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本編
121.ハッピー・バース・デー
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日付けは過ぎていたけど、改めて誕生祭を開催する事になった。
今度の誕生祭は父と僕、二人の誕生日をお祝いするパーティーだ。
父にお願いして、パーティーに貧民街の皆や獣人兵の皆もお招きしたいと言ったら、どうせなら王城を開放して王都の民衆が全て参加できるくらい、大々的に催そうという話になった。
乗り気な父の気持ちはすごく嬉しいけど、流石に王都の民衆全員は王宮に入りきらないし、無理なんじゃないかなと思っていたら、元気いっぱい張り切る父があっという間に魔法で広大なパーティー会場を増設してしまった。
これぞ魔法使いの王と言うべきかなんと言うか、氷城を丸ごと建造するなんて魔法のスケールが大きすぎて、僕はあんぐりと口を開けて仰天してしまう。
なんなら王宮よりも遥かに壮大で豪華な気すらする。父の本気すごすぎる。
「どうだ、こんなものだろう。私は歴代の王の中でも魔力量が多い。更に氷像魔法の腕は随一だぞ」
「すごい! お父様の魔法すごい綺麗だね! キラキラ輝く氷の結晶が集まって氷城が形作られていく様子とか、神秘的な芸術作品を見ているみたい!!」
氷像魔法の美しさに感動して、僕が目を輝かせながら大絶賛すると、父は顔をくしゃくしゃにして笑い、僕の癖のある髪を撫で回してくちゃくちゃにする。
「わぁ、ちょっ、もう、お父様ぁ! 小さい子じゃないんだから、そういうの恥ずかしいよ! 僕、もう18歳だよ、成人した大人なんだからね!!」
「ははは、親にとって子はいくつになっても可愛いものだ。それに、お父様呼びは幼子のようでとても愛らしい」
「なっ……おとう……おちち……父上、様?」
「む……決めたぞ、フランボワーズ。お父様と呼ばなければ、父はもう返事しない!」
「なんでぇ!?」
幼い子扱いされるのはすごく恥ずかしいんだけど、父が幸せそうなので止めさせる事もできず、なんだかんだで僕も嬉しかったりするものだから、尚更気恥ずかしくて顔が赤くなってしまう。
そんな僕達の姿を彼や他の人達も微笑ましげに見ているものだから、恥ずかしいったらない。
(なんて羞恥プレイだよ、もう!)
真っ赤な僕は堪りかねて彼に救いの手を求める。
「ダークぅ、見てないで助けてよぉ」
「水を差すのも悪いかと思っていたんだが、いいのか? 今までできなかった分、お父様も可愛がりたいだろうし、お前も思う存分甘えたらいい。隣国は近いとはいえ、俺の国に嫁ぐのだから今の内だ」
「うぅ、それはそうなんだけど……」
「君にお父様と呼ばれると、なんとも言えない気持ちになるな……フランボワーズ、無理に嫁がずとも、父のもとにずっといてくれていいのだぞ。なんなら一生いてくれていい」
父が僕を引き止めようと説得し始めたところで、彼が僕をひょいと引き剥がして抱きすくめ、不敵な笑みを浮かべて言う。
「いいや、お父様。フランは俺の伴侶だ。約束通り快諾は既に得たのだから、国に連れて帰る」
「ぐぬぬ、この短時間でこやつ結構な策士よな。お父様呼びしても全然可愛くないぞ!」
「もう、喧嘩しないでよ……僕、二人が仲悪いなんて嫌だよ、悲しくなるよ……」
バチバチ火花を散らす二人を僕が涙目になって見つめると、二人は慌てて弁明しだす。
「あ……いや、仲悪くなんてないぞ! 私達は仲良しだ!!」
「うんうん、フランを大事にする者は皆仲間だ! 仲良いぞ!!」
「本当? なら良かった。やっぱり、大好きな二人には仲良くして欲しいからね」
嬉しくなって笑うと、彼はギュウと僕を抱きすくめて放さないし、父は僕の頭を更に撫でくり回すしで、連携するものだから僕は逃げられない。
