99 / 127
本編
97.貧民街で白豚王子を巡る一悶着
しおりを挟む
一夜明けて、黒狼王子は王宮での政務を終え、再び貧民街へと視察に訪れる。
黒狼王子一行が到着すると、そこには貧民達や難民達に混ざり作業する白豚王子の姿があった。
近付いていくと、黒狼王子目の前に貧民の少年チョコミントが立ちはだかり、敵愾心を露にして大声で問う。
「あんたか! ラズベリーを追い回してるって隣国の王子様は!!」
御共達が前に出て対応しようとするが、黒狼王子は手で制して少年に答える。
「いかにも、俺はショコラ・ランド王国の第六王子、ガトーだ。ラズベリーと言うのは、第一王子の事か? 名前が違うように思うが……」
「ラズベリーは運悪く悪名高い白豚王子と見た目がそっくりなだけで、中身は心優しい全くの別人だ! だから、ラズベリーを追い回すのはもう止めろ!!」
「俺は第一王子の悪名高い噂が事実だとは思っていない……だが、心優しく善良な事は同意する。しかし……」
少年が声を荒げる騒ぎを聞きつけ、貧民達や難民達が周囲に集まってくる。
「誰が相手だろうと、ラズベリーを虐めるような奴は絶対に許さないからな!」
黒狼王子を睨み付けて少年が大声で言い放つと、貧民達も口々に言い牽制する。
「そうだそうだ、ラズベリーに悪さする奴は許さんぞ!」
「ラズベリーを困らせるような奴は、俺達が追い返してやる!」
「王子様だろうが何だろうが、この鍛え抜いた筋肉で返り討ちにしてくれるわ!」
そんな言動や向けられる感情から、黒狼王子は白豚王子が貧民達から大切に思われている事がよく分かった。
白豚王子は黒狼王子の出現に驚き、隠れて見守っていたのだが、何やら勘違いして黒狼王子を責め立てる貧民達の姿を見て、慌てて止めに入る。
「うわーーーー! 待って待って待って、違うんだ! 彼は悪くないんだ! 僕が、僕が悪いんだよ! 僕が彼のお菓子を全部食べちゃったからーーーー!!」
「なっ! 違っ――」
白豚王子の明け透けな言動に黒狼王子は驚き、咄嗟に弁解しようと思ったのだが、身元を隠している様子の白豚王子と、魔鉱石の事情が複雑なだけに目が泳いで言い淀んでしまう。
「――くも、ない……な……」
「はぁ? なんだそれ? 菓子を食べられたくらいで、延々と追い回してたのか?」
「……ぅ……うむ……」
貧民達からはじとーと胡乱な視線を向けられ、難民達からは可哀想な子を見るような目を向けられ、黒狼王子は居た堪れない気持ちになって呻く。
「くっ……そんな目で俺を見るな……」
「ガトー殿下も悪気は無かったんですよ」
「ただちょっと誤解されやすい質なんです」
御共達に妙なフォローまでされて、黒狼王子は堪りかねて白豚王子に視線を向け訴える。
「逃げなければ追い回したりしなかった……俺は話がしたかっただけなんだ……」
「話たかっただけなのか? ラズベリーも話しくらい聞いてやれば良かったのに」
「え、そうなの? 話くらいならいくらでも……」
「本当か? なら、話たい事が沢山あったんだ……」
黒狼王子はホッと胸を撫で下ろし、白豚王子に近付こうと歩みを進めていく。
白豚王子は黒狼王子に近付かれるほどに青褪めていき、プルプルと震えだす。
(あ、ヤバい……話しするのは良いけど、近付かれるのは不味いよ! あの美味しそうな匂い嗅いだら、また襲いかかっちゃう!? ど、ど、ど、どうしよう……)
白豚王子はもうこれ以上とんでもない事をしでかして嫌われたくないと焦り、目前まで来ようとしていた黒狼王子に向かって――
「ご、ごめんなさい! やっぱり怖いーーーー!! 近付くの無理ーーーー!!!」
――大声で叫び、白豚王子は脱兎の如く逃走していった。
その場に取り残された黒狼王子は愕然として呟く。
「……そんな……怖くないと言ったのに……」
悲愴な面持ちで黒狼王子は立ち尽くし、周りにはどんよりと重苦しい空気が覆う。
異様なほどに落ち込む黒狼王子を見て、御供達はどう慰めるのが正解か分からず、オロオロとするばかり。
絶望感漂う余りの落ち込みように、周囲に集まっていた人々も黒狼王子が少々不憫に思えてくる。
見かねた少年が励まそうと、黒狼王子に声をかける。
「あ、えぇと、なんと言うか……その、元気出せよ……」
「………………」
少年が背中をポンポンと軽く叩くが、黒狼王子は心ここにあらずといった様子で、反応が薄い。
「あ、そうだ。ラズベリーが作った菓子あるけど、食べる?」
「……いただく」
優しい少年の提案に黒狼王子は頷いて、重苦しかった空気が少しだけ和らいだのだった。
◆
黒狼王子一行が到着すると、そこには貧民達や難民達に混ざり作業する白豚王子の姿があった。
近付いていくと、黒狼王子目の前に貧民の少年チョコミントが立ちはだかり、敵愾心を露にして大声で問う。
