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限界だったもの

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私は仕事が休みの土曜だった。
少し大きめな会社の事務をしているのだけれど、前の週に同僚のフォローに入ったので代わりに今日休みを貰った。
朝起きて、時計を見て休みだ~って布団に戻った。
やらないと行けないこと多いんだけどな…そんな事を考えながら、ちょっとだけゴロゴロしたい気分だった
そんな時、メッセージアプリから通知が来た

雅「仕事で雪ちゃんの県に今日行かないといけなくなったんだけど、1回会ってみない?」(仮名で雪と名乗っている)

内容を見て、少し心がザワついた。
怖い訳でもなくて、喜ぶ訳でもなく、緊張といった方がいいのだろうか?
そんな気分になった。
けど、私も相談のってもらったりしてるし、ちょっと会ってみようかな。
そんな風に思った

「いいよ」

そう答えて、身体を起こしやらなきゃいけない事を済まそうと思った



昼過ぎ、
雅「仕事が終わるのが5時過ぎだから、晩御飯になっちゃうけど、大丈夫?」

そんな内容が返ってきた
仕事だもんね、仕方ないよ。

雪「大丈夫だよ、何か食べたい物とかある?紹介するよ」

雅「たまに仕事でこの辺は来ているんだ。凄く美味しいレストランがあるから行かないかな?」

雪「ええっ!本当に?行きたいかも」

雅「お金は払うから気にしないで、よく通ってるお店だから」

雪「いくいく!何処に行けばいい?」

雅「~駅前に噴水があるでしょ?あそこに6時半頃にしようか。」

雪「はーい!わかりましたー!」

何故か少し気分は上がっていた。
さっきまでは緊張していたはずなのに、いつの間にか会うのが楽しみになっている。
ご飯を食べるのが楽しみなのか、会うのが楽しみなのか…区別はついていない。
けど、久しぶりの1人じゃないご飯…その事に気分が上がるのは当然だよね。