「わぁー! もう、仲良いのは分かったから、二人がかりでもみくちゃにするのやめてぇー!!」
そんなこんなで、僕は彼のもとへ嫁ぐ事が決まったのだった。
◆
大勝利を収めた救国の英雄とそれを支えた第一王子が婚姻する話は各所へと伝えられ、国中が祝賀ムードになる中で誕生祭が開かれ、本当に沢山の人達がお祝いに集まってくれた。
お祝いに集まってくれたのは嬉しいのだけど、なにやら呪いの解けた話に尾ビレ背ビレが付いて、変な噂が流れてしまっているらしい。
魔法の解けた第一王子の本当の姿は大変に麗しい絶世の美貌で、目にした者を全て虜にしてしまうのだとか。
英雄は第一王子の本当の姿を知っていたから命懸けで助け、国を救った褒賞として強引に婚姻を迫ったのだとか。
国王は溺愛する第一王子を手放したくなくて、英雄と敵対してでも国に留めようと国内で婚姻相手を探しているだとか。
そんなとんでもない噂が広がってしまっているそうだ。
(第一王子の本当の姿って何? これ特異体質で呪いじゃないんだけど? 毒物食べればまた白豚に戻ると思うし、太ってても痩せてても僕は僕だよ。確かに痩せれば中性的な美形かもだけど、見た者全てを虜にするなんて大袈裟すぎるし……)
話題沸騰の僕の姿を一目見ようと、貴族達は挙って集まってくる訳なのだけど、皆一様に同じ反応をするもので、やはり噂はあくまでも噂なのだなと安心する。
だって、僕の姿を見ると初めは皆ポッと頬を赤らめて見惚れるみたいな目をして寄って来ようとするのに、少し近付くと表情を強張らせて青褪めていって、終いには逃げるようにどこかに行ってしまうのだから。
遠目に見たら美人だったけど近くで見たらそうでもなかったみたいな感じで、興味をなくしてどっかに行ってしまうんだと思うのだ。
なので、皆が僕の虜になってしまうなんて事は全然なくて、まったくの嘘っぱちなのである。
ただ、最初は僕を見て声をかけようとしていた人達がことごとくいなくなってしまうものだから、僕はパーティーの主役であるにも関わらず、いまだに貴族の誰とも挨拶ができていない。
一応は僕も王族なのに、これはいかがなものなのかと心配になって、ふと父を振り返り――何故、誰も近付いてこないのか僕は理解した。
いつも慈悲深い微笑みを絶やさない国王陛下が、僕達に近付こうとする貴族達を射殺さんばかりの目で睥睨していたのだ。
朗らかに笑っている筈の人が真顔で睨んでるってめちゃくちゃ怖い。僕まで背筋が震えてしまった。
「お、お父様……お顔が怖いです。どうしたの?」
「ああ、すまない。フランボワーズとのこの貴重な時間を、平然と手のひらを返す浅ましい貴族共に割かれるのかと思うと、つい氷漬けにしてやりたくなってしまって……」
「氷漬け!? 物騒なことはやめて!」
父がにっこりと笑って唐突に怖い事を言い出したので、僕は慌てて父の魔法を放ちそうな手を押さえて、話題を変えようと彼に話しかける。
「そ、そうだ、ダークも王族だから、貴族との付き合い方は慣れているんだよね?」
「そうだな、不穏分子は早めに対処するのが肝心だ。氷漬けなど生温い、二度と再起できぬよう、フランに色目を使った不届き者はまとめて暗黒の闇に沈めてやろう……」
「待って待って待って、沈めないで! お祝いの席だよ? どうしてそんな話になっちゃったのかな?!」
黒い影を出そうとする彼の気配を察知して、僕は慌てて彼に抱き付いて止め、二人を涙目でキッと睨む。
僕を怒らせるのは流石に本意ではなかったようで、二人は渋々ながら少し落ち着いてくれた。
(お祝いの席を血祭りにしかねない魔王が僕の横にいる……片や背筋も凍る微笑を湛えた白い魔王、片や一睨みで本能的な恐怖心を掻き立てる黒い魔王、そんな魔王達の間にはさまり意のままに操る僕、なんてえげつない絵面! まったく意図していなかったけど、これ完全に悪役の絵面じゃん!!)
