悪役従者

奏穏朔良

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「金?王宮で働いていたならそれなりの給金が出ていたはずだろ?」

足りなかったのか?と疑問に首を傾げるナテュール様に「あ、いえ、そういう訳ではなくて……」と、やんわり否定を口にした。

「王への交渉でナテュール様の従者になれなかった時のことを考え、貴族に配る賄賂用のお金が欲しくて……」
「俺の事大好き過ぎないかお前???」
「はい!!」

ナテュール様のお言葉に全力で肯定すると、ルーカス様が「わぁ、今日1番の弾ける笑顔。」と苦笑を漏らした。
しかし、すぐ様あれ?と小首を傾げる。

「でも、ナテュールくんの従者になれたならそれからも続けてた理由は?今もギルドの任務こなしてるよね?」
「1番は戦闘力の向上と、ナテュール様に万が一があったときの生活手段のためですね。」

ルーカス様の疑問は最もだ。
僕は口を開き、更に言葉を続けた。

「王宮を出た後ナテュール様が不自由なく暮らすにはやはりある程度の地盤があった方が動きやすいので。黒いローブで身元を分からなくしているのも、ナテュール様の従者が冒険者をしていると気づかせないためです。」

と、そこまで答えればナテュール様が「なるほどな……」と顎に指を添えた。

「確かに、有事の際に隠れ蓑と確たる収入源があるというのは心強いな……」

そんなナテュール様の言葉にルーカス様は「保険として立場を残していたってことね。なるほどなるほど。」と何度か深く頷いた。

「ただ、エスポワールにはナテュール様の家庭教師をお願いした際に私が冒険者だということは知られています。」
「エスポワールに?」
「ええ。エスポワールは元子爵子息ではありますが、本業は冒険者なので、そこからの縁で家庭教師を依頼しました。」

そこまで言えば冒険者に詳しいルーカス様は思い当たる人物がいるようで、「え、まさか!?」とその手を口に当てた。

「もしかしてそのエスポワールさんってあの剣豪のこと!?」

そう声を上げたルーカス様の言葉に、床に沈んでいたオリバーも「まじか!?」と顔を上げる。

「ええ、S級冒険者の剣豪エスポワールです。」
「ええええナテュールくん剣豪に勉強みてもらったの!?羨ましい!!」

僕の肯定の言葉にルーカス様が飛び上がる勢いでナテュール様に「いいないいなぁ!」と詰め寄る。普段は比較的大人しいルーカス様の年相応な様子にナテュール様が僅かに目を見開く。

「そ、そんなに有名なのか……?」
「知らないの!?剣豪エスポワールは国の英雄だよ!?元々S級として長く冒険者のトップに君臨してたんだけど、特に有名になったのは3年前!災害級のブラックドラゴンの群れをひとりで、しかも剣1本で討伐したんだ!」

と、瞳を輝かせて語るルーカス様のご様子に、クスリと小さな笑みがこぼれる。

「まああの剣はマジックソードでミスリル製なので、ただの剣ではありませんが。ちなみにその時討ち損なったブラックドラゴンを代わりに討ち、命を助けたので対価にナテュール様の家庭教師を依頼しました。」

そう、言葉を紡げば、何故か場がシンッ……と静まり返り、僕は僅かに首を傾げる。

「お前バカか!?英雄の命救っておいて頼むことが俺の家庭教師!?」
「お言葉ですが、ナテュール様の家庭教師として彼ほどの適任者は居ませんでした。」

僕に詰め寄るナテュール様の後ろで、そそくさと床に伸びるオリバーに近づいてしゃがみ込んだルーカス様はコソコソと内緒話をするように、「ねぇ、今の話だとブラックドラゴンしれっと討伐してたよね?」「え、ですよね??なんてことないように言ってますけどナイフ暗殺者用武器でブラックドラゴン討伐してますよね??」と、2人して化け物を見るかのような視線をこちらに向けてくる。失礼な。

僕はコホン、と1つ咳払いしてから、しっかりとナテュール様の瞳を見やった。

「ブラックドラゴンの功績もあり、エスポワールには王ですらおいそれと口を出せない状況でした。下手なことをすればギルドも国民も敵に回るからです。だからこそ、下手な横槍や妨害なく、エスポワールはナテュール様の家庭教師が出来たのです。」

まあ、1部の側室はナテュール様のようにエスポワールの事が分からず、平民の、しかも汚らしい冒険者に教育を頼むしか出来なかった哀れな王子、と思われているが、王、そして正妃はエスポワールの顔を知っているので、正直気が気じゃなかっただろう。

「そ、それはそうかもしれないが……」

と、ナテュール様はなおも食い下がろうとしたが、そのお言葉も気絶させた侵入者が僅かに呻いたことによって口内へと消えていった。

「あ、これはこれは私としたことが。拷も……尋も……お話し合いをすっかり忘れておりました。申し訳ありません。」
「誤魔化しきれてないぞ。」

ナテュール様のお言葉に、微笑んで誤魔化せば、ナテュール様は小さく息を吐いて「そもそもこいつ、お前のこと知っていたが知り合いか?」と床に転がる青年を指さした。

「いえ。恐らくギルドでローブ姿の私を見たことがあるのでしょう。返り血が面倒だな、と先程の捕縛に向かった際はローブを着て対面したので。」

そう言いながら再度青年の頬をペチペチと叩き、その意識を浮上させる。

再び意識を取り戻した青年は、逃げようとしているのか縛られたまま床でうごうごと水をかけられた芋虫のようにうごめき始めた。

「クソクソクソ……!聞いてねぇぞこんなの!俺はちょっとジャクソン商会の子供を脅かすだけだって聞いてたのに……!漆黒の暗殺者アサシンが相手なんて命がいくらあったって足りねぇよ!」

と、聞くまでもなくベラベラ喋って床に蠢く青年のその言葉に、自然とオリバーへ全員の視線が向けられる。

「えっ、俺……??」

ようやく床から起き上がったオリバーは自分に人差し指を向けて、ぽかんとその口を開けていた。
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