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本編
67.白豚王子の全て計画通り
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……――――月日は流れ、二年の歳月が過ぎていった。
僕、ラズベリーことフランボワーズ・アイス・クリームは16歳になっていた。
この二年間、僕は境にある丘の上から農地を眺めるのが日課になっている。
最初は農地がどんどんと広がっていくのを見るのが楽しかったのだが、今では焼野原の黒はすっかり無くなった。
代わりに青々とした若葉や黄金色の稲穂など、季節毎に変わっていく景色を眺めるのが今の楽しみになっている。
泉の周辺は癒やしの水の影響なのか、植物の成長が驚くほど早く、樹木もぐんぐんと伸びて小さな緑の森が出来上がっている。
そんな景色を僕が眺めていると、収穫を終え山積みの籠を持った男達が近くを通りかかる。
「おぉ、ラズベリー見てくれこの収穫量! 今年は去年にも増して豊作だぞ!!」
「わぁー、すごいいっぱい収穫できたんだね。これだけあれば今年の蓄えは十分そう」
声をかけてきたのは、僕に弾けるような笑顔を向ける大柄な男達だ。
日に焼けた小麦色の肌に白い歯、盛々の筋肉に煌めく汗が眩しい。
これがあの暗く淀んだ目をして荒くれていた破落戸達だとは誰が思うだろうか。
病に痩せ細り窶れていた頃の面影など見る影もなく、健康的に鍛え上げられた肉体と元気溌溂なこの変わり様だ。
ちょっとガチムチマッチョ過ぎて魔法使いには見えないかもしれないけど、正直羨ましい。
その一方で僕はと言えば、言わずもがな相も変わらず白豚王子なのである。
城以外では貪り食べるような衝撃は起こらないものの、城に帰ると無意識にスイーツに手が伸びてしまうのは相変わらずで、物の見事に魔法使いとしては奇跡的なこの体型を維持し続けているのだ。
「また収穫祭でもやるか? 去年の収穫祭の飯は美味かったな。また豪勢な飯作ってくれよ」
「そうだね、収穫祭か……去年は採れたて食材でバーベキューして、具沢山のピザやポトフ、フルーツジュースなんかも作って、すごく美味しかったね」
話しながら僕は男達の眩く煌めく肉体(筋肉)を見つめながら考えていた。
(何故、僕は痩せられないのだ? これだけ農作業に汗水垂らし、城との行き来に走り回り、剣の鍛錬も怠らず、日々身体を動かしているというのに……筋力は付いてきている筈なのに、見た目がまったく変化無しとはどういう事だ!?)
そんな事を考えていたら何だか苛立たしくなってきて、僕からズモモモモと不穏なオーラが溢れ出す。
(ここまでくると、白豚王子は謎の強制力によって痩せられない呪いにかかっているとしか思えなくなってくる……ぐぬぬぬぬ、許すまじ憎き謎の強制力め! だがしかし、僕は謎の強制力に屈したりなどしない! 絶対に諦めたりなんかしないんだから!!)
不穏なオーラを放つ僕に気付いた男達が狼狽え、小声で囁き合っている。
「……おい、なんか不機嫌になってないか?」
「俺、何か不味い事言ったか? 怒らせるような事言ったか?」
「豊作になったから今年も収穫祭やらないかって話だよな?」
「……あっ、そうだ、そうだった! 収穫して余るようだったら分けて欲しいって言ってなかったか? きっとそれだ!!」
何か思い当たったらしい男達が慌てて僕に言う。
「ラズベリーは確か菓子が作りたいって言ってたよな?」
「さっき、ナッツ類も沢山採れたから持っていくといい。ほらほら、沢山あるぞ」
「倉庫にある備蓄も余分にある分は好きなだけ使っていいからな」
「今年は本当に豊作だからな。沢山持っていっていいぞ。好きなだけ菓子作っていいからな」
男達の言葉に僕の不機嫌は一気に吹っ飛び、ご機嫌にパァッっと花が咲き乱れるオーラを放つ。
「いいの!? みんな、ありがとう! 本当に嬉しい!!」
僕の機嫌が直った事で男達は安堵して、うんうんと頷いている。
(そう、そしてついにこの時が来た! 『食べていいお菓子が無ければ食べていいお菓子を作ればいいじゃない』の考えに到り、僕はダイエット用のスイーツを作るべく、その材料を大量に確保する為に農作をしていたのだ。そして貧民街の住人達の手を借りながら、住人達の食糧確保も十分にできた今、余りある分で僕は思う存分ダイエット用スイーツが作れる訳だ。お菓子作り解禁! ダイエットスイーツ作り放題だ!! 全ては僕の計画通り、しめしめ、ふっふっふっふっふっ……)
僕が含み笑うように暗黒微笑を浮かべても、今では男達も慣れたもので特に気に留める事もなく、和やかに笑って収穫したナッツ類を手渡してくれる。
「それじゃあ、遠慮なく頂くね♪」