僕はスンと遠い目をしてしまう。
せっかくの誕生祭なのに、こんな禍々しいオーラ放ってる魔王達が相手じゃ、怖くて近付けないよねと達観してしまうのだ。
近付ける勇者なんて、そうそういないに違いない――
「父上、第一王子、ご友人達を連れて参りました」
――と思っていたら現れた。
(勇者いたー! バニラ王子、マジ勇者ー!!)
バニラ王子の呼びかけに僕が満面の笑みで振り返る。
そこには貧民街の皆がいて、代表のチョコチップとチョコミントが贈り物を持って前へと出て来てくれた。
「お誕生日、おめでとうございます」
「ご婚約、おめでとうございます」
緊張した面持ちの親子が挨拶をすると、キョロキョロと辺りを見回して僕の姿を見て刮目する。
「ラズ――じゃなかった、第一王子はどちらに……って、え! 精霊!?」
「えぇ! あの時の精霊?! なんでここに泉の精霊がいるんだ??!」
僕は久々に見る親子の姿に感激して、二人へ飛び込むようにして抱き付く。
「わあぁぁぁぁん! みんな会いたかったよぉぉぉぉ! ご飯すごく美味しかったよ、ありがとうぉぉぉぉ!!」
親子は何故か混乱しているようだったけど、そんな僕の挙動を見ていた貧民街の皆は頬を赤らめつつも僕だと納得してくれたようだ。
「「「ああ……これはラズベリーだな」」」
ぼそりと呟く貧民達の言葉に親子が仰天し、僕をまじまじと見て訊く。
「えぇ! ラズベリーなのか!?」
「ラズベリーが精霊で第一王子だったのか?!」
「えっと、精霊はよく分からないけど……僕がラズベリーって名乗っていた第一王子だよ。本当の名前はフランボワーズ。そっくりさんじゃなくて、本物の白豚王子だったんだ。今まで隠していて、ごめんね」
僕が謝ると、貧民街の皆は吃驚した様子もなくけろりとして返す。
「まぁ、本物の白豚王子だろうなって皆もう気付いてたから今更だな」
「気付かなかったのなんて、そこの親子くらいなものじゃないか?」
「えっ! そうなの?!」
逆にバレバレだったのかと僕の方が吃驚してしまった。
落ち着いたところで、改めて親子が贈り物を取り出し、僕に手渡してくれる。
「誕生日おめでとう。みんなからのプレゼント、願い星のペンダントだ」
「わぁ、虹色に輝いてて綺麗だね……これは魔法?」
「高価な物ではないが、皆の気持ちと魔法が少しずつ込められてる。持っていると幸運を呼ぶ、お守りみたいなものだ」
「ありがとう、嬉しい……大切にするね」
贈られたのは、色々な魔法が混ざり合うオパールみたいな魔宝石のペンダントだった。
「婚約おめでとう。まさか追い回してた王子様に口説き落とされるとは、熱烈だな」
「あー、あれは、まー、きっかけと言うかなんというか……」
「俺とフランの馴れ初めが聞きたいなら、俺が懇切丁寧に語って聞かせてやろう」
「えー、いいよー、王子様の話長そうだしー、さっきからイチャついてるの見てるだけでお腹いっぱいー」
貧民街の皆は各々、僕に温かいお祝いの言葉をかけてくれる。
「成人おめでとう」「婚約おめでとう」「幸せになってね」
「みんな、本当にありがとう」
皆からの気持ちがすごく嬉しくて、僕は胸がいっぱいになる。
初めての僕の誕生祭はとても賑やかで楽しくて、最高にハッピーなバースデーパーティーになったのだった。
◆
「フランボワーズ、おいで。見せたいものがある」
とても楽しい時間を過ごして誕生祭も終わりを迎えた頃、父に呼ばれて僕は彼と一緒に知らない部屋の前へと案内された。
そこは、氷城の深部にある王の私室にだけ繋がる、隠し通路の先にひっそりとあった秘密の部屋。
「お父様、ここは?」
「今更になってしまったが、フランボワーズへ私からのプレゼントだ」
