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33(神島洸太視点)

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ちなみに、芝崎が何故「この人、友達。」という発言に至ったのか。それは道端で寝こけて拉致られたなんて恥ずかしくて言えない!精神から飛び出たものである。

芝崎はすでにチャトランガに声明が送られていることを知らないため、今なら誤魔化せる、と
「友達。たまたま会ったからここに来た。それだけ。」

この設定を無理やり押し通した。

これをサーンプ達は「またこの御人は……」と呆れながらもその言い分を飲んだだけで、もちろん友人設定など信じてはいない。
上手く誤魔化せたと思っているのは芝崎だけである。
いい加減気づけ。


****


そんなおマヌケシヴァ様が誘拐された時、サーンプである神島洸太がアジトの前で三叉槍トリシューラである里田大樹と鉢合わせたのは偶然だった。

「あれ?サーンプ、お前今日講義で遅くなるんじゃなかったのかよ。」
「そのつもりだったんだが、少し気になる情報が太鼓ダマルから上がってきたからな。サボった。」
太鼓ダマルからの情報って絶対ろくな情報じゃねぇじゃねぇか……」

そう顔をしかめる里田に、「少なくともいい情報ではないな。」と、俺、神島洸太は肩を竦めてみせる。

「里田、お前の知り合いに紅葉組、もしくは対立している牡丹組の構成員はいるか?」
「紅葉組ぃ?紅葉組なら野々本の方が知ってんだろ。確かあそこは青龍から入るやつも多かったぞ。牡丹組はなぁ……1人2人はいるかもしれねぇな……調べるか?」

その里田の言葉に頷く。昨夜太鼓ダマルから上がってきた情報、それは紅葉組がチャトランガに目をつけているかもしれない、というものだった。

「どうやら、警察側では紅葉組とチャトランガが手を組むことを懸念しているらしい。」
「はぁー?チャトランガがあんなやつらと組むわけねぇじゃん!」
「だが、警察は俺たちの情報をほとんど持っていない。分からないからこそ警戒しているんだろ。」
「そーいうもんか?」

どこか納得いかない顔をしている里田。
そんな里田に「そういうもんだ。」と適当に言葉を返す。

「それに、紅葉組がチャトランガと組みたい理由はいくつもある。同じように警戒した牡丹組がどう動くかも予想できない。」
「なるほどな……牡丹組からしてみればチャトランガが紅葉組につけば真っ先に潰される対立組織……よし、知り合いに当たって調べてみる。俺の知り合いじゃなくても知り合いの知り合いにいるかもしれねぇ。」
「頼んだ。」

そんな会話をしながら、幹部の部屋である一室に2人で向かっていたその時だった。
ガシャーンッ!と思わず耳を塞ぎたくなるような、ガラスが砕ける音が響いたのは。
音の方角から、窓ガラスが割れたのは使っていない一室だろう。

すぐさま里田が駆け出し、ワンテンポ遅れて俺も走り出した。

足の早い里田はすぐに件の部屋にたどり着き、割れた窓ガラスの散らばるそこにしゃがみこんでいた。そして、俺が追いついたことに気がつくと、ひらひらと1枚の写真を揺らして見せる。

「……おい、サーンプ。俺ら、一足遅かったみてぇだぞ。」

シヴァ様が拘束されている、その写真を。


そこから俺たちの行動は早かった。
この場にいない幹部にも連絡を回し、日向にはスマートフォンで撮影した写真を送り、シヴァ様が拘束されているであろう大まかな場所を割り出してもらう。
まだ学校が終わったばかりだろうに、シヴァ様のためなら、とその場でノートパソコンを開き、解析してくれた日向はものの数十秒で場所を割り出してくれた。

『細い窓からの光の角度での割り出しだから、あまり当てにならないかもしれないけれど……あとこの範囲での監禁しやすそうな廃ビルや廃墟をピックアップしておいたわ。今サーンプ三叉槍トリシューラのスマホに送信しておいた。』

そう電話の向こうで日向が報告したタイミングで俺たち2人のスマートフォンにメールが届く。

「すまない、ありがとう。」
『シヴァ様のためよ。念の為私はこのままアジトに向かうわ。』 
「頼んだ。」

受話器のマークをタップし通話を切れば、里田は送られてきたマップの一部を見せてきた。

「この廃ビル、最近人の出入りがあるって話を聞いたんだ。もしかしたら、紅葉組か牡丹組の構成員かもしんねぇ。」
「とりあえず、そこに行くぞ。」

候補地が多い以上、虱潰しに候補を潰していくしかない。
ナディ達が他のメンバーに声を掛けてくれるだろうが、構成メンバーに学生が多い以上、すぐに動けない者も多い。

だからこそ、一発目でシヴァ様の監禁場所と思われる廃ビルを見つけられたのは奇跡だった。
運ですらチャトランガの、シヴァ様の味方であるのだ。

「おい、あの見張り……気絶してねぇか?」

見つからないように注意を払いながら廃ビルに近づけば、入口の見張りであろう人物が地面に倒れ伏していた。
チャトランガの下っ端からは報告が上がっていない。
幹部でも実際動いているのは俺と里田の2人だけ。そうなれば、考えられることはひとつだ。

「……まずい、既に別のグループが仕掛けてきているかもしれない!行くぞ里田!」
「ったく、てめぇも大概血気盛んだよなぁ!!」


****

結論から言えば、シヴァ様はお怪我をされているどころか相手を返り討ちにしていた。
しかも、誘拐犯である牡丹組のボスを友達と説明して、襲ってきた紅葉組の構成員のために救急車まで呼ぶなんて慈悲が深すぎる。流石シヴァ様。 

「こんなもん持ち出さなくても何とかなっちまったな。」

と笑って拳銃を器用にクルクル回す里田。見た目こそは本物に近いが中身は麻酔銃だ。流石に本物を購入すると警察に足がつくし、そもそも拳銃はチャトランガの方針から外れてしまう人の命を奪う道具だ。あくまで相手の無力化のための改造銃。ちなみに俺は電気銃みたいなものを持っている。見た目だけ拳銃のスタンガンのようなものだ。

「一応、相手が相手だったからな……」

蓋を開けてみれば呆気ないものだったが。
誘拐してのが牡丹組の方だったのは意外だったが、これを機に同盟という風に話が纏まったので恐らくシヴァ様はこうなると分かっていたのだろう。きっと、紅葉組の動向を知ってそうなるように誘導していたに違いない。

「おい、オメーら。後のことはとりあえずうち牡丹組がなんとかしとく。ひとまず帰れ。巻き込まれただけの高校生がいつまでも居たら不自然だろーが。」

そう言って親指で出口を指し示す牡丹組のボス。
シヴァ様はすでに用はないと言わんばかりに歩き出していた。

「……シヴァ様の慈悲、お忘れなきよう。」

シヴァ様にその気がないだけでお前らなんて何時でも潰せるんだからな、と遠回しに釘を刺せば、「わーってるよ。」と牡丹組のボスは苦笑を漏らした。
その態度から彼にはもう敵対する意思がないことがわかる。

恐らく彼も『魅せられた』のだろう。シヴァ様の、そのカリスマ性に。


こうして、牡丹組との同盟と共に誘拐事件は終わりを迎えた。
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