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本編
88.逃げる白豚王子と追う黒狼王子
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一方、白豚王子に視点を戻す。
「はぁはぁ。ここまで来れば、もう匂いはしないよね。はぁ、苦しかった……」
王宮から飛び出した僕が一息吐いていると、背後から宰相の怒号が聞こえてくる。
「そこの騎士兵! 今すぐ白豚王子を取り押さえなさい!!」
「ぶひ!?」
追ってきた宰相の声に驚き僕が辺りを見回すと、王宮周辺に配備されていた騎士達が僕の周りを取り囲んでいく。
「また問題を起こしたんですか、白豚王子。いい加減にしてください」
「無駄な抵抗は止めて、大人しく捕まってください。白豚王子」
騎士達がそう言い僕を捕まえようと、じりじり近付いて来る。
(うわうわ、宰相めちゃくちゃ怒ってるし、騎士達も怖い顔してるし、捕まったら僕どうなっちゃうの? ……謝罪の為に王子の前に連れて行かれたら、絶対にまた不味い事になるよ……ここはなんとかして逃げなきゃ!)
取り押さえようと伸ばされた騎士の手を躱し、僕は跳んだ。
ぽよーん ぷよよよん、ぽよぽよぽよぽよ、ぷよよーん、ぽよぽよぽよぽよ
数多の手を躱しつつ、屈んだ騎士を跳び越えて、隙間に滑り込み摺り抜けて、更に集まって来た騎士達をも掻い潜り、僕は必死に駆け回り逃げる。
「嘘だろう!? この包囲網を突破しただと!」
「騎士である我々が全然追いつけないなんて!」
「ゼェハァ……おのれ、白豚王子め! ……ゼェゼェ……すばしっこく、逃げ回りよって!! ……ゴフゴホ……」
城内を右往左往と駆け回り逃げ続けていると、追っていた宰相と騎士達が力尽き徐々に脱落していく。
(……あれ? 皆、魔法使いだからなのか、体力全然無い……これならなんとか逃げ切れそう……)
追っていた者達が皆、息を切らせて走れなくなっている。
僕はなんとか逃げ切れたと安堵した――矢先、駆け付けた隣国の王子達が僕の前に現れる。
「居た!」
隣国の王子と目が合った僕はハッとして焦り、叫びながら慌てて逃げ出す。
「うわあぁぁぁぁ! ごめんなさいぃぃぃぃーーーー!!」
「あっ! 待て!!」
僕は脇目も振らず、一目散に城外へと飛び出していった。
◆
あっという間に逃走し、脱兎の如く駆けていく白豚王子の姿を見て、黒狼王子達は呆気に取られた。
「なんて足の速さだ。あれは本当に魔法使いなのか? 獣人ではないのか?」
「確かに、豚獣人どころか駿足で名高い兎獣人ではないかと疑いたくなりますね」
「これだけの人数の騎士達を撒いて逃げ果せるとは、大したものです……」
黒狼王子は鼻先を上げて風に乗る匂いを嗅ぎ、前方を見据え直すと、御供達に告げ駆け出していく。
「追うぞ!」
「御意!」「はい!」
黒狼王子達は匂いを辿り、白豚王子の後を追いかけていった。
◆
「はぁはぁ。ここまで来れば、もう追って来ないよね。ふぅ……」
城下町まで逃げてきた僕は、気を抜いて走っていた速度を緩める――
「見つけた!」
「うわぁっ!?」
――が、後方から聞き覚えのある声がして、吃驚した僕は飛び跳ねて振り返る。
すると、そこには僕を追って駆けてくる隣国の王子達の姿が見えた。
僕は慌ててまた走り出し、隠れ場所を探す。
人通りの多い大通りに入ってしまえば分からなくなるだろうと思い、王子が見えなくなった所で人込みに紛れる。
