【完結】悪役を脱却したい白豚王子ですが、黒狼王子が見逃してくれません ~何故かめちゃくちゃ溺愛されてる!?~

胡蝶乃夢

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本編

96.魔法の花園で見る甘い夢

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 日が沈み月が昇った夜、黒狼王子は何気なく『魔法の花園』に訪れていた。
 昨晩、白豚王子と共に過ごした束の間の時を思い返し、庭園の美しい花々の匂いを嗅いでは、白豚王子はもっと良い匂いがしたなと想いを馳せていたのだ。


 ◆


 人々が寝静まった月夜の晩、白豚王子は記憶に無い筈の場所に既視感を覚えた事がどうしても気になり、それを確かめる為にベッドから抜け出し、『魔法の花園』へと向かった。

(思い出せそうで思い出せない。もう一度見たら何か思い出せるかも……何故か分からないけど、誰かと一緒に居てすごく幸せだったような、遠い記憶のような、儚い夢幻のような、そんな何か……ゲームではそんなイベント無かったと思うんだけど……)

 白豚王子は月が明るい夜だったので、灯りも持たずに庭園へとやって来た。
 月が雲に隠れてしまい薄暗くなる庭園内を、白豚王子は手探り状態で進んでいく。
 中央の噴水付近まで辿り着いた白豚王子は、不意に段差に躓いて転び――

「ぶひっ…………ん?」

 ――そうになり、何かにモフッとぶつかる。

 雲に隠れていた月が顔を出し、月明かりに照らされて黒い影が出現する。
 白豚王子の目の前に現れたのは、闇夜に紛れる巨大な暗黒色の狼の姿だった。
 闇夜に浮かぶ月を思わせる金色の目が、ただ静かに白豚王子を見つめていた。

「……ダーク……」

 白豚王子がぶつかったのは、黒狼のモフモフの胸毛だったのだ。
 黒狼がそこに居なければ、白豚王子は危うく噴水に飛び込んでいた事だろう。

『灯りも無しに夜道を歩いては危ないだろう』
「え、あ、そう、そうだよね……」

 予想外の黒狼の出現に困惑する白豚王子は状況が上手く把握できず、慌てて距離を取ろうとする。

(どうしてダークがここにいるの!? ……あれ? いつもの美味しそうな匂いがしない……あれれ? キラキラしてるようにも見えない……あれれれ?)

 違和感に気付いた白豚王子が鼻を鳴らして黒狼の匂いを嗅ぐと、香っていた甘くて美味しそうなスイーツの匂いは全く感じられなかった。
 不思議に思った白豚王子は黒狼の様子を伺い、首を傾げて考え込む。

(それに、怒ってないみたいだし……僕の事、気遣ってくれた……もしかして、僕嫌われてない? ……いやいや、まさか、そんな都合の良い事ある筈ないよね……あ、これきっと夢だ! 僕が見てる夢なんだ!! だから、甘い匂いしないのか……)

 白豚王子は自分が見ている夢なのだと思い込んだ。
 夢の中ならばと思い、白豚王子はうきうき気分で黒狼の方へと歩み寄っていく。
 いつもなら逃げていく白豚王子が近寄って来る事に戸惑い、黒狼は小さく呟く。

『……逃げないのか?』
「うん」

 怯える様子も無く目前まで来た白豚王子は黒狼を見上げて答え、恐怖の対象である筈の巨大な暗黒色の狼は更に問う。

『俺が怖くないのか?』
「優しいって知ってるから、怖くないよ」

 散々、黒狼王子は凶悪で悍ましい姿を白豚王子に晒してしまったというのに、そんな事は何でもない事のように白豚王子は答えた。
 白豚王子が気遣って恐怖を耐えてくれているのかと思えば、黒狼王子は嬉しく思う反面で切なくもやるせなくなっていく。

『そんな風に言われたのは初めてだ……皆、俺の姿を恐れるからな。本能的な恐怖は払拭しようがない……』
「そんな事ないよ。難民の人達も、御共の人達も、獣人兵達だって、みんなダークが好きで、怖くなんてないから笑うんだよ。そうじゃなかったら、あんな笑顔にはならないもの」
『それは、人の姿だから……難民達を救ったのも、笑顔にしたのも、俺ではなく第一王子が――』

