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本編
30.時をも凍らせる極寒の魔法
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辺り一帯が極寒地の如く凍て付いていく中、そこに魔法陣が浮かび上がり、一人の人物が音も無く現れる。
ガトー王子一行は予想だにしていなかった、人物と対峙する事になった。
白銀の銀糸を靡かせ現れた、幻想的な美貌のその人物は、氷雪の目で静かに一行を見据えた。
アーモンドが驚きの声を零す。
「……アイス・ランド国王、何故こちらに……」
それは紛れもない、アイス・ランド王国の国王、ジェラート陛下その人だった。
式典の祭事と多忙な筈の国王は、御供の者も連れず只一人そこに出現したのだ。
御供だけではなく、周りには不思議と人がおらず、時が止まったように静まり返っている。
国王は魔法の能力で辺り一帯を白銀に染め、空気までをも凍て付かせ、その空間を支配していた。
場の空気に呑まれ、体感的なのか心理的なのか分からない悪寒で、御供達はガタガタと身体を震わせる。
国王は鷹揚な所作でガトー王子の方へと歩み近付いて来る。
変わらない微笑みを湛えた表情で、国王はガトー王子に問う。
「王子を救ったそうだな」
「……ああ、倒れていた所を運んだ。今は寝所で眠っている」
国王は微笑んでいる筈なのに、ガトー王子にはそうは見えない。
ガトー王子の背に冷や汗が流れ落ち、変な緊張感が走る。
国王の凍えるような氷雪の目が、じっとガトー王子を見つめていた。
「そうか、ならば感謝せねばならん」
国王のその表情や言動や所作からはまったくと言っていい程、感情が読めなかった。
ガトー王子は人の感情の機微に人一倍聡い、今までにここまで分からないと思った事は無い。
比喩ではなく本当に、心臓が氷でできているのか、心が凍っているのかと、疑問に思ってしまう程に。
「友好国として、ショコラ・ランド王国への更なる便宜を図ると約束しよう」
「……ああ、それは有難い……」
ガトー王子は笑みを作り礼を言うが、意志に背いて反射的に毛が逆立ってしまう。
感情を探ろうとすれば、国王のその能力は計り知れず、ガトー王子は本能的に勝てないと、今の力では到底敵わないと察してしまう。
ガトー王子は身体まで凍り付いたように強張る。
「この恩はいずれ必ず返そう」
国王は凍るガトー王子を一瞥して、その横を通り過ぎる。
「では、道中気を付けて行くが良い」
そう言い残して、国王は離宮の中へと姿を消していった。
国王の姿がなくなると同時にその場の空間が溶ける。
白銀に染まっていた景色は元の色を取り戻し、時が動き出したように感じた。
御供達はやっと息ができた心地で、大きく息を吸って吐いてを繰り返す。
(……分からない……何を考えているのか、何を意図しているのか……感情がまったく読めなかった……まさか、自らの子に何かする事はないだろうが…………)
ガトー王子は離宮を振り返り、第一王子の寝所のあった辺りを見上げる。
逡巡している様子のガトー王子に、落ち着きを取り戻した御供達が不思議そうに声をかける。
「……ガトー殿下?」
「どうされました?」
「……ああ、否。何でもない――行くぞ」
ガトー王子は向き直り歩き出す。
それに御供達も続いて行く。
こうして、ガトー王子一行は隣国へと帰国していった。
◆
一方、第一王子の寝室。
穏やかに寝息を立てていた第一王子は、突然、魘され藻掻きだす。
第一王子の傍らには一人の人物が立っていた。
第一王子の父親とされる国王が静かに佇んでいたのだ。
国王は第一王子へとその長い手を翳し何かを呟いている。
第一王子は急に呼吸を荒らげ、苦しそうに唸りだす。
苦しむ第一王子を、国王は凍て付く氷雪の目で見下ろし、その目と同じように辺り一帯を極寒の白銀へと変えていた。
◆
ガトー王子一行は予想だにしていなかった、人物と対峙する事になった。
白銀の銀糸を靡かせ現れた、幻想的な美貌のその人物は、氷雪の目で静かに一行を見据えた。
アーモンドが驚きの声を零す。
「……アイス・ランド国王、何故こちらに……」
それは紛れもない、アイス・ランド王国の国王、ジェラート陛下その人だった。
式典の祭事と多忙な筈の国王は、御供の者も連れず只一人そこに出現したのだ。
御供だけではなく、周りには不思議と人がおらず、時が止まったように静まり返っている。
国王は魔法の能力で辺り一帯を白銀に染め、空気までをも凍て付かせ、その空間を支配していた。
場の空気に呑まれ、体感的なのか心理的なのか分からない悪寒で、御供達はガタガタと身体を震わせる。
国王は鷹揚な所作でガトー王子の方へと歩み近付いて来る。
変わらない微笑みを湛えた表情で、国王はガトー王子に問う。
「王子を救ったそうだな」
「……ああ、倒れていた所を運んだ。今は寝所で眠っている」
国王は微笑んでいる筈なのに、ガトー王子にはそうは見えない。
ガトー王子の背に冷や汗が流れ落ち、変な緊張感が走る。
国王の凍えるような氷雪の目が、じっとガトー王子を見つめていた。
「そうか、ならば感謝せねばならん」
国王のその表情や言動や所作からはまったくと言っていい程、感情が読めなかった。
ガトー王子は人の感情の機微に人一倍聡い、今までにここまで分からないと思った事は無い。
比喩ではなく本当に、心臓が氷でできているのか、心が凍っているのかと、疑問に思ってしまう程に。
「友好国として、ショコラ・ランド王国への更なる便宜を図ると約束しよう」
「……ああ、それは有難い……」
ガトー王子は笑みを作り礼を言うが、意志に背いて反射的に毛が逆立ってしまう。
感情を探ろうとすれば、国王のその能力は計り知れず、ガトー王子は本能的に勝てないと、今の力では到底敵わないと察してしまう。
ガトー王子は身体まで凍り付いたように強張る。
「この恩はいずれ必ず返そう」
国王は凍るガトー王子を一瞥して、その横を通り過ぎる。
「では、道中気を付けて行くが良い」
そう言い残して、国王は離宮の中へと姿を消していった。
国王の姿がなくなると同時にその場の空間が溶ける。
白銀に染まっていた景色は元の色を取り戻し、時が動き出したように感じた。
御供達はやっと息ができた心地で、大きく息を吸って吐いてを繰り返す。
(……分からない……何を考えているのか、何を意図しているのか……感情がまったく読めなかった……まさか、自らの子に何かする事はないだろうが…………)
ガトー王子は離宮を振り返り、第一王子の寝所のあった辺りを見上げる。
逡巡している様子のガトー王子に、落ち着きを取り戻した御供達が不思議そうに声をかける。
「……ガトー殿下?」
「どうされました?」
「……ああ、否。何でもない――行くぞ」
ガトー王子は向き直り歩き出す。
それに御供達も続いて行く。
こうして、ガトー王子一行は隣国へと帰国していった。
◆
一方、第一王子の寝室。
穏やかに寝息を立てていた第一王子は、突然、魘され藻掻きだす。
第一王子の傍らには一人の人物が立っていた。
第一王子の父親とされる国王が静かに佇んでいたのだ。
国王は第一王子へとその長い手を翳し何かを呟いている。
第一王子は急に呼吸を荒らげ、苦しそうに唸りだす。
苦しむ第一王子を、国王は凍て付く氷雪の目で見下ろし、その目と同じように辺り一帯を極寒の白銀へと変えていた。
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