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本編
99.黒狼王子へ隣国からの報せ
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翌日、王宮での政務を終えた黒狼王子一行が貧民街へ向かおうと王宮を出た所で、何者かに呼び止められる。
「あの、ガトー王子殿下!」
黒狼王子が振り返ると、呼び止めたのはアイス・ランド王国の第二王子、バニラ・アイス・クリームだった。
「第二王子、どうされた?」
「急に呼び止めてしまって、申し訳ありません。少々、お話ししたい事がありまして……皆さんは、これから難民の元へ向かう途中ですか?」
バニラ王子が黒狼王子一行を伺いながら尋ね、それに黒狼王子は頷いて答える。
「ああ、難民が保護されている貧民街へ視察に向かう途中だ」
「そうですか、やはり貧民街に……さぞ、ご心配でしょうね。貧民街には良くない噂がありますから……」
「良くない噂とは?」
表情を曇らせて言うバニラ王子に、黒狼王子は怪訝な表情を浮かべ訊き返す。
バニラ王子は逡巡して、困り果てた顔をしつつ噂の内容を話して聞かせる。
「言い難いのですが、貧民街は破落戸や犯罪者の巣窟だと聞いています……それに、第一王子が貧民街の破落戸とつるんで、悪事を働いているなんて噂もありますし……何か良からぬ事が起こるのではないかと、心配しています……」
「なんだその噂は……」
そんな話を聞き、黒狼王子は余りにも曲解された悪質な噂話に憤りを感じ、眉を顰める。
黒狼王子の怒りの表情を見て、バニラ王子は怒りの原因が白豚王子であると思い込み話す。
「難民が貧民街で保護されている件についても、破落戸達が難民を無理矢理連れ去ったのだと聞きました。第一王子が絡んでいるようで、本当に同盟国の方々には申し訳ないと思っています。獣人の皆さんへの数々の非礼、第一王子に代わり謝罪します」
「謝罪だと?」
バニラ王子は黒狼王子や獣人達へ深謝する態で、更に話を進める。
「そこで、貧民街で保護されている難民を、僕が第一王子に代わり保護をしたいと、獣人の皆さんの面倒を責任を持ってみたいと考えています。ですから――」
「不要だ。謝罪も要らん」
黒狼王子は白豚王子を悪者と思い込んでいるバニラ王子の言動を不愉に感じ、堪りかねて言葉を遮り素気なく返してしまう。
バニラ王子は黒狼王子の予想外な言動に驚き、目を見開いて見つめる。
「……え?」
黒狼王子はバニラ王子を金色の目で見据えて告げる。
「その噂は真実ではない。取り留めのない噂話や邪な者の口車に乗せられて、真実を見誤るべきではない」
バニラ王子は黒狼王子の強い言動に動揺しつつも、過去を振り返り言い返す。
「ですが、実際に第一王子は今までにも数々の問題を起こしています。同盟国の方々にこれ以上ご迷惑をおかけする訳にはいきません」
「上辺だけの姿が本当の姿とは限らない。悪辣な者の目を欺くために敢えて偽りの姿を演じる事もあるだろう」
「第一王子が偽りの姿を演じていると言う事ですか? 本当の姿とは……」
困惑する面持ちで訊くバニラ王子に、黒狼王子は言い聞かせる。
「己の目で確かめ、見極めるべきだ。少なくとも、俺はそうしている――故に、第一王子に代わっての謝罪など不要だ。では、俺は貧民街へ視察に向かう」
そう言い残し、黒狼王子はバニラ王子に背を向けて歩き出す。
残されたバニラ王子は、黒狼王子の真意を考え込み、その場に立ち尽くした。
黒狼王子一行は難民達の保護される貧民街へ、白豚王子と貧民達が築き上げてきた『楽園』へと向かっていった。
◆
貧民街の『楽園』が一望できる丘まで来ると、黒狼王子一行は遠目に難民達の様子を伺った。
黒狼王子は、見違えるほど生き生きとして楽しそうに作業する難民達の姿を見て考える。
(第二王子からは獣人への悪感情は感じられなかった。きっと、あの申し出も悪いようにはしないのだろうが、第二王子以外の周囲の者が同様とは限らないからな……やはり、難民達の事は第二王子ではなくフランに任せるのが一番良いだろう……)
遠巻きに見ていれば白豚王子が逃げる事はなく、黒狼王子はその姿を眺めて思う。
(ただ、フランは自己犠牲的に無茶をするから、それだけが気掛かりだ……あの新興貴族もまだ捕まっていないようだし、今後もフランを狙う者が現れないとも限らないからな……)
黒狼王子が懸念していると、楽しげに笑う声が聞こえてくる。
そこには、貧民達や難民達に囲まれて慕われる白豚王子の姿があった。
(こんな姿を見たら、フランが悪者だなんて誰も思わないだろうに……周囲のフランへの認識が少しでも改善されれば……あるいは、第二王子がフランの味方にでもなってくれれば、良いのだが……)
笑い合う白豚王子達を遠くから眺め、黒狼王子は考えていたのだった。
◆
黒狼王子一行が王宮に戻り、支援物資の状況報告を確認していると、隣国からの報せが届く。
「ガトー殿下、大変です! 祖国から至急の報せです!!」
それは、本国が敵対国から集中攻撃を受け、紛争が激化している事を知らせるものだった。
同盟国への応援要請と共に黒狼王子の早急な帰還命令が下され、黒狼王子と獣人兵は応援要請の支度が整いしだい帰還する事になった。
