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      ジークバルト

 朝からハルのワクワク感がダダ漏れで、行く前からそんなんで、大丈夫なのかと心配になる。
 出発する時間に、ハルが可愛らしさ全開でやってきた。
 セシル!気合い入れすぎだ!
 ハルが可愛い過ぎるだろうがぁぁぁ!
 もう、行きたくない行きたくない!!

 が、グッと我慢する。
 ここでそんな我儘は言えない。
 楽しみにしてるハルに悲しい顔はさせたくない。
 なにより、両親が、、、
 いやいやいや、んんっ、うん。大丈夫。
 笑顔で、ハルを馬車に乗せる。

 本当に、どうしてこんなに可愛いかな?
 馬車の中でも、外をみては、目をキラキラさせる。
 着いたら着いたで、ぴょんぴょん跳ねてる。
 はしゃぎ過ぎて、疲れないように言う。
 落ち着いて。ハル。

 そして、落ち着きを取り戻したハルは、端から店を見て回った。
 ニコニコと笑顔で、気さくに店の者や、客として来ている者に話しかけたり、聞いたりと、楽しそうだ。
 皆のお土産は、何がいいかなぁ~と、口に出して言うから、店の者に、これはどうですか?こちらはどうですか?と、あちこちから声が掛かり、あたふたするハルを見て、俺は、楽しくて仕方なかった。
 可愛いハル。
 どうして皆さん優しいの?
 ハルが優しくて、可愛いからだよ。と、内心思ってるけど、両親が領内で言って回ったんだよ。俺の番が見つかったって。
 きっと両親の事だから、ハルの可愛さを言って廻ったのだろう。
 店の者や街行く人達が、微笑ましく見てるし、綺麗な人、可愛い、などの声も聞こえた。
 案外、黒髪黒目については、驚いてないようで、安心した。

 俺は、ハルが満足できたのを確認して、ある場所へハルを連れて行く。

 領内にある教会だ。
 ハルは、綺麗!と、感動しながら、中に入って行く。
 神父に挨拶されて、ハルも挨拶を返す。
 神父に、良い方と巡り逢えて良かったですな。と言われて、俺は、少し泣きそうになった。
 本当に。
 ハルと巡り逢えて良かった。
 ハルと共に、神に祈る。
 いや、神とハルの両親に。

 ありがとうございます。
 神様と、ハルの両親に感謝を捧げます。




 祈りが終わり、俺はハルをこの教会の反対側に連れて行く。
 ハルは、どこ行くの?
 さあ、どこでしょう!
 
 教会の裏の扉を開ける。
 すると、そこには、20人ほどの子供達がいた。
 ハルは、大きく目を開け、すぐに笑顔になる。
 ジーク、ここは?
 ここはね、孤児院だよ。
 両親がいない子や、親が病気で見れない子、色々と複雑な事情がある子、そんな子を預かり育てていく場所だよ。
 そうハルに説明すると、知ってるよ。でもね、ここにいる子供達は、凄く表情が明るい子達だね。と、だから一緒に遊んで来ていい?と言うと、すぐに子供達に話しかけにいく。

 その様子を見てると、神父が来て、
 「ジーク、良かったな。」
 と、声を掛ける。
 この神父は、俺が生まれた時から、お世話になっているから、2人の時は、砕けた口調になる。
 まぁ、子供の頃には、よく叱られたがな
 「はい、本当に。これ以上の幸せはないです。」
 「ははっ、そうだな。いい子だ。ただ」
 「ん?ただ?」
 「可愛い過ぎるだろ!」
 「はっ!当たり前だ。ハルだからな!」
 「いや、意味わからん。」
 「ハルは、綺麗で、可愛くて、優しい子なんだ。」
 「おぉおぉ、ベタ惚れだのう。あのジークがのう。良かった良かった。」
 「あぁ、ありがとう。あっ、そうだ、ここにピアノあったよな?」
 「ん?あぁ、あるぞ。それがどうかしたか?」
 「いや、ハルに弾かせてやろうかと。」
 「ほぅ、ピアノを弾くのか。そりゃ、子供達に聴かせてやらんとな。」
 
 俺は、ハルを、神父は子供達に声を掛けて、室内に入る。
 「ハル、子供達にハルのピアノ聴かせてやりたいんだが、弾いてくれるか?」
 「うん!弾きたい!でも、ピアノあるの?」
 「あぁ、ある。ハル、おいで。」
 俺は、ハルをピアノが置いてある場所へ案内する。
 ピアノを見たハルは、早速ピアノの前に行き、椅子に座る。
 そこに、さっきまで遊んでいた子供達がハルの周りに集まる。
 「ハルちゃん!ピアノ弾けるの?」
 女の子がハルに聞く。
 「うん!聴いてくれる?」
 「うん!」

 子供達は、ピアノの周りに座って、ハルが弾き始めるのを、笑顔で待ってる。
 ハルは俺を見て、ニコリと笑い、神父には、軽く頭を下げ、子供達に向かって、笑顔で、行くね!
 と、ピアノを弾き始めた。


 それは、優しい優しい曲だった。
 何かに、暖かく包まれるような感覚がして、知らず涙が溢れていた。
 子供達を見ると、皆ボー然としていた。
 中には涙が出てる子もいた。
 だが、悲しい涙ではない。
 感動の涙だ。
 ふと、横にいる神父を見る。
 お前もか!
 ジジイが泣いても、美しくないぞ!
 そう言えば、いつもは、倍返って来そうな言葉がなく、ただ、「凄いな」と。

 ハルを見る。
 少し困ったような顔で、子供達を見ていた。
 1人の子が、ハルに抱きつく。
 俺は、思わず走り出しそうになったが、耐えた。
 ハルは、その子の頭を撫でながら、どうしたの?
 子供は、ハルから離れて、手を叩く。
 すると、全員が拍手する。
 ハルは、途端に笑顔になって、ありがとうね。と、その子を抱きしめる。

 それから、ハルは、何曲か弾いていた。

 名残り惜しいが、帰る時間になって、子供達にまた、来てね!と言われて、嬉しそうに、またくるね!と、お別れをした。

 ハルに楽しかったか?と、帰りの馬車の中でハルを抱きしめながら聞く。
 「うん!すっごく楽しかった!ありがとうジーク。もうもう話したい事が沢山あるのに、、、疲れちゃった。ごめん、、ね」
 スースーと寝息が聞こえる。

 ハル、疲れたね。
 ゆっくりおやすみ。
 俺のハル。愛してるよ。

 最愛を抱きしめて、幸せを噛み締める。
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