「あんたか! ラズベリーを追い回してるって隣国の王子様は!!」
御共達が前に出て対応しようとするが、黒狼王子は手で制して少年に答える。
「いかにも、俺はショコラ・ランド王国の第六王子、ガトーだ。ラズベリーと言うのは、第一王子の事か? 名前が違うように思うが……」
「ラズベリーは運悪く悪名高い白豚王子と見た目がそっくりなだけで、中身は心優しい全くの別人だ! だから、ラズベリーを追い回すのはもう止めろ!!」
「俺は第一王子の悪名高い噂が事実だとは思っていない……だが、心優しく善良な事は同意する。しかし……」
少年が声を荒げる騒ぎを聞きつけ、貧民達や難民達が周囲に集まってくる。
「誰が相手だろうと、ラズベリーを虐めるような奴は絶対に許さないからな!」
黒狼王子を睨み付けて少年が大声で言い放つと、貧民達も口々に言い牽制する。
「そうだそうだ、ラズベリーに悪さする奴は許さんぞ!」
「ラズベリーを困らせるような奴は、俺達が追い返してやる!」
「王子様だろうが何だろうが、この鍛え抜いた筋肉で返り討ちにしてくれるわ!」
そんな言動や向けられる感情から、黒狼王子は白豚王子が貧民達から大切に思われている事がよく分かった。
白豚王子は黒狼王子の出現に驚き、隠れて見守っていたのだが、何やら勘違いして黒狼王子を責め立てる貧民達の姿を見て、慌てて止めに入る。
「うわーーーー! 待って待って待って、違うんだ! 彼は悪くないんだ! 僕が、僕が悪いんだよ! 僕が彼のお菓子を全部食べちゃったからーーーー!!」
「なっ! 違っ――」
白豚王子の明け透けな言動に黒狼王子は驚き、咄嗟に弁解しようと思ったのだが、身元を隠している様子の白豚王子と、魔鉱石の事情が複雑なだけに目が泳いで言い淀んでしまう。
「――くも、ない……な……」
「はぁ? なんだそれ? 菓子を食べられたくらいで、延々と追い回してたのか?」
「……ぅ……うむ……」
貧民達からはじとーと胡乱な視線を向けられ、難民達からは可哀想な子を見るような目を向けられ、黒狼王子は居た堪れない気持ちになって呻く。
「くっ……そんな目で俺を見るな……」
「ガトー殿下も悪気は無かったんですよ」
「ただちょっと誤解されやすい質なんです」
御共達に妙なフォローまでされて、黒狼王子は堪りかねて白豚王子に視線を向け訴える。
「逃げなければ追い回したりしなかった……俺は話がしたかっただけなんだ……」
「話たかっただけなのか? ラズベリーも話しくらい聞いてやれば良かったのに」
「え、そうなの? 話くらいならいくらでも……」
「本当か? なら、話たい事が沢山あったんだ……」
黒狼王子はホッと胸を撫で下ろし、白豚王子に近付こうと歩みを進めていく。
白豚王子は黒狼王子に近付かれるほどに青褪めていき、プルプルと震えだす。
(あ、ヤバい……話しするのは良いけど、近付かれるのは不味いよ! あの美味しそうな匂い嗅いだら、また襲いかかっちゃう!? ど、ど、ど、どうしよう……)
白豚王子はもうこれ以上とんでもない事をしでかして嫌われたくないと焦り、目前まで来ようとしていた黒狼王子に向かって――
「ご、ごめんなさい! やっぱり怖いーーーー!! 近付くの無理ーーーー!!!」
――大声で叫び、白豚王子は脱兎の如く逃走していった。
その場に取り残された黒狼王子は愕然として呟く。
「……そんな……怖くないと言ったのに……」
悲愴な面持ちで黒狼王子は立ち尽くし、周りにはどんよりと重苦しい空気が覆う。
異様なほどに落ち込む黒狼王子を見て、御供達はどう慰めるのが正解か分からず、オロオロとするばかり。
絶望感漂う余りの落ち込みように、周囲に集まっていた人々も黒狼王子が少々不憫に思えてくる。
見かねた少年が励まそうと、黒狼王子に声をかける。
「あ、えぇと、なんと言うか……その、元気出せよ……」
「………………」
少年が背中をポンポンと軽く叩くが、黒狼王子は心ここにあらずといった様子で、反応が薄い。
「あ、そうだ。ラズベリーが作った菓子あるけど、食べる?」
「……いただく」
優しい少年の提案に黒狼王子は頷いて、重苦しかった空気が少しだけ和らいだのだった。
◆
27
お気に入りに追加
1,290
あなたにおすすめの小説
腐男子(攻め)主人公の息子に転生した様なので夢の推しカプをサポートしたいと思います
たむたむみったむ
BL
前世腐男子だった記憶を持つライル(5歳)前世でハマっていた漫画の(攻め)主人公の息子に転生したのをいい事に、自分の推しカプ (攻め)主人公レイナード×悪役令息リュシアンを実現させるべく奔走する毎日。リュシアンの美しさに自分を見失ない(受け)主人公リヒトの優しさに胸を痛めながらもポンコツライルの脳筋レイナード誘導作戦は成功するのだろうか?
