悪役従者

奏穏朔良

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28(ナテュール視点)

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「はぁ!?ロイが殺人罪で神殿に拘束された!?」

息を切らして俺の元へ駆け込んできたルーカスとオリバーから聞いた報告に、思わず大声で内容を繰り返してしまう。

「くっ……俺のことが大好きすぎるばかりにとうとう殺人を……!」
「ナテュール君もだいぶ愉快な性格してきたよね。」

ルーカスになんとも言えないような視線を向けられながらも、「それにしても、」と言葉を続けた。

「何故殺人罪なのに神殿が出張るんだ……?神殿に犯罪者の拘束権限もなければ司法を取り締まる機関でもないくせに。」
「なんか、ロイがプリーストの姓を持っていることと、元神官見習いとして神殿に属したことがあるからって理由らしいです。」

俺の疑問に、汗をにじませたオリバーがそう答える。
神殿側のあまりにも無茶苦茶な言い分に、思わずこめかみを押さえて息を吐いた。

ロイが元々神殿に属して居たからといって、神殿に犯罪者を裁き罰する権利が生じる訳じゃない。
それなのにこんな強硬手段に出てまでしてロイを拘束したいなんて、ロイがいると不都合があると教えているようなものだ。正直言って頭が悪い。

(しかし、未だ熱心な信者がいるのもまた事実……)

今、この国の多くは神を信じていても、神殿は信じない、信用出来ない、という人間が多い中、市民の1部や貴族の中には信仰深い故神殿を信じきっている人がいる。
そういったもの達は神殿を擁護するだろう。そうなると国も動きにくくなる。

(……反神殿派貴族の力を借りれるほど、俺には力がない……それに、王も情報を持つロイの存在は惜しいが、今神殿との対立を更に煽ることになるのは望んでいない……)

神殿の人間に、ロイを殺す理由があっても生かす理由はない。

適当に「神にしっかりと罪を懺悔し、その魂の穢れを浄化させるため、地下に幽閉している」とでも言って存在を隠し、実際はできるだけ早く殺してその辺に埋めておくだろう。

「……早く助けないとまずいな……」

だが、先程言ったように、俺には貴族の助力も王の援助も見込めない。
なにか方法は、と思案した時、学園内の警備を任されていたのがロイだったことを思い出した。

「殺されたのは被害者は暗殺者か?それなら警備担当としては妥当な事だし、相手も殺意があったと証明出来れば……」

と、そこまで言ったところで、俺は口を噤んだ。
被害者の話になった途端に、目の前の2人が口を一文字に結び、険しい顔をしたからだ。

「……まさか、暗殺者や不審者ではないのか……?」

僅かに震える声で尋ねれば、苦々しい顔で頷いたのはオリバーだった。

「……被害者はクラスメイトのイザック・ベルナール……ロイに絡んで嫌がらせをしていたやつだ。」
「それに、連行されるロイさんの姿を目撃した生徒曰く、血まみれだったって……」

オリバーに続き、ルーカスもそう口を開く。
しかし、それは状況だけでの憶測に過ぎないはず。

「だ、だがロイの犯行だという決定的な証拠はないだろ!?手当をしようとして血が着いたのかも……」
「ロイさんの犯行の瞬間を目撃した人が名乗り出ているって……しかも、何人も……」

可能性を潰され、頭の中が真っ黒に塗りつぶされたような感覚に陥った。
考えが上手くまとまらない。それでも、ロイがクラスメイトを殺すとは思えなかった。

いや、可能性があるとしたら、

「……まさか、俺に何か害をなそうとしたイザック・ベルナールを、俺のことが大好きすぎるロイがつい……?」

「それの可能性が1番高いところがロイって感じだよな……」

たどり着いた1つの可能性を口にすれば、どこか遠い目をしたオリバーが僅かに頷く。

「問題はどうやってロイを神殿から連れ出すか、だな……」
「ロイさんの犯行を証明してしまえば、神殿むこうに餌を与えることになる以上、無実の証明をしたいけど……」
「今の状況では難しいな……」

3人でうーん、と唸る。
しかし唸ったところで何かいい案が浮かぶ訳でも無く、

「とりあえず……その目撃者って生徒達に話を聞きに行ってみるのはどうだ……?何かわかるかもしれない。」

そう提案すれば「今のところそれが1番無難かもね。」とルーカスも首肯を示す。

「大変残念だけど、それは出来ないよ。」
「なっ……!?」

不意に聞こえたその声に、俺たちは声のした方へ一斉に振り返る。
やぁ、と軽い挨拶と共に手を挙げているのはアダン・ニコラ教官だった。

「……出来ないとは一体何故ですか。」

そう、低く唸るように問えば、アダン・ニコラ教官は「おお、怖いねぇ。」なんて笑いながら、

「君たちはこれから理事長室へと行かなきゃいけないからねぇ。そこで謹慎を言い渡させるだろうから、聞き取り調査は出来ないよ。」

ただいつものような軽い口調で、そう告げた。

「……は?謹慎……?」

オリバーの呆然としたような声がぽつりと落ちる。

「そうだよ?連れてかれたロイ・プリーストと活動を共にしていたのは君たち3人だろう?犯行を知っていたかもしれないし、加担したかもしれない。学園側としては謹慎にせざるを得ないよね。」

なんて肩を竦めてカラカラ笑うアダン・ニコラ教官。
ただ、今のセリフの『連れていかれた』の部分が引っかかった俺は僅かに眉を寄せた。

罪を犯した、でも、拘束され連行された、でもなく、ただ『連れていかれた』。

それにアダン・ニコラ教官の物言いはどちらかと言えば周りにいる人間へ説明を聞かせるかのような話し方だ。

「……わかりました。」
「な、ナテュールくん……」
「……仕方ない事だ。それに、理事長にも聞きたいことがある。」

不安そうなルーカスにそう言えば、次に口を開いたのは「じゃあ早く行こうか。」と言ったアダン・ニコラ教官だった。

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