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「君の動きはまるで玄人だねぇ。今のも軽い脅しに過ぎない。全然本気じゃなかっただろう?」
そう言って手を叩きながら訓練場に入ってきたのは剣術の指導を担当する教官、アダン・ニコラだ。軽く着崩した隊服には2本の木剣が左右の腰に携えられている。
「これはニコラ教官。お褒めいただきありがとうございます。しかしまだまだ私も未熟者。精進あるのみでございます。」
と、鋒を引き、柄の方をイザック・ベルナールに向け「はい、こちらお返しします。」と言えば数拍呆けた後、顔を真っ赤にして木剣を奪い取るようにひったくられた。
「ん~、正直君に教えることなんて無さそうだけどなぁ。君たち平民クラスの子って、中には小さい頃からダンジョンに潜って自分の戦闘スタイルを確立している子もいるでしょ?君の動きもそういう動きだ。」
確信のある物言いに、流石は教官になるだけの実力のある騎士だ、と思わず感心してしまう。
いや、僕のような若輩者が何を上からと思ってしまうが、実力がない者だと先程の僕の動きがお行儀のいい騎士のものなのか、獣を相手取った型にハマらない動きなのか、咄嗟に判断するのは難しい。
「私が教えるのはあくまで平民の君たちにも『騎士になる選択肢があるよ』って言うことだからねぇ。剣術の簡単な基礎と、心得。あとは捕縛術がメインになるから、君には必要ないだろう?上のクラスへ口利きしてあげようか?」
なんてニコニコと読めない笑顔で提案するニコラ教官に、
「いえ、別に騎士になるつもりはございませんのでこのままで構いません。」
と、僕は軽く首を横に振った。
「おやそうかい?王子に仕えるなら騎士でも別にいいと思うけど。」
「私はあくまでただの従者でございますので。」
正直魅力的なお誘いではあるが、僕のはギルドジョブ暗殺者の短剣や暗器をメインとした戦い方だ。所謂騎士道から外れた邪道の類。
上のクラスの者たち……幼い頃から騎士としての剣術を教わってきたお貴族様達とは合わないとわかっているからこそ、上のクラスに行ったところで軋轢を生むだけだ。
(それに、騎士の戦い方は僕の体格に向いていない。)
同じ冒険者でも剣豪エスポワールのように体格も筋肉もあれば話は別なのだろうが、僕のような筋肉が着きにくく、その育ち故骨の細い体格の者には騎士の戦い方は勝率が低い。
剣技に体重が乗らないからだ。
「まあ、君がそれでいいなら、それでいいけどねぇ。」
意志を変える気がないと分かったのか、ニコラ教官はあっさりと勧誘を引いた。
肩を竦めたあたり納得はしていないのだろうが。
「さてさて、初日から騒ぎを起こした問題児クラス達。まずは素振りの基礎から教えようかな。」
なんて軽口を叩きながら「はいはい1人1本ずつだよ~私の真似して2つ持っちゃダメだからねぇ~。」と木剣を持っていくように促す。
「……なぁ、本当に良かったのか?上のクラス行かなくて……」
と、オリバーが声を潜めて問いかけてくる。それに「私には騎士の戦い方は向かないですからね。余計な軋轢を生む必要はありません。」とあっさり答えれば、オリバーは「それならいーけどよ……」と肩の力を抜いた。
「それに、上のクラスは選択制で同じ貴族授業と言えどナテュール様は選択していませんし……」
「さてはお前そっちが本音だな??」
明確に答えずにっこりと笑って返せば「俺に気を使ってんのかと心配して損したわ……」とはあー、と息を吐き出した。
まさかオリバーがそんな事を思っていたとは思わず、僕は目を瞬かせる。
「ふふ、正直オリバーの事はこれっぽっちも考えていませんでしたね。」
「おい、ちょっとは気にしろよ。お前が居なくなったら俺ボッチになるだろーが。」
と唇を尖らせたオリバーに、そういえば彼は少し人見知りの気があったな、と思い至る。
「心配ないと思いますけどね。だって、オリバーは優しいですから。僕が居なければそれはそれですぐ友達が出来そうな気がします。」
そう本心からの言葉を言えば、何故かオリバーは怪訝そうに眉を寄せた。
「いや、お前と一緒に居たってだけで無理だろ……」
