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開始といい終了といい、あまりにも突飛すぎるニコラ教官の行動に、笑顔を保つ仮面も取れかかる。
従者としての意地でなんとか笑顔を保とうとするが、どうしても口角が引き攣る。
「……私では両手を使わせるだけに値しないと?」
「いやいやまさか!最初に言ったでしょ?実力を見たいってね。」
いやぁ、強いねぇなんてニコニコしながら、折れた木剣を腰に戻すニコラ教官。
相手にやる気がない以上、これ以上は暖簾に腕押しだと、僕も暗器を袖に仕舞った。
いつの間にか張り詰めていた訓練場の空気も、両者の武器が収められた事によりホッと緩んだのが分かる。1番分かりやすかったのはオリバーで、僕に怪我がなくてよかったと表情に安堵が滲んでいた。良い友人を持ったな、と少し口角が緩んだところで
「ハッ!卑怯にも足技まで出しておいて片手でいなされるなんて俺に偉そうなこと言っておいてその程度の実力じゃねぇか!」
と、明らかに嘲笑するイザック・ベルナールの声が響く。
「はぁ!?今ののどこがその程度なんだよ!?」
僕が反応するよりも先にオリバーが声を上げるが、イザック・ベルナールはそんなオリバーのことも鼻で笑った。
僕だけではなくオリバーも馬鹿にするその態度にはカチンと来たが、その後も一方的にずーっとギャンギャン騒ぐイザック・ベルナールを見ていたらだんだん必死に威嚇している小型魔獣に見えてきた。
人に飼い慣らされた小型魔獣の中には、大型の動物に向かってキャンキャン吠えて喧嘩を売るやつがいる。小さい体でぴょんぴょん飛んで威嚇する小型魔獣に、「えぇ……どうしよう……」というふうに困惑してされるがままになっている大型の動物の光景は中々ほっこりしてしまう。
まあ、人と共存している動物ではなくダンジョンにいるような大型魔獣にそんなことをしたら即行喰われて終わるので、ある意味野生を忘れた姿ではあるのだろうが。
ちなみにこの光景はダンジョン近くの居酒屋なんかでもよく見られる。冒険者がペットとして連れている小型魔獣が、居酒屋にいる番犬の大型犬に突っかかるなんて言うのは結構多いのだ。その時のワンちゃんの何とも言えない困った顔が、こう言うのも何だが中々に可愛い。
「お前もなにか言えよ!言われっぱなしで腹立たないのかよォ!?」
と、何故か僕以上に怒っているオリバーが、地団駄を踏むが、最早イザック・ベルナールが何を言っていたかもちゃんと聞いて居なかったので
「あぁ、すみません。(小型魔獣のことを思い出して)随分微笑ましい光景だな、と。」
と正直に答えれば、何故か場の空気が凍りついた。但しニコラ教官だけは吹き出した。咳払いで誤魔化してはいるが笑っているのがバレバレである。
「は、はぁ!?微笑ましいだと!?」
そう顔を真っ赤にしてイザック・ベルナールが声を荒らげるので、何をそんなに怒っているんだ?と思いながらも
「ええ、(小型魔獣が)頑張って威嚇しているのって可愛らしいと思いませんか?」
と、素直に答える。
すると視界に映っていたニコラ教官が崩れ落ちた。
「あはははっ!待ってそこまでにしておくれよ!私の腹筋が限界だよ!あはは!」
なんて涙を零しながら大爆笑するニコラ教官に内心首を傾げる。
何がそんなにツボだったのだろう?
「あっははぁ……はぁ、笑った笑った。いや、失礼、ベルナール君。でもね、今のを試合を見てその程度って言うのなら、所詮君も『その程度』って事だよ。」
と、表情を一転。酷く真剣に言うそのニコラ教官の気迫に、イザック・ベルナールが半歩後ずさった。
「剣はね、お遊びでも自己顕示の手段でもないんだよ。剣を持つっていう事は自分や大切な人の誰かを守る手段を手に入れると同時に誰かを殺す手段を得るって言うことなんだ。」
そう言って、よいしょとジジくさい掛け声をしながらニコラ教官は立ち上がる。
「多少のセンスの差はあれど、実力に貴族も平民も関係ないってのは分かっただろう?私は一応貴族の出身だけど、平民出身のロイ君はそんな私相手にここまで戦えた。」
ぐるりとクラスメイト全員の顔を見渡し、ニコラ教官は言葉を続けた。
「もちろん守る手段は何も剣だけじゃあない。だけど、平民である、ということを理由に諦めることだけは、私はしないで欲しいんだよ。」
ちょっとクサイかな、なんて言いながら先程の気迫はどこへやら。照れくさそうに頭を搔くその姿からはあの鋭い剣筋は想像できない。
(……にしても、この人もちゃんと教官だったんだなぁ……)
平民の学園進出が増えているとはいえ、まだまだ平民と上層階級の人間との差は大きい。
貧困差を減らそうと王がかなり尽力してはいるが、それに対して貴族の平民への差別意識は相当根強い。その逆も然りだ。所詮貴族だから、所詮平民だから、という思想は平民たちにも根付いている。
恐らく、ニコラ教官の見てきた生徒の中で、平民故に騎士を諦めその才能を活かせなかった人物も多かったのだろう。
今の発言からは平民だから、という理由で才能の芽を潰したくないという意図が読み取れる。
「じゃあ、授業はこれで終わり。解散解散!」
と、ニコラ教官が手を叩いて宣言したので、さっさとオリバーに肩を貸して、訓練場を後にする。
イザック・ベルナールにこれ以上絡まれても困るし。
