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48(警察視点)
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水面下で明確な悪意が動き始める一方で、刑事である代田は、個人でチャトランガの真相を追っていた。
紅葉組逮捕の後始末が未だ残っているが、代田はその紅葉組逮捕のきっかけとなった抗争自体がチャトランガ、そしてシヴァが仕組んだ事では無いかと睨んでいる。
だからこそ、このまま有耶無耶にただの暴力団との抗争事件として終わらせる訳にはいかない。
(……恐らく警察内部にもシヴァの力が及んでいる。)
ただの構成員なのか、それとも幹部クラスが紛れ込んでいるのかわからないが、内通者がいると考えれば辻褄が合うのだ。
捜査をのらりくらりと躱されるのも、短大生殺人事件の容疑者が突然チャトランガについて黙ったことも。
1人なのか、はたまた複数人いるのか。
全容はまだ見えないが、恐らく生活安全課内、もしくはそこに近い人間に内通者が存在する。
そう確信したからこそ、代田は一人でチャトランガを追うことにしたのだ。
個人で追う以上、警察の名を使って捜査することはできない。
そのため、代田は裏の情報屋から情報を買うことにした。
だが、情報屋は首を縦に振らなかった。
それどころか「いくら積まれようともその情報だけは売らねぇよ。」とまで言われてしまった。
「おめぇも刑事さんならこの街の犯罪率の推移わかってんだろ?」
と、煙草の煙を燻らせながら薄らと笑う情報屋。
「……確かに、チャトランガの存在が囁かれるようになってから犯罪率は緩やかに低下している。」
「そういうこった。」
ふぅ、と吐き出された紫煙が空に揺れ、情報屋は「あそこは手を出さない方がいい。」とさらに告げた。
「裏社会は今静かなもんさ。」
「騒がしい方が儲かるんじゃないのか?」
「儲けねぇ……シヴァ様見ちまうと、そんなチンケな事どうでも良くなるってもんさ。」
すでに生活に困らない貯えはあるしな、と笑う情報屋に「会ったことがあるのか?」と問えばすんなり首肯される。それを詳しく聞こうと金を出せば、手でやんわりと拒否された。
本人に関することは売る気がないらしい。
「どうしようもねぇ大人に育てられてどうしようもねぇ大人になっちまう餓鬼もいる。逃げた先でどうしようもねぇ大人に捕まってどうしようもねぇ人生歩むやつもいる。裏ってのはそういう奴らの集まりさ。」
そう脈絡もなく淡々と告げる情報屋に、刑事として苦いものが込み上げる。情報屋の言うどうしようもねぇ大人。彼らを救えなかったのはきっと警察に他ならない。
「そんなどうしようもねぇ奴らにすら救いを与え、居場所を与え、裏社会の恐れる闇を休息の夜闇に変えたのがシヴァ様さ。」
だったらこのまま静かな闇に微睡んでいたいのだ、と情報屋は煙草を携帯灰皿に突っ込んだ。
(……これじゃ本当に神のようじゃねぇか。)
結局、シヴァとチャトランガに関しては空振り。
分かったことといえば裏社会がじわじわとチャトランガ、そしてシヴァという存在に信仰を寄せ始めているということだけだ。
ただの人間が、ここまで盲信されるものだろうか?
洗脳の類?
いや、だとしたらこれほどまで不特定多数を洗脳することは可能なのだろうか。
しかも、厄介なのは彼らチャトランガは決して宗教団体では無いというところだ。
宗教団体でもないのに、まるで救いの神のように崇め信仰されるチャトランガのシヴァ。
その得体の知れなさよ。
(頼みの情報屋もダメってなりゃ、やっぱ地道に自分の足で探すしかねぇか。)
懐から手帳を取り出し、今集まっている情報を記入する。とはいえ、1ページにも満たない僅か数行で終わるような情報しか手元に無いのが現状だ。
虚しさとやるせなさを誤魔化すように手帳を閉じた。
(1番気になるのはあの松野とかいう少年だ。)
野々本春が上司と仰ぐあの少年。
野々本の声明文を見れば彼が三叉槍という名の幹部の可能性が1番高い。
だが、それを断言するには槍の異名を持つ里田大樹の存在が大きすぎる。
(……糸口はここしかねぇ。)
松野翔、野々本春。そして里田大樹。
この3人の誰か、もしくは全員がチャトランガと関わっているかもしれない。
とにかく調べてみるしかない、と代田は裏路地からビルの光に照らされる大通りへと足を踏み込んだ。
紅葉組逮捕の後始末が未だ残っているが、代田はその紅葉組逮捕のきっかけとなった抗争自体がチャトランガ、そしてシヴァが仕組んだ事では無いかと睨んでいる。
だからこそ、このまま有耶無耶にただの暴力団との抗争事件として終わらせる訳にはいかない。
(……恐らく警察内部にもシヴァの力が及んでいる。)
ただの構成員なのか、それとも幹部クラスが紛れ込んでいるのかわからないが、内通者がいると考えれば辻褄が合うのだ。
捜査をのらりくらりと躱されるのも、短大生殺人事件の容疑者が突然チャトランガについて黙ったことも。
1人なのか、はたまた複数人いるのか。
全容はまだ見えないが、恐らく生活安全課内、もしくはそこに近い人間に内通者が存在する。
そう確信したからこそ、代田は一人でチャトランガを追うことにしたのだ。
個人で追う以上、警察の名を使って捜査することはできない。
そのため、代田は裏の情報屋から情報を買うことにした。
だが、情報屋は首を縦に振らなかった。
それどころか「いくら積まれようともその情報だけは売らねぇよ。」とまで言われてしまった。
「おめぇも刑事さんならこの街の犯罪率の推移わかってんだろ?」
と、煙草の煙を燻らせながら薄らと笑う情報屋。
「……確かに、チャトランガの存在が囁かれるようになってから犯罪率は緩やかに低下している。」
「そういうこった。」
ふぅ、と吐き出された紫煙が空に揺れ、情報屋は「あそこは手を出さない方がいい。」とさらに告げた。
「裏社会は今静かなもんさ。」
「騒がしい方が儲かるんじゃないのか?」
「儲けねぇ……シヴァ様見ちまうと、そんなチンケな事どうでも良くなるってもんさ。」
すでに生活に困らない貯えはあるしな、と笑う情報屋に「会ったことがあるのか?」と問えばすんなり首肯される。それを詳しく聞こうと金を出せば、手でやんわりと拒否された。
本人に関することは売る気がないらしい。
「どうしようもねぇ大人に育てられてどうしようもねぇ大人になっちまう餓鬼もいる。逃げた先でどうしようもねぇ大人に捕まってどうしようもねぇ人生歩むやつもいる。裏ってのはそういう奴らの集まりさ。」
そう脈絡もなく淡々と告げる情報屋に、刑事として苦いものが込み上げる。情報屋の言うどうしようもねぇ大人。彼らを救えなかったのはきっと警察に他ならない。
「そんなどうしようもねぇ奴らにすら救いを与え、居場所を与え、裏社会の恐れる闇を休息の夜闇に変えたのがシヴァ様さ。」
だったらこのまま静かな闇に微睡んでいたいのだ、と情報屋は煙草を携帯灰皿に突っ込んだ。
(……これじゃ本当に神のようじゃねぇか。)
結局、シヴァとチャトランガに関しては空振り。
分かったことといえば裏社会がじわじわとチャトランガ、そしてシヴァという存在に信仰を寄せ始めているということだけだ。
ただの人間が、ここまで盲信されるものだろうか?
洗脳の類?
いや、だとしたらこれほどまで不特定多数を洗脳することは可能なのだろうか。
しかも、厄介なのは彼らチャトランガは決して宗教団体では無いというところだ。
宗教団体でもないのに、まるで救いの神のように崇め信仰されるチャトランガのシヴァ。
その得体の知れなさよ。
(頼みの情報屋もダメってなりゃ、やっぱ地道に自分の足で探すしかねぇか。)
懐から手帳を取り出し、今集まっている情報を記入する。とはいえ、1ページにも満たない僅か数行で終わるような情報しか手元に無いのが現状だ。
虚しさとやるせなさを誤魔化すように手帳を閉じた。
(1番気になるのはあの松野とかいう少年だ。)
野々本春が上司と仰ぐあの少年。
野々本の声明文を見れば彼が三叉槍という名の幹部の可能性が1番高い。
だが、それを断言するには槍の異名を持つ里田大樹の存在が大きすぎる。
(……糸口はここしかねぇ。)
松野翔、野々本春。そして里田大樹。
この3人の誰か、もしくは全員がチャトランガと関わっているかもしれない。
とにかく調べてみるしかない、と代田は裏路地からビルの光に照らされる大通りへと足を踏み込んだ。
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