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本編
43.白豚王子は貧民街に行く
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僕はポーチを盗まれた事に気付いて、姿を消した少年の後を追い探した。
逃げて行った方角へしばらく走って行くと、少年の後ろ姿が見えた。
やっと見つけたと思った僕は、思わず声を上げてしまう。
「待てぇぇぇぇ!」
「くそっ、見つかったか!」
少年は僕に気付いて、また走り出してしまった。
僕は一生懸命に走り追いかけるのだが、少年はかなり足が早くて、なかなか追い付かない。
「待てえぇぇぇぇ! 僕のポーチ返してよぉぉぉぉ!!」
「なっ! なんて足の早さだ!! なんでデブなのに足が早いんだよ!?」
僕は悔しいので、めちゃくちゃ頑張って走りまくった。
高速でお腹をぽよぽよ揺らして追いかける。
少年との距離が縮まってきて、徐々に近付いてくる。
それと同時に、城下町からはどんどんと離れて遠ざかっていった。
「……ちっ……」
「やっと、追いついた! 捕まえ――」
あと少しで捕まえられると確信し僕が手を伸ばすと、少年は急に方向転換して手をすり抜ける。
ちょこまかとすばしっこく逃げ回る少年は、暗く細い路地へと入って行った。
「あ…………」
その時、僕は城下町から大分離れてしまっている事に気が付いた。
一瞬、躊躇いつつも、僕は少年の後を追い路地へと入って行った。
少年はすばしっこく逃げ回り、細い路地を掻い潜りどんどんと奥へ入って行く。
僕は細い道幅に身体がつっかえて、少年から距離が離されていってしまう。
そして、とうとう僕は少年を見失ってしまった。
僕はジタバタと藻掻きながら細い路地をぼよんっと抜け出して、辺りを見回す。
その光景に僕は驚愕して、茫然と立ち尽くす。
そこは僕の知らいない、見た事も無い場所だった。
空気は重く淀み、汚物の腐敗したような悪臭が漂う。
道も建物も何もかもが荒れ果てて、朽ちた廃墟も同然の有様だった。
まばらに見える人々は皆一様に酷く痩せ細り、地べたに座り込んでいたり、力なく横たわっていたり、虚ろな目で彷徨っている。
どの人も無気力な様子で、目がどんよりと陰り濁って虚ろだった。
ここは、前世で言う所のスラム街、貧民街だ。
こんな場所がこの王国にあるだなんて、こんなに近い場所にあったなんて、僕は知らなかった。
信じられない思いで、僕は打ちのめされた気持ちになっていた。
どうしていいのか分からなくなって、当て所もなく僕はその場所をフラフラと彷徨い歩く。
すると、どこからか大きな物音が聞こえてくる。
バタバタ ガタガタ ガラガラガシャン
何かが壊れる音と、言い争うような声が聞こえる。
「逆らうんじゃねぇ!」
「……痛い目には合いたくないだろう?」
「さっさと持ってる物を差し出せば、もう痛い思いしなくて済むぞ?」
「……嫌……だ……絶対、渡さない……」
「さっさと言う事を聞けばいいものを……」
「この! 生意気なクソガキめ!!」
「大人に逆らうとどうなるか、思い知らせてやろう……」
ドカッ バシッ ゴッ
「……うっ……ぐぅ……」
子供の呻く声が聞こえて、僕は咄嗟に声のした方へと走リ出した。
声を辿って道の角を曲がり、その先に見えたのは僕が追っていた少年の姿だった。
「……うぅ……かはっ……ごほ、ごほっ……」
少年は数人の破落戸共に取り囲まれ、暴行されていた。
そして、地べたに蹲る少年は僕から盗んだポーチを抱え込んでいたのだ。
「!!?」
僕はその光景に心臓が縮まる思いがした。
(ど、ど、ど、ど、ど、どうしよう!? 助けなきゃ! 助けなきゃ!! でも、どうしたらいい? 僕が出て行ってもカモネギになるだけだよね!?)
