上 下
51 / 127
本編

49.フワフワ・ポカポカ・クラクラ

しおりを挟む
「あっ……」

 僕は毒沼に落ちながら思った。

(……あぁ、やっちゃった……まぁ、仕方ないよね……チョコミントが助けられたなら、いいか……)

 そして、毒沼に沈みながら思った。

(……あぁ、身体が溶けてく……しゅわしゅわする……溶けて無くなっちゃう……しゅわしゅわしゅわしゅわ……あれ? 身体が溶けてるのに、痛いとか苦しいとかはないな……変な感じ……)

 僕の身体が毒沼に溶け出しているせいなのか、周りの水の色がどんどんと変化して
見える。


 しゅわしゅわしゅわしゅわしゅわしゅわしゅわしゅわしゅわしゅわ


 不思議な光景だなと他人事のように眺めていて、僕は自分の気分の変化に気付く。

(……あれれ? ……なんだかフワフワした気分になってきた……ポカポカしてきた気もする……なんだっけなこれ? ……覚えが有るような無いような? ……)

 ぼんやりとしながら考えていると、とうとう苦しくなってきた事に気付く。

(……んんん? ……なんか猛烈に苦しくなってきた気がする……息だ! 息が苦しいんだこれ!? ……そりゃあ、水の中じゃ息できないからね! くっ、苦しい!! さっ、酸素ーーーー!!! ……)

 息苦しさに耐え兼ねて、僕は空気を求めて水面の方へとバタバタと藻掻き進んだ。


 ◆


 ラズベリーが落ちてしまった毒沼を見つめ、親子は滂沱ぼうだの涙を流していた。


 ぶくぶくぶくぶく、ぶくぶく、ぶく……ぶく……ぶく…………ぶく………………


 毒沼の煮立つような泡も次第に無くなっていき、ラズベリーの身体が完全に溶かされて無くなってしまったんだと、親子は悲嘆ひたんに暮れた。

「……うっ……うぅ……ラズベリー……っ……」

 涙を零しながらラズベリーの落ちた毒沼をずっと見つめていたチョコミントは、水面の変化に気付く。

「……? ……」

 禍々しく濁っていた毒沼の汚泥水がどんどんと変化し、煌めく透明感のある清浄な水色へと変わっていくのだ。


 ………………ぶく…………ぶく……ぶく……ぶくぶくぶくぶくぶくぶくぶくぶく


 ラズベリーが落ちた場所が泡立ち、その泡もどんどんと大きくなっていく。

「……と、父さん……なに、あれ? ……」

 驚いたチョコミントが父親を呼び、その水面を指差す。
 ぶくぶくと泡を立てながら、そこに何かが浮上してくる。



 ざっぱーーーーーーん



 煌めく水しぶきを上げて、そこに現れたのは人影だった。
 人影は水面を波打たせながら、親子のいる陸地へと近付いて来る。

「……っ…………!!? ……」

 親子は言葉も出ず、陸地へと上がって来る人影を見つめる事しかできなかった。


 ◆


 息苦しさから必死に水を掻き泳いで、盛大に水しぶきを上げて僕は水面に出た。

 「ぷはぁっ! ……はぁ、はぁ……はぁ、はぁ……死ぬかと思った……」

(……あれ? と言うか、死んでない?? 溶けてないよ、僕???)

 呼吸ができて安心したせいなのか、急にしゃっくりが出て止まらなくなる。

「……ひっく……ひっく……ひっく……」

(あうぅ、フワフワ、ポカポカ、クラクラする。なんだろう、この感覚? ……あ、分かった! これ、酔っぱらった時と同じ感覚だ!! 前世でお酒飲んだ時もこんな感じだった……うふふふ、お酒も美味しいよね……あっ、でも酔ってる時に水泳なんてダメだよ! 早く水から上がらないと……)

 僕は何故か酩酊している心地になっていた。
 辺りを見回すとチョコミント達がいる陸地が見えたので、そこへと泳いで行く。

「……ひっく……ひっく……ひっく……」

 チョコミント達に声をかけたかったのだけど、しゃっくりが邪魔で泳ぎながらだと上手く声が出せない。
 陸地へと泳ぎ着き水中から上がって行くと、親子が固まって僕を見つめていた。
 親子の様子になんだろうなと思い、僕は首をかしげる。

(……そう言えば、水に濡れているのに妙に身体が軽いような? なんだろう?)