物陰から追ってきた王子達の様子を伺うと、辺りを見回して歩いていた王子が段々と僕の居る方に近付いてくる。
そして、まるで僕の居場所が分かるかのように視線を向けた。
「そこか!」
「ひやぁっ!?」
何故か見つかってしまった僕はまた慌てて走り出し、身を隠す場所の多い庭園広場へと逃げ隠れる。
しかし、庭園広場にも王子達は追ってきて、辺りを見回すと僕の居る方に近付いてくるのだ。
このままでは見つかると思った僕は、隠れる場所を変えようと、こっそり移動する――が、物音を立てた訳でもないのに、王子は急に僕の方に視線を向けた。
「こっちか!」
「へえぇっ!?」
またしても見つかってしまった僕は困惑して走り出し、人通りのない貧民街の廃墟へと逃げ隠れる。
一般の魔法使いならまず近付かない場所だが、隣国の王子にはそんな事は関係なかった。
「ここだな!」
「はわぁっ!?」
どこに隠れても見つかってしまう僕は大混乱しながら走り出し、隠れ場所を探して貧民街の奥地へと直走った。
◆
白豚王子を追って黒狼王子達は貧民街の奥地へと辿り着き、『癒しの精霊の楽園』へと足を踏み入れる。
焼野原だった面影など見る影も無い変貌振りに、黒狼王子は驚きの声を漏らした。
「……ここが、あの焼野原か……」
「確か、この辺りは鬼人族の残党が火を放って全焼させた土地でしたね」
「二年余りでここまで様変わりするとは、信じられない発展速度です」
そこからは、広々と続く田園風景や整然と立ち並ぶ家屋、緑豊かな草原や森林、煌めく美しい泉が見渡せた。
壮麗で見事な光景に、黒狼王子達は感心してしまう。
家屋の方へ近付いて行くと、難民達と貧民達が楽し気にしている姿が見えてくる。
「あそこに見えるのは、難民達ですね。ここが保護された貧民街という訳ですか……確かに、ここなら不自由はなさそうですね」
「ああ、良かった。大男達に連れて行かれた時は、どうなる事かと肝を冷やしたが、元気そうな姿を見て安心しました」
「そうだな。そこまで不安は無かったが、やはり明るい表情を見ると安心する」
黒狼王子達が難民地の楽しそうな姿を見て安堵していると、難民達も黒狼王子達の視線に気付く。
「あ、王子様だ!」
「おや、本当じゃ。みんな、王子様が儂等の様子を見に来てくれたぞ」
「あらあら、いつも気にかけて下さって、本当に有難いわねぇ」
黒狼王子に気にかけられている事を知っていた難民達は、黒狼王子達に笑みを向けて周りに集まってくる。
「皆、息災でいるか?」
「ええ、貧民街の皆さんには本当に良くして頂いて、ここまで来られて本当に良かったです」
「貧民街の人等はここで一緒に作物を育てて、祖国に送って支えようと言ってくれたんじゃ。儂等はここで心機一転して頑張ろうと思っとる」
「僕達ここで美味しい食べ物いっぱい作って国に送るからね!」
「そうか、それは有難いな」
数日前まで鬱屈していた難民達の憑き物が落ちたような溌溂とした表情を見て、黒狼王子は難民達を笑顔にしたきっかけの白豚王子の事を思い出す。
「ところで、第一王子を探しているんだが、どこにいるか知らないか? こちらの方に走って来たと思うんだが……」
「第一王子?」
「誰じゃろうな?」
「そんな方、来たかしらねぇ?」
難民達は誰だろうかと首を傾げ、互いの顔を見合わせて考え込む。
話しを聞いていた貧民の一人が、ふと思いつき声を上げる。
「あぁ……白豚王子のそっくりさんの事じゃないか?」
「そっくりさん?」
収穫した作物の入った木箱や樽の積み上げられている個所に、難民達は一斉に視線を向けた。
その視線の先を追い、黒狼王子は鼻をひくつかせて一つの樽をじっと見つめる。
