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役員室を後にした高瀬はエレベーターへと向かった。
何故、常務はあのΩの言う事に耳を傾けるのか···。
分からない、と高瀬は重い溜め息を吐いた。
西園寺グループを継ぐ者が番となるΩの言葉ひとつに振り回されるなんて···あってはならない
新井の言っていた言葉が頭の中で重なる。
「やはり常務は間違っておられる···」
ぽつりと高瀬は呟いた。
彼が余計な事をするから自分は常務からの信頼を失う事になったのだ
彼が大人しく番になると言っていれば···
高瀬は鞄の中に入ったままの、新井から渡された薬の存在を思い出す。
新井は去り際に、会長はお前に期待していると言っていた。
「会長は···私に期待···している···」
小さな声で高瀬は呟く。
そうだ。
私は···本当は期待されるような存在なんだ。
常務はあのΩの彼に惑わされて、平常な判断を失っておられるだけだ···。
「会長の評価の方が···私の正当な評価だ···。会長が···正しい···会長が···」
いつの間にかボソボソと呟く小声が高瀬の口から漏れていた。独り言を呟きながら廊下を歩いていく高瀬の雰囲気は声をかけづらい陰鬱な影が纏わりついていた。
常務に早く気づいて頂かなくては ────··
斗真のマンションに着いた高瀬は柚月のいるリビングに戻り、仕事を続けられる事を彼に伝えた。
「······まさか···本当に···?」
会長の決定を覆してまで仕事がしたいと言っていたわりに、柚月の反応は少し戸惑っているようだった。
常務がどこまで思い通りに動くのか試しているのか?番になりたくないとか言っていたし···まさか、ただ困らせたくて言っているだけとか?
もし、そうであるなら許せない。そのお陰で自分は常務に咎められ、評価も下がったというのに。
高瀬は反応の薄い柚月の態度に苛立ちを覚えた。
だが、表情には出さず、にこやかな笑みを浮かべた。
「はい、常務の秘書から柚月さんの職場に連絡がいっている筈ですので···上司の方から連絡が来ると思いますよ」
連絡という言葉にスマホを見ようとした柚月はスマホを自室に置きっぱなしにしていた事に気づく。
「すみません、確認してきます」
リビングを慌てて出ていく柚月の背を見送った後、高瀬は立ち上がりダイニングテーブルに近寄った。
テーブルの上には今朝、渡した抑制剤の薬袋が置かれている。
高瀬はまだ柚月が戻ってくる気配がない事を確認すると、スーツの上着のポケットから新井から渡された薬を取り出した。そして薬だけを入れ替え、元の場所へと戻す。
私は間違っていない···
高瀬はスマホを取り出すと『明日、服用されます』と新井へメールを送った。
何故、常務はあのΩの言う事に耳を傾けるのか···。
分からない、と高瀬は重い溜め息を吐いた。
西園寺グループを継ぐ者が番となるΩの言葉ひとつに振り回されるなんて···あってはならない
新井の言っていた言葉が頭の中で重なる。
「やはり常務は間違っておられる···」
ぽつりと高瀬は呟いた。
彼が余計な事をするから自分は常務からの信頼を失う事になったのだ
彼が大人しく番になると言っていれば···
高瀬は鞄の中に入ったままの、新井から渡された薬の存在を思い出す。
新井は去り際に、会長はお前に期待していると言っていた。
「会長は···私に期待···している···」
小さな声で高瀬は呟く。
そうだ。
私は···本当は期待されるような存在なんだ。
常務はあのΩの彼に惑わされて、平常な判断を失っておられるだけだ···。
「会長の評価の方が···私の正当な評価だ···。会長が···正しい···会長が···」
いつの間にかボソボソと呟く小声が高瀬の口から漏れていた。独り言を呟きながら廊下を歩いていく高瀬の雰囲気は声をかけづらい陰鬱な影が纏わりついていた。
常務に早く気づいて頂かなくては ────··
斗真のマンションに着いた高瀬は柚月のいるリビングに戻り、仕事を続けられる事を彼に伝えた。
「······まさか···本当に···?」
会長の決定を覆してまで仕事がしたいと言っていたわりに、柚月の反応は少し戸惑っているようだった。
常務がどこまで思い通りに動くのか試しているのか?番になりたくないとか言っていたし···まさか、ただ困らせたくて言っているだけとか?
もし、そうであるなら許せない。そのお陰で自分は常務に咎められ、評価も下がったというのに。
高瀬は反応の薄い柚月の態度に苛立ちを覚えた。
だが、表情には出さず、にこやかな笑みを浮かべた。
「はい、常務の秘書から柚月さんの職場に連絡がいっている筈ですので···上司の方から連絡が来ると思いますよ」
連絡という言葉にスマホを見ようとした柚月はスマホを自室に置きっぱなしにしていた事に気づく。
「すみません、確認してきます」
リビングを慌てて出ていく柚月の背を見送った後、高瀬は立ち上がりダイニングテーブルに近寄った。
テーブルの上には今朝、渡した抑制剤の薬袋が置かれている。
高瀬はまだ柚月が戻ってくる気配がない事を確認すると、スーツの上着のポケットから新井から渡された薬を取り出した。そして薬だけを入れ替え、元の場所へと戻す。
私は間違っていない···
高瀬はスマホを取り出すと『明日、服用されます』と新井へメールを送った。
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