 気落ちして項垂れる黒狼王子に白豚王子はフワリと抱き付いて、フワフワの胸毛に頬擦りし、黒狼をギューと抱きしめる。

『――っ!?』
「僕はダークが大好きだよ」

 黒狼を見上げて、白豚王子はうっとりとして告げた。
 怯える素振りなど微塵もなく、その言動に黒狼の胸は締め付けられる。

(こんな姿の俺を抱きしめようとするなんて、第一王子くらいだ……誰かに抱きしめられた事などなかったのに……こんなに真っ直ぐに好意を伝えられた事もない……第一王子だけだ……)

 だがしかし、白豚王子は不気味な暗黒微笑を黒狼に向ける。――


 ニチャァー


 ――抱きしめていた手付きが不穏に動き出し、白豚王子は本当に嬉々として、黒狼の身体を撫で回し始める。
 突然、身体中をモフモフと撫で回されて、黒狼は初めての衝撃に仰天して慌てふためく。

『あ! なに、どこ触って!? ちょっと止めろ、おい! うわっ!!』
「ふふふふふ♪ 良いではないか~、良いではないか~♪ 僕の夢なんだから~♪」

 夢だと思い込んでいる白豚王子は時代劇の悪代官みたいな台詞を言いつつ、黒狼を押し倒し好き放題、モフモフ・スリスリ・クンクン・スーハーする。
 黒狼王子は白豚王子が何を言っているのか分からず、困惑して訊き返そうとするのだが、あちこち撫で回され匂いを嗅がれる衝撃でそれどころではない。

『は? 夢って、なぁっ! そこは、やめっ!! くぅ、ん……はふ、はふ』
「わぁ~い♪ ダークに触りたい放題だなんて、僕は最高に幸せだよ~♪」

 思わず犬みたいに鼻を鳴らしてしまった黒狼は慌てて鼻を押さえるが、もうどうしたら良いのか分からず、白豚王子に押し倒されてされるがままになっている。

(なんだこれは!? なんなんだこれは!? どういう状況なんだこれは!?)

 撫で回されパニックになっている黒狼王子と、幸せな夢を見てると思い込んでいる白豚王子、楽しい一時がいつ終わるとも知れず繰り広げられる。

 唐突に興奮して鼻息を荒げていた白豚王子が静かになり、忙しなく撫で回していた手が止まる。

「………………」
『…………ん?』

 黒狼がどうしたのだろうかと思い、腹の上に顔を埋める白豚王子を覗き込む。
 微かに何か聞こえるので、黒狼は何を呟いているのかと耳を聳てて聞いてみる。

「…………ぷひぃ、ぷひぃ」
『……まさか……寝てる、だと? ……』

 巨大な暗黒色の狼の腹の上で、白豚王子は寝そべり寝息を立てて寝落ちしていた。
 泣く子も黙る恐怖の対象である黒狼を前にして危機感が無いにも程があると、黒狼王子は呆れつつも笑みが零れてしまう。
 仕方なく気持ちよさそうに眠る白豚王子を抱え、黒狼は寝所へと運ぶ。



 寝所のベッドに白豚王子を寝かせて、黒狼王子は人の姿に戻る。
 黒狼王子は布団を掛けてやり、寝息を立てる白豚王子の寝顔を覗き込む。
 白豚王子の柔らかい頬に触れたいと思い手を伸ばすが、心地良さそうに眠る寝顔を見て、起こしてしまっては可哀相かと思い留まる。

「……おやすみ……」

 起こさないくらいの小声で囁き、黒狼王子は黒い影に溶け立ち去っていった。


 ◆


 翌朝、白豚王子はベッドで清々しく目覚める。

「……あ、やっぱり夢だった……」

 ベッドで目覚めた白豚王子は、昨晩の出来事をやはり夢だったと思い込んだ。

「でも、最高に幸せな夢だったな~♪ また、ダークの夢見たいな~♪」


 ◆
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