翌日、黒狼王子は本国へと帰国しなければならなくなったのだ。
◆
「あの、ガトー王子殿下!」
黒狼王子が振り返ると、呼び止めたのはアイス・ランド王国の第二王子、バニラ・アイス・クリームだった。
「第二王子、どうされた?」
「急に呼び止めてしまって、申し訳ありません。少々、お話ししたい事がありまして……皆さんは、これから難民の元へ向かう途中ですか?」
バニラ王子が黒狼王子一行を伺いながら尋ね、それに黒狼王子は頷いて答える。
「ああ、難民が保護されている貧民街へ視察に向かう途中だ」
「そうですか、やはり貧民街に……さぞ、ご心配でしょうね。貧民街には良くない噂がありますから……」
「良くない噂とは?」
表情を曇らせて言うバニラ王子に、黒狼王子は怪訝な表情を浮かべ訊き返す。
バニラ王子は逡巡して、困り果てた顔をしつつ噂の内容を話して聞かせる。
「言い難いのですが、貧民街は破落戸や犯罪者の巣窟だと聞いています……それに、第一王子が貧民街の破落戸とつるんで、悪事を働いているなんて噂もありますし……何か良からぬ事が起こるのではないかと、心配しています……」
「なんだその噂は……」
そんな話を聞き、黒狼王子は余りにも曲解された悪質な噂話に憤りを感じ、眉を顰める。
黒狼王子の怒りの表情を見て、バニラ王子は怒りの原因が白豚王子であると思い込み話す。
「難民が貧民街で保護されている件についても、破落戸達が難民を無理矢理連れ去ったのだと聞きました。第一王子が絡んでいるようで、本当に同盟国の方々には申し訳ないと思っています。獣人の皆さんへの数々の非礼、第一王子に代わり謝罪します」
「謝罪だと?」
バニラ王子は黒狼王子や獣人達へ深謝する態で、更に話を進める。
「そこで、貧民街で保護されている難民を、僕が第一王子に代わり保護をしたいと、獣人の皆さんの面倒を責任を持ってみたいと考えています。ですから――」
「不要だ。謝罪も要らん」
黒狼王子は白豚王子を悪者と思い込んでいるバニラ王子の言動を不愉に感じ、堪りかねて言葉を遮り素気なく返してしまう。
バニラ王子は黒狼王子の予想外な言動に驚き、目を見開いて見つめる。
「……え?」
黒狼王子はバニラ王子を金色の目で見据えて告げる。
「その噂は真実ではない。取り留めのない噂話や邪な者の口車に乗せられて、真実を見誤るべきではない」
バニラ王子は黒狼王子の強い言動に動揺しつつも、過去を振り返り言い返す。
「ですが、実際に第一王子は今までにも数々の問題を起こしています。同盟国の方々にこれ以上ご迷惑をおかけする訳にはいきません」
「上辺だけの姿が本当の姿とは限らない。悪辣な者の目を欺くために敢えて偽りの姿を演じる事もあるだろう」
「第一王子が偽りの姿を演じていると言う事ですか? 本当の姿とは……」
困惑する面持ちで訊くバニラ王子に、黒狼王子は言い聞かせる。
「己の目で確かめ、見極めるべきだ。少なくとも、俺はそうしている――故に、第一王子に代わっての謝罪など不要だ。では、俺は貧民街へ視察に向かう」
そう言い残し、黒狼王子はバニラ王子に背を向けて歩き出す。
残されたバニラ王子は、黒狼王子の真意を考え込み、その場に立ち尽くした。
黒狼王子一行は難民達の保護される貧民街へ、白豚王子と貧民達が築き上げてきた『楽園』へと向かっていった。
◆
貧民街の『楽園』が一望できる丘まで来ると、黒狼王子一行は遠目に難民達の様子を伺った。
黒狼王子は、見違えるほど生き生きとして楽しそうに作業する難民達の姿を見て考える。
(第二王子からは獣人への悪感情は感じられなかった。きっと、あの申し出も悪いようにはしないのだろうが、第二王子以外の周囲の者が同様とは限らないからな……やはり、難民達の事は第二王子ではなくフランに任せるのが一番良いだろう……)
遠巻きに見ていれば白豚王子が逃げる事はなく、黒狼王子はその姿を眺めて思う。
(ただ、フランは自己犠牲的に無茶をするから、それだけが気掛かりだ……あの新興貴族もまだ捕まっていないようだし、今後もフランを狙う者が現れないとも限らないからな……)
黒狼王子が懸念していると、楽しげに笑う声が聞こえてくる。
そこには、貧民達や難民達に囲まれて慕われる白豚王子の姿があった。
(こんな姿を見たら、フランが悪者だなんて誰も思わないだろうに……周囲のフランへの認識が少しでも改善されれば……あるいは、第二王子がフランの味方にでもなってくれれば、良いのだが……)
笑い合う白豚王子達を遠くから眺め、黒狼王子は考えていたのだった。
◆
黒狼王子一行が王宮に戻り、支援物資の状況報告を確認していると、隣国からの報せが届く。
「ガトー殿下、大変です! 祖国から至急の報せです!!」
それは、本国が敵対国から集中攻撃を受け、紛争が激化している事を知らせるものだった。
同盟国への応援要請と共に黒狼王子の早急な帰還命令が下され、黒狼王子と獣人兵は応援要請の支度が整いしだい帰還する事になった。
翌日、黒狼王子は本国へと帰国しなければならなくなったのだ。
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