なんて失礼な事を言ってくるので「少なくとも私よりは友達できる確率高いと思いますが。」と言えば、「それは確かに。」と即答された。
****
「うんうん、最初の時より素振りもだいぶ様になってきたんじゃないかな。少し早いけど終わりにしようか。」
ニコラ教官の言葉に、汗をダラダラと流すオリバーは「やっと終わった……」と、木剣を持ったまま、地面に座り込んだ。
柔和な態度からは想像がつかないほど、ニコラ教官は指導に関してかなり厳しい人だった。
素振り1つに対しても、姿勢、重心の置き方、その構え。少しでも崩してしまえば厳しい叱責が飛んだ。
生活のためにギルド登録はしてあっても剣などまともに振るったことのない生徒は皆息も絶え絶えに地面に座り込んでいる。慣れない動きに筋肉が悲鳴をあげているのだろう。オリバーも腕と足がぷるぷる震えているので、指でつついたら「やめろまじで……」と力無く怒られた。
「……にしても、アイツ……自信満々に突っかかっただけはあるよな……」
そう言ってオリバーが視線を向けたのは、汗をかきつつも、大して息を乱していないイザック・ベルナールだ。
それこそ最初はいくつかの叱責が飛んでいたが、流石はギルマスが指導しているだけあり、直ぐに正しい姿勢で素振りをこなしていた。
「基礎の大切さは理解しているようですからね。(実戦と経験を積めば)いずれは強くなれるのでは?」
「汗ひとつかいてないお前にそこまで言わせるとは……いや、周りからしたら圧倒的実力者が『強くなれたらいいですね(笑)』って言ってる副音声が聞こえてる。絶対なんか重要な部分を端折ってるだろお前。」
汗まみれで体力も限界のくせに失礼なことを言ってくるのでその背中を木剣でつつく。
「やめろやめろ、地味にチクチクするんだわそれ。」と喚くオリバーを無視して地味な嫌がらせを続けた。流石にそこまで深読みされないだろ。
「さて、まだ少し時間もあるし、ロイ君。私と1戦やろうか。 」
「……は??」
オリバーの背中を絶妙な力加減で突くことに集中していたら、ニコラ教官からとんでもない言葉が飛んできて、思わずガラの悪い返事が口から零れた。
そう言って手を叩きながら訓練場に入ってきたのは剣術の指導を担当する教官、アダン・ニコラだ。軽く着崩した隊服には2本の木剣が左右の腰に携えられている。
「これはニコラ教官。お褒めいただきありがとうございます。しかしまだまだ私も未熟者。精進あるのみでございます。」
と、鋒を引き、柄の方をイザック・ベルナールに向け「はい、こちらお返しします。」と言えば数拍呆けた後、顔を真っ赤にして木剣を奪い取るようにひったくられた。
「ん~、正直君に教えることなんて無さそうだけどなぁ。君たち平民クラスの子って、中には小さい頃からダンジョンに潜って自分の戦闘スタイルを確立している子もいるでしょ?君の動きもそういう動きだ。」
確信のある物言いに、流石は教官になるだけの実力のある騎士だ、と思わず感心してしまう。
いや、僕のような若輩者が何を上からと思ってしまうが、実力がない者だと先程の僕の動きがお行儀のいい騎士のものなのか、獣を相手取った型にハマらない動きなのか、咄嗟に判断するのは難しい。
「私が教えるのはあくまで平民の君たちにも『騎士になる選択肢があるよ』って言うことだからねぇ。剣術の簡単な基礎と、心得。あとは捕縛術がメインになるから、君には必要ないだろう?上のクラスへ口利きしてあげようか?」
なんてニコニコと読めない笑顔で提案するニコラ教官に、
「いえ、別に騎士になるつもりはございませんのでこのままで構いません。」
と、僕は軽く首を横に振った。
「おやそうかい?王子に仕えるなら騎士でも別にいいと思うけど。」
「私はあくまでただの従者でございますので。」
正直魅力的なお誘いではあるが、僕のはギルドジョブ暗殺者の短剣や暗器をメインとした戦い方だ。所謂騎士道から外れた邪道の類。
上のクラスの者たち……幼い頃から騎士としての剣術を教わってきたお貴族様達とは合わないとわかっているからこそ、上のクラスに行ったところで軋轢を生むだけだ。
(それに、騎士の戦い方は僕の体格に向いていない。)
