悪役従者

奏穏朔良

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6(ナテュール視点)

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『というかお前本当にナテュール様大好きだよな。』
『当たり前だろ!?僕はあの方のために生きているんだぞ!!?』

と、オリバーの言葉に被せる勢いで肯定を口にするロイに『重い重い重い……』とオリバーの引いたような声が聞こえてくる。

『あの美しく輝く御髪に、深く広大な海のような御目。そして人々に恩恵を与える小麦のような肌……!最早神なのでは??』
『お前一応元神官見習いだろ……国教はどうした……』

「……なんか、ものすごく熱烈だね。」

ルーカスが苦笑をこぼすも、俺は曖昧にしか返事が出来なかった。
忌み嫌われるこの容姿をそんなふうに表現されるのは初めてだったし、何より、これが本当にロイの素であるのならば、今まで俺やルーカスに言ってきたあの嫌味の数々は一体何だったのか。

悶々と解消できない想いを抱えつつも向こう側の会話はどんどん進んでいく。

『あぁ、僕無神教だから。』
『神殿の出なのに!?嘘だろ!?』
『神殿とかクソ喰らえー!』
『まあ、気持ちはわかるけど……』

と、軽い口調で神殿批判を口にするロイとオリバー。
ロイはプリーストを名乗っている分、熱心な信者なのだろうと思っていたが、どうやらそれも違うらしい。

『あんなの禁欲語った変態しかいないしな。回復ポーションのレシピ独占してるだけで、別に神官しか作れないわけじゃないし。』

「……は??」

なんてことないような口で告げられた内容に思わず低い声が漏れる。
ルーカスも錆びたブリキのようにギギギと変に力が入ったままこちらへと顔を向け、

「……い、い、今、凄い機密軽く口にしなかった……?」

と魔法具を指さした。その顔は蒼くなり嫌な汗が流れている。
それは向こうで直接聞いていたオリバーも同じようで

『……ちょ、ちょ、ちょ、お前今なんて言った……?』

と、どこか震えた声が魔法具越しに聞こえてきた。

『ん?あんなの禁欲語った変態しかいない?』
『あ、いや、それも気になるけどその後!』
『ああ、別に回復ポーションって神官しか作れないわけじゃないよ?』

淡々と告げるロイの言葉に俺は思わず、手で顔を覆った。
勘弁してくれ、これを知ってしまったが故に神殿から本格的に狙われたらたまったもんじゃない。俺は命の価値が軽い第7王子なんだぞ。

『嘘だろ!?神に祈りを捧げ認められた者しか作れないのが回復ポーションだろ!?』
『いや別に。レシピさえ知ってれば誰でも作れるよ。毒消しポーションや痺れ止めポーションと同じ同じ。』
『まじかよ……』

あっさりと告げられる衝撃の真実に、ルーカスも「ああ、母さん……ボクは親不孝者になるかも……神殿に殺されたらごめん……!」と頭を抱えた。

つまり、神殿が回復ポーションを独占することにより莫大な利益と権力を得ているということだ。
神殿の上層は完全に腐りきっているので、その利益を守るためなら子供の1人2人など、簡単に消しにかかるだろう。

『え、これ知っちまった俺もしかして消される……?』

オリバーも同じ結論に至ったらしく、先程よりも震えた声が魔法具から聞こえてきた。

『自分で回復ポーション作って売れば神殿に消されるね。』

と、これまたあっさり肯定したロイに、魔法具の向こうから『おい俺小さな商家の平民だぞ!?そんなやべぇ話きかせるなよ!』と、叫ぶオリバーと何かを大きく揺するような物音が聞こえた。恐らくロイが揺さぶられているのだろう。