黒狼王子が樽に近付こうと歩み出すと、樽はプルプルと震えだして、ポンッと蓋が飛んで中から白豚王子が顔を覗かせる。
「なんで?! なんでどこに逃げても見つかるの?! どうして僕の居場所が分かるの?!」
白豚王子は大混乱の余り半狂乱になりながら叫び問う。
それに、黒狼王子はあっさり答える。
「匂いを辿れば分かる」
「えっ、僕、臭いの!?」
白豚王子は自分が臭いを辿れる程の異臭を放っているのかと、ショックを受ける。
黒狼王子は勘違いさせ傷付けてしまったかと焦り、慌てて匂いの説明をする。
「否、そういう訳じゃない……花のような果実のような匂いがする。なんと言うか……美味そうな匂いだ」
「えっ、僕、美味しそうなの!?」
白豚王子は自分が美味しそうな匂いを放って食べられてしまうのかと、ショックを受ける。
黒狼王子は何やらまた勘違いしているなと思いつつ、白豚王子に近付いていく。
近付いてくる黒狼王子に向かって、白豚王子は大声で叫ぶ。
「うわぁっ、ダメダメ近付かないで! 僕の方が君の匂いダメだからぁぁぁぁ!!」
白豚王子は脱兎の如く飛び出して全力疾走で逃げていく。
黒狼王子は呆然と逃走する姿を見つめた。
「…………俺は、臭うのか?」
固まっていた黒狼王子が項垂れて御供達に訊く。
御供達が黒狼王子に近付き、すんすんと鼻を鳴らして匂いを嗅ぐ。
「臭くないと思いますが、好みの問題でしょうか?」
「ガトー殿下の匂い、私は好きです!」
「当然、私も好きですよ!」
耳と尻尾を垂らして項垂れていた黒狼王子は胡乱な視線を御供達に向けていたが、パタパタと嬉しそうに尻尾を振って答える御供達を見て、フッと笑う。
黒狼王子は深呼吸をして気持ちを切り替える。
白豚王子を止めなければならない。そう決意した黒狼王子はまた白豚王子を追って走り出す。
◆
白豚王子は王城に逃げ帰る途中、どこかで見覚えのある布地が王城前に落ちているのを見かける。
「……ん? ……」
落ちている布地が気になった白豚王子は引き返して、その布地を拾い上げ広げて見る。
すると、それは上質な布地のスカーフで、緻密で美しい刺繍が施された物だった。
刺繍の絵図は、金色の太陽を背にする銀色のフェンリル――隣国の王家の紋章だ。
見覚えがある筈である。隣国の王子が身に付けていた物なのだから。
(これ、王子の落し物だ。どうしよう? ……落とし物をこのまま置いておく訳にもいかないし、だからといって直接届けに行く訳にもいかない。どうしたらいいんだろう? ……王子がまだ王宮に戻っていないなら、今のうちにこっそり部屋に置いて来ようかな……)
白豚王子は黒狼王子のスカーフを握り、王宮を見上げて考えた。
◆
「はぁはぁ。ここまで来れば、もう匂いはしないよね。はぁ、苦しかった……」
王宮から飛び出した僕が一息吐いていると、背後から宰相の怒号が聞こえてくる。
「そこの騎士兵! 今すぐ白豚王子を取り押さえなさい!!」
「ぶひ!?」
追ってきた宰相の声に驚き僕が辺りを見回すと、王宮周辺に配備されていた騎士達が僕の周りを取り囲んでいく。
「また問題を起こしたんですか、白豚王子。いい加減にしてください」
「無駄な抵抗は止めて、大人しく捕まってください。白豚王子」
騎士達がそう言い僕を捕まえようと、じりじり近付いて来る。
(うわうわ、宰相めちゃくちゃ怒ってるし、騎士達も怖い顔してるし、捕まったら僕どうなっちゃうの? ……謝罪の為に王子の前に連れて行かれたら、絶対にまた不味い事になるよ……ここはなんとかして逃げなきゃ!)
