【完結】悪役を脱却したい白豚王子ですが、黒狼王子が見逃してくれません ~何故かめちゃくちゃ溺愛されてる!?~

胡蝶乃夢

文字の大きさ
上 下
73 / 127
本編

71.白豚王子からのお詫び

しおりを挟む
「ぶひっ!?」

 砂糖菓子を食べ尽くして『白豚王子』と呼ばれた事で、僕はようやく正気を取り戻した。
 抗えない衝動に駆られ、僕はまたしても無意識的に砂糖菓子を貪り食べてしまっていたのだ。

(なななななんで!? どどどどどうしてこうなった!!? 城の外ではお菓子を見ても衝動的に食べてしまうような事は今まで無かったのに、なんで、なんで? ……でも、この有様は間違いなく僕が食べてしまっている……ああ、どうして僕は城の外では大丈夫だなんて思い込んでいたんだ! 全然、大丈夫じゃないじゃないか、僕のバカバカ、大馬鹿者ー!!)

 予想だにしていなかった己の行動に困惑し僕が頭を抱えていると、貴族が話しかけてくる。

何方どなたかと思えば、これはこれは、白豚王子ではありませんか! このような所にお出でになるとはお珍しい」

 城下町では目立たないようにといつも身に纏っていたローブのフードが脱げて、貴族に僕が白豚王子である事がばれてしまった。
 貴族は慇懃無礼な態度で話し続け、得意気に砂糖菓子の自慢話を始める。

「私の自慢の砂糖菓子は大層お気に召して頂けたようで……仮にも、あの慈悲深い国王陛下に連なる王族・・の方にまでこのように夢中になって召し上がって頂けるとは光栄の至です! 白豚王子の大変見事な召し上がり方には圧倒されてしまいましたが……でもまぁ、見た目も味も最上級、最高級品の砂糖菓子ですから、夢中になってしまわれるのも当然の事と言えば当然なのですが! 何と言っても、この砂糖菓子は上位貴族の間でも大流行なのですから!!」

 僕が食べ散らかしてしまった辺りの惨状を見回して、貴族は皮肉げな笑みを浮かべて言う。

「ですが、一つ残らず、一欠片たりとも残さずとは、これはまた……ふふふふ、ははははは。流石は魔法使いの端くれとでも言うべきなのでしょうか、くくくくく。やはり『魔法の使えない獣』などにこの最高級品の砂糖菓子は勿体ない、相応しくないと、施してやるくらいなら全て召し上がると、そういった意思表示なのですね! 白豚王子自ら魔法使いの在り方を示されるとは、これはまた傑作!! ふはははは」

 貴族にとんでもない解釈をされて、僕は慌てて首を振り辺りを見る。

 僕の目の前には、先程の小さな獣人の子供の姿があった。
 獣人の子供は肩を落とし耳と尻尾を垂らして、か細い声で呟く。

「……あ、ぁ……お菓子……全部……全部、無くなっ、ちゃったぁ……」

 ふるふると身体を震わせ、うるうると目を潤ませ、溜まった涙が今にも決壊して零れ落ちてしまいそうな、か弱く痛ましい姿を目の当たりにして、僕の胸は抉られる。

(うわああああ! 僕はなんて酷い事をしでかしてしまったんだああああ!! 獣人達の大事なお菓子を、貴重な食料を奪い取って食べてしまうなんて!? こんな可愛い子にひもじい思いをさせるなんて! 僕は、僕はなんて、うわああああ、ごめんなさいいいい!!)

 僕は罪悪感の余り膝から崩れ落ちる。
 獣人の子供の前でこうべを垂れて謝り、僕は誠心誠意謝罪しようと思った。

「……ご、ごめんね……謝って許される事じゃないけど、それでも……本当に、本当にごめん……ごめんなさい……」
「……ぅ……っ……ぅん……」

 下げていた頭を上げて、僕は獣人の子供と獣人達の様子を見る。
 汚れた襤褸を纏う痩せこけた身体を見れば、大変な思いをしてここまでやって来た事が分かる。
 やっとの思いで辿り着いた先ですら、安心できる場所も満足な食料も無く、明日も分からない不安に苛まれているのだ。

 寄る辺もなく同盟国に助けを求める他になかった獣人達は、同盟国の王子である僕に対して、こんなに酷い事をされていても、怒り散らす事も泣き喚く事もしない。
 人種差別されて理不尽な扱いを受けても、寄る辺のない獣人達には堪え忍ぶ他ないのだ。

 今もこうして身を寄せ合い只々耐え忍んでいるその姿は余りにも悲痛で、獣人達の心情を思うと堪えられなくなり、僕の目からは涙が溢れ出てくる。
 泣き喚く事もできない獣人達の前で僕が泣くなんて滑稽だと思うのに、涙を堪えようとしても溢れ出て止まらない。
 ボロボロと涙を零す僕を見て、獣人の子が困惑しておろおろとしている。