同じ冒険者でも剣豪エスポワールのように体格も筋肉もあれば話は別なのだろうが、僕のような筋肉が着きにくく、その育ち故骨の細い体格の者には騎士の戦い方は勝率が低い。
剣技に体重が乗らないからだ。
「まあ、君がそれでいいなら、それでいいけどねぇ。」
意志を変える気がないと分かったのか、ニコラ教官はあっさりと勧誘を引いた。
肩を竦めたあたり納得はしていないのだろうが。
「さてさて、初日から騒ぎを起こした問題児クラス達。まずは素振りの基礎から教えようかな。」
なんて軽口を叩きながら「はいはい1人1本ずつだよ~私の真似して2つ持っちゃダメだからねぇ~。」と木剣を持っていくように促す。
「……なぁ、本当に良かったのか?上のクラス行かなくて……」
と、オリバーが声を潜めて問いかけてくる。それに「私には騎士の戦い方は向かないですからね。余計な軋轢を生む必要はありません。」とあっさり答えれば、オリバーは「それならいーけどよ……」と肩の力を抜いた。
「それに、上のクラスは選択制で同じ貴族授業と言えどナテュール様は選択していませんし……」
「さてはお前そっちが本音だな??」
明確に答えずにっこりと笑って返せば「俺に気を使ってんのかと心配して損したわ……」とはあー、と息を吐き出した。
まさかオリバーがそんな事を思っていたとは思わず、僕は目を瞬かせる。
「ふふ、正直オリバーの事はこれっぽっちも考えていませんでしたね。」
「おい、ちょっとは気にしろよ。お前が居なくなったら俺ボッチになるだろーが。」
と唇を尖らせたオリバーに、そういえば彼は少し人見知りの気があったな、と思い至る。
「心配ないと思いますけどね。だって、オリバーは優しいですから。僕が居なければそれはそれですぐ友達が出来そうな気がします。」
そう本心からの言葉を言えば、何故かオリバーは怪訝そうに眉を寄せた。
「いや、お前と一緒に居たってだけで無理だろ……」
なんて失礼な事を言ってくるので「少なくとも私よりは友達できる確率高いと思いますが。」と言えば、「それは確かに。」と即答された。
****
「うんうん、最初の時より素振りもだいぶ様になってきたんじゃないかな。少し早いけど終わりにしようか。」
ニコラ教官の言葉に、汗をダラダラと流すオリバーは「やっと終わった……」と、木剣を持ったまま、地面に座り込んだ。
柔和な態度からは想像がつかないほど、ニコラ教官は指導に関してかなり厳しい人だった。
素振り1つに対しても、姿勢、重心の置き方、その構え。少しでも崩してしまえば厳しい叱責が飛んだ。
生活のためにギルド登録はしてあっても剣などまともに振るったことのない生徒は皆息も絶え絶えに地面に座り込んでいる。慣れない動きに筋肉が悲鳴をあげているのだろう。オリバーも腕と足がぷるぷる震えているので、指でつついたら「やめろまじで……」と力無く怒られた。
「……にしても、アイツ……自信満々に突っかかっただけはあるよな……」
そう言ってオリバーが視線を向けたのは、汗をかきつつも、大して息を乱していないイザック・ベルナールだ。
それこそ最初はいくつかの叱責が飛んでいたが、流石はギルマスが指導しているだけあり、直ぐに正しい姿勢で素振りをこなしていた。
「基礎の大切さは理解しているようですからね。(実戦と経験を積めば)いずれは強くなれるのでは?」
「汗ひとつかいてないお前にそこまで言わせるとは……いや、周りからしたら圧倒的実力者が『強くなれたらいいですね(笑)』って言ってる副音声が聞こえてる。絶対なんか重要な部分を端折ってるだろお前。」
汗まみれで体力も限界のくせに失礼なことを言ってくるのでその背中を木剣でつつく。
「やめろやめろ、地味にチクチクするんだわそれ。」と喚くオリバーを無視して地味な嫌がらせを続けた。流石にそこまで深読みされないだろ。
「さて、まだ少し時間もあるし、ロイ君。私と1戦やろうか。 」
「……は??」
オリバーの背中を絶妙な力加減で突くことに集中していたら、ニコラ教官からとんでもない言葉が飛んできて、思わずガラの悪い返事が口から零れた。
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