悪役従者

奏穏朔良

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そもそもの話、犯罪の取り締まりは警備隊の管轄だ。捕縛も拘束の権限もない神殿が出張る必要は無い。

「……狙いは私、ということですね。消しておきたいという想いが透けて見えるようです。」

そう肩を竦めて言い捨てれば、ニコラ教官は眉間のシワを深めたまま「やけに冷静だね……」と呟いた。

「他の組織ならまだしも、神殿ですからね。ところで罪状はお聞きになりました?」
「ああ、『ロイ・プリーストが学園で人を殺したという通報を受けた。元神官見習いにあるため、身柄は神殿が拘束する』って」
「とんでもない言い分ですね。」

元神官見習いだろうが、神殿関係者だろうが、神殿側が拘束する権利など発生しないというのに。相変わらずの身勝手さに辟易してしまう。

「……それにしても、情報が速い……いえ、最初から仕組まれていたと考えるべきですね。残念ながらイザック・ベルナールは生きていますけど。」
「あぁ、生きてるんだねその子……よかったよ……」

血まみれの僕と同じく血まみれのイザックに、本当に僕が殺したか、襲われたかを考えていたのだろう。ニコラ教官がホッと肩の力を抜いたのが見てとれた。

(それにしても、昔から僕のことが目障りなのは変わらないはず……それなのに今になって排除に動き出すその理由はなんだ……?)

神殿から出たあの日から上層部は弱みを握られているため今まで表だって僕に何かしてくることはなかったが、それすら気にせず動ける何かが、今はあるということだ。

(……神殿の弱みは既に王には伝えてある。ギルドへの根回しもしているし、何かあった時はエスポワールにナテュール様の事は頼んである。学園内の警備は心配だが、ナテュール様達が無事なら問題は無いし……)

脳内で持ち得る情報全てを使って今後の計画を組み立てていく。
今後のおおよその流れが決まったところで、

「よし……では私は大人しく捕まってきますね。」

と理事長室を後にしようとしたら、「いや待て待て待て待て!」とリシャール理事長とニコラ教官に止められた。

「あ、すみませんが、しばらくイザック・ベルナールを秘匿していただけますか?生きてるとなれば再度殺される可能性がありますので。」

恐らくだが、学園内の人間の犯行である以上イザック・ベルナールは犯人の顔を見ている可能性が高い。
生きているとなれば口封じに動くだろう。神殿というのはそういう組織だ。

「待ってってば!何が『よし』なのかわからないし、そもそもイザック・ベルナールの生存を隠してしまえば君の無実が証明できないでしょうが!」

と、僕の肩を掴んで怒るニコラ教官に同意するようにリシャール理事長も頷くが、逆に何故ここまで引き止められるかわからない。

「別に証明する必要はありません。古巣ですし、腹の中を漁るには手っ取り早いでしょう?何も問題はありません。私が不在の間の警備強化だけはよろしくお願いします。」

やんわりと肩に置かれた手をどける。
すると、リシャール理事長が「君も、」と口を開いた。

「君も、この学園の生徒だ。大人に守られる資格があるんだ。……どうしようもなくなったら、ここへ逃げてきなさい。」

そんな言葉に、僕は思わずきょとん、と間抜けな顔をしてしまう。まさかそんな風に思われているとも思わなかったし、言われるとも思っていなかった。

(いやむしろ何をそこまで心配しているんだろこの人たち……??)

まさか悪役顔すぎて、手段が無くなれば神殿のやつらを皆殺しにするのではと恐れられているのだろうか。
それする前に帰っておいでよ的な。

「……はぁ、わかりました?」

とりあえず、そう曖昧に返せば、リシャール理事長になんとも言えない顔をされた。

「あの、私行きますね?イザック・ベルナールの事は頼みます。あとナテュール様に何かあれば意地でも戻ってきて暴れますのでそのつもりで。」

1番大事なことなので、最後を1番強調して告れば、数日前の騒ぎを知っているニコラ教官は顔をシワッシワにして「君ならほんとにやりそう……」と言葉を絞り出した。

さて、やることは決まっていたが、予想以上に出遅れてしまったのでこれ以上神殿のやつらが喚き散らす前に、行くとしよう。
そう思い、僕は入口へと向かっていた体の向きをくるりと変え、理事長の窓を開けた。

「ではあとはお願いしますね。」

と、窓枠を蹴って下に飛び降りれば、背後から悲鳴のようなものが響き渡ったが、時間ロスが惜しいので、僕はそのまま着地し、振り返ることなく正門の方へと走った。

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