「……ひっく? ……ひっくっ! ……ひぃっくっ!?」

 親子が凝視している自分の姿を見て、僕も吃驚した。
 吃驚ついでにしゃっくりも引っ込んでしまった。

 僕の身体は何故か萎んで縮んで細くなっていたのだ。
 そのせいで服も大きくぶかぶかになってしまい、白い肌が露出していた。
 ズルズルと下がっていく衣服を押さえようと、僕は自分の身体を抱き締める。
 酔った心地もあって、僕は親子にチラッと流し目を送って悪戯っぽく言ってみる。

「……いやん、見ないで……えっち♡」

 ついでにサービスしてウインクも飛ばしてみる。

「……せ……い……れ……ぃ……」

 ふざけた僕の姿を見て、チョコチップは何かを呟き卒倒してしまう。

 パタリ

「えっ!?」

 倒れてしまったチョコチップに驚いていると、チョコミントも何か呟いている。

「――れいよ……ラズベリーを戻して、ラズベリーを助けて……何でもする、何でも差し出すから……お願いだから、ラズベリーを……」

 そう言い残して、チョコミントまでも気を失い倒れてしまう。

 パタリ

「えぇーーーー!?」

 気絶してしまった親子を前に、僕は動転するしかない。

「な、な、な、なになに、どういう事? 助けても何も、僕ここにいるよ?? ラズベリー・イズ・僕、で合ってるよね??? 僕、無事に戻って来たよ? 幽霊だと思って怖かったの?? ゾンビだと思って失神したの??? ねぇ、そうなの!?」

 声をかけて揺すってみても親子は目を開ける様子がない。
 瘴気を吸い過ぎて倒れてしまったのだろうかと不安になったが、親子の顔色は悪くなく息も脈も正常だったので、僕はとりあえず安心した。

「どうしようかな、一人で運ぶのは流石に大変だし……」

 僕は何か使える物はないかと辺りを見回して、見つけてしまった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】糸と会う〜異世界転移したら獣人に溺愛された俺のお話

匠野ワカ
BL
日本画家を目指していた清野優希はある冬の日、海に身を投じた。 目覚めた時は見知らぬ砂漠。――異世界だった。 獣人、魔法使い、魔人、精霊、あらゆる種類の生き物がアーキュス神の慈悲のもと暮らすオアシス。 年間10人ほどの地球人がこぼれ落ちてくるらしい。 親切な獣人に助けられ、連れて行かれた地球人保護施設で渡されたのは、いまいち使えない魔法の本で――!? 言葉の通じない異世界で、本と赤ペンを握りしめ、二度目の人生を始めます。 入水自殺スタートですが、異世界で大切にされて愛されて、いっぱい幸せになるお話です。 胸キュン、ちょっと泣けて、ハッピーエンド。 本編、完結しました!! 小話番外編を投稿しました!

Switch!〜僕とイケメンな地獄の裁判官様の溺愛異世界冒険記〜

天咲 琴葉
BL
幼い頃から精霊や神々の姿が見えていた悠理。 彼は美しい神社で、家族や仲間達に愛され、幸せに暮らしていた。 しかし、ある日、『燃える様な真紅の瞳』をした男と出逢ったことで、彼の運命は大きく変化していく。 幾重にも襲い掛かる運命の荒波の果て、悠理は一度解けてしまった絆を結び直せるのか――。 運命に翻弄されても尚、出逢い続ける――宿命と絆の和風ファンタジー。

転生令息は冒険者を目指す!?

葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。  救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。  再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。  異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!  とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A

異世界転生先でアホのふりしてたら執着された俺の話

深山恐竜
BL
俺はよくあるBL魔法学園ゲームの世界に異世界転生したらしい。よりにもよって、役どころは作中最悪の悪役令息だ。何重にも張られた没落エンドフラグをへし折る日々……なんてまっぴらごめんなので、前世のスキル(引きこもり)を最大限活用して平和を勝ち取る! ……はずだったのだが、どういうわけか俺の従者が「坊ちゃんの足すべすべ~」なんて言い出して!?

