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本編

79.大男達に連れ攫われた難民達

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 大男達の誘いに戸惑う難民達は、貴族に言われた事を思い出して、重々しく問う。

「……あの、私達は厄介者の『獣』ではないのですか? ……先程、貴族の方が仰ってました……私達を『魔法の使えない獣』だと、魔法使いに面倒を進んでみたがる者などいないと……」

 それを聞いて大男達は目を見開いて絶句し、次いで怒り心頭の表情で拳を握り締めて言う。

「はぁ!? 誰だそんな事を言う糞野郎は!」
「どうせ、王侯貴族とか思想の強い冷酷無比な奴等なんだろうな! とんでもねぇ、冷血漢だ!!」
「魔法が使えないからなんだと言うんだ!? そんな事は気にしなくて大丈夫だ! 全く問題になんてならないからな!!」

 難民達が追い詰められ萎縮させられていた事に、大男達はいきどおっていた。
 大男達は難民達を励まそうと、表情を明るくして言い聞かせる。

「俺なんて魔力が全然無くて魔法が発動した事なんて一度も無いぞ? ……そんな事よりも、俺の農作業で培われたこの筋肉を見てくれ! 筋肉があればいくらでも農作業ができるし、いつでもどこでも元気いっぱいだぞ! わはははは」
「俺も俺も、世の中基準で考えれば魔法が使えない奴の方が多いんだから当然の事だよな。こうして農作業ができる方が、よっぽど自分の為にも世の中の為にもなるというものだ。な? なはははは」

 魔法の使えない事など些末な事だと言わんばかりに、大男達はあっけらかんと笑い飛ばして、ご自慢の筋肉を披露するポージングをして見せる。

「どうだ、一緒に土いじりして野菜でも育てないか? 畑仕事も意外と楽しいぞ! 好きなもの沢山育てればいっぱい食べられるし、楽しく身体も鍛えられて一石二鳥――否、三鳥だ!」
「そうだそうだ、丁度収穫が終わって収穫祭をしようなんて話をしていた所だったんだ。折角だし、皆で盛大にお祭り騒ぎといこうじゃないか!」
「おお、それは良いな! そうと決まれば善は急げだ。我らが『癒しの精霊の楽園』へお連れしようじゃないか」

 あれよあれよという間に大男達は話を纏め、難民達を貧民街へ連れて行く事が決まってしまった。
 大男達は難民達に向き直り、優しく微笑みかけ手を差し伸べて言う。

「貧民街なんて響きは悪いが、まずは来てみてくれ、きっと気に入るから。もしも、気に入らなければその時考えればいいさ」
「いいや、もう遅いぞ? 問答無用で連れて行くからな! とりあえず、腹いっぱい食べて、温泉入ってゆっくり休んで、元気になってから考えたらいいんだからな!」
「俺達も経験しているから、よく分かるんだ……追いやられる悲しさも、辱められ貶められる惨めさも、病や飢えに苦しむ辛さも、死に怯える恐怖も、誰よりもよく分かっている……」

 大男達は辛い過去を振り返るように、思い詰めた苦々しい表情をする。
 それから、大男達は真面目な表情になり、難民達に真摯な眼差しを向けて告げる。

「俺達も前は酷い状態だった……だけど、俺達には助けてくれた人がいたんだ。俺達はその人に命も魂も救われた……だから、今度は俺達が誰かを救う番なんだ! ……大丈夫、必ず守ってみせる! 誰一人として欠けさせたりしないと約束する! だから、俺達を信じて一緒に来てくれ!!」

 大男達のその表情には並々ならない思いが込められているように見えた。
 難民達は大男達の真摯な言動に心が激しく揺れ動かされる。
 先程の老婆が目を潤ませ周りの難民達を見てゆっくりと頷くと、他の難民達も動揺しつつも頷いていく。
 難民達の頷いた姿を見て、大男達は満面の笑みを浮かべる。

 一人の大男が老婆の前で騎士のように跪き、手を差し伸べて微笑み言う。

「さぁ、レディー、お手をどうぞ」
「まぁ、こんな婆さんにレディーだなんて……うふふ、恥ずかしいよぉ、もぅ……きゃっ!」

 老婆が手に手を乗せると、大男は老婆をお姫様のように抱きかかえて、驚いた老婆は可愛い悲鳴を上げ頬を赤く染める。
 他の大男達も続いて、子供達を肩車したり両肩に抱き上げたり、老人達を背負ったり両腕で抱えて持ち上げていく。

「きゃあ! わぁ、高い高い!!」
「ほほぉ! 大きな背中だのぉ!!」

 驚きつつも難民達は高い視界に興奮して、子供達はキャッキャッとはしゃぎ、老人達はワクワクと心弾ませる。
 難民達の暗く消沈していた表情は、明るく楽しそうな笑顔へと変わっていた。
 獣人特有の耳や尻尾は、ピンと立てられていたり、パタパタと振られていたり、モコモコに膨れたりと、感情表現豊かに好感情が伝えられている。

「さぁ、それじゃあ、行くぞー!」
「おぉー!!」

 一人が号令をかけると、大男達はまた足音を轟かせて走り出した。


 ドドドドドドドドドド ドドドドドドドド ドドドドドド ドドドド ドド ド


 こうして、大男達は悪辣な者達の魔の手から難民達を搔っ攫って行ったのである。



 そんな怒涛どとうの展開を、見物していた城下町の住民達は目を丸くして見ていた。
 また、ガトー王子の御共達もその様子を唖然とした面持ちで見守っていた。

「……くっ、ふふふ……ははははは……」

 唐突にガトー王子が小さく笑い出して、御供達は訝しげな視線を向ける。

「……ガトー殿下、どうされました?」
「難民達が連れて行かれてしまいましたが、大丈夫なのでしょうか?」
「あぁ、大丈夫だろう。問題は無い筈だ。ふふふ」

 走り去って行く大群を追わなくていいのかと不安がる御供達を、ガトー王子は笑いながら宥める。
 ガトー王子は大男達にどことなく見覚えがあり気になっていたのだが、話を聞くとそれが二年前に第一王子が命懸けで守っていた、貧民街の見捨てられた者達『人でなし』だと分かった。
 あの頃の酷く瘦せこけた弱々しい姿など見る影もない、元気いっぱいに巨大化した見事な変貌ぶり筋肉盛々に、ガトー王子は可笑しくなって笑いが零れてしまったのだ。

(なんて運命だろうか……第一王子が命懸けで救った者達が、今度は難民達を救ってくれるのだ……あの難民達が、この短時間で笑顔を見せるようになっていた……きっと、第一王子がそうしてきた事を、あの者達もしているのだろう……ならば、何も心配する事はない。あの者達の笑顔を見れば、第一王子がしてきた事が分かるのだから……)

 ガトー王子は感慨深い気持ちで、丸々とした人影が駆けて行く後姿を見送ったのだった。


 ◆
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