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本編
33.やっぱり美味しいスイーツがいい
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……――――僕は叫び飛び起きた。
「焼き豚は嫌だああああああああああ!!!!??」
焼け爛れ熱く痛んだ身体を、両手を、僕はぷるぷると震えながら恐る恐る見る。
そこには、白くて丸いクリームパンのような幼い手があり、なんともなく無事に付いていた。
熱気で焼けて苦しかった喉は息が吸え、僕は全身で大きく空気を吸い込み、ゼェハァと呼吸を荒げる。
全身汗だくになり、僕はビッチョビチョになっている事に気が付いた。
周りをキョロキョロと見回して見ると、そこは自分の寝室のベッドで、僕は長い間寝込んでいたのだと、ようやく状況が把握できた。
「……良かった……ただの夢だ……」
僕は悪夢に魘されていただけなのだとやっと理解して、安堵の溜息を吐く。
悪夢で体感した出来事が余りにも生々しく強烈で、僕は泣きべそをかいてしまう。
「……う、ううぅ……こ、怖かったぁ……ぐす、ぐすん……」
その悪夢は、ゲームの悪役・白豚王子が辿った記憶を走馬灯のように体感するものだった。
どうやって白豚王子が悪役になってしまったのか、その経緯と顛末を実際に体験したように、僕は悪役・白豚王子の感情と体感を理解した。
「……こんなの嫌だ! こんな破滅の未来は絶対に嫌だ!! ……ううぅーーー」
悪夢の白豚王子の感情と体感は酷く悲痛で、僕はこれから待ち受けているであろう末路を想像して慄き、頭を抱えて唸る。
「うわあぁんもおぉー! やだやだやだ! ムリムリムリ! こんなの絶対、御免こうむるーーーー!! 断固、お断りするったらするーーーー!!」
前世が大学生だった事も忘れて、僕は子供らしく駄々をこねるようにベッドの上でゴロゴロと転げ回る。
ジタバタと一通り暴れて目が回ると、僕は大の字にゴロンと寝転がり、天井を見上げた。
そして、ふんすと鼻を鳴らして真顔で呟く。
「僕は美味しいスイーツが食べたいんだ! こんなんじゃ、全然美味しくないじゃん!!」
壮絶な体感をしてみても、やっぱり僕の頭の中はスイーツでいっぱいだった。
前世で頭の中までスイーツが詰まっていると言われるだけの事はあると、我ながら自負している。
「苦痛を紛らわせる為に食べるスイーツなんて美味しい訳ないじゃん! 全っ然っ、美味しくないよ!! ……美味しいスイーツは幸せな気持ちで食べるからこそ、より一層美味しくてもっともっと幸せになれるのに!!! 全っ然っ、心構えがなってない! こんなのスイーツへの冒涜だ!! 許されざる大罪だよ、まったくもう!!!」
僕は誰に説教しているのか途中からよく分からなくなってきたので、取り合えず自分に言い聞かせる。
「スイーツは幸せな気持ちで食べなきゃダメなんだからね? 折角、大好きなゲームの世界に生まれ変わったのに、これじゃあ、全然美味しくない!! 境遇がどうとか、悪役がどうとか、そんなのは関係ないよ! 僕は美味しいスイーツを食べる! ただそれだけ、食べるったら食べるんだから!!」
キリッとした顔で僕は宣言して、前世の僕は今世の僕に言い聞かせる。
「だから、フランボワーズも幸せにならなきゃダメだ」
僕の中で幼い白豚王子の心が揺れ動いたように感じた。
ゴロンと身体を転がして起き上がり、僕は鏡の前に立つ。
「フランボワーズも僕の大好きなスイーツなんだからね」
幼少期の境遇から第一王子が屈折したまま成長したら、悪役になってしまうのも必然だったかもしれない。
記憶を体感したからこそ、悪役の白豚王子に共感して同情してしまう気持ちも僕にはある。
