精霊秘話

琴音

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ひとりぼっち

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ずーっとずーっと昔の出来事。まだ政令が人前に現れるのが珍しくもなんともなかった時代。しかし、精霊が人前に現れなくなった決定的な出来事。

 新しい精霊が誕生した。彼の名はシール。シールはお母さんや音尾さんに甘やかされ、時には厳しく、真っ直ぐないい子に育った。ある時、ほかの精霊のように人間たちの集落に遊びに行きたいと思い、お母さんたちに言ってみた。
「母さん、父さん僕、友達を作りに行きたい!」
「あら?あなたにはいっぱい友達がいるじゃない?」
「妖精の友達じゃなくて、人の友達が欲しいんだ!」
人という単語を出した途端母さんたちのまとっていた空気が少し変化した気がした。でも、その微々たる変化の意図を僕は理解することが出来なかった。
「んー、シールにはまだ早いと思うわよ?人と触れ合うにはもっとシールが大人になって、もっとシールが大人になって、もっとシールが大人になって、大人の人と触れ合えるようになってからの方がいいと思うの。」
母さんはまだ僕が子供だから、僕にはまだ早いとそんなことを言ってきた。だから僕は大声を上げて家を出た。


家を出た僕は早速人間界へ向かった。精霊界と人間界を繋ぐ扉を通る時、門番に変人魔法を唱えるように言われたので言われた通りにした。
そしてもんを通る。

門を超えた先には色々ないろやものが存在した。緑の葉っぱ、赤い花、黄色い果物に、青い虫。色だけじゃない。この世界には色々な匂いも溢れていた。何も無い精霊界と違って、シールにとってたくさんの未知がそこには存在していた。

シールが転送された場所は森の中だった。その森には人が住んでいないようで大きな動物がたくさん生息していた。シールは人に会うために移動を開始した。枝や葉っぱの間をくぐりぬけ、道とは言えない道を何時間も何時間も歩き続け、ようやく森を抜ける。森を抜けると今度は木々が転々と生え、背の低い草花が生えた草原に出た。その草原を涼しい風が優しく走った。汗をかいた体に風が触れ、冷たさを感じる。精霊界にいた時には絶対に感じることの出来ない代物だ。

森を長い間歩き続けたことで疲れを感じ、休憩を取ろうかと思ったが、当たりが暗くなり始めていたので精霊界に帰ることにした。人間界に来る時はモンを通らなければいけなかったが、精霊界へ戻る時はただ、意識を集中させるだけでいい。そして次、人間界へまた来る時は今いる場所からスタート。母さんに教わっていたことを実行する。

意識を高ぶらせ、感覚を無くす。数秒目を閉じ、また開く。目を開くといつもいた色も匂いも音も何も無いただ白い広い空間。振り返ると、人間界へ行くための門があった。
「シールおかえり。人間界はどうだった?」
よく知っている声がすぐ近くから聞こえてきた。
母さんだ。
少し怒ったような、困ったような顔をした母さんが僕のすぐ上に手を腰に当てて立っていた。
「か、母さんただいま。」
「全く、声を上げて外に出たと思ったら人間界にまで行ってしまうなんて。とってもしんぱいしたんだからね!」
母さんは言いながら僕を抱きしめた。
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