今だに鋭く睨みつけるイザック・ベルナールの視線を無視して、僕たちは更衣室へと向かった。
従者としての意地でなんとか笑顔を保とうとするが、どうしても口角が引き攣る。
「……私では両手を使わせるだけに値しないと?」
「いやいやまさか!最初に言ったでしょ?実力を見たいってね。」
いやぁ、強いねぇなんてニコニコしながら、折れた木剣を腰に戻すニコラ教官。
相手にやる気がない以上、これ以上は暖簾に腕押しだと、僕も暗器を袖に仕舞った。
いつの間にか張り詰めていた訓練場の空気も、両者の武器が収められた事によりホッと緩んだのが分かる。1番分かりやすかったのはオリバーで、僕に怪我がなくてよかったと表情に安堵が滲んでいた。良い友人を持ったな、と少し口角が緩んだところで
「ハッ!卑怯にも足技まで出しておいて片手でいなされるなんて俺に偉そうなこと言っておいてその程度の実力じゃねぇか!」
と、明らかに嘲笑するイザック・ベルナールの声が響く。
「はぁ!?今ののどこがその程度なんだよ!?」
僕が反応するよりも先にオリバーが声を上げるが、イザック・ベルナールはそんなオリバーのことも鼻で笑った。
僕だけではなくオリバーも馬鹿にするその態度にはカチンと来たが、その後も一方的にずーっとギャンギャン騒ぐイザック・ベルナールを見ていたらだんだん必死に威嚇している小型魔獣に見えてきた。
人に飼い慣らされた小型魔獣の中には、大型の動物に向かってキャンキャン吠えて喧嘩を売るやつがいる。小さい体でぴょんぴょん飛んで威嚇する小型魔獣に、「えぇ……どうしよう……」というふうに困惑してされるがままになっている大型の動物の光景は中々ほっこりしてしまう。
まあ、人と共存している動物ではなくダンジョンにいるような大型魔獣にそんなことをしたら即行喰われて終わるので、ある意味野生を忘れた姿ではあるのだろうが。
ちなみにこの光景はダンジョン近くの居酒屋なんかでもよく見られる。冒険者がペットとして連れている小型魔獣が、居酒屋にいる番犬の大型犬に突っかかるなんて言うのは結構多いのだ。その時のワンちゃんの何とも言えない困った顔が、こう言うのも何だが中々に可愛い。
「お前もなにか言えよ!言われっぱなしで腹立たないのかよォ!?」
と、何故か僕以上に怒っているオリバーが、地団駄を踏むが、最早イザック・ベルナールが何を言っていたかもちゃんと聞いて居なかったので
「あぁ、すみません。(小型魔獣のことを思い出して)随分微笑ましい光景だな、と。」
と正直に答えれば、何故か場の空気が凍りついた。但しニコラ教官だけは吹き出した。咳払いで誤魔化してはいるが笑っているのがバレバレである。
「は、はぁ!?微笑ましいだと!?」
そう顔を真っ赤にしてイザック・ベルナールが声を荒らげるので、何をそんなに怒っているんだ?と思いながらも
「ええ、(小型魔獣が)頑張って威嚇しているのって可愛らしいと思いませんか?」
と、素直に答える。
すると視界に映っていたニコラ教官が崩れ落ちた。
「あはははっ!待ってそこまでにしておくれよ!私の腹筋が限界だよ!あはは!」
なんて涙を零しながら大爆笑するニコラ教官に内心首を傾げる。
何がそんなにツボだったのだろう?
「あっははぁ……はぁ、笑った笑った。いや、失礼、ベルナール君。でもね、今のを試合を見てその程度って言うのなら、所詮君も『その程度』って事だよ。」
と、表情を一転。酷く真剣に言うそのニコラ教官の気迫に、イザック・ベルナールが半歩後ずさった。
「剣はね、お遊びでも自己顕示の手段でもないんだよ。剣を持つっていう事は自分や大切な人の誰かを守る手段を手に入れると同時に誰かを殺す手段を得るって言うことなんだ。」
そう言って、よいしょとジジくさい掛け声をしながらニコラ教官は立ち上がる。
「多少のセンスの差はあれど、実力に貴族も平民も関係ないってのは分かっただろう?私は一応貴族の出身だけど、平民出身のロイ君はそんな私相手にここまで戦えた。」
ぐるりとクラスメイト全員の顔を見渡し、ニコラ教官は言葉を続けた。
「もちろん守る手段は何も剣だけじゃあない。だけど、平民である、ということを理由に諦めることだけは、私はしないで欲しいんだよ。」
ちょっとクサイかな、なんて言いながら先程の気迫はどこへやら。照れくさそうに頭を搔くその姿からはあの鋭い剣筋は想像できない。
(……にしても、この人もちゃんと教官だったんだなぁ……)
平民の学園進出が増えているとはいえ、まだまだ平民と上層階級の人間との差は大きい。
貧困差を減らそうと王がかなり尽力してはいるが、それに対して貴族の平民への差別意識は相当根強い。その逆も然りだ。所詮貴族だから、所詮平民だから、という思想は平民たちにも根付いている。
恐らく、ニコラ教官の見てきた生徒の中で、平民故に騎士を諦めその才能を活かせなかった人物も多かったのだろう。
今の発言からは平民だから、という理由で才能の芽を潰したくないという意図が読み取れる。
「じゃあ、授業はこれで終わり。解散解散!」
と、ニコラ教官が手を叩いて宣言したので、さっさとオリバーに肩を貸して、訓練場を後にする。
イザック・ベルナールにこれ以上絡まれても困るし。
今だに鋭く睨みつけるイザック・ベルナールの視線を無視して、僕たちは更衣室へと向かった。
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