僕はパニックになり慌てふためきながら、思考を巡らせる。
「……うぅっ……」
「けっ、死ぬまで離さないつもりかコイツ?」
「はぁ……なら、さっさとやっちまうか?」
「そうだな、とどめを刺して楽にしてやろう……」
僕はもう何も考えられなくなって、飛び出した。
「うわあぁぁぁぁ! 当たって砕けろぉぉぉぉ!! 暴走肉弾っ!!! ローリング・アターーーック!?!?!?」
ゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロ
「なっ!? うぎゃあぁぁぁぁ!!?」
「ひぎえぇぇぇぇぇぇぇぇ!!?」
「ぎぃやあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?」
突如として出現したレイダース・トラップに破落戸共は為す術もない。
高速回転する僕にバインバインと破落戸共は轢き潰されて、加速した肉弾にバヨイ~ンと弾き飛ばされて地面に叩き付けられていく。
目を剥いて伸びてしまった破落戸共を後目に、ぐらんぐらんと目が回り自分もダメージを食らっている僕は、ふらふらとしながら立ち上がる。
「目が回るぅ……おうぇっぷ……うぷっ……ぜぇ、ぜぇ……はぁ、はぁ……」
「……っ……」
地べたに蹲る少年に僕がゆっくり近付いて行くと、少年は怯えて身体を竦ませた。
暴行を受けて身体中に青痣やら擦傷やらができて痛々しく、そんな姿を見て僕は胸が痛くなる。
僕が裕福そうな子供に見えなければ、僕がポーチを持って来なければ、僕が後を追わなければ、この少年はこんな酷い目に合わずに済んだかもしれない、そう思った。
どうしたら良いものかと僕が考えあぐねていると、伸びていた破落戸共が意識を取り戻し、ゆらゆらと起き上がってくる。
「…………このっ……クソガキ共……」
「……なんて事しやがる……大人を舐め腐りやがって……」
「……ぶっ殺してやる! 覚悟しやがれ!!」
破落戸共は怒り心頭で殺気立ち、今にも僕に襲いかかろうとしていた。
恐ろしくなって、僕は一目散に逃げ出した。
「…………え? …………」
少年は目を丸くして、驚きの声を零す。
蹲っていた少年を肩に担ぎ上げて、僕は全速力で走っていたのだ。
僕が持ち上げて走れる重さで良かった。
でも、やっぱり酷く痩せていて少年にしては軽すぎるのが、胸に痛い。
「帰り道が分からないんだけど、教えてくれる?」
「……あっち……」
少年が道を指し示す方に向かって、僕は走り続けたのだった。
◆
逃げて行った方角へしばらく走って行くと、少年の後ろ姿が見えた。
やっと見つけたと思った僕は、思わず声を上げてしまう。
「待てぇぇぇぇ!」
「くそっ、見つかったか!」
少年は僕に気付いて、また走り出してしまった。
僕は一生懸命に走り追いかけるのだが、少年はかなり足が早くて、なかなか追い付かない。
「待てえぇぇぇぇ! 僕のポーチ返してよぉぉぉぉ!!」
「なっ! なんて足の早さだ!! なんでデブなのに足が早いんだよ!?」
僕は悔しいので、めちゃくちゃ頑張って走りまくった。
高速でお腹をぽよぽよ揺らして追いかける。
少年との距離が縮まってきて、徐々に近付いてくる。
それと同時に、城下町からはどんどんと離れて遠ざかっていった。
「……ちっ……」
「やっと、追いついた! 捕まえ――」
あと少しで捕まえられると確信し僕が手を伸ばすと、少年は急に方向転換して手をすり抜ける。
ちょこまかとすばしっこく逃げ回る少年は、暗く細い路地へと入って行った。
「あ…………」
その時、僕は城下町から大分離れてしまっている事に気が付いた。
一瞬、躊躇いつつも、僕は少年の後を追い路地へと入って行った。
少年はすばしっこく逃げ回り、細い路地を掻い潜りどんどんと奥へ入って行く。
僕は細い道幅に身体がつっかえて、少年から距離が離されていってしまう。
そして、とうとう僕は少年を見失ってしまった。
僕はジタバタと藻掻きながら細い路地をぼよんっと抜け出して、辺りを見回す。
その光景に僕は驚愕して、茫然と立ち尽くす。
そこは僕の知らいない、見た事も無い場所だった。
空気は重く淀み、汚物の腐敗したような悪臭が漂う。
道も建物も何もかもが荒れ果てて、朽ちた廃墟も同然の有様だった。
