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本編

62.赤鬼と対峙する黒狼

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 赤鬼は第一王子を見失い辺りをしきりに探していたが、ガトー王子の咆哮により闇夜にまぎれていた巨大な暗黒の狼の姿に気付く。
 夜空に響き渡る遠吠えに対抗するように、赤鬼は地響きのような雄叫びを上げた。


 グオ゛オオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォーーーー…… 


 残党狩りに見つかったと激高した赤鬼はガトー王子の方へと突進する。
 ガトー王子は第一王子を庇い隠すようにして前に出ると第一王子に告げる。

鬼人族アレは俺が相手をする。直に騎士団が応援に来る。お前はそれまで隠れていろ』

 そう言い残すとガトー王子は赤鬼の方へと駆け出した。

 突進の勢いのまま赤鬼は拳を振り上げガトー王子に襲いかかる。
 赤鬼の岩のように硬く重い拳が当たれば大打撃になるだろう。
 ガトー王子は機動を読み素早く攻撃を躱しながら、赤鬼に鋭い爪と牙で攻撃する。


 ブオンッ ガキンッ ガガンッ ブオォォォン ガツンッ ガガガガッ


 辺りに風を切る音と金属を打ち鳴らすような音が鳴り響く。

(硬い、岩よりも頑丈だ。爪も牙も深くまで入らない)

 素早さはガトー王子の方が勝り赤鬼の拳は当たらないものの、岩石のような赤鬼の表皮は見た目以上の頑強さを有しており、ガトー王子の攻撃は表面を削る程度の傷にしかなっていない。
 ガトー王子の攻撃が深手にはならないと勘付いた赤鬼はニタリと不気味に笑う。
 鋭い爪を力強く振り下ろそうとしたガトー王子に向かって、赤鬼は大きく口を開け火炎流を放つ。


 ゴゴオ゛ォォォォォォォォッ


 ガトー王子は咄嗟に離れ、一度体勢を立て直そうと赤鬼から距離を取る。

「……うふふふふ。ああ、なんて強くて素晴らしい身体かしら、今なら誰にも負ける気がしないわ」

 赤鬼は舌なめずりしながらガトー王子を見つめて言った。

強豪きょうごうと名高い黒狼王子もご自慢の爪と牙が役に立たなければ、ただのワンちゃんね。ふふふ、たっぷり可愛がってあげるわ」


 赤鬼と黒狼、怖ろしく巨大な双方が睨み合い対峙する。


(軽い攻撃ではかすり傷にしかならないな。強い攻撃をしようにも動きが大きくなる隙に火炎攻撃を受けてしまう。厄介だ……応援が来るまで時間を稼ぐか……)

 赤鬼がにじり寄ればガトー王子は警戒し後退る。
 攻撃を仕掛けないガトー王子の様子に赤鬼は後方に視線をやって呟く。

「あらん、相手してくれないの? ……じゃあ、後ろの豚に相手してもらうわね!」

 後方の森の中に隠れガトー王子を見守っていた第一王子に赤鬼は気付いた。
 赤鬼は第一王子のいる森に火炎流を放とうと口を開く。

(しまった、見つかったか! 第一王子が危ない!!)

 赤鬼が火炎流を放つ前にと、ガトー王子は飛び出し赤鬼の瘴気を吐こうとする首元に噛み付いた――


 ガッッッシ 


 ――その瞬間を狙いすましていた赤鬼はガトー王子の身体を掴み捕らえた。

「捕まえたー♡」

 赤鬼はニターと厭らしい笑みを浮かべ、ガトー王子の身体に抱き着き拘束する。
 そして、岩石よりも頑強な腕でガトー王子をじわりじわりと締め上げて行く。

『うっ……ぐぁっ!』

 ガトー王子の締め上げられる身体からはミシミシと軋む音が聞こえる。

(首の硬い表面は削ってやった。この拘束さえ解ければ、会心の一撃を食らわせてやれるのに……怪力過ぎて身動きが取れない……)

「うふふ、ワンちゃん良い表情するわね。悔しそうに苦痛に歪む顔がとっても可愛いわ」
『……外道が……』

 ニタニタと笑う赤鬼をガトー王子は睨み付けるが、赤鬼は尚も嬉々として言う。

「いつまで強がっていられるかしら、もっと可愛くしてあげるわね」

 そう言うと、赤鬼の身体は溶岩のように熱し出す。
 ガトー王子の触れられている所から煙が立ち上り、焼け爛れ焦げて異臭を放つ。

『……っ……』

 身体が軋む苦痛と焼き爛れる激痛に耐え、ガトー王子は赤鬼を睨み続ける。

(隙をついて一撃食らわせられれば……応援が着くまでに俺の身体が持てばいいが……)



『水の精霊よ、我が魔力を以てこの火に水を放て。【水球発射アクア・ボール】』



 水魔法が赤鬼へと放たれた。
 赤鬼の顔面に弱小な水球が当たり、瞬時に蒸発して消える。

 ガトー王子が視線を向けると、そこに立っていたのは第一王子だった。


 ◆
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