【完結】悪役を脱却したい白豚王子ですが、黒狼王子が見逃してくれません ~何故かめちゃくちゃ溺愛されてる!?~

胡蝶乃夢

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本編

56.白豚王子は助け出したい

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 逃げる事のできない僕は、黒い瘴気に吞み込まれていく――


『風の精霊よ、我が魔力を以てこの大気を吹き散らせ。【突風竜巻エアー・サイクロン】』


 ――と思った瞬間、チョコミントの風魔法を詠唱する声が聞こえた。
 僕の身体を吞み込もうとしていた黒い瘴気は、強い突風に巻き上げられて霧散して消えていく。

「ラズベリー大丈夫か!」
「チョ、チョコミントありがとう……うぅ……」

 駆け寄って来てくれたチョコミントに助け起こされて、僕は泣きべそをかきながらお礼を言う。
 少し離れた場所からは、チョコチップの土魔法を詠唱する声が聞こえる。


『地の精霊よ、我が魔力を以てこの岩石を繋げ。【岩石架橋ストーン・アーチ】』


 崩壊し道を塞いでいた瓦礫が押し退けられて、次々と岩石が繋がり新たな道が作られていく。

「あらん、やだ。出来損ないばかりだと思ってたのに、真面に魔法が使える人間もいるんじゃないの……」

 女は面白くなさそうに僕達を一瞥して呟くと、逃げようとする破落戸達が集まる新たな道の方へと急いで向かう。

 絶望しきり暗く陰っていた破落戸達の表情は、新たな道の出現に光明が差したと希望に満ちた明るい表情へと変わる。

「……道だ、道ができていく! こ、これなら逃げられる!!」

 チョコチップの土魔法で次々と出来上がっていく新たな道を、破落戸達は我先にと進もうとする。
 しかし、高台から見下ろしていた男が突如、破落戸達の行く先へと舞い降りて立ち塞がる。

「ひぃっ! き、鬼人族!?」
「あーあー、だめだめ。せっかく御誂向おあつらえむきの獲物を見つけたってのに、みすみす逃がす訳がねーよー」

 男がゆらりと屈み手を道に付けると、男から禍々しい黒い瘴気が溢れ出して新たにできた道を覆っていく。
 すると、瘴気に覆われた岩石の道は腐敗劣化したようにボロボロと崩れ落ちていき、できたばかりの道の先は崩壊して無くなってしまった。

 逃げ道を完全に破壊されてしまった破落戸達は恐怖で顔を引き攣らせ、鬼人族の男ににじり寄られて後退る。
 来た道を引き返そうと振り返れば、後方には鬼人族の女が待ち構えていた。

「ああん、もう。今は直接触らないと力が使えないなんて、魔力不足って本当に不便よね……」

 女がぶつぶつと呟き、纏う瘴気で辺りを覆い道の両側に散乱する瓦礫の山に触れると、触れた先から炎が吹き上がり瓦礫がどんどんと燃え広がっていく。

「逃げられちゃ困るわ。美味しそうなお肉達なんだから、ね? もう逃げられないように、纏めて丸焼きにしてあげるわね」

 岩石の道の両側面は炎が吹き上がる火の海と化し、立ち往生する破落戸達の前方と後方には人食いの鬼人族がじりじりと迫って来ている。

「い、嫌だ! こっちに来るなぁぁぁぁ!?」
「助けてくれぇぇぇぇ! 食わないでくれぇぇぇぇ!!」
「焼け死にたくなんてない! 食われて死ぬなんて嫌だぁぁぁぁ!!」
「誰か、誰か助けて! 誰でもいい、誰か助けてくれぇぇぇぇ!!」

 破落戸達はもう一巻の終わりだと嘆き、阿鼻叫喚あびきょうかんして泣き叫ぶ。


『氷と風の精霊よ、我が魔力を以てて付く風を起こせ。【氷結疾風アイス・ストーム】』


 僕は渾身の魔力を以て呪文を詠唱し、鬼人族の女に氷魔法を放った。
 女は攻撃魔法を放たれた事に勘付き、避けて振り返る――


 ふよふよふよふよ~~~~~~ぱちん


 ――のだが、余りの威力の無さに避ける程でもなかったと拍子抜けした女は、僕に胡乱な視線を向けて喚く。

「は? ……何よ、このしょっぼい魔法は? ……もう、また子豚ちゃん邪魔したわね!」

 二人の鬼人族の注目が僕に集まっている、その間に親子が呪文詠唱を終える。


『地と風の精霊よ、我が魔力を以てこの砂粒を吹き飛ばせ。【砂粒疾風サンド・ブラスト】』

『地の精霊よ、我が魔力を以てこの岩石を繋げ。【岩石架橋ストーン・アーチ】』


 チョコミントの魔法が赤々と燃え上がっていた炎を掻き消していき、チョコチップの魔法が立ち往生していた破落戸達の元に新たな道を作り、巨大な岩石の壁が鬼人族達を隔てる。
 唖然として立ち尽くしている破落戸達に親子が大声をかけて誘導する。

「早く、こっちだ!」
「道を作った、逃げるぞ!」

 慌てて破落戸達が道を辿り僕達と合流すると、鬼人族達を隔てていた大きな岩石の壁が突然、腐敗劣化したようにボロボロと崩れ落ちていき、辺り一帯に凄まじい量の砂煙が立ち上がる。

「ごほ、ごほ……これじゃ、視界が悪くて道が作れないな」
「危なくて魔法も使えないぞ……ごほ、ごほ……」
「ごふ、ごふ……みんな急いで、森の方に逃げよう。森の中ならまだ隠れられるよ!」
「そうだな、そうしよう……」

 僕が森へ逃げようと言うと、破落戸達は戸惑いざわつく。

「……ふ、腐敗の森に! 嘘だろ、死ぬ気かよ!?」
「大丈夫だよ。もう瘴気は無くなって『腐敗の森』じゃなくなったから! 『毒沼』も『癒しの泉』になったんだ!! その泉・・・の癒しの水を使って料理も作ったんだから」
「そ、そんな、馬鹿な……」

 破落戸達はその言葉をにわかには信じ難い。
 何故ならそれは、絶望に耐えかねて死を望んだ者だけが足を踏み入れる『腐敗の森』なのだから。
 そこら中に致死量の毒の罠が張り巡らされている『腐敗の森』に、生きようとする者が逃げ込むなんて正気の沙汰とは思えなかったのだ。

 けれど、破落戸達を見捨てて自分達だけ助かる事もできた筈の子供と親子が、必死に自分達を助けようとしてくれている姿を、目の当たりにしている破落戸達は困惑する。

「大丈夫! みんなで逃げよう、絶対助けるから!!」

 どうして、この子供はそんなに必死に自分達を助けようとしているのか、救おうとしてくれるのか分からない。
 出来損ないの貧しく飢えた者達だと蔑み、偽善者が恵まれた優越感に浸る為に施しをしているのだと思っていた。
 それが、土埃にまみれて命を張ってまで人でなしの命を救おうとなんて、自分達を助けようとなんてする筈がないのだ。
 ましてや、先程まで散々搾取して甚振ろうとしていた自分達を相手に、信じられる筈がない――信じられる筈がなかった。

 それでも――信じたいと思ってしまった。
 絶望の中で夢物語のようなその言葉を、この存在を、破落戸達は信じずにはいられなかった。

「あ…………あぁ、分かった! その言葉、信じたぞ!!」

 僕達は皆で森の中へと走って行く。


 ◆
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