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25(イザック視点)
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【注意書き】
わりとしっかりとした流血の描写あります。
イザック視点というよりはイザックメインの第三者視点です。
****
イザック・ベルナールは苛立っていた。
それを全身で表すように、ドカドカと足を鳴らして廊下を進む。
原因は言わずもがな、あのいけ好かないロイ・プリーストとかいう神殿からの回し者だ。
元々、イザックは神殿が嫌いだった。神や信仰の名のもとに金を貪り、回復ポーションを盾に弱者をいたぶる。神官こそ欲に溺れ、市民を金づるとしか思っていないクソ野郎共の集まり。
イザックの父は優れた冒険者だったのに、過去に神殿への奉納金を値下げするように頼んだ事があったというだけで、大怪我をおった日、回復ポーションを貰うことが出来なかった。
そのため、父は怪我を完全に治すことは出来ず、前線から退くこととなったのだ。
そんな神殿の「プリースト」を名乗るやつがクラスメイトにいると言うだけでも腹が立つのに、なんとそいつは対立しているはずの王族の従者にまでなっている。
それがあの忌み嫌われた第7王子だとしても、何か企んでいることは間違いない。
常にこちらを見下すように笑い、口を開けば嫌味ばかり。
(だからこそ、俺が正義の鉄槌を下すはずだったのに……!)
自分なら勝てると思っていた。
同年代の人間に、剣で負けるなんて思ってもいなかった。
それなのに、入学してひと月以上経ってようやく始まった剣術の授業で、自分はあのロイ・プリーストに負けた。
(いや、負けてなんか……アイツがいきなり剣を叩き落として奪ったんだ……!勝負を始める前に……!卑怯者め!)
フンッと鼻を鳴らして廊下を進めば、イザックの形相に驚いた生徒たちはそそくさと道を空ける。
しかし、イザックには周りの生徒の反応など目に入っておらず、そのままずんずん廊下を進んでいく。
(そうさ!神殿のやつなんか皆卑怯者だ!食堂でも俺の事を馬鹿にしやがって!)
他の生徒をパシリにしていた所を指摘したら窓から逃げた卑怯者。
かと思えばしばらく経って平然と戻ってきて、食事を取り始めたのだ。
相変わらずニコニコと気味の悪い、こちらを見下すような笑みを貼り付けて、イザックの方なんて見向きもせずに食事を平らげた。
どう考えてもこちらをバカにしているとしか思えない。
「ねぇ、君。このままロイ・プリーストの好きになんてさせたくないよね?」
不意にそんな台詞が聞こえて、イザックは足を止めた。
声のした方へと首をひねれば、隣の平民クラスの少年が、ぽつんとそこに立っていた。
気づけば、随分と校舎の奥に来てしまったようで、周りに他の生徒は見当たらない。
「僕も気に入らないんだ!ねぇ、このまま好き勝手になんてさせたくないでしょう?」
ロイ・プリーストのような気味の悪い貼り付けた笑みではなく、朗らかな微笑みに、イザックは肩の力を抜いて「当然だ。」と答えた。
「だよね!じゃあ同じ目的同士、協力し合おうよ!」
と、パッと花を咲かすように笑うその生徒に、「……いや、協力って……まずお前は何ができるんだ。俺のように剣になれた人間じゃないだろ。 」と問う。
彼の体躯は明らかに細く、筋肉がない。身長だってあのロイ・プリーストよりも10cm以上小さいだろう。そんなやつが、あの卑怯者に勝てるとは思えない。
「いやいやいや、侮ることなかれ!僕にはとっておきの作戦があるんだよ!」
なんて言って手でおいでおいでとイザックを招いたその生徒。
イザックは「なんなんだこいつ」と思いながらも、招かれる手に従い、内緒話をするため生徒に耳を向ける形で少し屈んだ。
その瞬間だった。
「……は?」
首に走る冷たい衝動。直後にカッと皮膚が熱くなり、視界に赤い水が弾けた。
「な、何を……!?」
首を斬られた、と理解した時にはもう遅い。手で抑えようともドクドクと波打つ鼓動に合わせて指の隙間から血が吹き出す。
「あぁ、ごめんね?僕の作戦じゃなくて、僕達の作戦だったよ。」
あの朗らかな笑顔のまま、こてりと首を傾げて何でもないようにそう告げる生徒。
そんな生徒にイザックは得体の知れない恐怖を感じ、後ずさろうとするが、血の抜けた体はカクンッと地面に膝を着いた。
ボタボタと落ちる血が見る見るうちに水溜まりを作り上げる。
「安心しなよ。君の死はちゃぁんと、ロイ・プリーストの失脚に使われるから。じゃあ、ばいばぁい!」
霞む視界の中、血まみれのナイフをユラユラ振る、その生徒は明らかに狂気じみていた。
(くそ……!なんで俺が……!)
