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本編
24.国王陛下の氷雪の眼差し
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(そんなつもりじゃなかったんだ……食べるつもりなんか無かったのに……こんな事になるなんて)
逃げ出したいと思っても、僕には逃げられる場所など何処にもない。
只々、見世物として群衆の目に晒され続けるしかないのだ。
(……怖い、怖い、怖い……僕を見る目が……皆の表情が怖い……)
それでも、僕は目を彷徨わせて、何処かに逃げ場は無いか、誰か助けてくれないかと探してしまう。
(……もしかしたら……慈悲深く寛大な国王なら……この場を納めてくれるかもしれない……こんな出来損ないの僕でも、王子として認めてくれているんだから……微笑んで許してくれるかも……いつも微笑みを湛えている、慈悲深い国王なら……)
縋る思いで僕は、高く位置する王族席を、国王の方を見上げる。
「……国王……陛……下……」
でも、それは僕の思い違いだったと、直ぐに思い知らされる。
「何故、其処にいる?」
辺りが騒然としていた中、国王の凛とした声が響き渡り、一瞬にして会場内が静まり返った。
皆一様に声の主へと視線を向けて息を吞む。
王族席に鎮座する国王の姿、皆がその相貌を目の当たりにする。
いつも慈悲深さを象徴するかのように、常に揺らぐ事の無い微笑みを湛えていた、その顔に微笑みの表情は無かった。
(……あ、違う……違ったんだ……どうして、僕は思い違いをしたんだ……)
慈悲深い微笑みの表情は失われ、温もりなど一切感じない凍えるような氷雪の目が静かに僕を見下ろしていた。
国王が僕を見る目、その視線の意味するものは一目瞭然だった。
目が合った瞬間に、周囲のどんな視線や表情よりも、どんな言葉や態度よりも、その視線一つが、僕の胸を鋭く貫き深く抉った。
その目には、僕への情の欠片、一切が感じられなかったのだ。
(……認められていた訳じゃない……憐れまれていた訳でもない……只の見世物だったのに……そんな僕が許される筈がないのに……僕は何を勘違いしていたんだ……)
国王は僕の醜い姿を見て、その美しすぎる顔を酷く歪めていく。
忌避するものを見るように眉を寄せ目を眇めて、美しい顔を引きつらせた。
どんなに表情を歪めようとも、それでも尚も美しい国王の顔は、凄むと恐ろしく迫力がある。
そして、国王の表情を見て、僕は胸が張り裂けるように痛んだ。
(……僕は今一体どんな顔を、表情をしているんだろう……脂汗にまみれて、青褪めて震えて……それは酷く醜く汚らしい表情をしているんだろうな……それを見て国王はこの表情なんだ……)
国王はそんな僕の姿を、もう目にするのも耐えられないと言わんばかりに、片手で目元を覆い隠した。
そんな国王の表情を、王国中の誰もが目にした事は無く、来賓者達は固唾を呑んで見守る。
溜息を吐くようにして、国王は鷹揚な所作で口を開く。
「余に、その顔を見せるな」
国王は会場の出入り口を指差し、僕に向かって言い放った。
「出て行け」
僕の胸は引き裂かれるように痛む。
国王の声が会場に響き渡り、僕は退場を命じられた。
国王は騒然とするこの場を見事に納めて見せたのだ――僕を退場させるという方法で。
言われるまま僕は退場しようと、震える身体でよろよろと立ち上がろうとする。
だが、大きく張ったお腹でうまく立ち上がる事もできず、皿から転げ落ちる。
そんな無様な僕の姿を見て来賓者達は嘲笑い、汚いものでも避けるようにして道を開ける。
地べたに這いつくばっていた身体をのろのろと起き上がらせ、僕は出入り口へ向かってとぼとぼと、否、ぶよんぶよんと歩いて行く。
「……無様な白豚王子……いいざまですわ……」
「……あの、慈悲深き国王陛下にまで、見放されるとは……御笑い種だ……はははは……」
「……醜く汚らしい白豚王子……清々しますわ……おほほほ……」
「……国王陛下も早く白豚を野に放ってしまえばいいのに……くすくす……」
来賓者達は僕に向ける侮蔑の視線を強め、いつまでも嘲り笑っていた。
僕は肩を大きく落とし、国王誕生祭の会場から退場していったのだ。
◆
逃げ出したいと思っても、僕には逃げられる場所など何処にもない。
只々、見世物として群衆の目に晒され続けるしかないのだ。
(……怖い、怖い、怖い……僕を見る目が……皆の表情が怖い……)
それでも、僕は目を彷徨わせて、何処かに逃げ場は無いか、誰か助けてくれないかと探してしまう。
(……もしかしたら……慈悲深く寛大な国王なら……この場を納めてくれるかもしれない……こんな出来損ないの僕でも、王子として認めてくれているんだから……微笑んで許してくれるかも……いつも微笑みを湛えている、慈悲深い国王なら……)
縋る思いで僕は、高く位置する王族席を、国王の方を見上げる。
「……国王……陛……下……」
でも、それは僕の思い違いだったと、直ぐに思い知らされる。
「何故、其処にいる?」
辺りが騒然としていた中、国王の凛とした声が響き渡り、一瞬にして会場内が静まり返った。
皆一様に声の主へと視線を向けて息を吞む。
王族席に鎮座する国王の姿、皆がその相貌を目の当たりにする。
いつも慈悲深さを象徴するかのように、常に揺らぐ事の無い微笑みを湛えていた、その顔に微笑みの表情は無かった。
(……あ、違う……違ったんだ……どうして、僕は思い違いをしたんだ……)
慈悲深い微笑みの表情は失われ、温もりなど一切感じない凍えるような氷雪の目が静かに僕を見下ろしていた。
国王が僕を見る目、その視線の意味するものは一目瞭然だった。
目が合った瞬間に、周囲のどんな視線や表情よりも、どんな言葉や態度よりも、その視線一つが、僕の胸を鋭く貫き深く抉った。
その目には、僕への情の欠片、一切が感じられなかったのだ。
(……認められていた訳じゃない……憐れまれていた訳でもない……只の見世物だったのに……そんな僕が許される筈がないのに……僕は何を勘違いしていたんだ……)
国王は僕の醜い姿を見て、その美しすぎる顔を酷く歪めていく。
忌避するものを見るように眉を寄せ目を眇めて、美しい顔を引きつらせた。
どんなに表情を歪めようとも、それでも尚も美しい国王の顔は、凄むと恐ろしく迫力がある。
そして、国王の表情を見て、僕は胸が張り裂けるように痛んだ。
(……僕は今一体どんな顔を、表情をしているんだろう……脂汗にまみれて、青褪めて震えて……それは酷く醜く汚らしい表情をしているんだろうな……それを見て国王はこの表情なんだ……)
国王はそんな僕の姿を、もう目にするのも耐えられないと言わんばかりに、片手で目元を覆い隠した。
そんな国王の表情を、王国中の誰もが目にした事は無く、来賓者達は固唾を呑んで見守る。
溜息を吐くようにして、国王は鷹揚な所作で口を開く。
「余に、その顔を見せるな」
国王は会場の出入り口を指差し、僕に向かって言い放った。
「出て行け」
僕の胸は引き裂かれるように痛む。
国王の声が会場に響き渡り、僕は退場を命じられた。
国王は騒然とするこの場を見事に納めて見せたのだ――僕を退場させるという方法で。
言われるまま僕は退場しようと、震える身体でよろよろと立ち上がろうとする。
だが、大きく張ったお腹でうまく立ち上がる事もできず、皿から転げ落ちる。
そんな無様な僕の姿を見て来賓者達は嘲笑い、汚いものでも避けるようにして道を開ける。
地べたに這いつくばっていた身体をのろのろと起き上がらせ、僕は出入り口へ向かってとぼとぼと、否、ぶよんぶよんと歩いて行く。
「……無様な白豚王子……いいざまですわ……」
「……あの、慈悲深き国王陛下にまで、見放されるとは……御笑い種だ……はははは……」
「……醜く汚らしい白豚王子……清々しますわ……おほほほ……」
「……国王陛下も早く白豚を野に放ってしまえばいいのに……くすくす……」
来賓者達は僕に向ける侮蔑の視線を強め、いつまでも嘲り笑っていた。
僕は肩を大きく落とし、国王誕生祭の会場から退場していったのだ。
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