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本編
73.貴族の悍ましい思惑
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時は暫し遡り、黒狼王子に視点を移す。
数年に渡る敵対国との紛争により、ショコラ・ランド王国の国防費は嵩む一方で国庫は減り続け、国力は大きく削がれていった。
同盟国に対する派兵と国防の為に多くの人材と国費が費やされ、財政は次第に困窮を深めた。
辺境の貧しい町村などは特にその煽りを受け、残された老人や子供達は貧困に苦しむ事になった。
王国全土を補うだけの食料や物資の維持が困難になっていたショコラ・ランド王国は、やむを得ず同盟国である隣国アイス・ランド王国に支援を求めたのだ。
表向きは友好国でもあるアイス・ランド王国の国王は難民の受け入れと支援を快く承諾した。
しかし、選民思想の強い魔法使いの性質を身を以て体感していたガトー王子は懸念してもいた。
「……少し気になる。難民達の様子を見てから行こう」
ガトー王子一行は王国の使者として王城に向かう途中、辺境の地から移りアイス・ランド王国に入国した難民達の安否を確認する為、城下町へと視察に向かった。
「何事も無ければいいが……」
◆
アイス・ランド王国では王命により上位貴族が集められ、隣国の支援と難民の保護について協議されていたが、難民の受入先が決まらず談義は難航していた。
そこで、声高らかに名乗りを上げたのが、上位貴族の地位を財力で手に入れていた新興貴族のマーブル伯爵だったのだ。
会議が終了し解散する足で、マーブル伯爵は難民達の待機する城下町へと向かう。
それに付き従う側近が不服そうな表情を浮かべ、マーブル伯爵に問う。
「本当によろしかったのですか? 上位貴族の方々に名を売る機会とはいえ、獣人なんて厄介者を抱え込んでしまわれて……」
側近の言動にマーブル伯爵は愉快そうに笑い、思惑ありげに言う。
「あっはっはっはっはっ、もちろん問題など無い。物は使いようではないか」
「……と、仰いますと、どのように使われるおつもりで? 魔法も使えないような獣の難民など役立たずの穀潰しではありませんか」
マーブル伯爵は方眉を上げて側近を見やる。
「君もまだまだだね。……当家が砂糖菓子のおかげでここまで成り上がってきたのは、君も知っているだろう?」
「ええ、それはもちろん。上位貴族の間で大流行している砂糖菓子は我が領の名物ですからね」
「そう、我が領で採れる特別な魔鉱石で作った砂糖菓子だ」
マーブル伯爵は不敵な笑みを浮かべて側近に語る。
「魔鉱石を用意するにも人手が必要だ。今まで使っていた物が軒並み使い物にならなくなってきて、新しい物が欲しいと思っていた所だ。丁度良い拾い物ではないか」
「ああ、なるほど。確かに魔鉱石鉱脈で鉱山夫達が駄目になってきて採掘量が落ちていましたね。働ける者には高給の仕事を与えるという名目で、採掘と加工をさせるのですね」
「そうそう、そうだとも。……それと、上位貴族の顧客達も安全の保障が無いとなかなか砂糖菓子に手を付けなくなってきてしまったからね……」
マーブル伯爵は芝居じみた仕草で肩を竦めて見せる。
「どれだけの量を摂取すれば中毒を起こすのか、理性を失い人格崩壊するのか、物言わぬ廃人になるのか、致死量で死に至るのか、実験してみなければいけないだろう? ……さしずめ、獣を使った動物実験とでもいった所か」
非人道的な行為であっても悪怯れもしないマーブル伯爵の笑みを見て、側近は唾を呑み込んで問う。
「……で、ですが、国王陛下の命で難民は保護対象ではありませんか!? いくら出来損ないの獣とはいえ、そのような扱いをして死なせた事が知られれば断罪は免れませんよ!」
断罪されては堪らないと焦る側近に、マーブル伯爵は問題ではないといった様子で答える。
「難民など元々死にかけている貧民層ではないか。表面上は手厚く保護してやるのだから、同時に大量に死ぬ事でもない限りは怪しまれる事もないだろう。ゆっくりと時間をかけて実験すれば良いだけの話しだ」
「……な、なるほど。出来損ないの役立たずを上手く使って、有効活用してやるという事ですか。流石、一代で伯爵位まで上り詰めたお方はお考えになる事が違う……」
「そうだとも、そして私はもっと上を目指す。その為にも難民共をじっくりと時間をかけて、当家の為に使い潰してやろう……」
不気味な笑みを浮かべ、マーブル伯爵は歩き出す。
「さあ、先ずはこの依存性の高い新作の砂糖菓子を差し入れて、獣に餌付けでもしてやろうではないか。ふっはっはっはっはっ」