そしてライルの知らないところでばかり起こる熱い展開を、いつか目にする事が……できればいいな。
ほのぼのまったり進行です。
他サイトにも投稿しておりますが、こちら改めて書き直した物になります。
完結·助けた犬は騎士団長でした
禅
BL
母を亡くしたクレムは王都を見下ろす丘の森に一人で暮らしていた。
ある日、森の中で傷を負った犬を見つけて介抱する。犬との生活は穏やかで温かく、クレムの孤独を癒していった。
しかし、犬は突然いなくなり、ふたたび孤独な日々に寂しさを覚えていると、城から迎えが現れた。
強引に連れて行かれた王城でクレムの出生の秘密が明かされ……
※完結まで毎日投稿します
異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします
み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。
★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★
王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?
名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。
そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________
※
・非王道気味
・固定カプ予定は無い
・悲しい過去🐜
・不定期
【完結】もふもふ獣人転生
*
BL
白い耳としっぽのもふもふ獣人に生まれ、強制労働で死にそうなところを助けてくれたのは、最愛の推しでした。
ちっちゃなもふもふ獣人リトと、攻略対象の凛々しい少年ジゼの、両片思い? な、いちゃらぶもふもふなお話です(笑)
ジゼの父ゲォルグ×家令長セバのお話を連載しているので、もしよかったら!
本編完結しました!
既にお受けしたリクエストをお書きした後、2部をはじめる予定ですー!
登場人物一覧はおまけのお話の最初にあります、忘れたときはどうぞです!
第12回BL大賞、奨励賞をいただきました。読んでくださった方、応援してくださった方、投票してくださった方のおかげです。
心から、ありがとうございます!
モフモフになった魔術師はエリート騎士の愛に困惑中
risashy
BL
魔術師団の落ちこぼれ魔術師、ローランド。
任務中にひょんなことからモフモフに変幻し、人間に戻れなくなってしまう。そんなところを騎士団の有望株アルヴィンに拾われ、命拾いしていた。
快適なペット生活を満喫する中、実はアルヴィンが自分を好きだと知る。
アルヴィンから語られる自分への愛に、ローランドは戸惑うものの——?
24000字程度の短編です。
※BL(ボーイズラブ)作品です。
この作品は小説家になろうさんでも公開します。
小悪魔系世界征服計画 ~ちょっと美少年に生まれただけだと思っていたら、異世界の救世主でした~
朱童章絵
BL
「僕はリスでもウサギでもないし、ましてやプリンセスなんかじゃ絶対にない!」
普通よりちょっと可愛くて、人に好かれやすいという以外、まったく普通の男子高校生・瑠佳(ルカ)には、秘密がある。小さな頃からずっと、別な世界で日々を送り、成長していく夢を見続けているのだ。
史上最強の呼び声も高い、大魔法使いである祖母・ベリンダ。
その弟子であり、物腰柔らか、ルカのトラウマを刺激しまくる、超絶美形・ユージーン。
外見も内面も、強くて男らしくて頼りになる、寡黙で優しい、薬屋の跡取り・ジェイク。
いつも笑顔で温厚だけど、ルカ以外にまったく価値を見出さない、ヤンデレ系神父・ネイト。
領主の息子なのに気さくで誠実、親友のイケメン貴公子・フィンレー。
彼らの過剰なスキンシップに狼狽えながらも、ルカは日々を楽しく過ごしていたが、ある時を境に、現実世界での急激な体力の衰えを感じ始める。夢から覚めるたびに強まる倦怠感に加えて、祖母や仲間達の言動にも不可解な点が。更には魔王の復活も重なって、瑠佳は次第に世界全体に疑問を感じるようになっていく。
やがて現実の自分の不調の原因が夢にあるのではないかと考えた瑠佳は、「夢の世界」そのものを否定するようになるが――。
無自覚小悪魔ちゃん、総受系愛され主人公による、保護者同伴RPG(?)。
(この作品は、小説家になろう、カクヨムにも掲載しています)
精霊の港 飛ばされたリーマン、体格のいい男たちに囲まれる
風見鶏ーKazamidoriー
BL
秋津ミナトは、うだつのあがらないサラリーマン。これといった特徴もなく、体力の衰えを感じてスポーツジムへ通うお年ごろ。
ある日帰り道で奇妙な精霊と出会い、追いかけた先は見たこともない場所。湊(ミナト)の前へ現れたのは黄金色にかがやく瞳をした美しい男だった。ロマス帝国という古代ローマに似た巨大な国が支配する世界で妖精に出会い、帝国の片鱗に触れてさらにはドラゴンまで、サラリーマンだった湊の人生は激変し異なる世界の動乱へ巻きこまれてゆく物語。
※この物語に登場する人物、名、団体、場所はすべてフィクションです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる