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本編
27.声にならない音が聞こえた
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アーモンドが咳払いをして繕うように話題を変える。
「んんっ……ごほん。そう言えば誕生祭の出席、折角の王族との同席を断ってしまわれましたが、よろしかったのですか? 友好を示すには良い機会だと思いましたが? それに、この世のものとは思えない程の美しい魔法の祭典と豪華な食事が有名だと、少々興味を惹かれるものがありましたが……」
「否、魔法使いは獣人を侮蔑する者が多い、特に王侯貴族は尚の事だ。そういった者が多い祭典では王族の誘いと建前があったとしても歓迎はされまい。そんな場で友好を示すのは無理がある、針の筵になるだけだ……ここは出過ぎず引いておくのが無難だと判断した。だから悪いが我々の誕生祭出席は断った」
「そうですね、私も英断だと思います。本国の使命は果たしましたからね。魔鉱石の件もありますし、何があるか分かりませんから……この国の物には極力口を付けない方が賢明でしょう」
「ああ、言われてみれば確かにそうだ。私も十二分に注意を払おう」
ガトー王子とマカダミアの返答に、アーモンドはうんうんと頷き納得する。
一行がそんな話をしながら歩いていると、ガトー王子の耳がピクリと反応し、何かの音を拾った。
『……………………』
手で制してガトー王子は御供達を止める。
「……何か聞こえる……」
ガトー王子は耳を欹てて音を拾おうとする。
それに気付いた御供達も同じく耳を欹てて探す。
『…………だれ……か…………たす……け…………』
それは擦れて酷くか細い、声にならないような音だった。
「……どこだ? ……」
助けを求める声に気付いたガトー王子は、声のした方へと走り出す。
「あ、ガトー殿下!?」
「ガトー殿下! お待ちください!!」
御供達も慌ててガトー王子の後を追いかける。
ガトー王子は声の聞こえた方向へと走り、庭園の植木を搔い潜り、高い生け垣を飛び越える。
すると、先程の声は聞こえなくなり、代わりに鼻を啜る豚鼻のような声が聞こえてくる。
その声を辿り、ようやく辿り着いたガトー王子は、声の主を目の当たりにする。
そこには、地べたに倒れ伏す、丸々と膨れ上がった第一王子の姿があったのだ。
「……大丈夫か!? ……」
ガトー王子は第一王子に声をかけ近付いて行く。
第一王子はうつ伏せに倒れ、青褪めてぶるぶると震えていた。
「……おい! ……しっかりしろ!! ……」
駆け寄り顔を覗き込めば、汗と涙と鼻水で酷い有様になっていた。
それが、余りにも辛そうで苦しそうで痛ましく、ガトー王子は哀れに思えた。
それなのに――
ニチャァ……
――第一王子はガトー王子を見て、また、笑ったのだ。
それは、酷く醜悪な顔だ。極悪非道な悪党がするような凶悪な表情。
けれど、ガトー王子はその第一王子から悪感情はまったく感じない。
不思議と感じられるのは、何故なのか分からないが向けられる好意。
そして、嬉しいという感情だけだった。
「……何故……笑うんだ? ……」
ガトー王子は気付けば呟いていた。
第一王子はぐったり朦朧とした様子で、ガトー王子の声が届いているのかいないのか分からない。
(そんなに辛そうにしていながら、どうして俺を見て笑う? 笑えるんだ?)
