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本編
37.ベルガモット・アイス・ラクト
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騎士団の訓練をよく覗き見て、真似をする白豚王子の姿も目撃されていた。
棒切れを手に見様見真似で素振りの練習をする一生懸命な姿は、容姿が醜くとも少し微笑ましく思えるものがあった。
以前までの白豚王子とは違い、癇癪を起こす事も問題を起こす事も無くなっていた事が心象を変えた要因だろう。
その為、白豚王子は成長して態度を改めて変わったのではないかと、騎士達の中では白豚王子を見直し始める者も現れていた。
その日も、僕は騎士団の訓練を覗き見ながら、見様見真似で棒切れを振り回していた。
騎士団の訓練が終わると、一人の騎士が訓練場から歩み出て来て、僕に声をかける。
それは、騎士団長を務めるベルガモット・アイス・ラクトだった。
「そんなに遠くから見ているより、近くでやりませんか? 次から剣の握り方と振り方をお教えしますよ」
「……あ……え、えっと……い、いいの? ……」
僕はどもりながら騎士団長を見上げて訊き返した。
「もちろん。真面目に訓練に参加されるのであれば、歓迎しますよ」
そう言って、騎士団長は僕に微笑みかけてくれた。
僕はすごく嬉しくなって、ついニヤけてしまいそうになる表情筋を必死に抑える。
フェイスマッサージを続けているものの、僕の笑顔はまだまだ暗黒微笑だったので、せっかく声をかけてくれた騎士団長に不快感を与えてしまわないように、笑顔にならないようにと、僕は必死なのだ。
「……う、うん!……あ、ありがとう!! ……」
僕はプルプルして、ちょっと口元が引きつってしまっている。
傍から見たらニヒルな表情に見えてしまっているかもしれないと焦る。
「……じゃ、じゃあ……次から……」
訓練に誘ってくれた騎士団長に僕はそれだけ言って、急いでその場を後にする。
誰かから好意的に声を掛けて貰えるなんて、嬉しすぎて舞い上がる気持ちだった。
笑顔になるのを堪えるなんて、今の僕には到底できそうになかったのだ。
白豚王子が立ち去った後、騎士団長に団員の騎士が胡乱げな視線を投げて言う。
「……本当に大丈夫ですか、団長? すごい皮肉げな顔して睨んでましたけど?」
「心配せずとも、大丈夫だろう。日々、ひたむきに鍛錬する姿を見ていれば、心根の腐っている者には見えん。怠慢を改め、成長したのだろう。……魔法はろくに使えずとも、剣術を磨けば剣士としての道が拓けるかもしれんからな」
「……それもそうですね、最近では問題を起こす事も無くなりましたし、必死に真似してる姿は愛嬌があるかもしれません……」
団員達の中には貴族の出身でも魔力量が少ない者も何人かいた。
魔力が少なくとも、自分を磨き剣術を磨き才覚を認められ、王城に務められるまでの騎士に伸し上がったのだ。
騎士団長はそんな若者達の姿を沢山見てきた。
そして、その中でも騎士団長は最たるものだった。
若い頃の騎士団長は今とはまるで違う別人のような人柄だった。
魔法に秀でた騎士の家系に生まれながら、魔力の少なさから落ちこぼれと称され、自棄になりやさぐれていた時期もあった。
それでも、騎士になる夢を諦めきれず、その思いを貫き続けた。
魔力量の少なさなど覆すだけの剣術と知略と品格を養い、今の地位まで上りつめ、己の居場所を手に入れたのだ。
だからこそ、白豚王子にも貫き通せる思いがあるのなら手を貸してやりたいと思っていた。
苦悩の先にあるであろう、自分の居場所を掴み取る手伝いを、騎士団長はしてやりたいと思っていたのだ。
騎士団長にそんな思いがある事を、団員達は何となく分かっていた。
