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本編
86.白豚王子は逃げだす
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少し時間は遡り、白豚王子に視点を戻す。
僕はこっそりと見張りを掻い潜り、王宮中に潜り込む事に成功した。
王宮の人通りの少ない通路も、人目に付かない隠れ場所も、僕はよく知っていたのだ。
何故なら――
(スイーツ断ちする度に、無意識に王宮に忍び込んで保管してある砂糖を食べてしまっていたからね……その度にこそこそと隠れて帰る羽目になってたら、そりゃあ、王宮にも詳しくなっちゃうよね……)
――そんな訳で、難無く王宮に潜り込めた僕は隣国の王子を探し回っていた。
(貴賓室の方にはいないみたいだけど……同盟国の支援とかそんな話をしていたから、会議室の方かな? 確かこっちの方だったと思うけど……あ、見つけた!)
会議室へと続く通路を覗き見て、僕は獣人達の姿を発見した。
護衛であろう数人の獣人達が、会議室の前に待機している。
(きっと、隣国の王子はあそこで会議中なんだろうな。よし、ここで待ってたら会えるね。会議が終わって出てきたら、今度こそちゃんとお礼を言うんだ)
僕がソワソワしながら待っていると、ティーセットを持った給仕係が近くを通り過ぎ会議室の中へと入っていく。
(会議はまだまだかかりそうだな。……それにしても、紅茶の良い匂いが香ってくる……甘い匂いだ……甘くて美味しそうな匂いがする……)
香り立つ紅茶の匂いにくんくんと鼻を鳴らしていると、ふと違和感に気付く。
(……あれ? ……この匂い紅茶じゃないな……甘いスイーツの匂いだ……あ、嫌な予感がする……これ絶対ダメなやつ……ダメだよ僕! しっかりするんだ!! ダメったら、ダメな、のに……)
必死に意識を保とうとするのだが、甘く香る匂いを嗅いでいるうちに、僕の思考はスイーツを食べる事しか考えられなくなっていく。
(……あぁ、甘くて美味しいスイーツ……スイーツが食べたい……食べたい……食べたくて堪らない……)
意識は朧気になり、僕の身体はスイーツを求め夢遊病のように動きだす。
飛び込む勢いで会議室の扉を開けると、キラキラと光り輝くスイーツがあった。
僕は一際輝く美味しそうなスイーツにかぶりつく。
ぱくり、もぐもぐもぐ、ごっくん。
(……はぁ、美味しい……甘くて美味しいスイーツ……もっと、もっと食べたい……全部、食べたい……)
ぱくぱくぱく、もぐもぐもぐ、むしゃむしゃむしゃ、もりもりもり――ごっくん。
抗えない衝動のまま、手当たり次第にスイーツを貪り食べ、僕は部屋中のスイーツを平らげてしまう。
「――第一王子? ――」
誰かの呼ぶ声が聞こえて、僕はハッと我に返る。
「……ぶひっ!? ……」
僕が恐る恐る振り返ると、隣国の王子と思わしき人物がそこにいた。
四年前にすれ違っているからなのか、どことなく見覚えがある気がする。
漆黒の獣耳と毛髪に褐色の肌をした美形。褐色の肌は隣国の王族の特徴なので、彼で間違いない。
金色に光る彼の目が驚きに見開かれて、まじまじと僕を見つめている。
(うわあぁぁぁぁ! またやらかしたぁぁぁぁ!? お礼を言う為に来たのに、なに失礼な事しでかしてるんだよー! 僕のバカバカー!! ここはまず、誠心誠意謝るしかない! 謝り倒して、それからお礼を……)
やらかした衝撃に頭を抱えて思案し、僕は慌てて頭を下げて謝罪する。
「ご、ごめんなさいっ!」
深々と頭を下げていると、仄かに甘い香りがする事に気付いて、僕は咄嗟に鼻を押さえた。
(……な、なんで? まだ甘い匂いがする……スイーツはもう全部食べ尽くした筈なのに……この匂い、いったいどこから? ……)
僕はそろりと頭を上げて、周りの様子を伺い見て更なる衝撃を受ける。
「!?」
目の前にいる隣国の王子の周りが、僕にはキラキラと光り輝いて見えるのだ。
錯覚だろうかと、目を瞬かせてみてもキラキラとした輝きは消えない。
(……もしかして、これ王子から香ってる? ……これ不味い気がする……ここにいたら、またとんでもない事をしてしまいそう……早く離れないと……)
僕は息を止めて距離を取ろうと後退るが、王子は席を立ち僕の方に手を伸ばす。
「……否、謝罪など――」
「第一王子っ! なんという事を!! 大変貴重な品を特別に用意したというのに、それを……それを……」
王子が何か言いかけるが、宰相が物凄い剣幕で僕に向かって怒鳴った。
相当に貴重な菓子だったのだろう、宰相は僕を睨みつけて歯噛みしている。
恩人に対して取り返しのつかない事をしでかしてしまったのだと、僕は青褪め冷汗が流れる。
「第一王子、俺は――」
何故か歩み寄ろうと踏み出す王子の姿を見て、僕は息が続かなくなってきて焦り、ここにいたら不味い事になると確信して――
「ひぃっ! ……ご、ご、ご、ごめんなさいぃぃぃぃーーーー!!」
――僕は全速力で逃げ出した。
◆
僕はこっそりと見張りを掻い潜り、王宮中に潜り込む事に成功した。
王宮の人通りの少ない通路も、人目に付かない隠れ場所も、僕はよく知っていたのだ。
何故なら――
(スイーツ断ちする度に、無意識に王宮に忍び込んで保管してある砂糖を食べてしまっていたからね……その度にこそこそと隠れて帰る羽目になってたら、そりゃあ、王宮にも詳しくなっちゃうよね……)
――そんな訳で、難無く王宮に潜り込めた僕は隣国の王子を探し回っていた。
(貴賓室の方にはいないみたいだけど……同盟国の支援とかそんな話をしていたから、会議室の方かな? 確かこっちの方だったと思うけど……あ、見つけた!)
