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本編
70.貴族からの差し入れ
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そこに現れたのは、上等な衣装を纏い派手な宝飾品を身に着けた、如何にも貴族といった風貌の男だった。
貴族は従者達を伴い、笑みを浮かべながら獣人達の方へと近付いて言う。
「あぁ、なんてお可哀想なんでしょう。こんなにも汚れて痩せ細ってしまっている。なんと哀れで痛ましい事なのでしょうか」
衆目が集まっているから態となのか、貴族の大げさな身振り手振りが、僕には少し芝居がかっているように見えてしまう。
「我々が敬愛する慈悲深き国王陛下は難民の現状に御心を痛めていらっしゃいます。国王陛下が難民の受入れを決定された今、臣下である我々貴族は本来ならば尽力して難民の保護支援に注力しなければならないのですが、上位貴族の諍いで受入先が確定せず待機させてしまっているこの状況、私は大変心苦しく思っていたのです」
先程、住民達が話していた内容と貴族の話しは概ね同じようだ。
貴族は嘆き憂いを帯びた表情をしていたかと思えば、今度は急に明るく堂々とした表情に変わり、獣人達の方へと手を掲げるようにして語りかける。
「ですが、ご安心下さい、もう心配は要らないのです! 何故ならこの私が、今最も勢いのある領地の富有る貴族でもあるこのマーブル伯爵家が、難民の受入先に申し出たのですから!! 次期に受入先の決定が下されるのは間もない事でしょう」
貴族は手を掲げたポーズのまま、恍惚とした表情を浮かべ自らに酔いしれているように見える。
その様子を唖然とした表情で見つめる獣人達との温度差が激しくて、僕は少し気になってしまう。
(……何か凄い濃い人が出て来たけど、大丈夫かな、この人? ……ちょっと、否、大分、ナルシストっぽいけど……困っている獣人達の世話役をやろうとしているのだから、悪い人ではないよね? ……きっと、多分、おそらく、大丈夫だよね?)
僕がそんな事を考えていると、ふわりと何処からか甘い香りが漂ってくる。
(……あ、甘い匂い……美味しそうな匂いがする……何処からか香って来る……甘くて美味しいスイーツの匂いだ……)
僕は美味しそうな香りに鼻をくんくんと鳴らしてしまう。
香りは貴族の従者達が抱えている大きな荷物から漂っているようだ。
貴族が手を挙げて合図すると、従者達が獣人達の前に荷物を広げて豪華なテーブルセットを用意していく。
「そして、今回は先んじて難民の諸君の飢えを少しでも癒せればと思い、差し入れをご用意しました。自慢の専属菓子職人が作った我が領の名物でもある最高級品の砂糖菓子です。難民の諸君、今しばらくお待ち頂いている間、どうぞ召し上って下さい」
獣人達の目前に並べられたのは、それは豪華な輝やかんばかりの美しい砂糖菓子の数々だった。
その砂糖菓子の芸術的な美しさに、見物していた住民達はどよめき、感嘆の声を上げる。
(うわぁー、綺麗なお菓子だ。凄く美味しそう……どんな味がするんだろう? 食べてみたいな……あ、だめだめ! あのお菓子は獣人達への差し入れなんだから……)
◆
獣人達は見た事もないような豪華な砂糖菓子を前にして、目を釘付けにして生唾を呑み込む。
突然現れた貴族と急展開な光景に混乱し、獣人達はお互いの顔を見合わせる。
差し入れの豪華過ぎる菓子に手を出して良いものかどうか考えあぐねているのだ。
そんな中から、お腹を鳴らす小さな獣人の子供がおずおずと歩み出る。
貴族は獣人の子供に笑みを向けると、砂糖菓子の一つを手に取り、その獣人の子供に手渡そうと差し出す。
「さぁさぁ、遠慮は要らない。どうぞ召し上がれ――」
獣人の子供は差し出された砂糖菓子を見て目を輝かせ、嬉しそうにして受け取ろうと手を伸ばす――が、砂糖菓子は別の人物によって奪い取られる。
ぱくり、もぐもぐもぐもぐ、ごっくん。
獣人の子供が手に取ろうとした砂糖菓子は、突然横から現れた人物によって奪い取られ、頬張られ、咀嚼され、嚥下されてしまったのだ。
「――は?」
「……え? ……」
呆気にとられた貴族と獣人の子供は驚きの声を溢し、その人物を呆然と見つめる。
その人物は無我夢中な様子で、その場に用意された砂糖菓子を次々と食べていく。
むしゃむしゃ、もりもり、ぱくぱく、がりがり、ばりばり、ぼりぼり
大量にあった筈の砂糖菓子がどんどんと無くなっていき、獣人達は焦り食べ尽くされる前に少しでも取ろうと手を伸ばす――が、またしても、その人物は尋常ではない素早さで獣人達の前に身体を滑り込ませて、菓子を奪い取って食べてしまう。
ひょいぱく、ずしゃもぐ、ぼよんばくり、ばいんがぶり、ごろごろばくばく
獣人よりも獣じみた圧倒的な勢いと本能的な圧に獣人達はたじろぎ、只々呆然とその様子を見つめる事しかできない。
もしゃもしゃ、あむあむ、はぐはぐ、もごもご、がぶがぶ、ごっくん。
あっという間に、大量にあった砂糖菓子がその人物に食べ尽くされてしまった。
圧倒されていた貴族がハッと我に返り、被っていたフードの脱げたその人物の容姿を見て呟く。