まばらに見える人々は皆一様に酷く痩せ細り、地べたに座り込んでいたり、力なく横たわっていたり、虚ろな目で彷徨っている。
どの人も無気力な様子で、目がどんよりと陰り濁って虚ろだった。
ここは、前世で言う所のスラム街、貧民街だ。
こんな場所がこの王国にあるだなんて、こんなに近い場所にあったなんて、僕は知らなかった。
信じられない思いで、僕は打ちのめされた気持ちになっていた。
どうしていいのか分からなくなって、当て所もなく僕はその場所をフラフラと彷徨い歩く。
すると、どこからか大きな物音が聞こえてくる。
バタバタ ガタガタ ガラガラガシャン
何かが壊れる音と、言い争うような声が聞こえる。
「逆らうんじゃねぇ!」
「……痛い目には合いたくないだろう?」
「さっさと持ってる物を差し出せば、もう痛い思いしなくて済むぞ?」
「……嫌……だ……絶対、渡さない……」
「さっさと言う事を聞けばいいものを……」
「この! 生意気なクソガキめ!!」
「大人に逆らうとどうなるか、思い知らせてやろう……」
ドカッ バシッ ゴッ
「……うっ……ぐぅ……」
子供の呻く声が聞こえて、僕は咄嗟に声のした方へと走リ出した。
声を辿って道の角を曲がり、その先に見えたのは僕が追っていた少年の姿だった。
「……うぅ……かはっ……ごほ、ごほっ……」
少年は数人の破落戸共に取り囲まれ、暴行されていた。
そして、地べたに蹲る少年は僕から盗んだポーチを抱え込んでいたのだ。
「!!?」
僕はその光景に心臓が縮まる思いがした。
(ど、ど、ど、ど、ど、どうしよう!? 助けなきゃ! 助けなきゃ!! でも、どうしたらいい? 僕が出て行ってもカモネギになるだけだよね!?)
僕はパニックになり慌てふためきながら、思考を巡らせる。
「……うぅっ……」
「けっ、死ぬまで離さないつもりかコイツ?」
「はぁ……なら、さっさとやっちまうか?」
「そうだな、とどめを刺して楽にしてやろう……」
僕はもう何も考えられなくなって、飛び出した。
「うわあぁぁぁぁ! 当たって砕けろぉぉぉぉ!! 暴走肉弾っ!!! ローリング・アターーーック!?!?!?」
ゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロ
「なっ!? うぎゃあぁぁぁぁ!!?」
「ひぎえぇぇぇぇぇぇぇぇ!!?」
「ぎぃやあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?」
突如として出現したレイダース・トラップに破落戸共は為す術もない。
高速回転する僕にバインバインと破落戸共は轢き潰されて、加速した肉弾にバヨイ~ンと弾き飛ばされて地面に叩き付けられていく。
目を剥いて伸びてしまった破落戸共を後目に、ぐらんぐらんと目が回り自分もダメージを食らっている僕は、ふらふらとしながら立ち上がる。
「目が回るぅ……おうぇっぷ……うぷっ……ぜぇ、ぜぇ……はぁ、はぁ……」
「……っ……」
地べたに蹲る少年に僕がゆっくり近付いて行くと、少年は怯えて身体を竦ませた。
暴行を受けて身体中に青痣やら擦傷やらができて痛々しく、そんな姿を見て僕は胸が痛くなる。
僕が裕福そうな子供に見えなければ、僕がポーチを持って来なければ、僕が後を追わなければ、この少年はこんな酷い目に合わずに済んだかもしれない、そう思った。
どうしたら良いものかと僕が考えあぐねていると、伸びていた破落戸共が意識を取り戻し、ゆらゆらと起き上がってくる。
「…………このっ……クソガキ共……」
「……なんて事しやがる……大人を舐め腐りやがって……」
「……ぶっ殺してやる! 覚悟しやがれ!!」
破落戸共は怒り心頭で殺気立ち、今にも僕に襲いかかろうとしていた。
恐ろしくなって、僕は一目散に逃げ出した。
「…………え? …………」
少年は目を丸くして、驚きの声を零す。
蹲っていた少年を肩に担ぎ上げて、僕は全速力で走っていたのだ。
僕が持ち上げて走れる重さで良かった。
でも、やっぱり酷く痩せていて少年にしては軽すぎるのが、胸に痛い。
「帰り道が分からないんだけど、教えてくれる?」
「……あっち……」
少年が道を指し示す方に向かって、僕は走り続けたのだった。
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