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目の前には腕を組んで悩ましい顔をしているナテュール様が立っている。
本来ならこんな平民の寮部屋にナテュール様が足を踏み入れるなどあってはならない。用があるのならば僕がすぐさまナテュール様の元へ飛んでいくべきなのに、ナテュール様に「ステイ。」と言われてしまったのだから、僕が勝手に動く訳にもいかない。
こんなことならもっと念入りに、それこそオリバーのスペースも全部綺麗に掃除しておくべきだった……!
「あー……まあ、色々聞きたいことはあるんだが……」
「はい、何なりとお聞きください!」
ピッと背筋を伸ばし、ナテュール様の方へと顔を向ける。
「まず、なんでロイはオリバーの胸ぐらを掴んでいるんだ?」
「ステイと言われましたので!」
「あの時からそのままの姿勢でいるのか!?離してやれ!?」
ナテュール様のご指示なのでしぶしぶオリバーの胸ぐらを掴む手を緩めればオリバーが「助かった……!」なんて言いながら深く息を吸い呼吸を整えている。大袈裟な、掴んでただけでそんなに持ち上げてないだろ。
「その、ロイ。お前は……その、志願して俺の従者になったのか……?」
言葉に迷っているのか、視線をさ迷わせながら、口篭るようにそう問うた。
それに僕は「なぜ今更そんなことを?」と内心首を傾げながらも
「はい、国王に直談判させていただき、恐れ多くもナテュール様の従者を務めさせて頂いております。」
そうしっかり答える。
すると何故かナテュール様は深く息を吐き捨てた。
「目的は?」
「目的……ですか?」
「こんな忌み嫌われた敗戦国の血が入った第7王子の従者に志願した目的だよ。」
一瞬、何を言われているのか分からなかった。
ナテュール様がご自身の出自を気になさっている事は知っていたが、ここまではっきりと言葉にしてご自身を貶すなんて……
思わず、ナテュール様の魅力100選を熱弁したくなったが、流石にナテュール様に引かれそうなので言葉をグッと飲み込み、
「目的など特にございません。ナテュール様が健やかにお過ごしになる事が私の幸せでございますので。」
と、従者らしく平静を装い言葉を並べる。安心させるための笑顔も忘れない。
すると何故か、ナテュール様だけではなく、ルーカス様やオリバーまで顔を顰めた。
「うーん、胡散臭い……」
「怪しさ満点。」
「建前はいいから本心答えろよ。」
「どうしてこんなにも疑われているんです??」
何故か3者から出される怒涛とダメ出しに、若干従者の面が剥がれかける。
「やっぱさ、ロイ。従者モードになるとただの怪しいラスボス少年なんだよ。」
「怪しいラスボス少年とは……??」
オリバーの言葉に、何故か何度も頷くルーカス様。ナテュール様に至ってはどこか複雑そうな顔をしている。
「あー、あのさ、ロイ。ナテュール様が健やかにお過ごしにって、具合的にどんな感じなわけ?」
と、ふいにオリバーが話を掘り下げてきた。
ナテュール様へと視線を向ければ「ありのまま話せ。」とのご命令を頂いたので、僕は深く息を吸い込んで、
「まず第一として身体の健康が上げられます。誰にも害されることなく、程よい運動を取り入れつつ、成長期に必要な栄養素をしっかりとって頂き、質の良い睡眠を提供したいです。以前は断られましたが、出来ることなら毛先からつま先まで全てを私が徹底管理し、磨き上げたい所存です。見てくださいこのナテュール様の美しい金色の御髪を。既に輝かしいばかりの金色の御髪を、更に磨き上げ更に美しくすることができるなんて最早至高だと思うのです。次に精神面での健康です。ナテュール様のお心を傷つけるものは可能な限り排除し、余計なトラブルに巻き込まれないように対応しつつ、ナテュール様の望まれることはできる限り叶えたいと思っております。本当ならナテュール様を害する存在なぞこの世に存在する価値がないので全てあの世に送りたい所ですが、如何せん無駄に身分の高いやつらは葬るのが難しく……現状物理的距離をとるしか方法が無いことが悔やまれます。」
一息に言葉として吐き出した。
ナテュール様は何故か頬を引き攣らせ、オリバーは深いため息をつく。
「それから……」
「あ、ごめん、もういいよ。」
「まだ1割も言えてないのですが??」
「嘘だろ今の1割にも満たってないの???」
再びため息をついたオリバーは、「これでお分かりでしょう?」とナテュール様とルーカス様へと向き直った。
「こいつは気持ち悪いんです。」
「喧嘩なら買いますけど。」
「あ、間違えた。気持ち悪いくらいナテュール様大好きなんです。」
「それは否定しません。」
否定しないんだ……とルーカス様が苦笑を漏らすが、ナテュール様が大好きな事はこの世界が存在していると同じくらい当然のことなので否定する理由がない。
「なら、俺へのあの嫌味は何だったんだ。」
「嫌味……?」
ナテュール様の言葉を脳が理解出来ず、その場で固まる。
嫌味?僕が、ナテュール様に???