『売らなきゃ大丈夫だって。まず僕と違って君はレシピ自体は知らないし。』

先程から変わらず淡々と言葉を重ねるロイに、段々俺達も荒れていた心が静まるのを感じる。ロイがずっと同じペースで話すからこそ、余計に落ち着くのが早かった気がする。

多分いつものロイで、目の前で顔を合わせながらだったら怪しすぎて余計に落ち着かないやつだ。

『……ってことは、お前は知ってんのか?』

そう恐る恐る尋ねたオリバーに、

『もちろん。』

と、ロイはあっさり肯定を口にする。
あまりの軽さにこいつ実は事態をわかっていないんじゃないかと疑ってしまう。

しかし、そんな俺の心情と反して

『ナテュール様の従者となるため、王に直接交渉した時の材料として必要だったしね。』

ロイから出てきた言葉はあまりにも予想外のものだった。

「王と……直接交渉?」

まさか、ロイは俺の所に志願してきたのか?
いや、そんなのありえない。
忌み嫌われた第7王子だぞ。

従者になったところで何のメリットもない。

こちらの困惑も、オリバーの困惑も、まるっと無視してロイはなおも言葉を続けた。

『いくら仮の家名付きと言えど、いきなり僕みたいな孤児が第7とはいえ王子の従者になれる訳ないでしょ?ナテュール様の従者になるために、王には神殿への交渉カードという名の弱みをいっぱい売り込んでおいた。』

「……な、なんでだよ、そんな、そこまでして、俺の従者になって、何になるんだよ……」

神殿の弱み。ああ、確かに内部の人間なら知ることもできるだろう。だが、ロイが俺の従者になったのはまだ11歳の時。宮内に勤めだしたのは10になる前だと聞いた。
そんな幼いただの神官見習いが、神殿の弱みを、ましてやこの国の王と交渉できるだけの情報を得るなど、一体どれほど危険な事か。

それに、回復ポーションの話は王もご存知ということは、ここ最近、回復ポーションの値段が下がりつつあるというのはあながち嘘ではないということなのだろう。
恐らく王から値段を下げねば、そのレシピを使って宮内で作り出して国民に与えるとでも言ったのだろう。そうなれば利益を独占したい神殿は従うしかない。

高値の回復ポーションが買えずに、死んでしまう市民や冒険者たちからすればロイは讃えられでもおかしくないだけの功績を上げたことになる。

それなのに、それほどの情報を使って願ったことが、俺の従者になること?

ふざけているとしか思えない。
それこそ、何らかの目的で近づいてきたと考える方が納得がいく。

もしかして、この素を見せたようにしている今の出来事全てがロイの策略なのではないか?

俺の動揺する姿を案じて、ルーカスが「大丈夫……?」と背中をさすってくれるが、ぐるぐると現状と疑念が胸中を掻き乱して吐きそうだった。
 
『お前……本当に……なんでその……報われないの……?』

と、ロイに対してのオリバーの言葉でさえ、何故ロイを理解してやらないのか、という俺に対しての責めの言葉に思えて唇を噛む。

『遠回しにナテュール様に嫌われてるって言うのやめてもらっていいですぅ???』

なんてロイも軽く返しているが、散々俺に粗雑に扱われて、内心はどうだったのだろうか。嫌われていると自覚していても、なおもただ慕い続けるというのは一体、どれほどの……

『そんなお前にとってもいいチャンスだと思ってさ。』
『……ん?』
『実は今の会話、魔法具通してナテュール様も聞いている。』
『……は???』

不意のカミングアウトに、向こう側の音が静まった。

(……聞きたいことは沢山ある。言いたいことも……でも、何を先に言えば……)

迷いながらも、こちら側の音声が届くように魔法具のスイッチを押したその瞬間だった。

『……スゥッ……お前を殺して僕も死ぬ!!!!』
『ア゙ーーーー!!ヘルプヘルプです!ナテュール様!!!』

「ステイ!ステイ!!ロイ!!!」

散々迷って困って悩んでいたのに、ロイのせいで犬を叱るみたいな台詞が飛び出す羽目になってしまった。
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