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青年の首根っこを掴みあげたまま、ナテュール様の命に従い、口を開く。
「ルーカス様が影響力が少ないとはいえ第7王子であるナテュール様との交友を持ち、その従者は小さな商家といえど、下町で長く、そして地方への交易を続けているジャクソン家と交友関係。焦ったのでしょう。王族やエドワーズ家と関係の無い商家へのコネクションを広げて行って、公爵家にとって利のある人間になられるのが。」
そう淡々と説明すれば、徐々にルーカス様の顔色が悪くなっていく。
自分が疎まれている自覚はあっても交友関係ひとつで手を回されるなんて思っていなかったのだろう。これは貴族独特の嫌がらせだ。
「そうはいっても跡継ぎは他にいないだろうに。」
と、ナテュール様が呆れたように言葉を吐き捨てる。
「これから産むつもりなのでは?年齢の関係でルーカス様が跡を継いだとしても無能としてすぐに引きずり下ろすために、コネクションを広げられると困るのでしょう。」
そこまで言えばナテュール様は額にその指を添え、「だからってここまでするなんて……」と、先程よりも呆れを含んだ声を零す。
「公爵夫人は生家も公爵家ですからね。平民なんてちょっと脅せばすぐ逃げる、とでも思ったのでしょう。」
そう言って肩を竦めれば、ルーカス様が慌ててオリバーに頭を下げた。
「ご、ごめんね、オリバーくん。ボクの家のゴタゴタに巻き込んじゃって……」
「え、あ、いえ別に……って言えたらいいんですけど、流石に実家にまで手出されると困るので早めに対処出来ればして頂けると助かります……」
「う、うん……でもどうすれば……」
正直言えばルーカス様に公爵夫人を止めるだけの力はまだない。
本人もそれがわかっているからこそ、何も言えずに部屋には沈黙が落ちる。
「ロイ。何か意見はないか?」
ふいにパッとナテュール様が顔を上げ、僕に視線を向けた。
そんなナテュール様の問いかけに、僕は顎に指を添えて、少し思考に時間を割いた後に口を開いた。
「そうですね……正直言いますと今は静観で良いかと。」
そう言えば、ルーカス様は目を見開いて、「それはどうして?」と首を傾げる。
「この者が逮捕されたところで公爵夫人は学園の警備体制が凄かった、くらいにしか考えないでしょうし。平民のオリバーに何度も警備万端な学園に刺客を送るほど執着はしないでしょう。公爵夫人がどれほど焦り、ルーカス様の交友関係をどの程度制限したいと望んでいるかにもよりますが、今すぐどうこうする、ということはないはずです。」
「まあ、同室である以上、オリバーとロイの交流を断つっていうのも現実的では無いしな。」
ナテュール様の言葉に僕も同意するように頷く。
まあ、これはあくまで公爵夫人がそこまでルーカス様の排除に躍起になっていない場合の話だ。とはいえ、なりふり構わずルーカス様の失脚を狙うのなら、平民を脅して手を引かせるなんて言う地味で陰湿な、まるで嫌がらせのような手法は取らないだろう。
「まあ、最悪私の名前を使って脅してもいいですし。」
と、ぼそりと言葉を零せば、「……は?」とナテュール様が不可解そうに片眉を上げた。
「……し、し、漆黒の暗殺者の方の名前です。剣豪程では無いですが、敵には回したくないはずです。貴族は冒険者のことを見下してはいますが、敵対すると厄介だということくらいは分かっているので。」
自分から言うのは気が引けて、少しどもってしまう。
本当に、どうして漆黒の暗殺者なんて小っ恥ずかしい通り名が付いてしまったのか!
恥ずかしさ故にもぞもぞと居心地悪くいると、何故かオリバーが、僕の肩をポンポン叩き
「お前も人間だったんだな……!」
「いや最初から人間ですけど??」
ものすごく失礼なことを言ってきた。
「そうだけどよぉ……ほら『立てば悪役、座ればラスボス、歩く姿は犯罪者』な、お前に恥ずかしいなんていう感情があったんだなって思ってよ……」
「くっそ失礼ですねもう1発いります?」
青年の首根っこを掴みあげていない方の手で握り拳を作れば、「それは勘弁!」とオリバーはささっと離れてルーカス様の後ろに隠れてしまった。
それに、わざとらしくため息をついて見せながら、青年を持ち直す。
「一先ず、本日は解散致しましょう。先にこの者を引き渡してきます。お2人は御身の安全のため、私が戻ってきてから、貴族棟へと送らせていただきます。」
そう告れば、ナテュール様はしっかりと頷いて「頼んだ。」と言葉をかけてくださった。
初めて言われたナテュール様からの「頼む」という類の言葉に思わず全力で「はい!!!」と叫んでしまったが、こればかりは仕方ない。
窓から青年を掴んだまま飛び降り、そのまま衛兵の駐屯地に運び、簡単に説明をした後に、すぐさま平民棟の壁を勢いをつけて駆け上がる。
「ただいま戻りました!」
と、過去最短時間記録で窓から戻れば、何故かナテュール様だけではなく3人全員が頭を抱えており、僕は思わず首を傾げた。
「お前やっぱ人間辞めてるわ。」
なんてどこか死んだ目をしたオリバーに言われたので、とりあえずオリバーは一発殴っておいた。