でも、やっぱり僕は美味しいスイーツを食べる為に、悪役になんてなりたくない。
それに、本当は悪になんてなりたくなかったのを、僕が一番よく分かっている。
「……もう、大丈夫だよ。僕がついているから、一緒に頑張ろう」
もう、あんな辛い泣き方はしなくていい、させないから。
生まれながらの悪役なんていないのだから、取り返しのつかない事をしない限りは、何度だってやり直しができるよ。
今からなら、まだ間に合うと僕は確信してる。
「一緒に、美味しいスイーツ食べよう」
僕が幼い白豚王子を抱きしめてやりたい気持ちでいると、僕の中で幼い白豚王子がおずおずとそれに応えてくれた感じがした。
前世で平和な時代を生きていた、頭の中までスイーツが詰まってるスイーツ男子の甘々思考回路と、今世の屈折して卑屈になってしまっていた、幼い白豚王子とが混ざり合い、一つの人格になっていく。
鏡に映る白豚王子に笑いかければ、最初より随分と良い笑顔に見える――
ニチャァ……
――気がする…………だけかもしれない。
やっぱり、ちょっと鳥肌立っちゃった。
僕はほっぺたをムニムニモニモニとフェイスマッサージしながら思案してみる。
もちもちぷにぷにマシュマロ肌が気持ち良くて夢中で触っちゃう。
ゲームでは白豚王子は国王暗殺や国家転覆を謀った悪役として処刑される。
だけど、僕は何があってもそんな悪事は働かない自信がある。
前世の大学生までの記憶とゲームの知識がある今なら、これからどうすればいいのか何となく分かる。
だから――
「――きっと、どうにかなる! どうにかできる筈なんだ!!」
美味しくない破滅する未来なんて、断固として拒否してやるんだ。
僕はスイーツみたいに甘くて美味しいハッピーな未来を必ず手に入れてみせる。
「打倒、悪役アンハッピーライフ! 目指せ、甘々スイートハッピーライフ!! そして、最高に美味しいスイーツを僕は食べる!!!」
美味しいスイーツに夢を馳せ、僕は決意を新たにするのだった。
◆
「焼き豚は嫌だああああああああああ!!!!??」
焼け爛れ熱く痛んだ身体を、両手を、僕はぷるぷると震えながら恐る恐る見る。
そこには、白くて丸いクリームパンのような幼い手があり、なんともなく無事に付いていた。
熱気で焼けて苦しかった喉は息が吸え、僕は全身で大きく空気を吸い込み、ゼェハァと呼吸を荒げる。
全身汗だくになり、僕はビッチョビチョになっている事に気が付いた。
周りをキョロキョロと見回して見ると、そこは自分の寝室のベッドで、僕は長い間寝込んでいたのだと、ようやく状況が把握できた。
「……良かった……ただの夢だ……」
僕は悪夢に魘されていただけなのだとやっと理解して、安堵の溜息を吐く。
悪夢で体感した出来事が余りにも生々しく強烈で、僕は泣きべそをかいてしまう。
「……う、ううぅ……こ、怖かったぁ……ぐす、ぐすん……」
その悪夢は、ゲームの悪役・白豚王子が辿った記憶を走馬灯のように体感するものだった。
どうやって白豚王子が悪役になってしまったのか、その経緯と顛末を実際に体験したように、僕は悪役・白豚王子の感情と体感を理解した。
「……こんなの嫌だ! こんな破滅の未来は絶対に嫌だ!! ……ううぅーーー」
悪夢の白豚王子の感情と体感は酷く悲痛で、僕はこれから待ち受けているであろう末路を想像して慄き、頭を抱えて唸る。
「うわあぁんもおぉー! やだやだやだ! ムリムリムリ! こんなの絶対、御免こうむるーーーー!! 断固、お断りするったらするーーーー!!」
前世が大学生だった事も忘れて、僕は子供らしく駄々をこねるようにベッドの上でゴロゴロと転げ回る。
ジタバタと一通り暴れて目が回ると、僕は大の字にゴロンと寝転がり、天井を見上げた。
そして、ふんすと鼻を鳴らして真顔で呟く。