少し気恥ずかしげに言う父が扉を開けると、そこには父から僕への贈り物があった。
今度の誕生祭は父と僕、二人の誕生日をお祝いするパーティーだ。
父にお願いして、パーティーに貧民街の皆や獣人兵の皆もお招きしたいと言ったら、どうせなら王城を開放して王都の民衆が全て参加できるくらい、大々的に催そうという話になった。
乗り気な父の気持ちはすごく嬉しいけど、流石に王都の民衆全員は王宮に入りきらないし、無理なんじゃないかなと思っていたら、元気いっぱい張り切る父があっという間に魔法で広大なパーティー会場を増設してしまった。
これぞ魔法使いの王と言うべきかなんと言うか、氷城を丸ごと建造するなんて魔法のスケールが大きすぎて、僕はあんぐりと口を開けて仰天してしまう。
なんなら王宮よりも遥かに壮大で豪華な気すらする。父の本気すごすぎる。
「どうだ、こんなものだろう。私は歴代の王の中でも魔力量が多い。更に氷像魔法の腕は随一だぞ」
「すごい! お父様の魔法すごい綺麗だね! キラキラ輝く氷の結晶が集まって氷城が形作られていく様子とか、神秘的な芸術作品を見ているみたい!!」
氷像魔法の美しさに感動して、僕が目を輝かせながら大絶賛すると、父は顔をくしゃくしゃにして笑い、僕の癖のある髪を撫で回してくちゃくちゃにする。
「わぁ、ちょっ、もう、お父様ぁ! 小さい子じゃないんだから、そういうの恥ずかしいよ! 僕、もう18歳だよ、成人した大人なんだからね!!」
「ははは、親にとって子はいくつになっても可愛いものだ。それに、お父様呼びは幼子のようでとても愛らしい」
「なっ……おとう……おちち……父上、様?」
「む……決めたぞ、フランボワーズ。お父様と呼ばなければ、父はもう返事しない!」
「なんでぇ!?」
幼い子扱いされるのはすごく恥ずかしいんだけど、父が幸せそうなので止めさせる事もできず、なんだかんだで僕も嬉しかったりするものだから、尚更気恥ずかしくて顔が赤くなってしまう。
そんな僕達の姿を彼や他の人達も微笑ましげに見ているものだから、恥ずかしいったらない。
(なんて羞恥プレイだよ、もう!)
真っ赤な僕は堪りかねて彼に救いの手を求める。
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「水を差すのも悪いかと思っていたんだが、いいのか? 今までできなかった分、お父様も可愛がりたいだろうし、お前も思う存分甘えたらいい。隣国は近いとはいえ、俺の国に嫁ぐのだから今の内だ」
「うぅ、それはそうなんだけど……」
「君にお父様と呼ばれると、なんとも言えない気持ちになるな……フランボワーズ、無理に嫁がずとも、父のもとにずっといてくれていいのだぞ。なんなら一生いてくれていい」
父が僕を引き止めようと説得し始めたところで、彼が僕をひょいと引き剥がして抱きすくめ、不敵な笑みを浮かべて言う。
「いいや、お父様。フランは俺の伴侶だ。約束通り快諾は既に得たのだから、国に連れて帰る」
「ぐぬぬ、この短時間でこやつ結構な策士よな。お父様呼びしても全然可愛くないぞ!」
「もう、喧嘩しないでよ……僕、二人が仲悪いなんて嫌だよ、悲しくなるよ……」
バチバチ火花を散らす二人を僕が涙目になって見つめると、二人は慌てて弁明しだす。
「あ……いや、仲悪くなんてないぞ! 私達は仲良しだ!!」
「うんうん、フランを大事にする者は皆仲間だ! 仲良いぞ!!」
「本当? なら良かった。やっぱり、大好きな二人には仲良くして欲しいからね」
嬉しくなって笑うと、彼はギュウと僕を抱きすくめて放さないし、父は僕の頭を更に撫でくり回すしで、連携するものだから僕は逃げられない。