「言葉遣いがなっていないだの、マナーを忘れたのかだの、散々嫌味を言ってきただろ。ルーカスにだって、私生児だの下町のことを引き合いに出して嫌味を言ってたじゃないか。」
そう言ってフンッと鼻を鳴らしたナテュール様。
ナテュール様の仰った言葉を脳内で反芻し、ようやく意味を理解した時、僕はすぐさま隠し持っていた暗器を自分の首に向けた。
「死してお詫び申し上げます!!!」
「わーーーーー!!!辞めろ辞めろ!!お前はどうしてそう極端なんだよ!?」
「離せオリバー!ナテュール様は嫌味を言われたと苦しまれて……!僕の存在を消すしかない!!!」
「お!ち!つ!け!!」
意外にも素早いオリバーにすぐさま羽交い締めにされ、自害は阻止されたが、僕自身がナテュール様を害したとなれば、最早僕に存在意義は無い。
離せ離せと喚く僕に、ナテュール様は「自害するなら全て話してからにしろ。」と仰られたので、僕はしぶしぶ暗器を手放した。
本来ならこんな平民の寮部屋にナテュール様が足を踏み入れるなどあってはならない。用があるのならば僕がすぐさまナテュール様の元へ飛んでいくべきなのに、ナテュール様に「ステイ。」と言われてしまったのだから、僕が勝手に動く訳にもいかない。
こんなことならもっと念入りに、それこそオリバーのスペースも全部綺麗に掃除しておくべきだった……!
「あー……まあ、色々聞きたいことはあるんだが……」
「はい、何なりとお聞きください!」
ピッと背筋を伸ばし、ナテュール様の方へと顔を向ける。
「まず、なんでロイはオリバーの胸ぐらを掴んでいるんだ?」
「ステイと言われましたので!」
「あの時からそのままの姿勢でいるのか!?離してやれ!?」
ナテュール様のご指示なのでしぶしぶオリバーの胸ぐらを掴む手を緩めればオリバーが「助かった……!」なんて言いながら深く息を吸い呼吸を整えている。大袈裟な、掴んでただけでそんなに持ち上げてないだろ。
「その、ロイ。お前は……その、志願して俺の従者になったのか……?」
言葉に迷っているのか、視線をさ迷わせながら、口篭るようにそう問うた。
それに僕は「なぜ今更そんなことを?」と内心首を傾げながらも
「はい、国王に直談判させていただき、恐れ多くもナテュール様の従者を務めさせて頂いております。」
そうしっかり答える。
すると何故かナテュール様は深く息を吐き捨てた。
「目的は?」
「目的……ですか?」
「こんな忌み嫌われた敗戦国の血が入った第7王子の従者に志願した目的だよ。」
一瞬、何を言われているのか分からなかった。
ナテュール様がご自身の出自を気になさっている事は知っていたが、ここまではっきりと言葉にしてご自身を貶すなんて……
思わず、ナテュール様の魅力100選を熱弁したくなったが、流石にナテュール様に引かれそうなので言葉をグッと飲み込み、
「目的など特にございません。ナテュール様が健やかにお過ごしになる事が私の幸せでございますので。」
と、従者らしく平静を装い言葉を並べる。安心させるための笑顔も忘れない。
すると何故か、ナテュール様だけではなく、ルーカス様やオリバーまで顔を顰めた。
「うーん、胡散臭い……」
「怪しさ満点。」
「建前はいいから本心答えろよ。」
「どうしてこんなにも疑われているんです??」
何故か3者から出される怒涛とダメ出しに、若干従者の面が剥がれかける。
「やっぱさ、ロイ。従者モードになるとただの怪しいラスボス少年なんだよ。」