神様の手違いで死んだ俺、チート能力を授かり異世界転生してスローライフを送りたかったのに想像の斜め上をいく展開になりました。

篠崎笙
BL
保育園の調理師だった凛太郎は、ある日事故死する。しかしそれは神界のアクシデントだった。神様がお詫びに好きな加護を与えた上で異世界に転生させてくれるというので、定年後にやってみたいと憧れていたスローライフを送ることを願ったが……。 

異世界に転生したらめちゃくちゃ嫌われてたけどMなので毎日楽しい

やこにく
BL
「穢らわしい!」「近づくな、この野郎!」「気持ち悪い」 異世界に転生したら、忌み人といわれて毎日罵られる有野 郁 (ありの ゆう)。 しかし、Mだから心無い言葉に興奮している! (美形に罵られるの・・・良い!) 美形だらけの異世界で忌み人として罵られ、冷たく扱われても逆に嬉しい主人公の話。騎士団が(嫌々)引き取 ることになるが、そこでも嫌われを悦ぶ。 主人公受け。攻めはちゃんとでてきます。(固定CPです) ドMな嫌われ異世界人受け×冷酷な副騎士団長攻めです。 初心者ですが、暖かく応援していただけると嬉しいです。

転生したらBLゲーの負け犬ライバルでしたが現代社会に疲れ果てた陰キャオタクの俺はこの際男相手でもいいからとにかくチヤホヤされたいっ!

スイセイ
BL
夜勤バイト明けに倒れ込んだベッドの上で、スマホ片手に過労死した俺こと煤ヶ谷鍮太郎は、気がつけばきらびやかな七人の騎士サマたちが居並ぶ広間で立ちすくんでいた。 どうやらここは、死ぬ直前にコラボ報酬目当てでダウンロードしたBL恋愛ソーシャルゲーム『宝石の騎士と七つの耀燈(ランプ)』の世界のようだ。俺の立ち位置はどうやら主人公に対する悪役ライバル、しかも不人気ゆえ途中でフェードアウトするキャラらしい。 だが、俺は知ってしまった。最初のチュートリアルバトルにて、イケメンに守られチヤホヤされて、優しい言葉をかけてもらえる喜びを。 こんなやさしい世界を目の前にして、前世みたいに隅っこで丸まってるだけのダンゴムシとして生きてくなんてできっこない。過去の陰縁焼き捨てて、コンプラ無視のキラキラ王子を傍らに、同じく転生者の廃課金主人公とバチバチしつつ、俺は俺だけが全力でチヤホヤされる世界を目指す! ※頭の悪いギャグ・ソシャゲあるあると・メタネタ多めです。 ※逆ハー要素もありますがカップリングは固定です。 ※R18は最後にあります。 ※愛され→嫌われ→愛されの要素がちょっとだけ入ります。 ※表紙の背景は祭屋暦様よりお借りしております。 https://www.pixiv.net/artworks/54224680

支配の王冠~余命一年の悪役転生から始まるバトルロワイアル~

さつき
BL
ジキルは、自分が助けた少年エリュシオンに殺された。 目が覚めたら、悪逆非道で嫌われ者の国王ハデス・ダインスレイブになっていた!? 最悪なことにハデスは死の呪いがかけられ余命一年以内である。何故か7年後になっていて、自分を殺したエリュシオンがハデスの従者として傍にいた。 転生先の城は、死なない化物である死鬼で取り囲まれ、食料が尽きたところだった。ハデスに恨みを持つライモンドが城門を開けて、大量の死鬼がハデスを殺そうと城に入ってくる。 絶体絶命の状況の中で、二人は城から脱出しようとするが……。 嫌われ者のハデスと銀髪の騎士が挑むバトルロワイアル開幕! イラストは、モリノ ネリさんに描いていただきました。 何が起こるかワクワクするスリル満点なファンタジーを目指しました。感想お待ちしています。

処理中です...