「ルーカス様が影響力が少ないとはいえ第7王子であるナテュール様との交友を持ち、その従者は小さな商家といえど、下町で長く、そして地方への交易を続けているジャクソン家と交友関係。焦ったのでしょう。王族やエドワーズ家と関係の無い商家へのコネクションを広げて行って、公爵家にとって利のある人間になられるのが。」
そう淡々と説明すれば、徐々にルーカス様の顔色が悪くなっていく。
自分が疎まれている自覚はあっても交友関係ひとつで手を回されるなんて思っていなかったのだろう。これは貴族独特の嫌がらせだ。
「そうはいっても跡継ぎは他にいないだろうに。」
と、ナテュール様が呆れたように言葉を吐き捨てる。
「これから産むつもりなのでは?年齢の関係でルーカス様が跡を継いだとしても無能としてすぐに引きずり下ろすために、コネクションを広げられると困るのでしょう。」
そこまで言えばナテュール様は額にその指を添え、「だからってここまでするなんて……」と、先程よりも呆れを含んだ声を零す。
「公爵夫人は生家も公爵家ですからね。平民なんてちょっと脅せばすぐ逃げる、とでも思ったのでしょう。」
そう言って肩を竦めれば、ルーカス様が慌ててオリバーに頭を下げた。
「ご、ごめんね、オリバーくん。ボクの家のゴタゴタに巻き込んじゃって……」
「え、あ、いえ別に……って言えたらいいんですけど、流石に実家にまで手出されると困るので早めに対処出来ればして頂けると助かります……」
「う、うん……でもどうすれば……」
正直言えばルーカス様に公爵夫人を止めるだけの力はまだない。
本人もそれがわかっているからこそ、何も言えずに部屋には沈黙が落ちる。
「ロイ。何か意見はないか?」
ふいにパッとナテュール様が顔を上げ、僕に視線を向けた。
そんなナテュール様の問いかけに、僕は顎に指を添えて、少し思考に時間を割いた後に口を開いた。
「そうですね……正直言いますと今は静観で良いかと。」
そう言えば、ルーカス様は目を見開いて、「それはどうして?」と首を傾げる。
「この者が逮捕されたところで公爵夫人は学園の警備体制が凄かった、くらいにしか考えないでしょうし。平民のオリバーに何度も警備万端な学園に刺客を送るほど執着はしないでしょう。公爵夫人がどれほど焦り、ルーカス様の交友関係をどの程度制限したいと望んでいるかにもよりますが、今すぐどうこうする、ということはないはずです。」
「まあ、同室である以上、オリバーとロイの交流を断つっていうのも現実的では無いしな。」
ナテュール様の言葉に僕も同意するように頷く。
まあ、これはあくまで公爵夫人がそこまでルーカス様の排除に躍起になっていない場合の話だ。とはいえ、なりふり構わずルーカス様の失脚を狙うのなら、平民を脅して手を引かせるなんて言う地味で陰湿な、まるで嫌がらせのような手法は取らないだろう。
「まあ、最悪私の名前を使って脅してもいいですし。」
と、ぼそりと言葉を零せば、「……は?」とナテュール様が不可解そうに片眉を上げた。
「……し、し、漆黒の暗殺者の方の名前です。剣豪程では無いですが、敵には回したくないはずです。貴族は冒険者のことを見下してはいますが、敵対すると厄介だということくらいは分かっているので。」
自分から言うのは気が引けて、少しどもってしまう。
本当に、どうして漆黒の暗殺者なんて小っ恥ずかしい通り名が付いてしまったのか!
恥ずかしさ故にもぞもぞと居心地悪くいると、何故かオリバーが、僕の肩をポンポン叩き
「お前も人間だったんだな……!」
「いや最初から人間ですけど??」
ものすごく失礼なことを言ってきた。
「そうだけどよぉ……ほら『立てば悪役、座ればラスボス、歩く姿は犯罪者』な、お前に恥ずかしいなんていう感情があったんだなって思ってよ……」
「くっそ失礼ですねもう1発いります?」
青年の首根っこを掴みあげていない方の手で握り拳を作れば、「それは勘弁!」とオリバーはささっと離れてルーカス様の後ろに隠れてしまった。
それに、わざとらしくため息をついて見せながら、青年を持ち直す。
「一先ず、本日は解散致しましょう。先にこの者を引き渡してきます。お2人は御身の安全のため、私が戻ってきてから、貴族棟へと送らせていただきます。」
そう告れば、ナテュール様はしっかりと頷いて「頼んだ。」と言葉をかけてくださった。
初めて言われたナテュール様からの「頼む」という類の言葉に思わず全力で「はい!!!」と叫んでしまったが、こればかりは仕方ない。
窓から青年を掴んだまま飛び降り、そのまま衛兵の駐屯地に運び、簡単に説明をした後に、すぐさま平民棟の壁を勢いをつけて駆け上がる。
「ただいま戻りました!」
と、過去最短時間記録で窓から戻れば、何故かナテュール様だけではなく3人全員が頭を抱えており、僕は思わず首を傾げた。
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なんてどこか死んだ目をしたオリバーに言われたので、とりあえずオリバーは一発殴っておいた。
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