悪役従者

奏穏朔良

文字の大きさ
上 下
28 / 50

28(ナテュール視点)

しおりを挟む
「はぁ!?ロイが殺人罪で神殿に拘束された!?」

息を切らして俺の元へ駆け込んできたルーカスとオリバーから聞いた報告に、思わず大声で内容を繰り返してしまう。

「くっ……俺のことが大好きすぎるばかりにとうとう殺人を……!」
「ナテュール君もだいぶ愉快な性格してきたよね。」

ルーカスになんとも言えないような視線を向けられながらも、「それにしても、」と言葉を続けた。

「何故殺人罪なのに神殿が出張るんだ……?神殿に犯罪者の拘束権限もなければ司法を取り締まる機関でもないくせに。」
「なんか、ロイがプリーストの姓を持っていることと、元神官見習いとして神殿に属したことがあるからって理由らしいです。」

俺の疑問に、汗をにじませたオリバーがそう答える。
神殿側のあまりにも無茶苦茶な言い分に、思わずこめかみを押さえて息を吐いた。

ロイが元々神殿に属して居たからといって、神殿に犯罪者を裁き罰する権利が生じる訳じゃない。
それなのにこんな強硬手段に出てまでしてロイを拘束したいなんて、ロイがいると不都合があると教えているようなものだ。正直言って頭が悪い。

(しかし、未だ熱心な信者がいるのもまた事実……)

今、この国の多くは神を信じていても、神殿は信じない、信用出来ない、という人間が多い中、市民の1部や貴族の中には信仰深い故神殿を信じきっている人がいる。
そういったもの達は神殿を擁護するだろう。そうなると国も動きにくくなる。

(……反神殿派貴族の力を借りれるほど、俺には力がない……それに、王も情報を持つロイの存在は惜しいが、今神殿との対立を更に煽ることになるのは望んでいない……)

神殿の人間に、ロイを殺す理由があっても生かす理由はない。

適当に「神にしっかりと罪を懺悔し、その魂の穢れを浄化させるため、地下に幽閉している」とでも言って存在を隠し、実際はできるだけ早く殺してその辺に埋めておくだろう。

「……早く助けないとまずいな……」

だが、先程言ったように、俺には貴族の助力も王の援助も見込めない。
なにか方法は、と思案した時、学園内の警備を任されていたのがロイだったことを思い出した。

「殺されたのは被害者は暗殺者か?それなら警備担当としては妥当な事だし、相手も殺意があったと証明出来れば……」

と、そこまで言ったところで、俺は口を噤んだ。
被害者の話になった途端に、目の前の2人が口を一文字に結び、険しい顔をしたからだ。

「……まさか、暗殺者や不審者ではないのか……?」

僅かに震える声で尋ねれば、苦々しい顔で頷いたのはオリバーだった。

「……被害者はクラスメイトのイザック・ベルナール……ロイに絡んで嫌がらせをしていたやつだ。」
「それに、連行されるロイさんの姿を目撃した生徒曰く、血まみれだったって……」

オリバーに続き、ルーカスもそう口を開く。
しかし、それは状況だけでの憶測に過ぎないはず。

「だ、だがロイの犯行だという決定的な証拠はないだろ!?手当をしようとして血が着いたのかも……」
「ロイさんの犯行の瞬間を目撃した人が名乗り出ているって……しかも、何人も……」

可能性を潰され、頭の中が真っ黒に塗りつぶされたような感覚に陥った。
考えが上手くまとまらない。それでも、ロイがクラスメイトを殺すとは思えなかった。

いや、可能性があるとしたら、

「……まさか、俺に何か害をなそうとしたイザック・ベルナールを、俺のことが大好きすぎるロイがつい……?」

「それの可能性が1番高いところがロイって感じだよな……」

たどり着いた1つの可能性を口にすれば、どこか遠い目をしたオリバーが僅かに頷く。

「問題はどうやってロイを神殿から連れ出すか、だな……」
「ロイさんの犯行を証明してしまえば、神殿むこうに餌を与えることになる以上、無実の証明をしたいけど……」
「今の状況では難しいな……」