「僕は美味しいスイーツが食べたいんだ! こんなんじゃ、全然美味しくないじゃん!!」
壮絶な体感をしてみても、やっぱり僕の頭の中はスイーツでいっぱいだった。
前世で頭の中までスイーツが詰まっていると言われるだけの事はあると、我ながら自負している。
「苦痛を紛らわせる為に食べるスイーツなんて美味しい訳ないじゃん! 全っ然っ、美味しくないよ!! ……美味しいスイーツは幸せな気持ちで食べるからこそ、より一層美味しくてもっともっと幸せになれるのに!!! 全っ然っ、心構えがなってない! こんなのスイーツへの冒涜だ!! 許されざる大罪だよ、まったくもう!!!」
僕は誰に説教しているのか途中からよく分からなくなってきたので、取り合えず自分に言い聞かせる。
「スイーツは幸せな気持ちで食べなきゃダメなんだからね? 折角、大好きなゲームの世界に生まれ変わったのに、これじゃあ、全然美味しくない!! 境遇がどうとか、悪役がどうとか、そんなのは関係ないよ! 僕は美味しいスイーツを食べる! ただそれだけ、食べるったら食べるんだから!!」
キリッとした顔で僕は宣言して、前世の僕は今世の僕に言い聞かせる。
「だから、フランボワーズも幸せにならなきゃダメだ」
僕の中で幼い白豚王子の心が揺れ動いたように感じた。
ゴロンと身体を転がして起き上がり、僕は鏡の前に立つ。
「フランボワーズも僕の大好きなスイーツなんだからね」
幼少期の境遇から第一王子が屈折したまま成長したら、悪役になってしまうのも必然だったかもしれない。
記憶を体感したからこそ、悪役の白豚王子に共感して同情してしまう気持ちも僕にはある。
でも、やっぱり僕は美味しいスイーツを食べる為に、悪役になんてなりたくない。
それに、本当は悪になんてなりたくなかったのを、僕が一番よく分かっている。
「……もう、大丈夫だよ。僕がついているから、一緒に頑張ろう」
もう、あんな辛い泣き方はしなくていい、させないから。
生まれながらの悪役なんていないのだから、取り返しのつかない事をしない限りは、何度だってやり直しができるよ。
今からなら、まだ間に合うと僕は確信してる。
「一緒に、美味しいスイーツ食べよう」
僕が幼い白豚王子を抱きしめてやりたい気持ちでいると、僕の中で幼い白豚王子がおずおずとそれに応えてくれた感じがした。
前世で平和な時代を生きていた、頭の中までスイーツが詰まってるスイーツ男子の甘々思考回路と、今世の屈折して卑屈になってしまっていた、幼い白豚王子とが混ざり合い、一つの人格になっていく。
鏡に映る白豚王子に笑いかければ、最初より随分と良い笑顔に見える――
ニチャァ……
――気がする…………だけかもしれない。
やっぱり、ちょっと鳥肌立っちゃった。
僕はほっぺたをムニムニモニモニとフェイスマッサージしながら思案してみる。
もちもちぷにぷにマシュマロ肌が気持ち良くて夢中で触っちゃう。
ゲームでは白豚王子は国王暗殺や国家転覆を謀った悪役として処刑される。
だけど、僕は何があってもそんな悪事は働かない自信がある。
前世の大学生までの記憶とゲームの知識がある今なら、これからどうすればいいのか何となく分かる。
だから――
「――きっと、どうにかなる! どうにかできる筈なんだ!!」
美味しくない破滅する未来なんて、断固として拒否してやるんだ。
僕はスイーツみたいに甘くて美味しいハッピーな未来を必ず手に入れてみせる。
「打倒、悪役アンハッピーライフ! 目指せ、甘々スイートハッピーライフ!! そして、最高に美味しいスイーツを僕は食べる!!!」
美味しいスイーツに夢を馳せ、僕は決意を新たにするのだった。
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