取り押さえようと伸ばされた騎士の手を躱し、僕は跳んだ。
ぽよーん ぷよよよん、ぽよぽよぽよぽよ、ぷよよーん、ぽよぽよぽよぽよ
数多の手を躱しつつ、屈んだ騎士を跳び越えて、隙間に滑り込み摺り抜けて、更に集まって来た騎士達をも掻い潜り、僕は必死に駆け回り逃げる。
「嘘だろう!? この包囲網を突破しただと!」
「騎士である我々が全然追いつけないなんて!」
「ゼェハァ……おのれ、白豚王子め! ……ゼェゼェ……すばしっこく、逃げ回りよって!! ……ゴフゴホ……」
城内を右往左往と駆け回り逃げ続けていると、追っていた宰相と騎士達が力尽き徐々に脱落していく。
(……あれ? 皆、魔法使いだからなのか、体力全然無い……これならなんとか逃げ切れそう……)
追っていた者達が皆、息を切らせて走れなくなっている。
僕はなんとか逃げ切れたと安堵した――矢先、駆け付けた隣国の王子達が僕の前に現れる。
「居た!」
隣国の王子と目が合った僕はハッとして焦り、叫びながら慌てて逃げ出す。
「うわあぁぁぁぁ! ごめんなさいぃぃぃぃーーーー!!」
「あっ! 待て!!」
僕は脇目も振らず、一目散に城外へと飛び出していった。
◆
あっという間に逃走し、脱兎の如く駆けていく白豚王子の姿を見て、黒狼王子達は呆気に取られた。
「なんて足の速さだ。あれは本当に魔法使いなのか? 獣人ではないのか?」
「確かに、豚獣人どころか駿足で名高い兎獣人ではないかと疑いたくなりますね」
「これだけの人数の騎士達を撒いて逃げ果せるとは、大したものです……」
黒狼王子は鼻先を上げて風に乗る匂いを嗅ぎ、前方を見据え直すと、御供達に告げ駆け出していく。
「追うぞ!」
「御意!」「はい!」
黒狼王子達は匂いを辿り、白豚王子の後を追いかけていった。
◆
「はぁはぁ。ここまで来れば、もう追って来ないよね。ふぅ……」
城下町まで逃げてきた僕は、気を抜いて走っていた速度を緩める――
「見つけた!」
「うわぁっ!?」
――が、後方から聞き覚えのある声がして、吃驚した僕は飛び跳ねて振り返る。
すると、そこには僕を追って駆けてくる隣国の王子達の姿が見えた。
僕は慌ててまた走り出し、隠れ場所を探す。
人通りの多い大通りに入ってしまえば分からなくなるだろうと思い、王子が見えなくなった所で人込みに紛れる。
物陰から追ってきた王子達の様子を伺うと、辺りを見回して歩いていた王子が段々と僕の居る方に近付いてくる。
そして、まるで僕の居場所が分かるかのように視線を向けた。
「そこか!」
「ひやぁっ!?」
何故か見つかってしまった僕はまた慌てて走り出し、身を隠す場所の多い庭園広場へと逃げ隠れる。
しかし、庭園広場にも王子達は追ってきて、辺りを見回すと僕の居る方に近付いてくるのだ。
このままでは見つかると思った僕は、隠れる場所を変えようと、こっそり移動する――が、物音を立てた訳でもないのに、王子は急に僕の方に視線を向けた。
「こっちか!」
「へえぇっ!?」
またしても見つかってしまった僕は困惑して走り出し、人通りのない貧民街の廃墟へと逃げ隠れる。
一般の魔法使いならまず近付かない場所だが、隣国の王子にはそんな事は関係なかった。
「ここだな!」
「はわぁっ!?」
どこに隠れても見つかってしまう僕は大混乱しながら走り出し、隠れ場所を探して貧民街の奥地へと直走った。
◆
白豚王子を追って黒狼王子達は貧民街の奥地へと辿り着き、『癒しの精霊の楽園』へと足を踏み入れる。
焼野原だった面影など見る影も無い変貌振りに、黒狼王子は驚きの声を漏らした。
「……ここが、あの焼野原か……」
「確か、この辺りは鬼人族の残党が火を放って全焼させた土地でしたね」
「二年余りでここまで様変わりするとは、信じられない発展速度です」
そこからは、広々と続く田園風景や整然と立ち並ぶ家屋、緑豊かな草原や森林、煌めく美しい泉が見渡せた。
壮麗で見事な光景に、黒狼王子達は感心してしまう。
家屋の方へ近付いて行くと、難民達と貧民達が楽し気にしている姿が見えてくる。
「あそこに見えるのは、難民達ですね。ここが保護された貧民街という訳ですか……確かに、ここなら不自由はなさそうですね」
「ああ、良かった。大男達に連れて行かれた時は、どうなる事かと肝を冷やしたが、元気そうな姿を見て安心しました」
「そうだな。そこまで不安は無かったが、やはり明るい表情を見ると安心する」