「怪しいラスボス少年とは……??」
オリバーの言葉に、何故か何度も頷くルーカス様。ナテュール様に至ってはどこか複雑そうな顔をしている。
「あー、あのさ、ロイ。ナテュール様が健やかにお過ごしにって、具合的にどんな感じなわけ?」
と、ふいにオリバーが話を掘り下げてきた。
ナテュール様へと視線を向ければ「ありのまま話せ。」とのご命令を頂いたので、僕は深く息を吸い込んで、
「まず第一として身体の健康が上げられます。誰にも害されることなく、程よい運動を取り入れつつ、成長期に必要な栄養素をしっかりとって頂き、質の良い睡眠を提供したいです。以前は断られましたが、出来ることなら毛先からつま先まで全てを私が徹底管理し、磨き上げたい所存です。見てくださいこのナテュール様の美しい金色の御髪を。既に輝かしいばかりの金色の御髪を、更に磨き上げ更に美しくすることができるなんて最早至高だと思うのです。次に精神面での健康です。ナテュール様のお心を傷つけるものは可能な限り排除し、余計なトラブルに巻き込まれないように対応しつつ、ナテュール様の望まれることはできる限り叶えたいと思っております。本当ならナテュール様を害する存在なぞこの世に存在する価値がないので全てあの世に送りたい所ですが、如何せん無駄に身分の高いやつらは葬るのが難しく……現状物理的距離をとるしか方法が無いことが悔やまれます。」
一息に言葉として吐き出した。
ナテュール様は何故か頬を引き攣らせ、オリバーは深いため息をつく。
「それから……」
「あ、ごめん、もういいよ。」
「まだ1割も言えてないのですが??」
「嘘だろ今の1割にも満たってないの???」
再びため息をついたオリバーは、「これでお分かりでしょう?」とナテュール様とルーカス様へと向き直った。
「こいつは気持ち悪いんです。」
「喧嘩なら買いますけど。」
「あ、間違えた。気持ち悪いくらいナテュール様大好きなんです。」
「それは否定しません。」
否定しないんだ……とルーカス様が苦笑を漏らすが、ナテュール様が大好きな事はこの世界が存在していると同じくらい当然のことなので否定する理由がない。
「なら、俺へのあの嫌味は何だったんだ。」
「嫌味……?」
ナテュール様の言葉を脳が理解出来ず、その場で固まる。
嫌味?僕が、ナテュール様に???
「言葉遣いがなっていないだの、マナーを忘れたのかだの、散々嫌味を言ってきただろ。ルーカスにだって、私生児だの下町のことを引き合いに出して嫌味を言ってたじゃないか。」
そう言ってフンッと鼻を鳴らしたナテュール様。
ナテュール様の仰った言葉を脳内で反芻し、ようやく意味を理解した時、僕はすぐさま隠し持っていた暗器を自分の首に向けた。
「死してお詫び申し上げます!!!」
「わーーーーー!!!辞めろ辞めろ!!お前はどうしてそう極端なんだよ!?」
「離せオリバー!ナテュール様は嫌味を言われたと苦しまれて……!僕の存在を消すしかない!!!」
「お!ち!つ!け!!」
意外にも素早いオリバーにすぐさま羽交い締めにされ、自害は阻止されたが、僕自身がナテュール様を害したとなれば、最早僕に存在意義は無い。
離せ離せと喚く僕に、ナテュール様は「自害するなら全て話してからにしろ。」と仰られたので、僕はしぶしぶ暗器を手放した。
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