具は魔石の核が設計に組み込まれていない。
そのためずっと起動方法がわからず、現代で使われることはなかった。出来なかった、のほうが正しいかもしれない。
恐らく、魔法使いにはわかる何かがあるのだろう。

僕の場合、なんか触ったら起動したからこれ幸いにと使ってみたけど。

(古の魔法具を所持している貴族なんてごく一部だ。それこそ魔法使いがまだ多くいた頃から家名を継いでいたような古い家でなければ。)

仮に、魔法具を発動させたい家が後ろ盾についたとすればかなり絞られるが、現状情報が足りなすぎて確定に至れない。

「それよりもあれ・・の準備は滞り無いでしょうね?」
「ええ、それはもう万全に。あとは日が暮れるのを待つのみです。」
「宜しい。日が暮れ次第神官を地下の聖堂に集めなさい。もちろん、ロイも連れてくるのですよ。」
「お任せ下さい!」

鼻をふんすふんすと膨らませる神官は、ドスドスと象のような太い足を踏み鳴らしながら、神官長室を出ていった。
先程まで怒っていたのは忘れたのか上機嫌で廊下を引き返していくのが足音でわかる。

これ以上情報を引き出すことは無意味かと、ダクト内を移動しようとした時、「ふふふふふ ……」と神官長の不気味な笑い声が漏れ聞こえた。

「……我々を甘くみたロイ……君の負けです。教会を出てすぐにギルドへと赴き、教会の悪評を広め、リュミエール神教を陥れようとしたことなど、5年前から分かっていたのですよ。」

と、何故か自席に座って独り言を言い始める神官長。
一瞬自分の存在がバレたのかと思ったが、どうやら完全な独り言らしい。

「残念ながら君の悪巧みは失敗する。君はあの出来損ないの第7王子を踏み台にゆくゆくは王家すら操るつもりかもしれないが、今の王家は神に見放され滅ぶのさ!次代の王座はエドワーズ家と召喚される聖女に継承される!お前の悪巧みなど私にはお見通しだったのさ!アーハハハッ!!」

なんて、チープな悪役のような高笑いをしたかと思えば、立ち上がりご機嫌で軽いステップを刻み、棚の後ろの隠し部屋へと消えていった神官長。

神官長の高笑いが消え、静まり返った部屋の中。
僕は正直困惑していた。

「……え、なんか神官長が全部喋ってくれたんだけど。」

とりあえずナテュール様を侮辱したので神官長は徹底的に潰すとしよう。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?

歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。 それから数十年が経ち、気づけば38歳。 のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。 しかしーー 「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」 突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。 これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。 ※書籍化のため更新をストップします。

召喚魔法使いの旅

ゴロヒロ
ファンタジー
転生する事になった俺は転生の時の役目である瘴気溢れる大陸にある大神殿を目指して頼れる仲間の召喚獣たちと共に旅をする カクヨムでも投稿してます

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~

緋色優希
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

チートな親から生まれたのは「規格外」でした

真那月 凜
ファンタジー
転生者でチートな母と、王族として生まれた過去を神によって抹消された父を持つシア。幼い頃よりこの世界では聞かない力を操り、わずか数年とはいえ前世の記憶にも助けられながら、周りのいう「規格外」の道を突き進む。そんなシアが双子の弟妹ルークとシャノンと共に冒険の旅に出て… これは【ある日突然『異世界を発展させて』と頼まれました】の主人公の子供達が少し大きくなってからのお話ですが、前作を読んでいなくても楽しめる作品にしているつもりです… +-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-  2024/7/26 95.静かな場所へ、97.寿命 を少し修正してます  時々さかのぼって部分修正することがあります  誤字脱字の報告大歓迎です(かなり多いかと…)  感想としての掲載が不要の場合はその旨記載いただけると助かります

元34才独身営業マンの転生日記 〜もらい物のチートスキルと鍛え抜いた処世術が大いに役立ちそうです〜

ちゃぶ台
ファンタジー
彼女いない歴=年齢=34年の近藤涼介は、プライベートでは超奥手だが、ビジネスの世界では無類の強さを発揮するスーパーセールスマンだった。 社内の人間からも取引先の人間からも一目置かれる彼だったが、不運な事故に巻き込まれあっけなく死亡してしまう。 せめて「男」になって死にたかった…… そんなあまりに不憫な近藤に神様らしき男が手を差し伸べ、近藤は異世界にて人生をやり直すことになった! もらい物のチートスキルと持ち前のビジネスセンスで仲間を増やし、今度こそ彼女を作って幸せな人生を送ることを目指した一人の男の挑戦の日々を綴ったお話です!

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

ボッチの少女は、精霊の加護をもらいました

星名 七緒
ファンタジー
身寄りのない少女が、異世界に飛ばされてしまいます。異世界でいろいろな人と出会い、料理を通して交流していくお話です。異世界で幸せを探して、がんばって生きていきます。

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

処理中です...