「わぁー! もう、仲良いのは分かったから、二人がかりでもみくちゃにするのやめてぇー!!」
そんなこんなで、僕は彼のもとへ嫁ぐ事が決まったのだった。
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お祝いに集まってくれたのは嬉しいのだけど、なにやら呪いの解けた話に尾ビレ背ビレが付いて、変な噂が流れてしまっているらしい。
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国王は溺愛する第一王子を手放したくなくて、英雄と敵対してでも国に留めようと国内で婚姻相手を探しているだとか。
そんなとんでもない噂が広がってしまっているそうだ。
(第一王子の本当の姿って何? これ特異体質で呪いじゃないんだけど? 毒物食べればまた白豚に戻ると思うし、太ってても痩せてても僕は僕だよ。確かに痩せれば中性的な美形かもだけど、見た者全てを虜にするなんて大袈裟すぎるし……)
話題沸騰の僕の姿を一目見ようと、貴族達は挙って集まってくる訳なのだけど、皆一様に同じ反応をするもので、やはり噂はあくまでも噂なのだなと安心する。
だって、僕の姿を見ると初めは皆ポッと頬を赤らめて見惚れるみたいな目をして寄って来ようとするのに、少し近付くと表情を強張らせて青褪めていって、終いには逃げるようにどこかに行ってしまうのだから。
遠目に見たら美人だったけど近くで見たらそうでもなかったみたいな感じで、興味をなくしてどっかに行ってしまうんだと思うのだ。
なので、皆が僕の虜になってしまうなんて事は全然なくて、まったくの嘘っぱちなのである。
ただ、最初は僕を見て声をかけようとしていた人達がことごとくいなくなってしまうものだから、僕はパーティーの主役であるにも関わらず、いまだに貴族の誰とも挨拶ができていない。
一応は僕も王族なのに、これはいかがなものなのかと心配になって、ふと父を振り返り――何故、誰も近付いてこないのか僕は理解した。
いつも慈悲深い微笑みを絶やさない国王陛下が、僕達に近付こうとする貴族達を射殺さんばかりの目で睥睨していたのだ。
朗らかに笑っている筈の人が真顔で睨んでるってめちゃくちゃ怖い。僕まで背筋が震えてしまった。
「お、お父様……お顔が怖いです。どうしたの?」
「ああ、すまない。フランボワーズとのこの貴重な時間を、平然と手のひらを返す浅ましい貴族共に割かれるのかと思うと、つい氷漬けにしてやりたくなってしまって……」
「氷漬け!? 物騒なことはやめて!」
父がにっこりと笑って唐突に怖い事を言い出したので、僕は慌てて父の魔法を放ちそうな手を押さえて、話題を変えようと彼に話しかける。
「そ、そうだ、ダークも王族だから、貴族との付き合い方は慣れているんだよね?」
「そうだな、不穏分子は早めに対処するのが肝心だ。氷漬けなど生温い、二度と再起できぬよう、フランに色目を使った不届き者はまとめて暗黒の闇に沈めてやろう……」
「待って待って待って、沈めないで! お祝いの席だよ? どうしてそんな話になっちゃったのかな?!」
黒い影を出そうとする彼の気配を察知して、僕は慌てて彼に抱き付いて止め、二人を涙目でキッと睨む。
僕を怒らせるのは流石に本意ではなかったようで、二人は渋々ながら少し落ち着いてくれた。
(お祝いの席を血祭りにしかねない魔王が僕の横にいる……片や背筋も凍る微笑を湛えた白い魔王、片や一睨みで本能的な恐怖心を掻き立てる黒い魔王、そんな魔王達の間にはさまり意のままに操る僕、なんてえげつない絵面! まったく意図していなかったけど、これ完全に悪役の絵面じゃん!!)