殺されることへの腹立たしさ。
やりたい事への未練。
何も成せないことへの虚しさ。
そして、家族のこと。
地面に血を撒き散らして倒れ伏せたイザックの心にはそれらの感情や思い出がグルグルと巡る。
次第に視界は何も映さなくなり、頭はぼんやりとして指先のひとつも動かせない。
(……ああ、俺……死ぬのか……)
「……おや、これは困りましたね。」
虫の声ひとつ、拾わなくなったイザックの耳に、大嫌いなロイ・プリーストの声が聞こえた気がした。
わりとしっかりとした流血の描写あります。
イザック視点というよりはイザックメインの第三者視点です。
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イザック・ベルナールは苛立っていた。
それを全身で表すように、ドカドカと足を鳴らして廊下を進む。
原因は言わずもがな、あのいけ好かないロイ・プリーストとかいう神殿からの回し者だ。
元々、イザックは神殿が嫌いだった。神や信仰の名のもとに金を貪り、回復ポーションを盾に弱者をいたぶる。神官こそ欲に溺れ、市民を金づるとしか思っていないクソ野郎共の集まり。
イザックの父は優れた冒険者だったのに、過去に神殿への奉納金を値下げするように頼んだ事があったというだけで、大怪我をおった日、回復ポーションを貰うことが出来なかった。
そのため、父は怪我を完全に治すことは出来ず、前線から退くこととなったのだ。
そんな神殿の「プリースト」を名乗るやつがクラスメイトにいると言うだけでも腹が立つのに、なんとそいつは対立しているはずの王族の従者にまでなっている。
それがあの忌み嫌われた第7王子だとしても、何か企んでいることは間違いない。
常にこちらを見下すように笑い、口を開けば嫌味ばかり。
(だからこそ、俺が正義の鉄槌を下すはずだったのに……!)
自分なら勝てると思っていた。
同年代の人間に、剣で負けるなんて思ってもいなかった。
それなのに、入学してひと月以上経ってようやく始まった剣術の授業で、自分はあのロイ・プリーストに負けた。
(いや、負けてなんか……アイツがいきなり剣を叩き落として奪ったんだ……!勝負を始める前に……!卑怯者め!)
フンッと鼻を鳴らして廊下を進めば、イザックの形相に驚いた生徒たちはそそくさと道を空ける。
しかし、イザックには周りの生徒の反応など目に入っておらず、そのままずんずん廊下を進んでいく。
(そうさ!神殿のやつなんか皆卑怯者だ!食堂でも俺の事を馬鹿にしやがって!)
他の生徒をパシリにしていた所を指摘したら窓から逃げた卑怯者。
かと思えばしばらく経って平然と戻ってきて、食事を取り始めたのだ。
相変わらずニコニコと気味の悪い、こちらを見下すような笑みを貼り付けて、イザックの方なんて見向きもせずに食事を平らげた。
どう考えてもこちらをバカにしているとしか思えない。
「ねぇ、君。このままロイ・プリーストの好きになんてさせたくないよね?」
不意にそんな台詞が聞こえて、イザックは足を止めた。
声のした方へと首をひねれば、隣の平民クラスの少年が、ぽつんとそこに立っていた。
気づけば、随分と校舎の奥に来てしまったようで、周りに他の生徒は見当たらない。
「僕も気に入らないんだ!ねぇ、このまま好き勝手になんてさせたくないでしょう?」
ロイ・プリーストのような気味の悪い貼り付けた笑みではなく、朗らかな微笑みに、イザックは肩の力を抜いて「当然だ。」と答えた。
「だよね!じゃあ同じ目的同士、協力し合おうよ!」
と、パッと花を咲かすように笑うその生徒に、「……いや、協力って……まずお前は何ができるんだ。俺のように剣になれた人間じゃないだろ。 」と問う。
彼の体躯は明らかに細く、筋肉がない。身長だってあのロイ・プリーストよりも10cm以上小さいだろう。そんなやつが、あの卑怯者に勝てるとは思えない。
「いやいやいや、侮ることなかれ!僕にはとっておきの作戦があるんだよ!」
なんて言って手でおいでおいでとイザックを招いたその生徒。
イザックは「なんなんだこいつ」と思いながらも、招かれる手に従い、内緒話をするため生徒に耳を向ける形で少し屈んだ。
その瞬間だった。
「……は?」
首に走る冷たい衝動。直後にカッと皮膚が熱くなり、視界に赤い水が弾けた。
「な、何を……!?」
首を斬られた、と理解した時にはもう遅い。手で抑えようともドクドクと波打つ鼓動に合わせて指の隙間から血が吹き出す。
「あぁ、ごめんね?僕の作戦じゃなくて、僕達の作戦だったよ。」
あの朗らかな笑顔のまま、こてりと首を傾げて何でもないようにそう告げる生徒。
そんな生徒にイザックは得体の知れない恐怖を感じ、後ずさろうとするが、血の抜けた体はカクンッと地面に膝を着いた。
ボタボタと落ちる血が見る見るうちに水溜まりを作り上げる。
「安心しなよ。君の死はちゃぁんと、ロイ・プリーストの失脚に使われるから。じゃあ、ばいばぁい!」
霞む視界の中、血まみれのナイフをユラユラ振る、その生徒は明らかに狂気じみていた。
(くそ……!なんで俺が……!)
殺されることへの腹立たしさ。
やりたい事への未練。
何も成せないことへの虚しさ。
そして、家族のこと。
地面に血を撒き散らして倒れ伏せたイザックの心にはそれらの感情や思い出がグルグルと巡る。
次第に視界は何も映さなくなり、頭はぼんやりとして指先のひとつも動かせない。
(……ああ、俺……死ぬのか……)
「……おや、これは困りましたね。」
虫の声ひとつ、拾わなくなったイザックの耳に、大嫌いなロイ・プリーストの声が聞こえた気がした。
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