ある程度の化粧をして、服も少しだけ良いのにした。
~駅は私の家から3つしか離れていない。
電車でいけば直ぐに着く。
私は時間通りに着く様に家を出た。

電車に乗ってる頃連絡があった。
青のネクタイにコート姿で緑のベンチに座ってるよ

緑のベンチは1つしかないから分かりやすい。
電車を降り噴水に向かう。

彼は直ぐに見つかった。
肩幅は思ったより広く、どっしりした身体付きの青いネクタイでコート姿。

雪「雅さんですか?」

こちらを見て、にっこり笑って

雅「えぇ、雪ちゃんかな?来て頂いてありがとう」

そう言って立ち上がった
私はヒールを履いているけど、それより少し高い身長だった。

雪「いえいえ、私こそ招待してくれてありがとうございます」

雅「雪ちゃん、敬語は抜きにしていこ。」

にっこり微笑みながら、私に言う

雪「そうだね、電話であんなに敬語なしで話してたのに直で会ったら敬語って何かおかしいね」

そう言って2人で笑った

雅「雪ちゃん、可愛いらしいから、びっくりしちゃった」

そんな事を普通に言われた

雪「ありがとう」

ちょっと恥ずかしかったけど、嬉しかった

雅「さぁ、行こう直ぐそこにあるんだ」

そう言って前を歩きだす雅

雪「はい」

私は少し後ろから、ついていく。
歩きながら、そのお店の知った経緯とかそんな事を教えてくれた。

歩いて5分ぐらいだろうか
外見からして高級店なのは分かった。
私の格好大丈夫かな…心配になった。

雅「少し待っててね。」

そう言って雅は先に店に入る
お店の人と話しているのだろうか
雅が外に出てきて、

雅「さぁ、入ろう」

そう言って店に入ると凄く私の格好が場違いな気がするぐらいの雰囲気だった。

お店の人がこちらです
と通された所は、個室だった。

周りの目は無く、少し安堵してしまった。

雅「気にしなくていいよ、大丈夫。今日は僕が雪ちゃんとご飯を食べたいって思ったんだからちゃんとエスコートさせてよ」

そう言って、私の背中をゆっくりと押してくれた。
そして、椅子を引いてくれて座らせてくれる。

対面に雅はゆっくりと座り、ウェイターを呼び何かを伝えている。

雅「今日はコース料理を頼んだから嫌いな物とかあったら言ってね。変更出来るから」

そう言ってコースのメニューを私に差し出した。
内容を見た限りでは私の嫌いなものはなかったけど、高そうとは改めて思ってしまった。

雅「お酒は飲む?」

雪「ええっと、お酒はあまり飲めないんだけど1週間に1回ぐらいちょっとだけ飲んでる」

雅「ワインは大丈夫?」

雪「大丈夫。ワインはたまに飲んでる」

良かったと少し安堵する雅

雪「?」

運ばれてきたのは私の生まれ年のワイン

雪「これ、私の…」

雅「そうだよ、前に言ってたじゃん、覚えてない?」

言った様な気がする。

雪「私の話を覚えててくれたの?」

雅「そりゃあ、そうでしょ」

にこやかに笑って応えてくれた。
そんな話をしていたら、料理が運ばれてきた。

雅「さぁ、頂こう」

雪「頂きます」

美味しい料理、生まれ年のワイン
初めて会ったけど、雅の優しさや気遣いが私の中に沁みていく。
2人で料理を食べながら、色んな話をした。
最近あった嫌な事だったり、些細な事。
彼には何故か喋る事が出来た。
全部聞いてくれて、全部受け止めてくれる。
それが嬉しかった。
言える人もいなかったから…

雅「雪ちゃん、大丈夫?ワインかなり飲んでるよ?」

気付いてなかった、あまりの楽しさに私はワインをかなり飲んでいた

雪「ごめん、楽しくて飲んじゃってた」

少し呂律が怪しくなってるな?って自分でも分かるぐらいの感じになってしまっていた
けど、楽しいしいいかな?とも思う

雅「次でコースの最後だから、食べ終わったらタクシーを呼んで貰うね」

雪「ありがとう~」

最後のデザートの味はもう分からない。
久しぶりに人と一緒に食べたのがこんなに楽しいものだって…

雅「ちょっと待っててね」

そう言って立ち上がり、個室を出ていく雅
帰る準備しなくちゃ
頭でそう思い、準備をするが身体はあまり思った通りには動いてくれない。
飲みすぎちゃった…だいぶヤバいかも…

雅が個室に帰ってきた

雅「雪ちゃん大丈夫?」

雪「大丈夫~大丈夫~」

そう言って私は立ち上がる。
大丈夫、歩ける。

ウェイターさんが心配そうにこちらを見ている。
雅はウェイターにありがとうと声をかけている。
私はそんな余裕はあまりなかったので、そのまま店を出る。

あ、タクシー呼んでくれる、って言ってたっけ?
そう思って車道の近くに寄ろうとした時

脚がもつれ車が行き来する車道に…

ガシッと腕を捕まれ、グッと肩を抱き寄せられた

雅「もう、雪ちゃん。危なかったぞ」

私も今ので酔いが少し覚めた…その代わりにドキドキが止まらない。
男らしいその力強さ、そして今肩に置かれている手に

雪「ごめんなさい」

雅「大丈夫だよ、ちゃんとタクシーは呼んであるから、焦らずにゆっくり待てばいいからね?」

私は限界だった…目から1粒の雫が流れ落ちる

雅「へっ!?雪ちゃん!?」

慌てる雅
涙を流す私はまだ幼くて、全然大人になれていない。

雪「大丈夫、大丈夫、雅さん。」

スっと目の前に、ハンカチを差し出して

雅「ごめんね、僕がワインなんか飲ませてしまったから」

雪「違うのっ!」

雪「そうじゃないの…雅さんは悪くない…」

雅がハンカチで私の涙を拭って

雅「人間色々あるさ、またなんか話したい事あれば、今度聞くしさ。」

その優しさが私の中に染み込んでいく。

雅「お?タクシー来たよ。1人で帰れる?」

雪「帰りたくない」

雅「へ?」

雪「雅さん…私帰りたくない」

困惑している雅…
少し悩み

雅「分かったよ」

タクシーに私を乗せてくれて、雅は反対側から乗り込む

雅「運転手さん、近くのホテルにお願い」

運転手「分かりました。」

タクシーが動き出す。
ゆっくりと私の肩に手を回し、抱き寄せてくれる雅

雅「何があったか分からないけど、ゆっくりと話そう?」

雪「うん」

その場所に着くまで私は彼の腕の中で安堵感を覚える…
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