【完結】悪役を脱却したい白豚王子ですが、黒狼王子が見逃してくれません ~何故かめちゃくちゃ溺愛されてる!?~

胡蝶乃夢

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本編

69.白豚王子と獣人の難民達

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 僕が城へと向かう途中に城下町の中央広場を通りかかると、人々が集まり広場を囲うように人垣ひとがきができていた。
 何だろうかと思い近付いて行くと、王都住民の魔法使いであろう者達が声を潜めた話声が聞こえてくる。

「おい、見てみろよあれ」
「王都にまで大勢で押しかけて来るとは、なんて迷惑な奴等なんだろうな」
「見境も分別も無い、これだから嫌なんだ『魔法の使えない獣』は……」

 王都住民達の不穏な言葉を聞いて、僕は人垣から覗き衆目の先に視線を向ける。
 僕はその姿を見た瞬間、驚きに目を見開いて刮目した。

 ふわふわと柔らかそうな毛に覆われたお耳がぴくぴくと動いている。
 ふさふさの毛に覆われた尻尾がゆらゆらと揺れて振られている。
 大きいものや小さいもの、丸いものや尖ったもの、長いものや短いもの、多種多様な形状をした獣の特徴を持つ人々。

 そこにあったのは、紛れもなく獣人達の姿だったのだ。
 様々な種類の獣人達の姿を目にして僕は感動に打ち震えてしまう。

(うわぁー、沢山の獣人達だー!? お耳と尻尾が動いてる! めちゃくちゃ可愛い!! あの大きな三角お耳はネコ科かな? あの長い垂れ耳はウサギ科? あのくるんと巻いた尻尾はイヌ科? はぁー、ケモケモ、モフモフ、最高に尊い……)

 僕が感激しているそのかたわらでは、見物する人々が更に増えて、獣人達を揶揄する言葉はまだ続いている。

「なんだなんだ、この人だかりは? あれは『魔法の使えない獣』の群れか?」
「獣人の国からの難民だそうだ。近年続く紛争で立ち行かなくなった老人や子供なんかがこの王国に支援を求めて避難して来たらしいぞ」

 聞こえた言葉の通り、獣人達は年老いたご老人やまだ幼い子供ばかりだった。
 獣人達の様子をよく見れば、薄汚れた襤褸を身に纏い、痩せ細り窶れている。
 困窮して食べる事もままならず、どうしようもなくて助けを求めて来たのだろう。

「慈悲深くも国王陛下は難民を憐れに思われて受入れを容認したそうだが、獣人の受入れをどこの領主も渋り、まだ受入れ先が決まらないんだそうだ。行き先が決まるまでは難民はこのまま王都で待機になるんだとか……」
「まぁまぁ、そんな事になってるのね。『魔法の使えない獣』の受入なんてどこも嫌がるでしょうに、役立たずの穀潰しの面倒なんて誰も見たくないでしょうしね」
「厄介事には誰も関わりたくないだろうからな……けど、そうなると、奴等はしばらくこの王都に居座り続ける事になるんじゃないのか……」

 住民達の獣人達に向けられる視線が次第に険しくなっていき、住民達の口からは溜息や悪態が零れてくる。
 魔法使いは魔法に傾倒する者が多い為に選民思想が強く、『魔法の使えない者』を差別する傾向がある。
 魔法の使えない貧民街の者達を『人でなし』、魔法の使えない隣国の獣人達を『魔法の使えない獣』と称しているようだ。

「ふん、それにしても獣臭くて堪らん、臭くて敵わんな。いつまでもここにいられちゃ困る。さっさと何処へなりとも出て行って欲しいもんだ」
「浮浪者も同然の臭い獣に街中を彷徨かれたら商売にも響いて、こっちの商売は上がったりだよ。本当、勘弁して欲しいよな、まったく……」

 獣人達は常人よりも遥かに五感が優れている。
 だからきっと、住民達の心無い言葉も聞こえてしまっているのだろう。
 住民達の視線に怯え、獣人達は身体を小さくして、身を寄せ合い堪え忍んでいる。
 獣人達のそんな姿を目にするだけで、僕は胸が酷く痛んで仕方ない。

(食べる物も無くなって、住める場所も無くなって、どうしようもなく住み慣れた故郷を離れたのに、心細く不安な思いをしながらもやっと辿り着いたのに……それなのに、こんな酷い扱いを受けるなんて、あんまりだ……獣人達は何も悪くないのに、こんなの酷過ぎるよ……)

 僕は獣人達に何かしてあげられる事は無いだろうかと考える。
 そんな矢先、衆目を集めながら獣人達の前に何者かが声高らかに姿を現した。

「遠路遥々、隣国から救いを求めやって来られた難民の諸君、ごきげんよう」
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