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     ジークバルト

 ハルのピアノは凄かった。
 歌も。
 あんな綺麗な声聞いた事ない。
 いつもの声も、可愛いが、あの声は透き通ってて、天使かと思った。
 
 ハルが楽しそうに、幸せそうな顔をしてピアノを弾く姿が、綺麗で可愛くて、愛しい。
 
 一緒に聞いていた神父が
 「ジーク、本当に素晴らしい番だな。」
 「あぁ、本当にハルで良かった。」
 「早く囲い込まんと、もう番ったのか」
 「~って、おい、なんて事言うんだ!」
 「は?まだか、、まぁ無理もないな。」
 「なんでだよ!」
 「そりゃお前、あんなちっこい子に、出来るのか?
 「ぐぅぅ、、そのなのか?やっぱり?」
 「はははっ!んな訳ないだろうが。番だからな、ちゃんと、出来る。」
 「そ、そうか。」
 いやいやいや!
 今は、ハルをちゃんと見ておかないと!

 ハルのピアノを聴いた人々は、いい笑顔だ。
 本当に、心が洗われる。
 ハルが、領民や子供達の為に自分に何が出来るのかと、考えていたから、きっとこの領民達の笑顔を見て、ハルは嬉しいだろう。
 ハルの笑顔が、俺も皆も、幸せにしてくれる。
 本当に幸せ過ぎて、胸が熱くなる。
 ハル、愛してるよ。
 俺に幸せをくれた愛しいハル。
 さぁ、ハルを迎えに行こうか。
 
 


 屋敷に帰るまでの馬車の中で、ハルは、嬉しくてしょうがないんだろうが、あまりはしゃぎ過ぎると、また、前のように、体調を崩してしまうかもしれないから、大人しく俺の腕の中にいる。

 ふっ、可愛い。
 話をしながら、ウトウトと、瞼がゆっくり閉じていく。
 その瞼に、キスを落としながら、
 「ハル、お疲れ様。ゆっくりおやすみ」
 その言葉に、ハルは軽く頷くと、すぐに寝息が聞こえて来た。
 寝顔が、可愛い。可愛すぎる。
 
 俺は、ハルを抱き込んて、屋敷中に入る。
 部屋に入って、ハルの服を脱がそうとすると、ハルが目を覚ました。
 「ハル、目が覚めたのか?」
 「ん、」
 まだ、眠そうな顔。
 「着替えて、風呂入るか?それとも寝るか?腹は減ってないか?」
 「ふふっ、大丈夫。ご飯食べて、お風呂入ってねる。」
 「ふっ、そうか。」
 2人で顔を見合わせて笑う。
 それだけで、幸せだ。


 着替えて、食堂へ行くと、そこには両親がいた。
 母上は、ハルを見るなり、涙を浮かべながら、抱きつく。
 「ハルちゃん、、、」
 ハルも、母上に抱きしめられながら、
 「お母様、ありがとう。僕、ちゃんと出来たよ。」
 「えぇえぇ、素晴らしいピアノだったわよ。歌もね!頑張ったわね。ハルちゃん」
 「お母様。僕ね、お願いがあるんだ。」

 母上も、俺も父上も、ハルのお願いがなんなのか、わからないから、首を捻る。

 「ハル、お願いとは?」
 「あ!ジーク。本当は、馬車の中で話そうと、思ってたんだけど、眠くて、言いそびれちゃった。」
 「そうか、で?」
 「あ、うん。あのね、ちょっと厨房を借して貰えないかな?と、」
 
   「「「厨房?」」」

 俺と、両親の声が重なる。
 「えっと、、、もうすぐ、向こうに帰るでしょ?その前に、孤児院の子供達に、ちょっと、作ってあげたい物があってね、だから、厨房を借りたいなと、、、」

 「ん?ハルが何か作るのか?」

 「うん、お菓子をね。」

 「お菓子?」

 「うん、この前、街に行って色々なお店を見て廻ったでしょ?その時に、お菓子のお店ってなかったような気がしたんだけど違う?」
 
 「あぁ、そうだな。城下の方はあるが、ここには、ないかな。」
 父上が、前から考えていた事だった。
 貴族ともなれば、お茶会だなんだと、菓子を求めて買うが、平民となると、菓子を買う程の余裕なない。
 やはり、高級品だからな。
 平民が、甘いものを口にするのは、果物や、それを干した物ぐらいだからなぁ。
 父上は、この領地にも、菓子の店がない事を、どうしたらいいか考えていた。
 貴族だけでなく、平民も口に出来るようにするには、やはり安価でないと売れないし、商売にはならない。
 どうしたものか、と。。。
 そこで、ハルの話を父上が、前のめりで聞く。

 「ハル、厨房を借りて、何を作りつもりなんだ?」
 
 「あ、うん、クッキーを作ろうかと。」

 「「「クッキー?」」」

 「クッキーってないの?」

 「ハル?クッキーとは何だ?」

 「ん?あぁ、クッキーって言わないのかな?えっと、焼き菓子?」

 「あぁー焼き菓子か。えっハル?作れるのか?」
 
 「うん、簡単だよ。」
 
 「「「簡単?」」」

 「だって、材料混ぜて焼くだけだよ?」

 ハルよ、簡単に言うなぁ。
 まぁ、菓子を作る職人が少ないから、菓子自体、あまりこの国は食べないからな。
 そうハルに言えば、

 「そう言えば、ここに来てからお菓子を見る事なかったね。あっ、ヴィーちゃんの所で見たなぁ。あれ、何だっけ?あぁ!ケーキだった!ケーキはあるのに?」
 「ケーキ?」
 「そう、スポンジの上にイチゴが乗せてあった。」
 「あぁ、あれが焼き菓子だ。」

 「えっえぇぇ!そうなの?えー僕が言う焼き菓子と、違うかな?僕のは、本当の焼き菓子。えっと、とりあえず、明日作ってみるから、それ食べて感想を聞かせて?」

 「わ、わかった。」

 はぁぁもうハルは、凄すぎて、両親も、周りの者も、言葉も出ず呆気に取られてる
 まぁ、なんだかんだで明日を楽しみにしている俺だった。
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