「……白豚、王子? ……」
◆
貴族は従者達を伴い、笑みを浮かべながら獣人達の方へと近付いて言う。
「あぁ、なんてお可哀想なんでしょう。こんなにも汚れて痩せ細ってしまっている。なんと哀れで痛ましい事なのでしょうか」
衆目が集まっているから態となのか、貴族の大げさな身振り手振りが、僕には少し芝居がかっているように見えてしまう。
「我々が敬愛する慈悲深き国王陛下は難民の現状に御心を痛めていらっしゃいます。国王陛下が難民の受入れを決定された今、臣下である我々貴族は本来ならば尽力して難民の保護支援に注力しなければならないのですが、上位貴族の諍いで受入先が確定せず待機させてしまっているこの状況、私は大変心苦しく思っていたのです」
先程、住民達が話していた内容と貴族の話しは概ね同じようだ。
貴族は嘆き憂いを帯びた表情をしていたかと思えば、今度は急に明るく堂々とした表情に変わり、獣人達の方へと手を掲げるようにして語りかける。
「ですが、ご安心下さい、もう心配は要らないのです! 何故ならこの私が、今最も勢いのある領地の富有る貴族でもあるこのマーブル伯爵家が、難民の受入先に申し出たのですから!! 次期に受入先の決定が下されるのは間もない事でしょう」
貴族は手を掲げたポーズのまま、恍惚とした表情を浮かべ自らに酔いしれているように見える。
その様子を唖然とした表情で見つめる獣人達との温度差が激しくて、僕は少し気になってしまう。
(……何か凄い濃い人が出て来たけど、大丈夫かな、この人? ……ちょっと、否、大分、ナルシストっぽいけど……困っている獣人達の世話役をやろうとしているのだから、悪い人ではないよね? ……きっと、多分、おそらく、大丈夫だよね?)
僕がそんな事を考えていると、ふわりと何処からか甘い香りが漂ってくる。
(……あ、甘い匂い……美味しそうな匂いがする……何処からか香って来る……甘くて美味しいスイーツの匂いだ……)
僕は美味しそうな香りに鼻をくんくんと鳴らしてしまう。
香りは貴族の従者達が抱えている大きな荷物から漂っているようだ。
貴族が手を挙げて合図すると、従者達が獣人達の前に荷物を広げて豪華なテーブルセットを用意していく。
「そして、今回は先んじて難民の諸君の飢えを少しでも癒せればと思い、差し入れをご用意しました。自慢の専属菓子職人が作った我が領の名物でもある最高級品の砂糖菓子です。難民の諸君、今しばらくお待ち頂いている間、どうぞ召し上って下さい」
獣人達の目前に並べられたのは、それは豪華な輝やかんばかりの美しい砂糖菓子の数々だった。
その砂糖菓子の芸術的な美しさに、見物していた住民達はどよめき、感嘆の声を上げる。
(うわぁー、綺麗なお菓子だ。凄く美味しそう……どんな味がするんだろう? 食べてみたいな……あ、だめだめ! あのお菓子は獣人達への差し入れなんだから……)
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獣人達は見た事もないような豪華な砂糖菓子を前にして、目を釘付けにして生唾を呑み込む。
突然現れた貴族と急展開な光景に混乱し、獣人達はお互いの顔を見合わせる。
差し入れの豪華過ぎる菓子に手を出して良いものかどうか考えあぐねているのだ。
そんな中から、お腹を鳴らす小さな獣人の子供がおずおずと歩み出る。
貴族は獣人の子供に笑みを向けると、砂糖菓子の一つを手に取り、その獣人の子供に手渡そうと差し出す。
「さぁさぁ、遠慮は要らない。どうぞ召し上がれ――」
獣人の子供は差し出された砂糖菓子を見て目を輝かせ、嬉しそうにして受け取ろうと手を伸ばす――が、砂糖菓子は別の人物によって奪い取られる。
ぱくり、もぐもぐもぐもぐ、ごっくん。
獣人の子供が手に取ろうとした砂糖菓子は、突然横から現れた人物によって奪い取られ、頬張られ、咀嚼され、嚥下されてしまったのだ。
「――は?」
「……え? ……」
呆気にとられた貴族と獣人の子供は驚きの声を溢し、その人物を呆然と見つめる。
その人物は無我夢中な様子で、その場に用意された砂糖菓子を次々と食べていく。
むしゃむしゃ、もりもり、ぱくぱく、がりがり、ばりばり、ぼりぼり
大量にあった筈の砂糖菓子がどんどんと無くなっていき、獣人達は焦り食べ尽くされる前に少しでも取ろうと手を伸ばす――が、またしても、その人物は尋常ではない素早さで獣人達の前に身体を滑り込ませて、菓子を奪い取って食べてしまう。
ひょいぱく、ずしゃもぐ、ぼよんばくり、ばいんがぶり、ごろごろばくばく
獣人よりも獣じみた圧倒的な勢いと本能的な圧に獣人達はたじろぎ、只々呆然とその様子を見つめる事しかできない。
もしゃもしゃ、あむあむ、はぐはぐ、もごもご、がぶがぶ、ごっくん。
あっという間に、大量にあった砂糖菓子がその人物に食べ尽くされてしまった。
圧倒されていた貴族がハッと我に返り、被っていたフードの脱げたその人物の容姿を見て呟く。
「……白豚、王子? ……」
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