【完結】悪役を脱却したい白豚王子ですが、黒狼王子が見逃してくれません ~何故かめちゃくちゃ溺愛されてる!?~

胡蝶乃夢

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本編

81.癒しの精霊の楽園

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 大男達が難民達を掻っ攫い抱えて、泉に架かる橋を渡り目的地に到着すると、獣人達を下ろして言う。

「到着したぞ。ここが中心の『癒しの精霊の泉』だ」
「そして、ここから一望できる景色全てが俺達の楽園なんだ」
「ようこそ、我らが『癒しの精霊の楽園』へ」

 貧民街の奥地に位置する、元は『腐敗の森』と呼ばれていたその場所は、貧民達にいつからか『癒しの精霊の楽園』と呼ばれるようになっていた。
 中心地にある『癒しの精霊の泉』までの開拓が進められて、今では実り豊かな田園風景が辺り一面に広がっている。
 獣人達は道すがら広々と続く田園風景を眺め感心していたが、そこから一望できる景色を見て、更に驚きの表情を浮かべ、感嘆の声を上げる。

「……なんて、綺麗なんだろう……」

 水底まで澄み渡る綺麗なラムネ色の泉は水面が揺らめき、幾重にも光りを反射して眩く煌き、宝石のような輝きを放っている。
 蒼々と葉を茂らせる雑木林には心地良い風が吹き抜け、揺れる葉の合間から木漏れ日が射し、幻想的な光景を作り上げている。
 色取り取りの野花が咲き、小鳥がさえずり、小動物が駆ける、そこにいる生き物達は皆一様に活き活きとして、生命力に満ち溢れているのだ。

「……これが、『癒しの精霊の楽園』なのか……」

 獣人達の目に映る、光り輝く鮮やかに彩られた世界は、正に『楽園』と呼ぶに相応しい光景だった。
 そんな光景に心を奪われ魅入っていると、貧民の女性達がやって来て獣人達に優しく微笑みかけて言う。

「遠い所からよくぞいらっしゃいました。長旅はさぞ大変だったでしょう。この泉の湧き水は『癒しの精霊』が与えて下さった『癒やしの水』なんですよ。飲むと身体が癒されて不思議と元気が湧いてくるんです。――はい、どうぞ」

 瑞々しく麗しい女性達に水の入った杯を差し出されて、獣人達は頬を淡く染めながらそれを受け取る。

「あ、ありがとう」

 水をコクリと一口飲み込んでみると、その美味しさに獣人達は吃驚して耳や尻尾を立て、夢中になりゴクゴクと一気に飲み干してしまう。

「美味しい! こんなに美味しいお水、飲んだ事ないよ!!」
「美味しい……身体に浸み渡って生き返るようだ……」
「そうでしょう、私達も初めて飲んだ時は吃驚したのよ。何度飲んでも美味しいのよね」
「俺達も仕事終わりや疲れた時に飲むが、この水を飲むだけで疲れが吹っ飛ぶんだよな」

 『癒しの水』を飲んだ獣人達は、言葉通り身体が癒されて回復していくのを実感していた。
 回復する様子を見た貧民達は、次いで獣人達を温泉施設まで案内して行く。

「空腹も少し落ち着いてるだろうから、今度は温泉に入って汚れも疲れもスッキリサッパリ洗い流してしまおう。ここのラムネ温泉はしゅわしゅわして気持ちいいぞ」
「おんせん? らむね? しゅわしゅわ?」

 大男が獣人の子供の頭を撫でながら言うと、聞き慣れない単語に獣人の子供は首を傾げて訊き返す。

「温泉って言うのは天然の大きなお風呂よ。ラムネ温泉っていうのは、小さな泡がいっぱい出る温泉で……まぁ、入ってみれば分かるわね。ゆっくり温泉に浸かって癒されましょう」

 女性が付け加えて説明しつつ、百聞は一見にしかずと、幼い子供や老婆達を連れて男女で分けられている建物に入っていく。

「背中を流してあげるから、一緒に入りましょうね」
「わ~い、大きなお風呂~、しゅわしゅわお風呂~」
「あらあら、世話をかけさせて悪いわねぇ、助かるわぁ」

 キャッキャッと楽しそうに建物に入っていく女性達を、老爺ろうや達は微笑ましそうに、羨ましそうに見送っていた。
 そんな眼差しに気付いた大男は老爺の肩をガシッと掴み、白い歯を見せてニカッと笑い、盛々の力瘤ちからこぶを見せて言う。

「なんだ、背中を流して欲しいなら、俺達が思う存分洗い流してやるぞ! この鍛え上げた筋肉で!!」
「ふぁっ!? ……い、いや、自分で洗えるから、大丈夫じゃ……」
「そんな、遠慮なんていらないぞ! 俺達に任せておけ!!」
「え、いやいや、大丈夫じゃって、ふぉうっ!」

 息巻く大男達を見て力任せに洗われては敵わんと、老爺達は穏便に断り距離を取ろうとしたのだが、その距離はあっという間に詰められ捕まってしまった。
 筋骨隆々の大男に抱きかかえられてしまえば、痩せ細った老爺になど為す術は無いのだ。
 尻尾を巻いて早々に諦め、弱々しく懇願するのが関の山である。

「………………優しくしてね」
「もちろんだ。極楽浄土を体験させてやるぞ!」
「ふぇ……それ、臨死体験じゃ!?」

 それから、老爺達は抵抗するも虚しく、気合の入ったムッキムキの大男達に汚れた衣服を引っぺがされて、全身隈なく懇切丁寧に洗われて、ピッカピカにされてしまうのであった。


 ◆
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