だから、問題児を招く事を少し不安に思いつつも、白豚王子を迎え入れる事を前向きに考えていたのだ。
◆
棒切れを手に見様見真似で素振りの練習をする一生懸命な姿は、容姿が醜くとも少し微笑ましく思えるものがあった。
以前までの白豚王子とは違い、癇癪を起こす事も問題を起こす事も無くなっていた事が心象を変えた要因だろう。
その為、白豚王子は成長して態度を改めて変わったのではないかと、騎士達の中では白豚王子を見直し始める者も現れていた。
その日も、僕は騎士団の訓練を覗き見ながら、見様見真似で棒切れを振り回していた。
騎士団の訓練が終わると、一人の騎士が訓練場から歩み出て来て、僕に声をかける。
それは、騎士団長を務めるベルガモット・アイス・ラクトだった。
「そんなに遠くから見ているより、近くでやりませんか? 次から剣の握り方と振り方をお教えしますよ」
「……あ……え、えっと……い、いいの? ……」
僕はどもりながら騎士団長を見上げて訊き返した。
「もちろん。真面目に訓練に参加されるのであれば、歓迎しますよ」
そう言って、騎士団長は僕に微笑みかけてくれた。
僕はすごく嬉しくなって、ついニヤけてしまいそうになる表情筋を必死に抑える。
フェイスマッサージを続けているものの、僕の笑顔はまだまだ暗黒微笑だったので、せっかく声をかけてくれた騎士団長に不快感を与えてしまわないように、笑顔にならないようにと、僕は必死なのだ。
「……う、うん!……あ、ありがとう!! ……」
僕はプルプルして、ちょっと口元が引きつってしまっている。
傍から見たらニヒルな表情に見えてしまっているかもしれないと焦る。
「……じゃ、じゃあ……次から……」
訓練に誘ってくれた騎士団長に僕はそれだけ言って、急いでその場を後にする。
誰かから好意的に声を掛けて貰えるなんて、嬉しすぎて舞い上がる気持ちだった。
笑顔になるのを堪えるなんて、今の僕には到底できそうになかったのだ。
白豚王子が立ち去った後、騎士団長に団員の騎士が胡乱げな視線を投げて言う。
「……本当に大丈夫ですか、団長? すごい皮肉げな顔して睨んでましたけど?」
「心配せずとも、大丈夫だろう。日々、ひたむきに鍛錬する姿を見ていれば、心根の腐っている者には見えん。怠慢を改め、成長したのだろう。……魔法はろくに使えずとも、剣術を磨けば剣士としての道が拓けるかもしれんからな」
「……それもそうですね、最近では問題を起こす事も無くなりましたし、必死に真似してる姿は愛嬌があるかもしれません……」
団員達の中には貴族の出身でも魔力量が少ない者も何人かいた。
魔力が少なくとも、自分を磨き剣術を磨き才覚を認められ、王城に務められるまでの騎士に伸し上がったのだ。
騎士団長はそんな若者達の姿を沢山見てきた。
そして、その中でも騎士団長は最たるものだった。
若い頃の騎士団長は今とはまるで違う別人のような人柄だった。
魔法に秀でた騎士の家系に生まれながら、魔力の少なさから落ちこぼれと称され、自棄になりやさぐれていた時期もあった。
それでも、騎士になる夢を諦めきれず、その思いを貫き続けた。
魔力量の少なさなど覆すだけの剣術と知略と品格を養い、今の地位まで上りつめ、己の居場所を手に入れたのだ。
だからこそ、白豚王子にも貫き通せる思いがあるのなら手を貸してやりたいと思っていた。
苦悩の先にあるであろう、自分の居場所を掴み取る手伝いを、騎士団長はしてやりたいと思っていたのだ。
騎士団長にそんな思いがある事を、団員達は何となく分かっていた。
だから、問題児を招く事を少し不安に思いつつも、白豚王子を迎え入れる事を前向きに考えていたのだ。
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