会議室へと続く通路を覗き見て、僕は獣人達の姿を発見した。
護衛であろう数人の獣人達が、会議室の前に待機している。
(きっと、隣国の王子はあそこで会議中なんだろうな。よし、ここで待ってたら会えるね。会議が終わって出てきたら、今度こそちゃんとお礼を言うんだ)
僕がソワソワしながら待っていると、ティーセットを持った給仕係が近くを通り過ぎ会議室の中へと入っていく。
(会議はまだまだかかりそうだな。……それにしても、紅茶の良い匂いが香ってくる……甘い匂いだ……甘くて美味しそうな匂いがする……)
香り立つ紅茶の匂いにくんくんと鼻を鳴らしていると、ふと違和感に気付く。
(……あれ? ……この匂い紅茶じゃないな……甘いスイーツの匂いだ……あ、嫌な予感がする……これ絶対ダメなやつ……ダメだよ僕! しっかりするんだ!! ダメったら、ダメな、のに……)
必死に意識を保とうとするのだが、甘く香る匂いを嗅いでいるうちに、僕の思考はスイーツを食べる事しか考えられなくなっていく。
(……あぁ、甘くて美味しいスイーツ……スイーツが食べたい……食べたい……食べたくて堪らない……)
意識は朧気になり、僕の身体はスイーツを求め夢遊病のように動きだす。
飛び込む勢いで会議室の扉を開けると、キラキラと光り輝くスイーツがあった。
僕は一際輝く美味しそうなスイーツにかぶりつく。
ぱくり、もぐもぐもぐ、ごっくん。
(……はぁ、美味しい……甘くて美味しいスイーツ……もっと、もっと食べたい……全部、食べたい……)
ぱくぱくぱく、もぐもぐもぐ、むしゃむしゃむしゃ、もりもりもり――ごっくん。
抗えない衝動のまま、手当たり次第にスイーツを貪り食べ、僕は部屋中のスイーツを平らげてしまう。
「――第一王子? ――」
誰かの呼ぶ声が聞こえて、僕はハッと我に返る。
「……ぶひっ!? ……」
僕が恐る恐る振り返ると、隣国の王子と思わしき人物がそこにいた。
四年前にすれ違っているからなのか、どことなく見覚えがある気がする。
漆黒の獣耳と毛髪に褐色の肌をした美形。褐色の肌は隣国の王族の特徴なので、彼で間違いない。
金色に光る彼の目が驚きに見開かれて、まじまじと僕を見つめている。
(うわあぁぁぁぁ! またやらかしたぁぁぁぁ!? お礼を言う為に来たのに、なに失礼な事しでかしてるんだよー! 僕のバカバカー!! ここはまず、誠心誠意謝るしかない! 謝り倒して、それからお礼を……)
やらかした衝撃に頭を抱えて思案し、僕は慌てて頭を下げて謝罪する。
「ご、ごめんなさいっ!」
深々と頭を下げていると、仄かに甘い香りがする事に気付いて、僕は咄嗟に鼻を押さえた。
(……な、なんで? まだ甘い匂いがする……スイーツはもう全部食べ尽くした筈なのに……この匂い、いったいどこから? ……)
僕はそろりと頭を上げて、周りの様子を伺い見て更なる衝撃を受ける。
「!?」
目の前にいる隣国の王子の周りが、僕にはキラキラと光り輝いて見えるのだ。
錯覚だろうかと、目を瞬かせてみてもキラキラとした輝きは消えない。
(……もしかして、これ王子から香ってる? ……これ不味い気がする……ここにいたら、またとんでもない事をしてしまいそう……早く離れないと……)
僕は息を止めて距離を取ろうと後退るが、王子は席を立ち僕の方に手を伸ばす。
「……否、謝罪など――」
「第一王子っ! なんという事を!! 大変貴重な品を特別に用意したというのに、それを……それを……」
王子が何か言いかけるが、宰相が物凄い剣幕で僕に向かって怒鳴った。
相当に貴重な菓子だったのだろう、宰相は僕を睨みつけて歯噛みしている。
恩人に対して取り返しのつかない事をしでかしてしまったのだと、僕は青褪め冷汗が流れる。
「第一王子、俺は――」
何故か歩み寄ろうと踏み出す王子の姿を見て、僕は息が続かなくなってきて焦り、ここにいたら不味い事になると確信して――
「ひぃっ! ……ご、ご、ご、ごめんなさいぃぃぃぃーーーー!!」
――僕は全速力で逃げ出した。
◆
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