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騎士隊長と黒髪の青年
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莉人は第一騎士団の執務室で疲れ切った顔をしていた。
「大丈夫ですか?リヒト」
グレースに珈琲を入れてもらい一息つく。執務室には莉人とグレースの二人だけだった。
あの日以来、莉人の側にいて離れないアシュレイにいささか辟易していた。そんな莉人を見かねたグレースが、アシュレイを『いい加減に隊長としての仕事をして下さい』と嗜め、他の3名と共に市井へと任務に出向いていた。
隊長であるアシュレイだが、グレースの有無を言わせぬ笑みの圧力には敵わないらしい。
第一騎士団は主に貴族の不正や犯罪を取り締まる部隊で、特に爵位が上の公爵家が関わってくると、いくら騎士団といえど手が出せないが、その点アシュレイは王家の血筋を引く者という事もあり、そういった事案を取り扱うのだとグレースが説明をしてくれた。
莉人はグレースの淹れてくれた珈琲に口をつける。
忙しそうに書類に目を通しているグレースの前で、一人手持ち無沙汰に珈琲を飲んでいるのは少し気が引ける。かと言って、一人で出歩く事も出来ないのだが···。
「何か手伝える事でもあるといいんだけど····」
この世界に来て仕事らしい仕事をしていない。最初は仕事もなくのんびり出来ていいなと思っていた莉人だったが、その考えはたった数日で覆る事になるとは思わなかった。今まで深夜の残業が当たり前なほど仕事をしていた莉人にとって、何もする事のない時間は苦痛以外の何物でもない。
「そうですね·····第一は取り扱う事案が事案だけに人数が限られているんですよね。だから書類に手が回らずあの惨状で」
と、グレースはアシュレイの座る机の上に視線を向けた。相変わらず書類が乱雑に山積みになっている。
「本当は書類の整理を手伝って欲しいところですが·····リヒトはこの国の文字が書けますか?」
グレースに問われ、莉人は小首を傾げた。
そう言えば、彼らの言語は日本語ではないのに、話している事は日本語のように耳に入ってくるし、日本語でしか話していない莉人の言葉も彼らに通じている。ならば文字はどうだろうか····。
莉人はグレースに書類の一枚を借りた。
受け取った書類に視線を落とす。
一見アラビア文字にも見えるようなこの国の文字が並ぶ書類だが、そんな文字の上に薄っすらと小さく日本語がある事に気づく。自分の為にルビでもふられているのかと一瞬思ってしう。
「あの····この文字の上に買いてあるのって···」
日本語の部分を指差しながらグレースに書類を見せるが、
「?何も書いてありませんが····」
不思議そうな顔に自分だけがこの文字が見えている事を知る。ならば、書く場合はどうなるのだろうか。少しわくわくしながら白い紙とペンを手に取り試しに『美味しい珈琲ありがとう』と書いてみた。
莉人がペンを滑らせ書いていく端から文字が消え、この国の文字が紙の上に現われる。そして先程の書類と同様、莉人の書いた日本語がルビのように浮かび上がった。
「えっ、どうなって···??」
思わず紙を凝視してしまった莉人だが、魔法の存在する国だ。多少、不思議な事が起こっても可怪しくないのか、と納得する事にした。なんにせよ読み書きが不自由なく出来るのであれば有り難い。
「とりあえず書いてみたんですけど···俺の字読めますか?」
紙をグレースに手渡す。文字を見たグレースは目を喜々として莉人を見た。
「手本のように綺麗な文字を書きますね。それなら、案件毎にまとめて渡すので取りまとめてもらえますか?」
「俺で出来る事なら····」
「お願いします。これで少しは私の負担が減ります」
莉人の返事にグレースは上機嫌で書類を仕分け始めた。
「大丈夫ですか?リヒト」
グレースに珈琲を入れてもらい一息つく。執務室には莉人とグレースの二人だけだった。
あの日以来、莉人の側にいて離れないアシュレイにいささか辟易していた。そんな莉人を見かねたグレースが、アシュレイを『いい加減に隊長としての仕事をして下さい』と嗜め、他の3名と共に市井へと任務に出向いていた。
隊長であるアシュレイだが、グレースの有無を言わせぬ笑みの圧力には敵わないらしい。
第一騎士団は主に貴族の不正や犯罪を取り締まる部隊で、特に爵位が上の公爵家が関わってくると、いくら騎士団といえど手が出せないが、その点アシュレイは王家の血筋を引く者という事もあり、そういった事案を取り扱うのだとグレースが説明をしてくれた。
莉人はグレースの淹れてくれた珈琲に口をつける。
忙しそうに書類に目を通しているグレースの前で、一人手持ち無沙汰に珈琲を飲んでいるのは少し気が引ける。かと言って、一人で出歩く事も出来ないのだが···。
「何か手伝える事でもあるといいんだけど····」
この世界に来て仕事らしい仕事をしていない。最初は仕事もなくのんびり出来ていいなと思っていた莉人だったが、その考えはたった数日で覆る事になるとは思わなかった。今まで深夜の残業が当たり前なほど仕事をしていた莉人にとって、何もする事のない時間は苦痛以外の何物でもない。
「そうですね·····第一は取り扱う事案が事案だけに人数が限られているんですよね。だから書類に手が回らずあの惨状で」
と、グレースはアシュレイの座る机の上に視線を向けた。相変わらず書類が乱雑に山積みになっている。
「本当は書類の整理を手伝って欲しいところですが·····リヒトはこの国の文字が書けますか?」
グレースに問われ、莉人は小首を傾げた。
そう言えば、彼らの言語は日本語ではないのに、話している事は日本語のように耳に入ってくるし、日本語でしか話していない莉人の言葉も彼らに通じている。ならば文字はどうだろうか····。
莉人はグレースに書類の一枚を借りた。
受け取った書類に視線を落とす。
一見アラビア文字にも見えるようなこの国の文字が並ぶ書類だが、そんな文字の上に薄っすらと小さく日本語がある事に気づく。自分の為にルビでもふられているのかと一瞬思ってしう。
「あの····この文字の上に買いてあるのって···」
日本語の部分を指差しながらグレースに書類を見せるが、
「?何も書いてありませんが····」
不思議そうな顔に自分だけがこの文字が見えている事を知る。ならば、書く場合はどうなるのだろうか。少しわくわくしながら白い紙とペンを手に取り試しに『美味しい珈琲ありがとう』と書いてみた。
莉人がペンを滑らせ書いていく端から文字が消え、この国の文字が紙の上に現われる。そして先程の書類と同様、莉人の書いた日本語がルビのように浮かび上がった。
「えっ、どうなって···??」
思わず紙を凝視してしまった莉人だが、魔法の存在する国だ。多少、不思議な事が起こっても可怪しくないのか、と納得する事にした。なんにせよ読み書きが不自由なく出来るのであれば有り難い。
「とりあえず書いてみたんですけど···俺の字読めますか?」
紙をグレースに手渡す。文字を見たグレースは目を喜々として莉人を見た。
「手本のように綺麗な文字を書きますね。それなら、案件毎にまとめて渡すので取りまとめてもらえますか?」
「俺で出来る事なら····」
「お願いします。これで少しは私の負担が減ります」
莉人の返事にグレースは上機嫌で書類を仕分け始めた。
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