 涙を拭おうとして、僕はふと焼き菓子を作って持っていた事を思い出した。

「……あっ、そうだ、お菓子持っていたんだ…………さっきの綺麗なお菓子の代わりにはならないけど…………これ、良かったら受け取って、食べて……」
「……ぉ……お菓子? ……」

 僕は鞄からがさごそとクッキーの入った包みを取り出して、獣人の子供の目の前に差し出した。
 獣人の子供はおどおどとしながらも僕が差し出した包みを受け取ってくれる。
 もたもたと包みを開けようとする獣人の子供を手伝い僕が包みを広げると、そこには美味しそうなサクサクカリカリのクッキー――だった物が入っていた。
しおりを挟む
感想 70

あなたにおすすめの小説

【完結】もふもふ獣人転生

  *  
BL
白い耳としっぽのもふもふ獣人に生まれ、強制労働で死にそうなところを助けてくれたのは、最愛の推しでした。 ちっちゃなもふもふ獣人リトと、攻略対象の凛々しい少年ジゼの、両片思い? な、いちゃらぶもふもふなお話です(笑) 本編完結しました! 舞踏会編はじめましたー! 舞踏会編からお読みいただけるよう、本編のあらすじをご用意しました! おまけのお話の下、舞踏会編のうえに、登場人物一覧と一緒にあります。 ジゼの父ゲォルグ×家令長セバのお話を連載中です。もしよかったらどうぞです! 第12回BL大賞10位で奨励賞をいただきました。選んでくださった編集部の方、読んでくださった方、応援してくださった方、投票してくださった方のおかげです。 心から、ありがとうございます!

悪役令嬢と同じ名前だけど、僕は男です。

みあき
BL
名前はティータイムがテーマ。主人公と婚約者の王子がいちゃいちゃする話。 男女共に子どもを産める世界です。容姿についての描写は敢えてしていません。 メインカプが男性同士のためBLジャンルに設定していますが、周辺は異性のカプも多いです。 奇数話が主人公視点、偶数話が婚約者の王子視点です。 pixivでは既に最終回まで投稿しています。

【完結】元騎士は相棒の元剣闘士となんでも屋さん営業中

きよひ
BL
 ここはドラゴンや魔獣が住み、冒険者や魔術師が職業として存在する世界。  カズユキはある国のある領のある街で「なんでも屋」を営んでいた。  家庭教師に家業の手伝い、貴族の護衛に魔獣退治もなんでもござれ。  そんなある日、相棒のコウが気絶したオッドアイの少年、ミナトを連れて帰ってくる。  この話は、お互い想い合いながらも10年間硬直状態だったふたりが、純真な少年との関わりや事件によって動き出す物語。 ※コウ(黒髪長髪/褐色肌/青目/超高身長/無口美形)×カズユキ(金髪短髪/色白/赤目/高身長/美形)←ミナト(赤髪ベリーショート/金と黒のオッドアイ/細身で元気な15歳) ※受けのカズユキは性に奔放な設定のため、攻めのコウ以外との体の関係を仄めかす表現があります。 ※同性婚が認められている世界観です。

田舎育ちの天然令息、姉様の嫌がった婚約を押し付けられるも同性との婚約に困惑。その上性別は絶対バレちゃいけないのに、即行でバレた!?

下菊みこと
BL
髪色が呪われた黒であったことから両親から疎まれ、隠居した父方の祖父母のいる田舎で育ったアリスティア・ベレニス・カサンドル。カサンドル侯爵家のご令息として恥ずかしくない教養を祖父母の教えの元身につけた…のだが、農作業の手伝いの方が貴族として過ごすより好き。 そんなアリスティア十八歳に急な婚約が持ち上がった。アリスティアの双子の姉、アナイス・セレスト・カサンドル。アリスティアとは違い金の御髪の彼女は侯爵家で大変かわいがられていた。そんなアナイスに、とある同盟国の公爵家の当主との婚約が持ちかけられたのだが、アナイスは婿を取ってカサンドル家を継ぎたいからと男であるアリスティアに婚約を押し付けてしまう。アリスティアとアナイスは髪色以外は見た目がそっくりで、アリスティアは田舎に引っ込んでいたためいけてしまった。 アリスは自分の性別がバレたらどうなるか、また自分の呪われた黒を見て相手はどう思うかと心配になった。そして顔合わせすることになったが、なんと公爵家の執事長に性別が即行でバレた。 公爵家には公爵と歳の離れた腹違いの弟がいる。前公爵の正妻との唯一の子である。公爵は、正当な継承権を持つ正妻の息子があまりにも幼く家を継げないため、妾腹でありながら爵位を継承したのだ。なので公爵の後を継ぐのはこの弟と決まっている。そのため公爵に必要なのは同盟国の有力貴族との縁のみ。嫁が子供を産む必要はない。 アリスティアが男であることがバレたら捨てられると思いきや、公爵の弟に懐かれたアリスティアは公爵に「家同士の婚姻という事実だけがあれば良い」と言われてそのまま公爵家で暮らすことになる。 一方婚約者、二十五歳のクロヴィス・シリル・ドナシアンは嫁に来たのが男で困惑。しかし可愛い弟と仲良くなるのが早かったのと弟について黙って結婚しようとしていた負い目でアリスティアを追い出す気になれず婚約を結ぶことに。 これはそんなクロヴィスとアリスティアが少しずつ近づいていき、本物の夫婦になるまでの記録である。 小説家になろう様でも2023年 03月07日 15時11分から投稿しています。