黒狼王子達が難民地の楽しそうな姿を見て安堵していると、難民達も黒狼王子達の視線に気付く。
「あ、王子様だ!」
「おや、本当じゃ。みんな、王子様が儂等の様子を見に来てくれたぞ」
「あらあら、いつも気にかけて下さって、本当に有難いわねぇ」
黒狼王子に気にかけられている事を知っていた難民達は、黒狼王子達に笑みを向けて周りに集まってくる。
「皆、息災でいるか?」
「ええ、貧民街の皆さんには本当に良くして頂いて、ここまで来られて本当に良かったです」
「貧民街の人等はここで一緒に作物を育てて、祖国に送って支えようと言ってくれたんじゃ。儂等はここで心機一転して頑張ろうと思っとる」
「僕達ここで美味しい食べ物いっぱい作って国に送るからね!」
「そうか、それは有難いな」
数日前まで鬱屈していた難民達の憑き物が落ちたような溌溂とした表情を見て、黒狼王子は難民達を笑顔にしたきっかけの白豚王子の事を思い出す。
「ところで、第一王子を探しているんだが、どこにいるか知らないか? こちらの方に走って来たと思うんだが……」
「第一王子?」
「誰じゃろうな?」
「そんな方、来たかしらねぇ?」
難民達は誰だろうかと首を傾げ、互いの顔を見合わせて考え込む。
話しを聞いていた貧民の一人が、ふと思いつき声を上げる。
「あぁ……白豚王子のそっくりさんの事じゃないか?」
「そっくりさん?」
収穫した作物の入った木箱や樽の積み上げられている個所に、難民達は一斉に視線を向けた。
その視線の先を追い、黒狼王子は鼻をひくつかせて一つの樽をじっと見つめる。
黒狼王子が樽に近付こうと歩み出すと、樽はプルプルと震えだして、ポンッと蓋が飛んで中から白豚王子が顔を覗かせる。
「なんで?! なんでどこに逃げても見つかるの?! どうして僕の居場所が分かるの?!」
白豚王子は大混乱の余り半狂乱になりながら叫び問う。
それに、黒狼王子はあっさり答える。
「匂いを辿れば分かる」
「えっ、僕、臭いの!?」
白豚王子は自分が臭いを辿れる程の異臭を放っているのかと、ショックを受ける。
黒狼王子は勘違いさせ傷付けてしまったかと焦り、慌てて匂いの説明をする。
「否、そういう訳じゃない……花のような果実のような匂いがする。なんと言うか……美味そうな匂いだ」
「えっ、僕、美味しそうなの!?」
白豚王子は自分が美味しそうな匂いを放って食べられてしまうのかと、ショックを受ける。
黒狼王子は何やらまた勘違いしているなと思いつつ、白豚王子に近付いていく。
近付いてくる黒狼王子に向かって、白豚王子は大声で叫ぶ。
「うわぁっ、ダメダメ近付かないで! 僕の方が君の匂いダメだからぁぁぁぁ!!」
白豚王子は脱兎の如く飛び出して全力疾走で逃げていく。
黒狼王子は呆然と逃走する姿を見つめた。
「…………俺は、臭うのか?」
固まっていた黒狼王子が項垂れて御供達に訊く。
御供達が黒狼王子に近付き、すんすんと鼻を鳴らして匂いを嗅ぐ。
「臭くないと思いますが、好みの問題でしょうか?」
「ガトー殿下の匂い、私は好きです!」
「当然、私も好きですよ!」
耳と尻尾を垂らして項垂れていた黒狼王子は胡乱な視線を御供達に向けていたが、パタパタと嬉しそうに尻尾を振って答える御供達を見て、フッと笑う。
黒狼王子は深呼吸をして気持ちを切り替える。
白豚王子を止めなければならない。そう決意した黒狼王子はまた白豚王子を追って走り出す。
◆
白豚王子は王城に逃げ帰る途中、どこかで見覚えのある布地が王城前に落ちているのを見かける。
「……ん? ……」
落ちている布地が気になった白豚王子は引き返して、その布地を拾い上げ広げて見る。
すると、それは上質な布地のスカーフで、緻密で美しい刺繍が施された物だった。
刺繍の絵図は、金色の太陽を背にする銀色のフェンリル――隣国の王家の紋章だ。
見覚えがある筈である。隣国の王子が身に付けていた物なのだから。
(これ、王子の落し物だ。どうしよう? ……落とし物をこのまま置いておく訳にもいかないし、だからといって直接届けに行く訳にもいかない。どうしたらいいんだろう? ……王子がまだ王宮に戻っていないなら、今のうちにこっそり部屋に置いて来ようかな……)
白豚王子は黒狼王子のスカーフを握り、王宮を見上げて考えた。
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