僕はスンと遠い目をしてしまう。
せっかくの誕生祭なのに、こんな禍々しいオーラ放ってる魔王達が相手じゃ、怖くて近付けないよねと達観してしまうのだ。
近付ける勇者なんて、そうそういないに違いない――
「父上、第一王子、ご友人達を連れて参りました」
――と思っていたら現れた。
(勇者いたー! バニラ王子、マジ勇者ー!!)
バニラ王子の呼びかけに僕が満面の笑みで振り返る。
そこには貧民街の皆がいて、代表のチョコチップとチョコミントが贈り物を持って前へと出て来てくれた。
「お誕生日、おめでとうございます」
「ご婚約、おめでとうございます」
緊張した面持ちの親子が挨拶をすると、キョロキョロと辺りを見回して僕の姿を見て刮目する。
「ラズ――じゃなかった、第一王子はどちらに……って、え! 精霊!?」
「えぇ! あの時の精霊?! なんでここに泉の精霊がいるんだ??!」
僕は久々に見る親子の姿に感激して、二人へ飛び込むようにして抱き付く。
「わあぁぁぁぁん! みんな会いたかったよぉぉぉぉ! ご飯すごく美味しかったよ、ありがとうぉぉぉぉ!!」
親子は何故か混乱しているようだったけど、そんな僕の挙動を見ていた貧民街の皆は頬を赤らめつつも僕だと納得してくれたようだ。
「「「ああ……これはラズベリーだな」」」
ぼそりと呟く貧民達の言葉に親子が仰天し、僕をまじまじと見て訊く。
「えぇ! ラズベリーなのか!?」
「ラズベリーが精霊で第一王子だったのか?!」
「えっと、精霊はよく分からないけど……僕がラズベリーって名乗っていた第一王子だよ。本当の名前はフランボワーズ。そっくりさんじゃなくて、本物の白豚王子だったんだ。今まで隠していて、ごめんね」
僕が謝ると、貧民街の皆は吃驚した様子もなくけろりとして返す。
「まぁ、本物の白豚王子だろうなって皆もう気付いてたから今更だな」
「気付かなかったのなんて、そこの親子くらいなものじゃないか?」
「えっ! そうなの?!」
逆にバレバレだったのかと僕の方が吃驚してしまった。
落ち着いたところで、改めて親子が贈り物を取り出し、僕に手渡してくれる。
「誕生日おめでとう。みんなからのプレゼント、願い星のペンダントだ」
「わぁ、虹色に輝いてて綺麗だね……これは魔法?」
「高価な物ではないが、皆の気持ちと魔法が少しずつ込められてる。持っていると幸運を呼ぶ、お守りみたいなものだ」
「ありがとう、嬉しい……大切にするね」
贈られたのは、色々な魔法が混ざり合うオパールみたいな魔宝石のペンダントだった。
「婚約おめでとう。まさか追い回してた王子様に口説き落とされるとは、熱烈だな」
「あー、あれは、まー、きっかけと言うかなんというか……」
「俺とフランの馴れ初めが聞きたいなら、俺が懇切丁寧に語って聞かせてやろう」
「えー、いいよー、王子様の話長そうだしー、さっきからイチャついてるの見てるだけでお腹いっぱいー」
貧民街の皆は各々、僕に温かいお祝いの言葉をかけてくれる。
「成人おめでとう」「婚約おめでとう」「幸せになってね」
「みんな、本当にありがとう」
皆からの気持ちがすごく嬉しくて、僕は胸がいっぱいになる。
初めての僕の誕生祭はとても賑やかで楽しくて、最高にハッピーなバースデーパーティーになったのだった。
◆
「フランボワーズ、おいで。見せたいものがある」
とても楽しい時間を過ごして誕生祭も終わりを迎えた頃、父に呼ばれて僕は彼と一緒に知らない部屋の前へと案内された。
そこは、氷城の深部にある王の私室にだけ繋がる、隠し通路の先にひっそりとあった秘密の部屋。
「お父様、ここは?」
「今更になってしまったが、フランボワーズへ私からのプレゼントだ」
少し気恥ずかしげに言う父が扉を開けると、そこには父から僕への贈り物があった。
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