男達から受け取ると、僕は喜び勇んでスイーツ作りの材料を取りに食糧倉庫へと駆ける。
◆
僕、ラズベリーことフランボワーズ・アイス・クリームは16歳になっていた。
この二年間、僕は境にある丘の上から農地を眺めるのが日課になっている。
最初は農地がどんどんと広がっていくのを見るのが楽しかったのだが、今では焼野原の黒はすっかり無くなった。
代わりに青々とした若葉や黄金色の稲穂など、季節毎に変わっていく景色を眺めるのが今の楽しみになっている。
泉の周辺は癒やしの水の影響なのか、植物の成長が驚くほど早く、樹木もぐんぐんと伸びて小さな緑の森が出来上がっている。
そんな景色を僕が眺めていると、収穫を終え山積みの籠を持った男達が近くを通りかかる。
「おぉ、ラズベリー見てくれこの収穫量! 今年は去年にも増して豊作だぞ!!」
「わぁー、すごいいっぱい収穫できたんだね。これだけあれば今年の蓄えは十分そう」
声をかけてきたのは、僕に弾けるような笑顔を向ける大柄な男達だ。
日に焼けた小麦色の肌に白い歯、盛々の筋肉に煌めく汗が眩しい。
これがあの暗く淀んだ目をして荒くれていた破落戸達だとは誰が思うだろうか。
病に痩せ細り窶れていた頃の面影など見る影もなく、健康的に鍛え上げられた肉体と元気溌溂なこの変わり様だ。
ちょっとガチムチマッチョ過ぎて魔法使いには見えないかもしれないけど、正直羨ましい。
その一方で僕はと言えば、言わずもがな相も変わらず白豚王子なのである。
城以外では貪り食べるような衝撃は起こらないものの、城に帰ると無意識にスイーツに手が伸びてしまうのは相変わらずで、物の見事に魔法使いとしては奇跡的なこの体型を維持し続けているのだ。
「また収穫祭でもやるか? 去年の収穫祭の飯は美味かったな。また豪勢な飯作ってくれよ」
「そうだね、収穫祭か……去年は採れたて食材でバーベキューして、具沢山のピザやポトフ、フルーツジュースなんかも作って、すごく美味しかったね」
話しながら僕は男達の眩く煌めく肉体(筋肉)を見つめながら考えていた。
(何故、僕は痩せられないのだ? これだけ農作業に汗水垂らし、城との行き来に走り回り、剣の鍛錬も怠らず、日々身体を動かしているというのに……筋力は付いてきている筈なのに、見た目がまったく変化無しとはどういう事だ!?)
そんな事を考えていたら何だか苛立たしくなってきて、僕からズモモモモと不穏なオーラが溢れ出す。
(ここまでくると、白豚王子は謎の強制力によって痩せられない呪いにかかっているとしか思えなくなってくる……ぐぬぬぬぬ、許すまじ憎き謎の強制力め! だがしかし、僕は謎の強制力に屈したりなどしない! 絶対に諦めたりなんかしないんだから!!)
不穏なオーラを放つ僕に気付いた男達が狼狽え、小声で囁き合っている。
「……おい、なんか不機嫌になってないか?」
「俺、何か不味い事言ったか? 怒らせるような事言ったか?」
「豊作になったから今年も収穫祭やらないかって話だよな?」
「……あっ、そうだ、そうだった! 収穫して余るようだったら分けて欲しいって言ってなかったか? きっとそれだ!!」
何か思い当たったらしい男達が慌てて僕に言う。
「ラズベリーは確か菓子が作りたいって言ってたよな?」
「さっき、ナッツ類も沢山採れたから持っていくといい。ほらほら、沢山あるぞ」
「倉庫にある備蓄も余分にある分は好きなだけ使っていいからな」
「今年は本当に豊作だからな。沢山持っていっていいぞ。好きなだけ菓子作っていいからな」
男達の言葉に僕の不機嫌は一気に吹っ飛び、ご機嫌にパァッっと花が咲き乱れるオーラを放つ。
「いいの!? みんな、ありがとう! 本当に嬉しい!!」
僕の機嫌が直った事で男達は安堵して、うんうんと頷いている。
(そう、そしてついにこの時が来た! 『食べていいお菓子が無ければ食べていいお菓子を作ればいいじゃない』の考えに到り、僕はダイエット用のスイーツを作るべく、その材料を大量に確保する為に農作をしていたのだ。そして貧民街の住人達の手を借りながら、住人達の食糧確保も十分にできた今、余りある分で僕は思う存分ダイエット用スイーツが作れる訳だ。お菓子作り解禁! ダイエットスイーツ作り放題だ!! 全ては僕の計画通り、しめしめ、ふっふっふっふっふっ……)
僕が含み笑うように暗黒微笑を浮かべても、今では男達も慣れたもので特に気に留める事もなく、和やかに笑って収穫したナッツ類を手渡してくれる。
「それじゃあ、遠慮なく頂くね♪」
男達から受け取ると、僕は喜び勇んでスイーツ作りの材料を取りに食糧倉庫へと駆ける。
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