不幸体質っすけど、大好きなボス達とずっと一緒にいられるよう頑張るっす!

タッター
BL
 ボスは悲しく一人閉じ込められていた俺を助け、たくさんの仲間達に出会わせてくれた俺の大切な人だ。 自分だけでなく、他者にまでその不幸を撒き散らすような体質を持つ厄病神な俺を、みんな側に置いてくれて仲間だと笑顔を向けてくれる。とても毎日が楽しい。ずっとずっとみんなと一緒にいたい。 ――だから俺はそれ以上を求めない。不幸は幸せが好きだから。この幸せが崩れてしまわないためにも。  そうやって俺は今日も仲間達――家族達の、そして大好きなボスの役に立てるように―― 「頑張るっす!! ……から置いてかないで下さいっす!! 寂しいっすよ!!」 「無理。邪魔」 「ガーン!」  とした日常の中で俺達は美少年君を助けた。 「……その子、生きてるっすか?」 「……ああ」 ◆◆◆ 溺愛攻め  × 明るいが不幸体質を持つが故に想いを受け入れることが怖く、役に立てなければ捨てられるかもと内心怯えている受け

【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
BL
「なんだ、お前。鎖で繋がれてるのかよ! ひでぇな」  洞窟の神殿に鎖で繋がれた子供は、愛情も温もりも知らずに育った。 子供が欲しかったのは、自分を抱き締めてくれる腕――誰も与えてくれない温もりをくれたのは、人間ではなくて邪神。人間に害をなすとされた破壊神は、純粋な子供に絆され、子供に名をつけて溺愛し始める。  人のフリを長く続けたが愛情を理解できなかった破壊神と、初めての愛情を貪欲に欲しがる物知らぬ子供。愛を知らぬ者同士が徐々に惹かれ合う、ひたすら甘くて切ない恋物語。 「僕ね、セティのこと大好きだよ」   【注意事項】BL、R15、性的描写あり(※印) 【重複投稿】アルファポリス、カクヨム、小説家になろう、エブリスタ 【完結】2021/9/13 ※2020/11/01  エブリスタ BLカテゴリー6位 ※2021/09/09  エブリスタ、BLカテゴリー2位

義兄の愛が重すぎて、悪役令息できないのですが…!

ずー子
BL
戦争に負けた貴族の子息であるレイナードは、人質として異国のアドラー家に送り込まれる。彼の使命は内情を探り、敗戦国として奪われたものを取り返すこと。アドラー家が更なる力を付けないように監視を託されたレイナード。まずは好かれようと努力した結果は実を結び、新しい家族から絶大な信頼を得て、特に気難しいと言われている長男ヴィルヘルムからは「右腕」と言われるように。だけど、内心罪悪感が募る日々。正直「もう楽になりたい」と思っているのに。 「安心しろ。結婚なんかしない。僕が一番大切なのはお前だよ」 なんだか義兄の様子がおかしいのですが…? このままじゃ、スパイも悪役令息も出来そうにないよ! ファンタジーラブコメBLです。 平日毎日更新目標に頑張ってます。応援や感想頂けると励みになります♡ 【登場人物】 攻→ヴィルヘルム 完璧超人。真面目で自信家。良き跡継ぎ、良き兄、良き息子であろうとし続ける、実直な男だが、興味関心がない相手にはどこまでも無関心で辛辣。当初は異国の使者だと思っていたレイナードを警戒していたが… 受→レイナード 斜陽の家から和平の関係でアドラー家に人質として出された。主人公。立ち位置をよく理解しており、計算せずとも人から好かれる。常に兄を立てて陰で支える立場にいる。課せられた使命と現状に悩みつつある上に、義兄の様子もおかしくて、いろんな意味で気苦労の絶えない。

悪役令息の七日間

リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。 気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】

処理中です...