不敵に笑うマーブル伯爵は、悍ましい差し入れを持って難民達の元へと向かった。
◆
数年に渡る敵対国との紛争により、ショコラ・ランド王国の国防費は嵩む一方で国庫は減り続け、国力は大きく削がれていった。
同盟国に対する派兵と国防の為に多くの人材と国費が費やされ、財政は次第に困窮を深めた。
辺境の貧しい町村などは特にその煽りを受け、残された老人や子供達は貧困に苦しむ事になった。
王国全土を補うだけの食料や物資の維持が困難になっていたショコラ・ランド王国は、やむを得ず同盟国である隣国アイス・ランド王国に支援を求めたのだ。
表向きは友好国でもあるアイス・ランド王国の国王は難民の受け入れと支援を快く承諾した。
しかし、選民思想の強い魔法使いの性質を身を以て体感していたガトー王子は懸念してもいた。
「……少し気になる。難民達の様子を見てから行こう」
ガトー王子一行は王国の使者として王城に向かう途中、辺境の地から移りアイス・ランド王国に入国した難民達の安否を確認する為、城下町へと視察に向かった。
「何事も無ければいいが……」
◆
アイス・ランド王国では王命により上位貴族が集められ、隣国の支援と難民の保護について協議されていたが、難民の受入先が決まらず談義は難航していた。
そこで、声高らかに名乗りを上げたのが、上位貴族の地位を財力で手に入れていた新興貴族のマーブル伯爵だったのだ。
会議が終了し解散する足で、マーブル伯爵は難民達の待機する城下町へと向かう。
それに付き従う側近が不服そうな表情を浮かべ、マーブル伯爵に問う。
「本当によろしかったのですか? 上位貴族の方々に名を売る機会とはいえ、獣人なんて厄介者を抱え込んでしまわれて……」
側近の言動にマーブル伯爵は愉快そうに笑い、思惑ありげに言う。
「あっはっはっはっはっ、もちろん問題など無い。物は使いようではないか」
「……と、仰いますと、どのように使われるおつもりで? 魔法も使えないような獣の難民など役立たずの穀潰しではありませんか」
マーブル伯爵は方眉を上げて側近を見やる。
「君もまだまだだね。……当家が砂糖菓子のおかげでここまで成り上がってきたのは、君も知っているだろう?」
「ええ、それはもちろん。上位貴族の間で大流行している砂糖菓子は我が領の名物ですからね」
「そう、我が領で採れる特別な魔鉱石で作った砂糖菓子だ」
マーブル伯爵は不敵な笑みを浮かべて側近に語る。
「魔鉱石を用意するにも人手が必要だ。今まで使っていた物が軒並み使い物にならなくなってきて、新しい物が欲しいと思っていた所だ。丁度良い拾い物ではないか」
「ああ、なるほど。確かに魔鉱石鉱脈で鉱山夫達が駄目になってきて採掘量が落ちていましたね。働ける者には高給の仕事を与えるという名目で、採掘と加工をさせるのですね」
「そうそう、そうだとも。……それと、上位貴族の顧客達も安全の保障が無いとなかなか砂糖菓子に手を付けなくなってきてしまったからね……」
マーブル伯爵は芝居じみた仕草で肩を竦めて見せる。
「どれだけの量を摂取すれば中毒を起こすのか、理性を失い人格崩壊するのか、物言わぬ廃人になるのか、致死量で死に至るのか、実験してみなければいけないだろう? ……さしずめ、獣を使った動物実験とでもいった所か」
非人道的な行為であっても悪怯れもしないマーブル伯爵の笑みを見て、側近は唾を呑み込んで問う。
「……で、ですが、国王陛下の命で難民は保護対象ではありませんか!? いくら出来損ないの獣とはいえ、そのような扱いをして死なせた事が知られれば断罪は免れませんよ!」
断罪されては堪らないと焦る側近に、マーブル伯爵は問題ではないといった様子で答える。
「難民など元々死にかけている貧民層ではないか。表面上は手厚く保護してやるのだから、同時に大量に死ぬ事でもない限りは怪しまれる事もないだろう。ゆっくりと時間をかけて実験すれば良いだけの話しだ」
「……な、なるほど。出来損ないの役立たずを上手く使って、有効活用してやるという事ですか。流石、一代で伯爵位まで上り詰めたお方はお考えになる事が違う……」
「そうだとも、そして私はもっと上を目指す。その為にも難民共をじっくりと時間をかけて、当家の為に使い潰してやろう……」
不気味な笑みを浮かべ、マーブル伯爵は歩き出す。
「さあ、先ずはこの依存性の高い新作の砂糖菓子を差し入れて、獣に餌付けでもしてやろうではないか。ふっはっはっはっはっ」
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