3人でうーん、と唸る。
しかし唸ったところで何かいい案が浮かぶ訳でも無く、

「とりあえず……その目撃者って生徒達に話を聞きに行ってみるのはどうだ……?何かわかるかもしれない。」

そう提案すれば「今のところそれが1番無難かもね。」とルーカスも首肯を示す。

「大変残念だけど、それは出来ないよ。」
「なっ……!?」

不意に聞こえたその声に、俺たちは声のした方へ一斉に振り返る。
やぁ、と軽い挨拶と共に手を挙げているのはアダン・ニコラ教官だった。

「……出来ないとは一体何故ですか。」

そう、低く唸るように問えば、アダン・ニコラ教官は「おお、怖いねぇ。」なんて笑いながら、

「君たちはこれから理事長室へと行かなきゃいけないからねぇ。そこで謹慎を言い渡させるだろうから、聞き取り調査は出来ないよ。」

ただいつものような軽い口調で、そう告げた。

「……は?謹慎……?」

オリバーの呆然としたような声がぽつりと落ちる。

「そうだよ?連れてかれたロイ・プリーストと活動を共にしていたのは君たち3人だろう?犯行を知っていたかもしれないし、加担したかもしれない。学園側としては謹慎にせざるを得ないよね。」

なんて肩を竦めてカラカラ笑うアダン・ニコラ教官。
ただ、今のセリフの『連れていかれた』の部分が引っかかった俺は僅かに眉を寄せた。

罪を犯した、でも、拘束され連行された、でもなく、ただ『連れていかれた』。

それにアダン・ニコラ教官の物言いはどちらかと言えば周りにいる人間へ説明を聞かせるかのような話し方だ。

「……わかりました。」
「な、ナテュールくん……」
「……仕方ない事だ。それに、理事長にも聞きたいことがある。」

不安そうなルーカスにそう言えば、次に口を開いたのは「じゃあ早く行こうか。」と言ったアダン・ニコラ教官だった。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~【加筆修正版】

永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。 転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。 こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり 授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。 ◇ ◇ ◇ 本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。 序盤は1話あたりの文字数が少なめですが 全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?

歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。 それから数十年が経ち、気づけば38歳。 のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。 しかしーー 「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」 突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。 これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。 ※書籍化のため更新をストップします。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

女神から貰えるはずのチート能力をクラスメートに奪われ、原生林みたいなところに飛ばされたけどゲームキャラの能力が使えるので問題ありません

青山 有
ファンタジー
強引に言い寄る男から片思いの幼馴染を守ろうとした瞬間、教室に魔法陣が突如現れクラスごと異世界へ。 だが主人公と幼馴染、友人の三人は、女神から貰えるはずの希少スキルを他の生徒に奪われてしまう。さらに、一緒に召喚されたはずの生徒とは別の場所に弾かれてしまった。 女神から貰えるはずのチート能力は奪われ、弾かれた先は未開の原生林。 途方に暮れる主人公たち。 だが、たった一つの救いがあった。 三人は開発中のファンタジーRPGのキャラクターの能力を引き継いでいたのだ。 右も左も分からない異世界で途方に暮れる主人公たちが出会ったのは悩める大司教。 圧倒的な能力を持ちながら寄る辺なき主人公と、教会内部の勢力争いに勝利するためにも優秀な部下を必要としている大司教。 双方の利害が一致した。 ※他サイトで投稿した作品を加筆修正して投稿しております

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

家ごと異世界ライフ

ねむたん
ファンタジー
突然、自宅ごと異世界の森へと転移してしまった高校生・紬。電気や水道が使える不思議な家を拠点に、自給自足の生活を始める彼女は、個性豊かな住人たちや妖精たちと出会い、少しずつ村を発展させていく。温泉の発見や宿屋の建築、そして寡黙なドワーフとのほのかな絆――未知の世界で織りなす、笑いと癒しのスローライフファンタジー!

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

処理中です...