そして、第一王子はか細い声で呟いた。
「…………ダ……ァ…………ク…………」
第一王子は知る筈がない、その名前を呼んだのだ。
「…………どうして……その名を、知っているんだ? …………」
その名前は、ショコラ・ランド王国の者でもごく一部の者しか知りえない、特定の王族の者にだけ付けられる忌み名だった。
ガトー王子が呪われの王子と呼ばれる所以でもある。
それを何故、他国の人間が知っているのかと、ガトー王子は甚だ疑問に思い困惑した。
(……その名前の意味を知っているのか? 知っていても笑えるのか? 知ったとしても、尚も俺に笑いかけられるのか? ……)
ガトー王子は問いたかった――だが、朦朧とした様子の第一王子はとうとう意識を失った。
「んんっ……ごほん。そう言えば誕生祭の出席、折角の王族との同席を断ってしまわれましたが、よろしかったのですか? 友好を示すには良い機会だと思いましたが? それに、この世のものとは思えない程の美しい魔法の祭典と豪華な食事が有名だと、少々興味を惹かれるものがありましたが……」
「否、魔法使いは獣人を侮蔑する者が多い、特に王侯貴族は尚の事だ。そういった者が多い祭典では王族の誘いと建前があったとしても歓迎はされまい。そんな場で友好を示すのは無理がある、針の筵になるだけだ……ここは出過ぎず引いておくのが無難だと判断した。だから悪いが我々の誕生祭出席は断った」
「そうですね、私も英断だと思います。本国の使命は果たしましたからね。魔鉱石の件もありますし、何があるか分かりませんから……この国の物には極力口を付けない方が賢明でしょう」
「ああ、言われてみれば確かにそうだ。私も十二分に注意を払おう」
ガトー王子とマカダミアの返答に、アーモンドはうんうんと頷き納得する。
一行がそんな話をしながら歩いていると、ガトー王子の耳がピクリと反応し、何かの音を拾った。
『……………………』
手で制してガトー王子は御供達を止める。
「……何か聞こえる……」
ガトー王子は耳を欹てて音を拾おうとする。
それに気付いた御供達も同じく耳を欹てて探す。
『…………だれ……か…………たす……け…………』
それは擦れて酷くか細い、声にならないような音だった。
「……どこだ? ……」
助けを求める声に気付いたガトー王子は、声のした方へと走り出す。
「あ、ガトー殿下!?」
「ガトー殿下! お待ちください!!」
御供達も慌ててガトー王子の後を追いかける。
ガトー王子は声の聞こえた方向へと走り、庭園の植木を搔い潜り、高い生け垣を飛び越える。
すると、先程の声は聞こえなくなり、代わりに鼻を啜る豚鼻のような声が聞こえてくる。
その声を辿り、ようやく辿り着いたガトー王子は、声の主を目の当たりにする。
そこには、地べたに倒れ伏す、丸々と膨れ上がった第一王子の姿があったのだ。
「……大丈夫か!? ……」
ガトー王子は第一王子に声をかけ近付いて行く。
第一王子はうつ伏せに倒れ、青褪めてぶるぶると震えていた。
「……おい! ……しっかりしろ!! ……」
駆け寄り顔を覗き込めば、汗と涙と鼻水で酷い有様になっていた。
それが、余りにも辛そうで苦しそうで痛ましく、ガトー王子は哀れに思えた。
それなのに――
ニチャァ……
――第一王子はガトー王子を見て、また、笑ったのだ。
それは、酷く醜悪な顔だ。極悪非道な悪党がするような凶悪な表情。
けれど、ガトー王子はその第一王子から悪感情はまったく感じない。
不思議と感じられるのは、何故なのか分からないが向けられる好意。
そして、嬉しいという感情だけだった。
「……何故……笑うんだ? ……」
ガトー王子は気付けば呟いていた。
第一王子はぐったり朦朧とした様子で、ガトー王子の声が届いているのかいないのか分からない。
(そんなに辛そうにしていながら、どうして俺を見て笑う? 笑えるんだ?)
そして、第一王子はか細い声で呟いた。
「…………ダ……ァ…………ク…………」
第一王子は知る筈がない、その名前を呼んだのだ。
「…………どうして……その名を、知っているんだ? …………」
その名前は、ショコラ・ランド王国の者でもごく一部の者しか知りえない、特定の王族の者にだけ付けられる忌み名だった。
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それを何故、他国の人間が知っているのかと、ガトー王子は甚だ疑問に思い困惑した。
(……その名前の意味を知っているのか? 知っていても笑えるのか? 知ったとしても、尚も俺に笑いかけられるのか? ……)
ガトー王子は問いたかった――だが、朦朧とした様子の第一王子はとうとう意識を失った。
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